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「精神障害者の自立支援と介護保障」

加藤 真規子
2000年障害者介護保障確立全国行動98年8月集会パネラー資料

last update: 20151221


精神障害者の自立支援と介護保障

                         全精連 加藤 真規子

   ※2000年障害者介護保障確立全国行動98年8月集会パネラー資料

 精神障害。それは内なる障害だ。私の場合だと、高い緊張と不安をかかえて、集中力が低下する。精神が覚醒して、不眠が続く。食欲が落ちる。だから体力も低下する。余裕がないからこそ、知的に処理しようと、強いセルフコントロールが働く。
 その私が、東京という大都会の一隅で自立生活をしている。私の場合、働いているから経済的には、何とか自立できているが、生活的自立、精神的自立は、波がある。再発してから3年目。ようやくここまで回復してきた。私は、自分の弱さ、醜さを自分だけでは、受けとめかねた。私はもがいた。具合が悪くても、前むきに生きていきたいと願った。その中で出会ったのが、仲間の大切さ、あたたかさであり、ピア・カウンセリングであり、自立生活プログラムだった。生活者として、食事を大切にすること、掃除をしたり、洗濯をしたりすることは、理屈抜きに、気持ちを整理し、スッキリさせるという発見だった。安心できる、信頼できる介助者の存在も大きい。朝おきた時、夜、眠る時「辛い」「悲しい」「苦しい」「淋しい」と、5分でもよいから、一方的に話して、受けとめてもらう。身体障害者ならば、アテンダント、知的障害者ならば、ガイド・ヘルパー、エイズならばバディー。精神障害者の介助者にも「心の杖」といったような素敵な名前を考えたい。私は「この人だ!」と思った人に、介助をお願いしている。
 ピア・カウンセリングは、セルフ・ヘルプグループの基本だ。私は、気軽に、日常生活の場でセッションしている。うつ状態の時、「ニュー・アンド・グッズ」
(最近あったよかったこと)は苦しい。「今を味わえない」私の日常の調子のバロメーターになっている。上野の森の新緑のみずみずしさ、青虫がさなぎになり、蝶々となって飛んでいった生命の尊さ、新しいジーパンを買った喜びなど楽しいことを語りあえる時は、心が平安な時である。私は、「対等な立場で、時間を分かちあって、自分の感情を素直に表現し、自分のキズとむきあい、課題の解決にむかっていけるような元気を、取り戻そうという方法」を大切にしたい。カウンセラーの役割だけでなくクライエントになるというのも勇気のいることだ。仲間への信頼感と、悩む力がないとクライエントにはなれない。私は、「人によって傷つけられた体験は、人によって癒される」ということを身をもって知った。
 ピア・カウンセリングのルールを基本にして、安心して、障害について語ることのできる場、お互いのよいところを発見して、伝え自信をつけあう場、リラックスする場、前むきに自己主張する場として、自立生活プログラムの果たした役割も大きい。「私」を主語にして、「私の感情」を中心に、時間を対等に分けあって、語りあうミーティングも楽しみだ。
 生活的自立では、食事、睡眠の問題が一番深刻だ。具合が悪いと、食欲がなく、体力が落ちる。私たちが川崎市で実践したような刺激物をひかえた野菜中心の
「おいしいもの」をみんなで作って、茶の間でワイワイ食べようということも、精神障害者の場合、大切な自立生活運動である。食事は生命の維持にもかかせないが、家庭のだんらんの象徴だ。ひとりぼっちで街で暮らす人が多い。そのひとりぼっちが、二人三脚で、力をあわせて、自分の家族を新たに作っていく。
 快適な環境で清潔なシーツで、よく干したふとんで、ゆっくり休むことも必要だ。年に2・3ヶ月悩む月があって熟睡感は持てなくても、横になるだけで神経は休まる。
 介助者の役割は、こうした生活的自立を、支援するものとしてもかかせない。

 先日、仲間が入院した。50歳すぎの仲間が、家族によって支えられてきたが、家族の高齢化、もしくは死亡にともなって、精神病院に入院するということは多い。彼らは、おおむね30年間位、薬をのみ続けてきた。日本の精神医療は、隔離収容と薬物療法に頼ってきた。彼らの若い頃、家族と精神障害者は一体化せざるを得なかった。社会資源を、国や自治体が作ることは、いまだ義務化されていない。安心して自立生活に入れる所得保障もない。精神障害者の自立は、即、生活保護を受給して、単身生活を営むことを意味しているのが現状である。
 安心して自分を出せる場、「そのまんまの貴方でいいんだよ」という場や人の関係を、あみの目のように作っていく。セルフヘルプ活動、自立生活運動を続けていく中で、私は仲間とはまた違った役割をにない、私の自立生活を支えてくれる介助者の重要性を認識している。今のままでは、彼らはボランティアだ。保障がない。一方、医療法の特例、措置入院を法定化した精神保健法、欠格条項の存在など、私達が生活者として、社会で暮らしていくことをはばむ障壁は、国の制度として存在しつづけている。それを切りくずしていくのが、障害を持ちながら生きてきた体験知恵を分かちあう、セルフヘルプ活動であり、自立生活運動だと考える。
 精神障害者の場合、医療と福祉が混在している。福祉の確立と充実を求めたい。人間として、豊かな自立生活を営むために、精神障害者にも介助(与えられたテーマとしては介護)が必要だ。

全精連連絡先 TEL 03−3876−6876
       FAX 03−3876−6875


 ◆『全国公的介護制度情報』1998年8月号より転載



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