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「3-3-5 同意、守秘、そして研究」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131127

◆3-3-5

同意、守秘、そして研究

Veatch, Robert M. 1997 Consent, Confidentiality and Research, The New England Journal of Medicine, 336:869-870(Editorials)

上記論文(3-1-5:家族性腫瘍ポリープに対する商業ベースのAPC遺伝子検査の利用 とその解釈、へのコメント)の全訳

 家族性腺腫ポリープ症の発症しやすさを調べる遺伝子検査は、その疾患を持つ患 者の親族にとって相当な重要性を有する。なぜならば、結腸腺腫ポリープ症(APC) 遺伝子の突然変異は、もしそれが存在するのならば、決まって結腸がんを引き起こ すからである。本誌のこの号で、Giardiello とその同僚たちは、内科医たちがどの ようにAPC突然変異の検査を用い、解釈するかを報告している。 Giardielloたちは、 検査前に遺伝学上の助言を受けたり同意書を与えた患者がほとんどいないことを発 見した。もし他の遺伝子検査を内科医たちが同様に誤用するならば、これらの発見 は重要である。しかし、その研究自体も、医学的研究における同意と守秘 confidencialityに関する問題を提起している。この問題は、もはやこの研究だけ のものではない。明確な同意なしに患者の記録を研究に用いるのに類似した行為は 広く見られるものなのである。
 Giardiello とその同僚たちには、他の内科医が命じた遺伝子検査の結果を入手す る正当な権利があったのであろうか。患者の同意なしに医学的な記録を入手する権 利を研究者に与えるのは一般的なことであるが、カルテには、患者をがんに罹りや すくする遺伝子の検査結果を含む非常に微妙な情報さえ記載されうる。間違った使 い方をされると、この情報は患者の被保険資格、雇用、そして家族関係にまで影響 することになる。このため、連邦の法規では、そのような場合は学会の審査委員会 が「被験者のプライバシーを守り、データの守秘confidencialityを保つための適 切な規定がある」ことを確認する必要があるとされている。
 それでも、同意の問題は複雑になりうる。Giardiello とその同僚たちが行ったよ うな研究においては、誰が本当の対象者であるのか。調査対象の臨床医は、同意な しに被験者にされたのであろうか。これらの内科医は電話でインタビューを受けた のだが、われわれには、その電話が彼らの実務について厄介なことを発見するかも しれない調査プロジェクトの一部であると、彼らが知らされていたかどうかはわか らない。あるいは彼らは、この電話インタビューは研究室での作業の単なるフォロ ーアップだと信じ込まされていたのかもしれない。インタビューは調査の中でも、 学会の審査委員会の審査を免除される範疇に属する。しかし、この免除は常に正当 化されるのであろうか。臨床医たちは、この調査への協力を拒否することができた のか。もしできたのだとしたら、彼らは協力を要請されるべきではなかったか。同 意の重要な要素のひとつは、その研究の目的が何なのかを知ることである。対象者 の中には、その研究に協力することで負うリスクというより、むしろその研究の目 的に反対であるがために、協力を拒否する者もいるかもしれない。患者の中に調査 対象になることを拒絶する者がいたかもしれないように、臨床医の中にも研究対象 となることを拒否する者がいたかもしれないので

      [資料集p.89]

ある。患者による同意の欠如に焦点をあてた研究が、臨床医の同意が十分であるか どうかについての問題を喚起するとは、印象深いことである。
 通常、多くの人々は、同意なしに臨床試験やインタビューを受けたり、診療記録 を調べられたりすることに反対しないが、これらの調査は問題をはらんでいること もある。明確な同意を必要としないというやり方が一般的であると、患者やその他 の対象者が同意なしの参加を拒否するという特殊な場合に、問題が起こる。明確な 同意が要求されない「擬制同意(constructed consent)」は、もっともな反対があ りうる医療行為や調査を行う際にとられる方法である。観察やインタビューによっ て得られたデータや、記録、標本に基づく調査を行う際に「擬制同意」を得るには、 学会の審査委員会によって、提示された手順に一般の人は誰も反対しないであろう と認定されることが必要である。患者の明確な同意なしに記録が研究に使用される 際は、審査委員会は、記録が研究対象になる患者が反対しないであろうことを示さ なければならない。そして、臨床医を研究するという提案については、審査委員会 は、それらの医師たちが研究の目的に反対せず、同意を与えずに研究に貢献するこ とに反対しないであろうことを認定しなければならないのである。
 「擬制同意」の使用は、APC 遺伝子検査のような医療行為にも必要かもしれない。 そうなると、臨床医は、患者が明確に同意したりしなかったりするもっともな理由 があるかどうかを判断するという負担を負わされることになる。もしそうなら、臨 床医は明確な同意を得るか、同意が得られると想定できるとの認定の申請を、適切 な組織(学会の審査委員会や学会の倫理委員会のような)にしなければならなくな る。
 では、委員会はどのようにして、一般の人は誰も明確な同意の放棄に反対しない と認定するのだろうか。彼らは一方的に知らされていない側を代弁する決定をする かもしれない。しかしこれは危険である。なぜならわれわれは、委員会のメンバー が患者のように考えると想定することはできないからである。とくに、学会の審査 委員会のメンバーの多くもまた、調査に関わっているのだから。より直接的な方法 は、潜在的対象者に反対するつもりかどうかをたずねることである。では、どうす ればこれが可能になるか。ひとつには、委員会が研究対象となる母集団からサンプ ルを抽出し、彼らに手順を説明し、明確な同意なしに対象となってもよいと思うか どうかをたずねるという方法がある。もしよいと思うなら、この母集団全体から同 意が得られたと推定することができる。少なくとも一度は、この方法を使って同意 を擬制しようとする試みが、過去に記録されている。
 この方法を使うには、サンプルの何パーセントが、明確な同意なしに研究に協力 することを承認しなければならないかを定める必要がある。標準的な承認のレベル というものはないが、サンプルの95パーセント・レベルなら十分であろう。これだ けの割合の人から承認が得られれば、実際に研究のために選ばれている対象者が同 意は不必要という考えに賛成したかもしれないと信じることも正当化できるのであ る。
 Giardiello とその同僚に調べられた医師たちは、明確な同意を与えずに研究に 協力することを承認しただろうか。実際にデータを集めなければなんともいえない が、この研究が提起した問題は微妙で、反対した人もいたのではないかと人に思わ せるのに十分である。わたしは、Giardiello とその同僚を選び出して批判するた めにコメントしたのではない。守秘confidencialityと同意の問題は、承認され、 よく考慮された多くの臨床研究について提起され得るものだ。しかし、これらの問 題には、これまで以上に研究者のコミュニティ全体がよリ綿密な分析をすべきなの である。

      [資料集p.90]



*作成:小川 浩史
REV: 20131127
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