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「先端医療に関する“意外な”おススメ本」

利光 恵子 19980201 『いのちジャーナル』44:85

last update: 20151221


■利光恵子(薬剤師,優生思想を問うネットワーク)
 19980201 「先端医療に関する“意外な”おススメ本」
 『いのちジャーナル』44:85

 『私的所有論』─書名が,おそろしくイカメシク,カタイ。その上,本の厚さが
3cmもあって,章ごとに細かい文字の注がびっしりと詰まっている。書店でこの本
を見かけただけでは,おそらく大半の人が読むのをためらうのではないか。が,読
み始めると引き込まれる。頭の中をかきまわされたかと思えば,今まで自分の中で
言葉にならなかったひっかかりが,「ああ,そうか」と整理される─そんな本であ
る。
 内容は,臓器移植,代理母,生殖医療,出生前診断等をめぐる議論を取り上げる。
そして,これらいのちにかかわる先端医療の中で,今やキーワードのように頻用さ
れている「自己決定権」について,積木を積むように実に丁寧に考えを重ねていく。
 彼は,こうした主題に関して言われることのほとんどが,しかじかの難しい問題
があると言って終わるか,何か言っているようで何も言っていないことに飽き足ら
ず,この本を書いたという。
 障害胎児の選択的中絶について,じゅんじゅんと検証を重ねた末に,子どもを産
むか産まないかというそのものの決定に関しては,女性・親に権利がある。しかし,
子どもという存在のあり方,子どもの質に対する決定は別のことだと述べる。そし
て,
「厄介さを縮小しようとする社会であること自体が,いつでも,いつまでも存在す
る,今他人の手を借り他人の生産に依存している者達,多数者とはその生存の様式
を異にし,このことによって確かに摩擦をそこここで生じさせるだろう存在にとっ
て,生きにくいということ,そうした者達を成員とすることを肯定しない社会は,
生きにくい社会だということをまず言えばよい。…そして,さらに積極的に質を決
定しない,偶然を除去しない(ことを選択する)という考え方が成り立ちうるので
はないか」
 と問いかけている。


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