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当事者主体の障害者介助サービス・システム――セルフマネジドケア

中西 正司 1998/10- 『福祉新聞』

last update: 20151221


第1回

○背景

 英国ではコミュニテイケア、ドイツでは介護保険、そして日本でも介護保険がスタ−トしようとしている。高齢化社会を迎え、医療費の増大と施設増設の財政負担に耐えられなくなってきた各国政府は、施設ケアから地域ケアの時代へと転換を図ろうとしている。
 これまで障害者地域ケア施策は、高齢者とは全く異なるシステムのもとで世界各国で行われていた。ところが今新高齢者システムの発足を機会に障害者施策を同じシステムに乗せようとする動きが出始めている。そして、それに反対する障害者が自分たちで別建てのシステムを考案し、何ヵ国かでは政策として実施され始めている。
 本稿ではヒュ−マンケア協会が日本財団の助成を受け98年8月に行ったカナダ、オンタリオ州トロントでの研修報告を交えながら、どのような地域ケアシステムが日本の障害者にとって最適であるかを探り、政策提言を行いたい。

 ○世界の状況

 英国ではニュ−ハンプシャ−州の施設にいた障害者が施設にいて月に40万円かかるなら、地域で同額の介助料を支給してほしい。そして1981年までに施設から出たい、という願いを実現させ、現在のコミュニテイケア法の中に介助料障害者直接支給法(Direct Payments Act)という特別法を作らせ、全英自立生活センタ−協議会が連邦政府の委託を受け普及に当たっている。
 カナダでも94年から全国数ヵ所で各州の委託を受け自立生活センターがDFセルフマネジドケア(Direct Funding Self Managed Care)の試行事業を行い、オンタリオ州では98年実施に入る。
 わが国でも2000年に介護保険がスタ−トしたあと、2005年には若年障害者も組み入れる予定といわれている。ドイツでは介護保険は高齢者のためのシステムだとの認識から障害者は何の運動もしなかったため低所得層以外は介護保険の医療モデルによる介護体系に組み込まれ今後悔している。研究者である障害者はこれまで介助者に頼めていたことがしてもらえなくなり、研究生活を断念したと、96年の当協会の現地研修時に語ってくれた。日本で同じ撤を踏んではならない。

 ○消費者コントロ−ルの介助サ−ビス

 世界中で障害者が求めているのは、ケアマネジャ−にケアプランを作ってもらうことではなく、介助者を自己管理して生きがいのある自由な人生を送りたいということである。その夢を満たす方式が、DFセルフマネジドケアとか介助料障害者直接支給法であり、行政が介助料を直接障害者に支給し、障害者はそのお金を使って介助者を雇う方式である。どのようにして、又なぜこの方式が各国の政府や既存のサ−ビス団体に受け入れられ、実施されたのか、次回トロント市の事例で見てみよう。

2〜5回はカナダの報告

福祉新聞原稿6〜7回分

 ○介護保険と障害者

 今、障害者を介護保険に組み入れるべきか、どうするか議論になってきている。賛成派の論拠は基礎構造改革で唱えられている措置制度から市場原理も取り入れた選択性のある社会保障制度への転換を計り福祉制度の一貫性、統一性を作ることである。では実際に介護保険に全ての障害者を組み込んだらどうなるのか。介護保険のアセスメントは74項目中30項目が痴呆や意識障害の項目である。残りは身体の機能障害やADLの不自由さを測る項目である。要介護度3以上を、例えば筋ジストロフィ−やCP、頚損の意識や判断能力のあるものが取るのはまずありえないことである。このような身体の機能障害者やADLの不自由さを持ち、現在日に6〜24時間の措置制度でのホ−ムヘルプサ−ビスやガイドヘルプサ−ビス、全身性障害者介護人派遣事業を受けて暮らしている者は社会参加部分や生活機能上のアセスメント項目がなければ、介護保険から落ちこぼれるのは明らかである。
 国会での付帯決議である「介護保険適用後において、従来受けていたサ−ビスが減少することはない」を遵守することは至上命題である。では介護保険下で身体障害者だけ別制度のアセスメント基準を作ることは可能なのか。それはできない、なぜならば介護保険は国民が将来共通に抱える高齢化社会の介護負担を共同出資の保険制度で等分に負担しようとするものである。高齢者は要介護度5で月に30万円といわれているときに、身体障害者だけ別のアセスメント基準で月80万円もの介護料を得ることは、保険制度の公平性の原理からいってありえないことである。
 では介護保険を在宅でのホ−ムヘルパ−部分をみるものとし、外出や社会参加の部分を知的、精神、身体障害者特有のニ−ドということで措置制度のガイドヘルパ−制度といわれる介護補償としてみる、二階建て構造はどうか。これも在宅での介護が介護保険と共通のアセスメントになるという点で例えば、筋ジスで24時間介護が必要な人が地域での生活が不可能になるという問題が起こり採用できない。
 結局介護保険に組み込む案はどれをとってもいきづまる。つまり税金を使って従来の措置制度を改善しながら、利用者の主体性と自己決定を尊重した新制度を作る以外に方法はなさそうである。生まれながらの障害者や交通事故等で中途で障害者となる者はこれから人生を始めようとする若者であり、その介護保障は、さまざまな社会生活を経験し人生の秋を迎えた高齢者に対応した国民が平等に負う介護保険にはなじまない。やはり税で賄い最終的な責任を国家が負うべきものであろう。介護保険制度では生活のQOLや社会参加の点において、国は最終責任は負わない。障害者基本法の中に介護を受ける権利を明記すべきである。

 ○推薦ヘルパ−方式とカナダのダイレクトペイメント方式

 では現状のヘルパ−制度の中で、障害当事者の提案を入れて作られた推薦ヘルパ−方式から始めて、どのような新制度が考えられるのか。そして現在の推薦ヘルパ−方式の問題点は何か、どう改善できるのか。カナダのダイレクトペイメント方式を日本でとり入れた場合どうなるのか。その場合のメリットとデメリットは何か。について考えて見よう。
 推薦ヘルパ−方式とは言語障害があって特定の介助者でなければコミュニケ−ションが取れないとか、体を抱えてもらって入浴するので若い人でないとできない等の理由で、一般のホ−ムヘルパ−が対応できない時に自分で推薦した人を市町村に登録しておいて必要なときに本人が依頼するものである。東京都の場合だと家政婦会に登録しておき、区市から発行された介護券を介助者に手渡し、介助者は家政婦会で現金化する方式を採るところと、区市に直接登録しておいて、実績報告を市に提出し、介助者の口座に介助料が支払われる場合がある。
 どちらの場合もアセスメントは市のケ−スワ−カ−が行うという点では共通である。この方式のメリットは本人が気に入った介助者が選べるため介助者とのトラブルが発生しにくい、2人の合意があれば介助時間を移動したり、延長、短縮したりの自由度が確保されやすい。介助者の頻繁な入れ替わりがないため介助の方法を何度も教える手間が省ける。デメリットは家族と一緒に暮らしていた場合、介助料が本人の介助者を雇用する費用としては使われず、生活費になってしまう等の疑念を生みやすい。自立生活センタ−の場合センタ−に登録されている介助者のリストから選ばれて、常時使う人以外に不定期に1人の障害者が月に20人以上の介助者を使うことがあるので、区市が介助料を各人の口座へ振り込むことは、名簿をつかみ切れないことと、手数が膨大で実質的には役所では対応できない。
 カナダでは介助料が介助者に実質的に支払われていた保障を行政が取るために、介助者が社会保険に入ることを義務づけ、全ての介助者の介助料プラス税金、社会保険料が行政から障害当事者に支払われ、その中から給料を介助者に、社会保険料を社会保険庁に本人が振り分けて支払う。
 この制度のメリットは介助を労働として国が正式に認め、利用者と介助者が雇用関係を結び労働法と社会保険法にのっとった関係が結べ、介助料が介助に正当に使われた保障が得られることである。デメリットは介助者が週30時間以上の勤務時間勤めてくれないと社会保険に加入できないので短時間の勤務を望む住民参加型組織が抱える大多数の介助者がこのままでは排除されることになりかねない。障害者が多くの人と触れ合い社会経験を積む場を閉ざすことになる。また市民の参加の場を閉ざし、住民の意識変革への道を閉ざすことになる。それはまた障害者、介助者双方にとって1日8時間、週3日以上同じ相手とず−と一緒にいなければいけないことを意味している。よぽど気が合った同士ならまだしも、一般的にはこれはお互いにとって非常にストレスのたまることである。
 さてこの日本の推薦ヘルパ−方式とカナダのダイレクトペイメント方式の長所を生かし、デメリットを最小限に抑え、しかも日本の法制度にのる形でどんな政策提言ができるだろうか。

 ○新しい介助サ−ビスシステムの提言

 新しいシステムは高齢者の介護保険とは一線を画し、それをこえる理念を持ち、実質的に障害者が望む自立生活が可能となり、エンパワ−メントされ、主体的に自己選択と自己決定ができ、生活のフレキシビリテイが十分に確保され、しかも介助者の労働権が保障されるものでなければならない。
 行政にとっては介助料が正当に使われたというアカウンタビリテイが確保されること。精神と知的を含む障害者を包含するものであること。介護保険とは明確に異なる制度といいえ、それよりも、経済効率が高く利用者の満足度も優れている確証が得られることである。

1.セルフマネジドケアを原則とし、それができない人の場合は障害者生活支援センタ−または自立生活センタ−のピアカウンセラ−がケアコンサルタントとして支援に当たる。都市部では自立生活センタ−に依頼できるので住民参加型サ−ビスの短時間パ−トタイマ−介助者と専従介助者の併用が可能で、その場合専従介助者については本人管理、短時間パ−トタイマ−介助者の給料と介助中の事故保険については行政の委託を受け自立生活センタ−が管理する。地方や山間僻地においては利用者人数も多くはないので障害者生活支援センタ−が短時間パ−トタイマ−介助者の介助料の支払い等の任に当たれる。

2.新設する障害者介助サ−ビス制度は以下の2制度を包括する。

3.外出部分はガイドヘルパ−制度を使い1日8時間の範囲で基本的に保障し、実績報告書に基づいて介助料の支給を行う。

4.家の中の介助と旅行中の介助については障害者介助者制度を新設し、2ヵ月に1度朝、昼、夜、深夜及び旅行の日程の必要介助時間を本人に申請してもらい、利用実績に基づいて介助料の支給を行う。この場合緊急対応の介助料については月の介助時間の5%に当たる介助料を事業委託する自立生活センタ−か行政窓口のどちらかに預託し、即座に介助者が派遣できる体制を整備するように事業実施費用を含め予算化を計る。

5.介助時間のアセスメントは無くす。

6.介助料には通勤に伴う交通費(限度額1000円)、社会保険料、支払い税金額、税理士費用がプラスされて障害者本人の口座に給料日前に行政から振り込まれる。障害者は雇用者としてまた事業主としての責任を負い、労働法に則った手続きをし、介助者への支払いや社会保険料等の支払いを行う。

7.利用者から行政または委託された自立生活センタ−への介助料の請求は毎月28日に行い、残りの日数分については概算で請求し次月に調整する。利用者から介助者への介助料の支払いは介助月の翌月10日払いとなる。

8.障害者はこの会計業務を税理士を雇用し行うことができる。また自立生活センタ−に委託することもできる。行政は障害者本人に直接介助料を支給することができるし、また自立生活センタ−にその業務を委託してもよい。

9.自立生活センタ−は障害者がこのようなセルフマネジドケアができるようになるように研修会を主催し、自分でできるようになるまでの相談や援助に当たる。自立生活センタ−のないところでは行政は全国自立生活センタ−協議会に委託することができる。協議会はNPO法人をとり、全国各地で開催される研修会と研修会講師の派遣について責任を負う。行政はこの研修会の費用と相談業務の委託費用を自立生活センタ−及び全国自立生活センタ−協議会に支払う。

検討委員会の開催と試行事業の実施

 厚生省はこのような世界の状況の中で、わが国での介護保険後の障害者の介助サ−ビスの検討に早急に入るべきである。まづ、第3者機関に委託して、現状の推薦ヘルパ−方式のメリットと問題点を公平な視点で調査し報告書を得る。次にダイレクトペイメント、セルフマネジドケアの具体的なわが国での実施を目ざして、99年度より、自立生活センタ−を入れた検討委員会を開催する。2000年には、試行事業を都市部で全国5ヵ所程度で1年間行う。2001年には施行マニュアルを作成し、地方都市を入れ全都道府県で施行事業を行う。2002年に完全実施。というようなスケジュ−ルで新障害者介助サ−ビス事業に取り組んでいただきたい。





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