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「横山貢氏と社会福祉法人泉会との合意書」


last update: 20151221


横山貢氏と社会福祉法人泉会との合意書

 東京都世田谷区の社会福祉法人の泉会が運営する
福祉作業ホーム「岡本ホーム」が、利用者の横山貢さんに
圧力をかけ、侮辱的な対応をして強制的に退所させられた
事件で、ほぼ全面的に横山貢さんの主張が認められる
内容の合意に達しました。

以下、横山さんから送ってもらった合意書です。
(長瀬修)


          ・・合・意・書・  ・・

横山貢を甲とし、社会福祉法人泉会を乙として、甲及び乙は、平成4年
9月の甲の岡本福祉作業ホーム(以下、岡本ホームという)退所に関する
件について、次のとおり合意する。
1 乙は、世田谷区に提出した「ケース会議(入所後2年の見直し)」と
題する書面につき、下記の通り不適切な内容が記載されていたことを認め
謝罪する。
(1) 甲の意識面について、「幼い」「自己中心的」と断定した記
載がなされたが、この記載は、乙の職員が甲の障害について正しく理
解していなかったことに基づく不適切な判断によるものであった。
(2) 「文章力をつける」及び「木材のことを学習する」という訓
練内容について、「本人の希望」により行わなかった、との記載がな
されたが、この記載は事実に反するものであった。これらの訓練内容
については、乙の職員間の引き継ぎがなかったことから、担当職員の
交替に伴い、自然消滅させられたものであって、「本人の希望」とし
ては、むしろ行ってほしかったものである。
(3)OTからの指摘に基づく内容として記載された部分があったが、
OTからの指摘に基づくものではなく、甲の退所を根拠づけることを
意図した記載であった。
(4)「ケース会議(入所後2年の見直し)」と題する書面添付の保
健資料(「保健質としての対応(2年間)、状況の報告」)において
は、看護婦により、次のような事実に反する不適切な内容の記載があ
った。
@ 握力については、一定の握力が存在するにもかかわらず、「本人
の力ではない」旨の記載がなされた。
A「運動機能全廃」旨の記載がなされたが、これは事実に反する。
B甲の食事の様子について、「犬食い」などという表現が記載された。
C母親が甲の手を廃用にする考えを有しているかの如き記載がなされ
てたが、母親がそのような考えを持っていたことはない。
D「母親から両上肢挙上運動につき中止したい旨申し出があった」と
いう記載がなされたが、そのような事は言っていない。
E平成元年1月の甲の転倒事故の原因について、「座位保持困難」
(甲の障害が原因であるという趣旨)という記載がなされたが、事実
は、甲の障害の一態様である「座位保持困難」に対する乙の担当職員
ないし看護婦の不対応不適切な介助が原因であった。
F平成元年12月発生の、甲の電動車椅子と他の利用者の接触事故に
ついては、事実は、雑談中に、他の利用者が甲の電動車椅子に寄り掛
かるように倒れてきたことが原因であった(乙の職員が直接目撃して
いる)のにもかかわらず、保健資料においては、甲の不適切な電動車
椅子操作が原因であったかの如き記載が、現場を直接見聞していない
看護婦によってなされた。
G「平成2年3月ころより、精神安定剤減量となり、・・・母から本
人の状況説明を受ける時間が増える 母子の関わりのもつ問題の調整
に苦慮することが多かった」旨の記載がなされたが、甲は精神安定剤
を服用しておらず、甲側としては、看護婦の対応に傷つき、看護婦に
任せておけない気持ちになり、甲の介護等の負担が増大した。
(5)「ケース会議(入所後2年の見直し)」と題する書面に別紙と
して添付されてあるはずの「各作業所見」については、甲の要求にも
かかわらず、結局、開示されなかった。
(6)「ケース会議(入所後2年の見直し)」と題する書面において
は、「2.ケース所見」の後に、「4.処遇の見直し」と記載されて
おり、3項が抜けているため、甲は3項の開示を再三要求したが、結
局、開示されなかった。
2 乙は、世田谷区に提出した「3年の見直し資料」と題する書面に
ついて下記のとおり、事実に反する内容が記載されていたことを認め
謝罪する。
(1) 甲のADLについて「全介助」と断定した記載がなされたが、
乙の職員は、甲の家庭で常用している用具などを提供しても、
これをほとんど使用していなかった。前記ADLに関する記載は、必
要・可能・適切な援助のもとにおける、甲のADLを、全く考慮して
おらず、極めて不適切な記載であり、甲の退所を根拠づけることを意
図した記載であった。
(2)「周囲に知らせるためにブザーをとりつける」などと、いかに
も甲の存在が危険であるために乙がブザーを設置したかのような記載
がなされたが、実際には、甲の母親が、甲の車椅子に捕まって休むこ
とのある利用者の安全のために取り付けたものである。同記載は、甲
の存在につき、不当に否定的な印象を生ぜしめるものであり、不適切
であり、かつ甲の退所を根拠づけることを意図した記載であった。
(3)運動機能及び右手の装具固定に関する記載(医師・保健室の意
見)がなされたが、同記載内容は、乙の看護婦の不適切な指導に基づ
くものであった。
(4)特に親しい利用者はいないとの記載がなされたが、同記載内容
は、甲に対する事実聴取もなされておらず、乙の職員の独断によるも
のであり、事実に反する。
(5)「平成2年末より、服薬がかわったことで、不安定になり、体
調もくずし、欠勤も多くなっていった」との記載がなされたが、これ
は全く事実に反する内容である。甲は、服薬がかわったことで、むし
ろ安定した。全日通所できなかった(「休みがち」だったのではない)
のは、岡本ホーム側の都合によるもの(例えば、電動車椅子だから)
であった。
(6)OTからの指摘に基づく内容として記載された部分があったが、
事実は、OTからの指摘に基づくものではなく、記載部分は、甲の退
所を根拠づけることを意図した記載であった。
(7)「家族の理解度」及び「総合所見」に関する記載内容は、甲及
びその家族との十分なコンセンサスのもとに客観的に作成された内容
ではなく、乙の職員の偏見に満ちた内容であり、甲及びその家族に対
して不適切であり、甲の退所を根拠づけることを意図した記載であった。
3 乙は、平成4年9月の甲の岡本ホーム退所をめぐり、福祉司、岡
本ホーム元施設長及び乙の職員が、甲に対し、平成4年4月ないし9
月の間、多数回にわたり、辞退届を提出するよう要求し、甲を精神的
に圧迫し、結局、甲の意思に反して辞退届を提出させたこと、ならび
に「職員が楽をしたい、ということが先に立ち、手のかかる障害者を
排除しようと考え、岡本ホームを退所させるための書類作りをした」
(1996年12月18日に乙は同事実を認めている)ことを認める。
4 乙は、岡本ホームにおける最初の二年間の乙の職員の作業指導内
容は、持続性がなく、継続を希望する甲にたいし、乙の職員は、不適
切な対応と発言が多かったことを認める。
5 甲は、上記1〜4に記載された内容によって、極めて不快、かつ
侮辱を与えられ、長年にわたって深く傷ついた。乙はその間、甲と充
分話し合うことをせす゜、一方的に退所を決定し、世田谷区に上申し
たことは、福祉の理念から逸脱した行為であったことを反省し、また、
その後の甲の世田谷区長への異議申立てに対しても、誠意ある解決と
謝罪の努力を怠り、いたずらに日時を費やしたことを覚え、甲に対し
真摯に謝罪する。
6 乙は乙の認める上記1および2を前提として世田谷区に提出した
「ケース会議(入所後2年の見直し)」および3年の見直し資料」
と題する書面につき、甲の名誉回復のためにも、乙の保管するもの
についても世田谷区の保管するものについても、いずれも速やかに
回収し、廃棄することとし、甲はこれを了承する。
7 乙は、世田谷区保健福祉サービス苦情審査会の平成10年3月
5日付け意見書2項および3項に記載されている指摘内容を真摯に
受け止め、1992年から本合意書締結に至るまの事実経過をまと
めた小冊子を作成し、乙会員、岡本ホーム利用者その他関係者・関
係機関に配布するものとする。
8 甲は乙による謝罪について、これを受け入れ、本件(平成4年
9月の甲の岡本ホーム退所に関連する件)については、乙に対し、
本合意書調印後においては、本合意書記載事項の内容について、何
らの請求も責任追求も行わないことを約束する。
9 甲および乙は、今後、甲および乙の利用者の活動および生活の
質の向上のために、相互に協力し、理解を深めるようつとめるもの
とする。
            1998年5月8日
            甲      横山 貢

            乙  社会福祉法人泉会
付記:本合意書は3部作成し、甲、乙および世田谷区が保管するも
のとする。



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