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「なぜフィリピンをとりあげるか?」

松波 めぐみ 1998 アムネスティ・インターナショナル日本支部「ニュースレター」1998年2・3月号

last update: 20151221


なぜフィリピンをとりあげるか?

松波めぐみ 1998
アムネスティ・インターナショナル日本支部「ニュースレター」1998年2・3月号
(ミニ特集 フィリピン のうち、二つの文章を松波が書いた。 筆者)

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なぜフィリピンをとりあげるか?         
1.人権を真に普遍的なものとするために
  西欧以外の国々でのアムネスティ運動の広まりが大切なことは、言うまで
 もないだろう。人権への意識を高めて人権侵害に歯止めをかけるためにも、
 「人権は普遍的」というメッセージが本当に説得力をもつためにも必要なこ
 とだ。人権の普遍性はアムネスティの大前提だが、これまで主流となってい
 る人権思想が主に西欧で発達したのは事実であり、西欧以外の歴史や思想を
 十分に反映してきたとは言いがたい。そこに「人権は西欧の概念」と批判さ
 れる余地があるといえる。けれど西欧以外の地域にもあえて人権のために声
 をあげる人々がいることを私たちは経験から知っているし、人権尊重の気風
 や運動は各所でみられる。実際に、今でも貧困や厳しい状況をかかえる開発
 途上国にもアムネスティの会員がおり(もちろん他にも人権団体はあるが)、
 活動が行われていることは、私たちにとって「希望」とはいえないだろうか。
 西欧からの影響はあっても、土着の文化や社会状況に合わせて活動を発展さ
 せてきた非西欧の支部の歩みは、日本の私たちが学べることがあると思う。
2.世界人権宣言・50周年に
  今年50歳になる世界人権宣言は多岐にわたる人権を扱っている。にもかか
 わらず私たちの興味は「言論の自由」等の政治的市民的権利に偏りがちでは
 ないだろうか。食べていく、安全に暮らすといった権利もまた同じように重
 要な人権である。どちらも大切で、両者は関係しあっていることが、例えば
 フィリピンではよりよく見えるように思う。(例えば「食べる」権利を求め
 た人がかつて「良心の囚人」となった。)多角的に人権状況を見て考えるこ
 と、人権侵害の背景に横たわる南北問題やグローバリゼーションに敏感にな
 ることは、世界人権宣言の今日的な意味を理解するのに役立つと思う。それ
 は実状に即して変わりつつあるアムネスティの活動(例:MEC/MSP)
や私たちの課題を考えるヒントにもなると思う。
3.フィリピンの中のアムネスティ
  フィリピン支部が誕生したのは86年。あのコリー・アキノが出てきた民衆
 革命の直後だ。
  フィリピンは第二次大戦後、三百五十年にも渡る植民地支配から独立した
 が、71年に始まるマルコス独裁政権下では抑圧が続き、多くの「良心の囚人」
 や政治囚が生み出された。現在のフィリピンの人権活動家にはこの時代に投
 獄・拷問を経験した人が少なくない。86年2月の革命後は少なくとも言論の
 自由は保障されるようになり、様々なNGOが生まれたが、それでも慢性的
 な経済の困窮、複雑な国内の抗争、開発の陰の人権侵害に苦しめられてきた。
  このような背景でのアムネスティ活動としては、かつて自分達も経験した
 ような人権侵害を受けている他国の人に共感を寄せる土壌を持ちつつも、必
 然的に国内の人権状況にも敏感であらざるをえない。(日本では敏感でなく
 ていいとは決して言えないが。)自分達の状況とひきつけて考えてこそ、人
 権の大切さを実感することができる。それゆえフィリピン支部で人権教育が
 発達したのは、自然な流れだったといえよう。大衆演劇のようなフィリピン
 の文化や特徴を生かした人権教育が研究され、専門家も協力し地域や学校で
 実施されてきた。抑圧されて来た人たちが自分の権利を知って擁護できるよ
 う進められている。また、近年政府や企業にも人権への理解を働きかけてい
 ることも注目される(特集記事参照)。
4.フィリピン支部との出会いから 
  活発な人権教育活動に注目した日本支部の会員がスタディツア−を提案し
 たことに端を発し、フィリピン支部との交流が近年深まっている。
  95年夏に初めての「人権教育スタディツア−」が企画され、フィリピン
 支部の全面的な協力を得て実現した。以後昨年まで3年間継続し、貧困地域
 や刑務所、開発計画による強制立ち退きの現場、何世代も抑圧されてきた農
 園労働者の村などを訪問し、人権状況を多角的にとらえる試みをしてきた。
 その状況を知ると同時に現地の人々への人権教育を体験することによって、
 多くを学んでいる。またフィリピン支部は96年より、青年層を対象にした
 国際的な人権のお祭を開催しており、日本からの参加者に刺激を与えた。 
 また97年10月には支部長が来日し、東京と大阪で講演を行った。こうした経
 験を共有することで、何らかのヒントを得ていだければと願う。

《マーディ講演「被抑圧者の人権教育」の報告》
 97年10月29日、大阪・弁天町の市民学習センターにて、フィリピン支部長マー
ディ・M・スプリドの講演&ワークショップを行った。人権教育の目的と、内容
(トレーナー養成、大衆教育、教材開発、政府との協力)を話した後、実際のワ
ークショップを段階を追って体験してもらい、約50名の参加者の好評を得た。
 話の中で「人権教育を受けた人がどうなってほしいか」が説明された。いわく
1.人権の本質を理解する、2.人権がフィリピンでどのような状況か、現実
を分析できるようになる、3.人権侵害が起こった時にどのように行動を起こせ
るかが具体的にわかるようになる。日本で一般に行われている教育ではどうだろ
うか、と考えさせられた。
 また、いわゆる「人権は西欧からの押しつけ」という論議に関連しては、構造
的な人権抑圧の仕組みを理解すべき、と指摘された。権力を持った一握りの人が
それを維持するために人権侵害を行う。そうしたリーダーが「アジア的人権」を
主張しているのだから、それを見抜いてアジアの自分達が声をあげていくことが
大事だと語られ、共感を覚えた。
 フィリピンでの実践例の数々を紹介しつつも、「日本で何をどのようにしてい
くかは皆さん自身で考えて下さい」と繰り返し述べていたマーディ。自分たち自
身の取り組みの重要性をあらためて感じた。



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