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「陳述書」

愛成学園園長岩田節子

last update: 20151221


          陳 述 書


                 愛成学園園長  岩田節子

      平成一一年三月二二日

東京地方裁判所 御中


一、××氏の解雇について
   
 1.地位保全等仮処分申立書(三ページ)には、「平成一一年二月九日、債権者は園長
  岩田節子から解雇通知を受けた」として、甲第五号証の通知書をあげております。そ
  の通知書(甲第五号証)をだした「いきさつ」を述べます。
   まず解雇は、二月八日、話し合いの席で××氏が自分から、××××さんに対する
  暴力やその他園の方針に反してきたことなどを認めて謝り、園をやめます、と述べた
  ものです。自分の非を認め、やめさせられることもしかたないということで文書も書
  いております。(乙第 号証)
   そして翌日の二月九日(火)、いったん「退職する」と約束したことを撤回すると
  いってきました。そこであらためて園長室で主任の森田、菊池、木暮、寺川らをまじ
  えて話し合いをもったところ、「昨日は自分から園をやめるといったが、自分から辞
  職するというのではなく、解雇通知を書いてだして欲しい」といってきました。私の
  方では「あなたはこれまで本当にいろいろと問題をおこしてきた。今回の暴力事件は
  許せません」といって、その要求通り解雇通知書を交付いたしたものです。同席して
  いた職員らはいろいろ心配して、「解雇というより自分から辞めた方がいいのでは」
  といっていましたが、××氏は「解雇された方がいい」といいはっておりました。
   するとその翌日の二月一〇日の午前九時頃、何の予告もなしに××氏は中川真弁護
  士と一緒に突然来園しました。弁護士と事前に計画していったん自分でやめるとした
  ことは都合が悪いので解雇通知をださせのだ、ということがわかりました。
  
 2.さらに申立書(八ページ)には、「この保護者四人と岩田及び他の職員数名で、債
  権者を文字どおり吊るし上げた=vと書いておりますが、事実を歪曲するにも程が
  ありますので、反論・反証しておきます。
   まず、「××の兄と思われる男がおり、債権者に対していきなり殴りかかり、殴る
  蹴るなどの強度の暴行を加え、そのために債権者は肋骨を折る大怪我を負っている」
  としていますが、私ら園の関係者はその状況を現認していませんので、事実について
  は定かではありません。しかし××さんのお兄さんから聞いたところ、お兄さんは、
  園長が呼んでもこようともしない××氏と××氏の二人を呼びにいこうとしたとのこ
  とです。事実二人は呼んでも二〇分以上きませんでした。××氏らの顔を知らないの
  で職員に聞いて××さんの部屋に行き、××さんの案内で作業棟に行かれたとのこと
  です。そして××氏に「すぐに来い!」といったところ、無視して何らの謝罪も反省
  もしない態度をとったため、「どうして来ないのだ」とつれていこうとしたところ、
  ××氏が拒否し、もみ合いになり、そして××氏は大声で「××さん、来てくれ!」
  と叫び、××氏がかけつけてきてさらにもみ合ったようです。そもそも自分の暴力か
  らはじまったことを全く反省もせず、その家族に対して居直った言い分にはあきれて
  おります。
   次に「吊るし上げた」ということですが、本当に私や他の職員(森田を除いて他の
  全員女性)のどこが吊るしあげになるのでしょうか。××氏は確かに最初は××氏と
  二人の時はいつものような反抗的な態度を示して、暴力を全面的に否定しておりまし
  た。しかしその後、××さんとは別々に聞くこととなって、私からいろいろこれまで
  のことを話し、「どうしてあなたはこのようなことまでする人間になったのですか」
  と聞いたりしたら、あなた自身すごく反省して、「確かにそうです。最初の頃の自分
  から変わりました。どうしてか考えてみます」と素直に認めて「自分から辞めます」
  といいだしたことです。その話し合いの時、記録をつけていたいずみ寮の土屋美和さ
  んの報告書(乙第 号証)にある通りです。
  
 3.申立書によれば、解雇の理由は「利用者に対して暴力をふるったということがあげ
  られているのみ」(三ページ)となっておりますが、そうではないことは××氏本人
  が十分にわかっていることです。その解雇通知書は××氏が突然「自分で辞めるとい
  うより、解雇されるとしてくれ」といってきて、「とにかく書いて下さい」というの
  で、今回の暴力事件を書いておりますが、解雇理由はそれだけではありません。それ
  は二月八日の話し合いの席で、私から職員としてのこれまでいろいろな非行や誤った
  言動等を指摘して、そのうえ今回の暴力事件をおこし、素直に報告も反省もしないと
  いうことでは救えないとして、解雇したものです。私からこの陳述書とは別に「××
  氏の解雇理由」(乙第二号証)を提出いたします。  
  
 4.前記したように、××氏を解雇したのは今回の××××さんに対する二月三日と五
  日の暴力だけではないということを前提にしております。××氏の今回の暴力事件は
  決して軽いものではありませんが、仮にも今回の事件のみで解雇するということであ
  れば、学園の他の職員たちもおそらく同情し、そして厳しい処分ではなく信用回復の
  チャンスを与えてくれという声が寄せられているはずです。××氏がこれまで園長で
  ある私や作業班の上司(主任)である森田宏一氏や他の同僚職員らに対してなしてき
  た数々の非行や誤った言動(乙第二号証)からみて、私自身の温情的姿勢を自己批判
  しております。××氏に対して、ここまでその福祉施設の職員としてあるまじき言動
  を許してきた園長としての私の責任を、あらためて感じているところです。
  
二、××氏の福祉施設職員としての資質について。
  
 1.××氏はその仮処分申立書及び陳述書にて、知的障害者施設の職員として許されな
  い、あるまじき言動をしております。その暴力の正当化は決して許されるものではあ
  りません。
   仮処分申立書によれば、『今年二月三日と同月五日、債権者(××氏)が行った有
  形力の行使には、以下に述べるとおりやむにやまれぬ事情が存したものであり、「暴
  力」と評価すべき性質のものではない。「体罰」でもなかったし、ましてや「虐待」
  などという性質のものでも決してなかったのである』(四ページ)としております。
  このような発言・主張自体、すでに知的障害者の援助の仕事をする人間としての資質
  を欠いております。私自身、このような主張が私のもとで約七年近く働いた元職員か
  らでてくるということ自体、大変に反省しております.
   確かに××××さんにはいろいろと「問題行動」がありますが、それは××さんが
  悩み苦しんで、そしてうまく表現できない、行動できないという「障害」からつくり
  だされていることです。××さんは話せばわかりますし、人の気持ちを強く察しま 
  す。優しく接しかかわれば、それに十分に答えてくれる人です。それを職員が自分の
  思う通りにいかないから、自分に気にくわないからと叱ったり、責めたり否定したり
  すれば、誰もが荒れたりするものです。それを力で抑えつける、いうことを聞かせる
  などというのは、まさに暴力そのものといえます。そのことがわからず知的障害者施
  設で働くということなど、許されるものではありません。
  
 2.私は今回の事件で本当に自分の責任を強く感じております。それは、このたび××
  氏の仮処分申立書と陳述書を読み、その暴力正当化論を知ったからです。
   ××氏がどうして作業班の上司(主任)の森田氏の指示と協調を拒絶して「森田氏
  を辞めさせろ」というような非常識なことを要求してきたか、また私の園長としての
  業務命令にたびたび従わず、他の職員らと園生のために共同して援助していく仕事を
  妨害したり、反抗したりしてきたか。その理由が今回の裁判でよくわかりました。
   職員(上司)の森田氏の報告書(乙第  号証)、生活寮の部長をしている菊池扶
  美枝氏の報告書(乙第  号証)、いずみ寮職員嶋田大子氏の報告書(乙第  号 
  証)等を読み、あらためて××氏の知的障害者観・福祉観が誤ったもので、そして知
  的障害者の園生にとって危険でひどいものかを教えられた思いがしております。
   ××氏には、知的障害者の援助に関する基本的な認識と技術が全くないといえま 
  す。その仮処分申立書と陳述書は、××××さんの人間的生活を支えるという姿勢も
  ありません。まるで知的障害をもつ××××さんを狂暴な人間≠フ如くつくりだ 
  し、暴力を肯定しておりますが、そんな知的障害者はただのひとりもおりません。 
  「問題行動」があっても、それはみなさん苦しみもがいておられるのです。それを支
  え援助していくのが私たちの仕事です。
  
 3.愛成学園の園生六〇名はすべて女性であり、また職員もそのほとんどは女性が占め
  ております。職員(パートを含めて)は五〇名近くになりますが、そのうち男性は六
  名という構成となっています。愛成学園の設立は昭和三三年で、「キリスト教精神に
  基づき」これまで運営してきました。この分野で歴史も古く、私をはじめこの愛成学
  園とともに歩んできた職員も多くおります。女性が圧倒的に多いということが、××
  氏の横暴さ・勝手をつくりだしたのかもしれないという思いもあります。
   ××氏がこれまでしばしば酒気を帯び、酒の臭いをぷんぷんさせながら出勤してき
  たり、他の職員に対する暴力行為・脅迫的な乱暴なふるまい等をすることに対して私
  は注意指導してきました。それに対して××氏は、要するに高齢である私の注意指導
  を素直に聞き従うという姿勢をもちませんでした。他の先輩職員(女性)の注意指導
  にはあからさまに反抗的態度をとり、同僚職員らには乱暴な言動をとっております。
  それは私をはじめこの園の指導部が女性であるゆえに、反抗的姿勢、いわゆる「なめ
  てかかる」という態度になったかと思わざるをえません。それが今回の暴力事件とし
  てあらわれたとも考えられます。
  
三、今回の暴力事件について
  
 1.××氏は今回の二月三日の暴力、そして二月五日の暴力を全く報告せず、隠してき
  ました。また報告しなかったばかりでなく、被害者の××さんに対してなんと脅迫的
  な口止め工作までやっておりました。顔の傷や体のアザ等の暴力の被害を私や他の職
  員には絶対にいってはならない、いったら作業班をやめさせる、許さないなどという
  ような卑劣な行為をなしております。それゆえに××さんはその暴力の「こわさ」と
  「心身の傷」のために苦しんでおります。
   人が暴力により受ける傷≠ヘ、その肉体的な傷よりもむしろ人と人との関係、そ
  して心(精神的安定・成長)のあり方に大きく影響します。とりわけ知的障害をもつ
  人たちはそうです。自分の気持ちや状況をうまく伝えたり表現するということが困難
  な障害≠もち、そのためにこの社会の中で本当に多くの傷を受けてきた人たちで
  す。私たちには確かに「過ち」もあります。よかれと思ってやったり、かかわったこ
  とが、技術や認識が未熟であったがために誤った結果をつくってしまうということが
  しばしばあります。それゆえに一人だけで判断せず、いろんな人の知恵や協力ででき
  る限りの援助をしようとしてきております。××氏はそれを否定し、害悪≠ネこと
  をしております。暴力をふるい、それを隠し、さらに口止めという自己保身のために
  脅迫し、被害者をさらに苦しめることをしてきております。
  
 2.人は理由なく暴れたり拒絶したり自傷したりするものではありません。理由のない
  自傷行為とかパニックなどというものはありません。ただ、私たちの認識と技術
  ……(この部分がいただいたファイルでは欠けています。今後補うつもりです。)
       ……陳述書の中で、二月三日の暴力をその最後のしめくくりとして「私は
  これはもうどうしようもないと思い、もういい加減にしなさい≠ニいいながら、×
  ×さんの顔を一回、平手で叩きました。これで××さんはようやく収まったのです」
  (七ページ)とし、二月五日の暴力についても「この時の××さんは全くの興奮状態
  で、もうどうしようもないと思い、××さんの頬を平手で一回叩きました。これで×
  ×さんもようやく落ち着いたようで、××さんが私に謝って収まりました」(一一 
  ページ)としています。そのうえで、このような行為(暴力行為)が「それでも××
  が収まらないため、やむにやまれず、いわば正当防衛ないし緊急避難的に××に対し
  て有形力を行使したに過ぎない」(仮処分申立書六ページ)、「この有形力の行使 
  は・・・やむにやまれぬ事情が存したものであり、暴力≠ニ評価すべき性質のもの
  ではない。体罰でもなかったし、ましてや虐待などという性質のものでは決してな 
  かったのである」(同四ページ)としています。
   どうしようもない≠ニしてふるう有形力の行使がどうして暴力ではないのでしょ
  うか。勝手に「どうしようもない」とか「やむにやまれず」とかいう理由で正当防衛
  や緊急避難になるというのは、暴力をふるわれる人間の側になれば、それは理不尽な
  ことです。このような認識と見解は、知的障害者福祉を動物の飼育のやり方と同一視
  しておとしめるものであり、まさに暴力肯定論そのものです。決して許されるような
  発想でありません。知的障害者の人間性をまるごと否定するものですし、私たちの日
  頃の努力と目標を全面的に否定し、かつ汚すものといえます。
  
 4.今回の裁判の申立書と陳述書の内容、その知的障害者観と福祉処遇・技術観は、私
  だけではなく、知的障害者福祉にかかわる人たちにとって本当にショックを覚えるも
  のです。相手が知的障害者であれば暴力が暴力でなくなる、などという弁解が堂々と
  裁判で主張されることに、許されない思いがしております。
   そして××氏の暴力は、二月三日も二月五日も、顔と頬を一回、平手で叩いただけ
  と主張しておりますが、しかし写真報告書(乙第  号証)、診断書(乙第  号 
  証)、そして知的障害者の医療の専門家である医師山田真氏の鑑定意見書(乙第  
  号証)及び職員西川登子氏の報告書(乙第  号証)、職員多田羅初子の報告書(乙
  第  号証)をみれば、それが全くのウソであることも明らかといえます。鑑定意見
  書を書いて下さった山田医師は、このような受傷状況は「集団的殴打事件・子ども虐
  待事件」等に似ており、「これは相当に大きな外力で打ちすえられないと生じない」
  とされ、「××氏の陳述書の弁解では傷の状況は一致せず、説明できない」とされて
  います。
   ××氏はこの裁判においても虚偽の事実を主張して、自分の間違った主張をおし通
  そうとしており、自分がやった今回の暴力事件について全く反省していないというこ
  とを示しております。
                             以上  。 



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