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父に殺された障害者を思う

長瀬 修 1999/02/19 『神奈川新聞』1999年2月19日



 天候に恵まれた一四日、友人と横浜市内の能見台中央公園に出かけた。昨年四月に青年が父親に殺害されたという現場を見るためである。殺された二一才の男性には知的障害があった。母親は三月中旬に急病で亡くなっていた。
 私は事件の関係者の知り合いではないが、殺害容疑の父親に非常に同情的な報道に接して、事件に関心を持った。事件自体は残念ながら日本ではさほど珍しくない。毎年、障害者は親に殺されている。
 公判を傍聴したが、被害者の青年本人の存在が感じられない。家族が被害者と加害者に分かれ、被害者の代弁をすべき存在がない。
 容疑者である父親のために地域から千数百通の嘆願書が出されているという。しかし、絞め殺された本人のことを私はもっと考えてみたかった。
 現場は新興住宅街に残された貴重な緑地だった。そこで息絶えた時に青年は何を感じていたのだろうか。

 長瀬修、四〇才、翻訳業(横浜市鶴見区)


UP:1999 REV:20080804, 20151221
長瀬 修  ◇全文掲載
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