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「『胎児条項』導入を求める見解に反対する意見書」

からだと性の法律をつくる女の会

last update: 20151221


日本母性保護産婦人科医会御中
会長・副会長 各位
理事・監事・顧問 各位
からだと性の法律をつくる女の会
〒113-0033東京都文京区本郷1-33-3 日本婦人会議 津和慶子気付
Tel 03-3816-1862 Fax 03-3816-1824

「胎児条項」導入を求める見解に反対する意見書

 このたび日本母性保護産婦人科医会法制検討委員会が、母体保護法の改正問題に関
して、「胎児条項」導入を求める見解を盛り込んだ報告をまとめたことが、一部マス
コミで報道されました。現在、貴会法制検討委員会の報告は公表されていないため、
この報道から知ることができる範囲で、とくに「胎児条項」の問題にしぼった意見を
お伝えしたいと思います。
 「胎児条項」については、古くは1970年代に、また最近では1997年に貴会
へも、さまざまな団体から抗議が寄せられたことは、すでにご存知と思います。私た
ちは以下の理由から、母体保護法に「胎児条項」が導入されることに強く反対いたし
ます。

1)「胎児条項」は、法律が「生まれてきてもよい生命」と「生まれることが望まし
くない生命」とを定め、生命の質を選別するということです。これは1996年に、
障害者への差別にあたるとして改訂された優生保護法の目的「優生上の見地から不良
な子孫の出生を防止する」を実質的に復活させるにひとしく、優生保護法時代への逆
行といえるものです。

2)「不治または致死的な疾患のある胎児の中絶を容認する」とされれば、染色体異
常などのように、出生前診断が可能である先天異常の大多数は、「不治」の範ちゅう
に入ってしまいます。障害児を育てることについての情報や社会的支援が乏しく、障
害児を産んだ女性が責められるような社会で、出生前診断が推進され、「胎児条項」
が導入されれば、胎児に障害がある、またはあるかも知れないと告げられた多くの女
性は、中絶せざるを得ない心理的・社会的状況に追い込まれます。
 ですから「胎児条項」の容認によって、障害があると診断された胎児の人工妊娠中
絶が推進され、障害児が生まれ育つことを受け入れにくい環境と、障害をもった人た
ちへの差別が拡大され、「障害児は不幸だから生まれてこない方がよい」という考え
方がますます強まる危険性があります。私たちはそのことを強く危惧します。

3)「重い疾患のある胎児の中絶は母親の幸福追求権の範ちゅうに入る。」という考
え方そのものが、「障害児を生んだ母親は不幸」という偏見に基づいています。障害
児を持つ親たちからは「障害を持った子どもを産んでよかった」という声もたくさん
聞かれますが、産科医療の現場や子どもを産む親たちにはなかなか届いていません。
 もし障害児やその親たちがつらい思いをしているなら、その子たちを不幸な存在と
して排除するのではなく、障害を持っていてもいなくても、すべての子どもたちが幸
福に育つことのできる環境をつくることが大切です。障害を持って生まれてきても、
社会に差別がなく、社会的な支援体制があれば、障害のない子どもと同じように幸福
に育つことができるのです。
 障害を持った子どもたちが幸せに育つことのできる社会は、どんな人も幸せに老い
てゆける社会でもあります。人間の社会は、健康な人のためだけのものであってはな
りません。私たちは経済効率最優先ではなく、障害も、病気も、老いも共生できる社
会を目指したいと思います。

4)現在の法体系は、刑法堕胎罪によって「産む産まない」の選択に関する自己決定
権が否定されており、母体保護法にある条件の範囲で人工妊娠中絶が認められている
にすぎません。堕胎罪の存在下では、「胎児条項」に限らず、母体保護法にある人工
妊娠中絶の許可条件をどのように変えても、性と生殖に関する女性の自己決定権を保
障することにはなりません。「胎児条項」の導入は女性の選択権の拡大につながらな
いばかりか、むしろ「障害のある子どもは産んではいけない」という圧力になりま
す。
 私たちは、国際人口・開発会議の「行動計画」(カイロ、1994年)や第4回世
界女性会議の「行動綱領」(北京、1995年)で提唱されたリプロダクティブ・ヘ
ルス/ライツの見地から、刑法堕胎罪の廃止を求め、「胎児条項」の導入に反対しま
す。また、避妊と人工妊娠中絶を含む、性と生殖に関する新たな法体系の確立を求め
ています。


 私たちの会は、1996年6月の優生保護法改訂が、リプロダクティブ・ヘルス/
ライツに照らして不充分であるとの思いを持った女性たちが中心となって、同年8月
に発足しました。現在まで、女のからだにとって、どんな法律や制度が必要なのか検
討を続けています。また、厚生科学審議会先端医療技術評価部会に「生殖医療に関す
る意見書:人工妊娠中絶をめぐる現行法の問題点と、出生前診断について」を提出
し、1998年3月18日に、第7回同部会のヒアリングを受けています。
 1998年2月27日にはシンポジウム「母体保護法(旧優生保護法)と胎児条項
を考える」を開催し、市民や産婦人科医の方たちの意見を聞く機会を持つことができ
ました。そこでわかったことは、産婦人科医の間でも「胎児条項」については、さま
ざまな意見の相違があるということでした。これまでの経過をふまえれば、「胎児条
項」の導入が妥当性を欠くことは明らかです。貴会会員の中での開かれた討論と慎重
な検討を期待いたします。



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