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「3-4-2 臨床遺伝学サービスのミニマムガイドライン」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131127

◆3-4-2

臨床遺伝学サービスのミニマムガイドライン

Great Lakes Regional Genetic Group, Evaluation of Clinical Services Subcommittee 1993  Minimum Guidelines for the Delivery of Clinical Genetics Services, Am J Hum Genet 53:287-289

訳者による要約。ただし、ガイドラインの各項目は全訳

 医師や提供されるケアの規制や評価は一般団体や政府(連邦政府はメディケアの 支払い請求を通して評価している。Tokarski 1989)によってすでになされている が、救急医療の質の評価、臨床遺伝学、遺伝子カウンセラー、臨床遺伝学センター の評価は行われていない(カナダのオンタリオの医師の評価事業は例外的に進んで いる。McAuley and Henderson 1984 ; Davis et al. 1990)この書簡では、その臨 床遺伝学サービスの評価のためのミニマムガイドラインを紹介したい。
 このガイドラインは、現在行っているグレートレイク地区遺伝学グループ(Great Lakes Regional Genetic Group)の臨床サービス評価小委員会(Evaluation of Clinical Services Subcommittee)の作業で開発されたもので、「臨床遺伝学サー ビスのミニマムガイドライン」("Minimum Guidelines for the Delivery of Clinical Genetics Services")として、同地域でのサービス評価に使用されてい る。
 このガイドラインをここで紹介する目的は、臨床遺伝学サービスの評価の必要性 について広く議論を起こし、全国レベルの基準の作成への道をつくることである。 このガイドラインに対するコメントを期待するとともに、読者の知恵を求めたい。
 臨床遺伝学のサービスを提供している主体を、本稿では「臨床遺伝学ユニット」 (clinical genetics unit)、あるいは単に「ユニット」(unit)と呼ぶことにする。 よって、これが学校、私的団体、事務所、代理店を指すこともあれば、その中の一 部門を指すことや、部門の中の一つのセクション、あるいはセクションの中の小グ ループを指すこともある。さらに特記しておくが、当小委員会が作った下記のガイ ドラインはあくまで臨床遺伝学の実践において一般的に推薦したい内容であって、 これを満たしたからと言って、必ずしも質のよいケアにつながるとは限らず、患者 ・家族との前向きな関係やよい結果を保証するものではない。
 下記のガイドラインは、臨床遺伝学のサービスを提供するあらゆる遺伝学ユニッ トが満たさねばならないものであると考える。

1)アメリカ遺伝医学評議会(American Board of Medical Genetics)から、認証を 受けているかあるいは資格を認められた医師(M.D.)、歯科医(D.D.S.)、臨床遺伝学 あるいは遺伝医学の博士(Ph.D.)が、臨床遺伝学ユニットの責任者でなければなら ない。さらに、ユニットのスタッフが、直接患者のケアや診断・カウンセリングに 携わる場合、その少なくとも半数が評議会から認証されるか、資格を認められてい なければならない。

      [資料集p.69]

2)臨床遺伝学ユニットが患者・家族に行ったあらゆる診断、カウンセリングセッ ション、検査は、すべて記録として残されなければならない。さらに、ほとんどの 場合、その記録は関係する医師、開業医、関係機関、その他関係者に送られなけれ ばならない。送る時期も時宜を得たものでなければならない。

3)開示した情報やすでに行ったカウンセリング内容を再確認するフォローアップ の手紙を、遺伝子診断・カウンセリングを受けた当の患者・家族に送らねばならな い。その手紙は本人にわかるようにわかりやすく書かれていなければならず、発送 も合理的な時期になされなければならない。

4)患者に関する情報・記録はすべて、常に安全な場所に保管し、業務時間以外は 施錠して保管しなければならない。コンピューターでデータ管理をする場合、許可 された人だけがアクセスできるようにしなければならない。

5)医学上の情報や記録は、家族や両親・保護者からの許可を書面でもらってから でなければ、公開してはならない。

6)患者・家族に対してサービスを提供するたびに、その患者・家族に関するユニ ットの記録を更新しなければならない。記録更新に関する基準は、書面に明記され ていなければならず、またカルテの欠陥や問題が、患者・家族の診察やフォローア ップの際に見つかったら、すぐに訂正されなければならない。

7)ユニットの諸活動について話し合ったり、ユニット内の問題を解決するために、 毎月あるいは隔月にユニットでミーティングを開かねばならない。

8)遺伝学ユニットのサービスの提供は、年齢、性別、人種、肌の色、宗教、国籍 によって妨げられてはならない。

9)患者・家族の検査・診断・カウンセリングのために、十分で適切な場所を用意 するべきである。

10)患者やスタッフからの苦情に対応できる制度がなければならない。さらに、 毎月あるいは隔月に行われるユニットのミーティングでその苦情を取り上げ、苦情 に対して適当な判断が下されなければならない。

11)患者に対して行った診断・検査に関して十分なフォローアップを保障するよ うな機構が存在しなければならない。

 さらに、下記の補足的なガイドラインも、各臨床遺伝学ユニットに勧めたいもの である。

      [資料集p.94]

1)患者の記録・X線写真は、永久保存されるべきである。

2)診察・カウンセリングセッション中に知り得た、患者・家族のプライバシーは 厳格に保護されなければならない。

3)患者のフォローアップ診断をするのに必要な情報紹介制度が、通常の診察の場 や救急の場においても、確立していなければならない。また、臨床遺伝学ユニット は、患者・家族に対しては、診断結果や検査結果を参照するのに必要な、地域・全 国レベルのネットワークを確認、提供しなければならない。

4)各臨床遺伝学ユニットの検査室は、認定を受けた検査室であるか、あるいは国・ 州または郡レベルでの正式なクオリティーコントロール査定を受けたものでなけれ ばならない。

5)各ユニットは患者・家族との記録の最小構成要素を決めておかなければならな い。

6)症例経歴および患者関連の問題について話し合う定期的なケースカンファレン スが開かれなければならない。

7)ユニットスタッフの適切な継続教育の場を用意し、教育を行わねばならない。

8)ユニット内のすべての部所において、職務の内容が書面で明らかにされており、 スタッフの評価も最低年に一回は行われなければならない。各スタッフの評価は本 人とのみ行われるべきである。

9)患者から検査や評価についての問い合わせが業務時間終了後にあってもよいよ うに、それに対応できる機構を備えておくべきである。

10)臨床遺伝学ユニットのサービスの提供は、患者の支払い能力がないことを理 由に妨げられてはならない。



*作成:小川 浩史
REV: 20131127
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