last update: 20151221
みなさん初めまして、「視覚障害者の歩行の自由と安全を考えるブルックの会」(
略称「ブルックの会」)の佐木理人です。このたび、「労働フォーラム」の機関誌に
掲載していただけることになり、『点字毎日』やNHKラジオなどの報道で既にご存知の
方も多数いらっしゃるかと存じますが、この場をお借りして改めて、「佐木訴訟」の
趣旨や「ブルックの会」の活動内容を、紹介させていただきます。
1995年10月21日、私は大学から引っ越ししたばかりの実家に帰るために、大阪市営
地下鉄御堂筋線天王寺駅で列車を降り、近くにあるはずの階段に向かって歩き始めま
した。そうしているうちに、ホーム端の壁に突き当たったのですが、その壁を柱かと
思い、杖で点字ブロックを探しました。そのとき、発車し始めた列車に、私の右腕が
接触し、軌道上に転落、16mも列車に引きずられました。その結果、頭部挫創(33針)
、
左上腕部・左大腿部骨折という重傷を負い、計3年近くの入通院生活を送ることにな
りました。その後、両親や友人、日頃お世話になっている先生やボランティアの方々
に支えられながら、リハビリを続け、体の機能はほぼ回復したものの、左足が2cmほ
ど短くなり、また、正座や鞍坐ができないという大きな後遺症が残りました。
事故から4年が経過し、ようやく生活に落ちつきを取り戻した私たち家族は、去る
4月8日、転落事故に関して、地下鉄の運営管理をしている大阪市を相手に提訴する
ことを決めました。「4年もたって今更」とお思いの方もいらっしゃると思いますが、
私(と家族)がこのような決意を固めたのは、以下のような理由からです。
まず第1に、未だに充分な改善がなされない事故現場(点字ブロックは敷設された
が、防護柵は設置されていない)の早期改善を求めるためです。なお、私の事故につ
いて、交通局側は、「当局にはいっさい過失はない」という態度をとり続けています。
次に、多くの人が「視覚障害者が町を歩く際に、直面する問題」に目を向ける機会
を提供したいと考えたのです。
そして、私の事故と提訴をきっかけとして、「視覚障害者の歩行の自由と安全を考
えるブルックの会」が本年4月11日に発足いたしました。
本会の目的は、「視覚障害者と晴眼者が共に視覚障害者の歩行の自由と安全を考え、
社会環境を整えること」にあります。具体的な活動としては、当面の間、「佐木訴訟」
の支援活動(傍聴人確保や駅ホームの調査など)を中心に行って行きますが、将来的
には、視覚障害者の駅ホーム利用の問題に限らず、「だれもが自由且つ安全に移動で
きる街」を実現するために、啓発的な学習会や勢力的な実地調査を重ね、社会に対し
て積極的な問題提起を行っていきたいと考えています。
本会は、4月18日に「ブルックの会」と「佐木訴訟」へのご理解とご協力を求める
べく、第1回学習会」を開催しました。まず、本会の代表である湊喬(大阪ボランテ
ィア協会点訳サークル「ふみのかい」事務局長)より「ブルックの会」発足に至った
経緯や今後の活動予定などの紹介、次に私と母(佐木位子)から事故当時の様子や提
訴に踏み切った家族の心境、最後に、八名の弁護団を代表して竹下義樹弁護士より、
本訴訟の意義や今後の方針などについての解説がありました。この中で、「佐木訴訟
は、点字ブロックが全国にある程度普及して以来初めての訴訟であること、また、損
害賠償請求という形を取っているが、その目的は、未だに不十分なままで放置されて
いる事故現場の早期改善を求めることと、できるだけ多くの人たちにだれもが自由且
つ安全に移動できる街について考えていただく機会を提供するためであること」など
が特に強調されました。当日は、約50名の方にご参加いただき、視覚障害者の駅ホー
ム転落に対するみなさんの関心の強さを感じると共に、「佐木訴訟」を応援していき
たいという姿勢に触れ、会としても、そして、私自身非常に励まされました。
ついで、6月28日に「第1回弁論期日」が大阪地方裁判所において開かれました。
当日は、私と弁護団の意見陳述と訴状の要約、更に被告側(大阪市)による答弁書
の読み上げが行われ、「第2回弁論期日」を9月13日に決定し、閉廷しました。常設
の45人分の傍聴席に加え、特別に7席の補助椅子が出されるほど多くの方々におこし
いただけたので、私の訴えが、身勝手な主張ではなく、すべての視覚障害者が、自分
自身の切実な問題としてとらえているものであり、「人にやさしい街づくり」を掲げ
ている大阪市にとっても、決して無視できないものであることが、審理に当たった3
名の裁判官に十分伝わったという確かな感触を得ました。
最後に、8月21日22日の両日に渡り、大阪市営地下鉄の全線・全駅(約120駅)の駅
ホームの安全点検を約60名の会員のみなさまのご協力を得て、実施することができま
した。この調査は、ホーム終端部における柵の有無、ホーム終端部と点字ブロック終
端部との距離、そしてホーム縁端部と点字ブロック縁端部との距離など計6項目を班
ごとに別れて調査していただくという形を取りました。調査終了後の各班からの報告
や感想をお聞きして、まず、参加していただいた多くの方々に駅ホームの端の様子を
実際に目で見たり、手で触れたりして確認していただくことで、駅ホームの安全制に
ついて改めて考えていただく良い機会になったように思われたこと、大勢の参加者に
助けられ、二日間という短い期間で全線・全駅をチェックできたこと、調査結果が、
今後の「ブルックの会」の活動や「佐木訴訟」にとって有益なデータが得られたこと
など、非常に意義深い学習会であったという印象を受けました。
なお、8月末現在、「ブルックの会」の会員は、約230名となり、その規模も全国的
に展開しつつあります。会としては、動き出したばかりで不十分な点が多少あるかと
存じます。しかし、このような地道な活動が、様々な方々の理解を経て、やがて一つ
の大きな流れとなり、「だれもが自由で安全に移動できる街づくり」を実現していく
全国的な運動へと発展することを願っております。
今後とも「佐木訴訟」と「ブルックの会」へのご支援・ご協力をよろしくお願い申
し上げます。
* 「ブルックの会」についてのお問い合わせは、下記事務局までお願いいたします。
〒545-0002 大阪市阿倍野区天王寺町南2-25-8(佐木方)
電話・ファックス 06-6714-8771
e-mail: YHY12764@nifty.ne.jp