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「3-4-1 予知の倫理学:遺伝的リスクと医師−患者関係」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131127

◇3-4 その他

◆3-4-1

予知の倫理学:遺伝的リスクと医師−患者関係

Juengst, Eric T. 1995 The Ethics of Prediction : Genetic Risk and the Physician-Patient Relationship, Genome Science & Technology 1-1:21-36

Abstractの全訳と前文の訳

Abstract

 ヒトゲノムの組織的なマップを作り、DNA配列の技術を向上させようとする世界 的な試みは、実用的産物をもたらす第一の波となった。個々の患者の特定の疾患リ スクを予知する、新しい道具の登場である。臨床的疾患に関係する突然変異遺伝子 のDNAベースの検査により、臨床医は、発症前に疾患のプロセスと健康上のリスク を見つけ、時には可能な予防策も講じられるようになりつつある。医学的診断にお けるこの予知力の増大にともない、健康についての重大な方針上の問題が、専門的、 社会的レベル双方に提起されることとなった。まず専門的レベルでは、健康上のリ スクをDNAベースで評価する上で、守秘(confidenciality)、インフォームドコン セント、非指示的カウンセリングなどの伝統的な倫理的約束事に問題がかかわって きた。次に社会的レベルでは、検査の利用方法について関係機関や政府の方針を明 確にするように求められている。臨床の場以外での遺伝リスクの個人情報の公正な 利用を定義するよう要求されているのである。これらすべての根本的な問題は、我 々がDNAベースの診断上の結果の意味をどう解釈するかという、基本的な問いでも ある。

前文

 医学は常に、ある徴候を解釈し、患者の将来のプランを手助けすることに貢献し てきた。この点で、臨床医は、予言者、占い師となりうる職業的危険性を有してい る。人々は、それが悪名高いやぶ医者であっても、その予言を重く受けとめてしま う。この不正確な予知は単に技術的制約がもたらすものであることが多い。実験室 のテスト結果、バロメータの読みとり、パルムラインの長さは、いつも正確である とは限らず、今後起こることの信頼できる指標とはなり得ないことも当然ある。こ の間違った解釈に基づいた予知は、同時にいかにももっともらしく見えるので医学 の専門家にとっても患者にとっても危険なものとなりうる。
 専門家が予知的徴候をどのように患者に伝えるべきかは、実はそのサービスの本 質にかかわることである。気象学者は依頼人のまわりに起こる状況を予知するが、 依頼人がその環境をどうのり切るかについては言及しない。一方、占い師は依頼人 が将来経験することを予言するよう求められる。医学的予知は、その両者の間あた りに位置している。しかしその予知力が大きくなるにつれ、医学の専門

      [資料集p.91]

家は、自分達の位置を定める必要にせまられている。
 個々の患者の健康についての正確で信頼できる長期的予知はなかなかできないと いってよい。こうした確実性を約束できるような動かしようのない生物的プロセス の確かな徴候を見つける技術は、さらに限られている。予後を見通す力は主に遺伝 的に決定された状況によって限定され、その原因となる突然変異を見つける能力に よっても制限を受ける。しかしながら、この医学的問題の一部分(部分集合)が急 速に大きくなっているのである。世界的なヒトゲノムのマッピングと配列への試み により、DNAベースの健康上のリスク評価はますますその範囲を広げつつある。こ こにおいて、長期的な医学的予知を必要とする解釈上の問題が重大な専門的政策的 問題となるのである。(以下は本論文の章ごとの内容の紹介のため略)

      [資料集p.92]



*作成:小川 浩史
REV: 20131127
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