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「3-2-1 子どもおよび青年に行う遺伝子検査の倫理的、法律的、心理社会的意味」(アメリカ人類遺伝学会理事会およびアメリカ遺伝医学協会理事会報告)

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131126

◇3-2 小児に関して

◆3-2-1

子どもおよび青年に行う遺伝子検査の倫理的、法律的、心理社会的意味(アメリカ 人類遺伝学会理事会およびアメリカ遺伝医学協会理事会報告)



The American Society of Human Genetics Board of Directors and The American College of Medical Genetics Board of Directors (ASHG/ACMG Report) 1995  Points to Consider: Ethical, Legal, and Psychosocial Implications of Genetic Testing in Children and Adolescents, Am J Hum Genet 57:1233-1241

訳者による要約

 遺伝学の発達によって、症状のない子どもに検査を行って、遅発性の疾患、発症 確率、キャリアー・ステイタスを知ることが可能になった。同時に、子どもと親の 利害に関する、倫理的・法律的問題がでてきた。親が子どものためを思ってするこ とでも、子どもには悪影響を与える場合もある。医療従事者はこうした問題を家族 に伝え、話し合う用意ができていなければならない。

本報告は以下の社会的コンセプトに基づいている。

1)遺伝子検査の最大の目標は子どもの福祉(well-being)の向上であること
2)子どもが家族関係のネットワークの一員であるという認識がそのためのサポー トにつながるということ
3)子どもは認識力と道徳的判断力において、連続的段階をへて成長していくもの だから、適切な時機を見計らって話し合いに加えていくべきだということ

 子ども・家族とのカウンセリングでは下記の3つの要素を含んでいなければい けない。

1)検査のもたらす利益と損害(harm)の重要性を査定すること
2)子どもの意思決定能力を推量すること
3)子どもの利益を代弁する性格のものであること
以下の点が考慮されなければならない。

I. 考慮すべき点

A. 潜在する利益・損害の検査に対する影響

      [資料集p.69]

1. 子どもにとって医療上の利益があることが、遺伝子検査を行う第一の根拠であ る。予防・治療・アドバイスにつなげることができないなら、検査を行う正当性は ない。
2. 子どもの心理社会面の利益についても同様である。
3. これらの利益が、成人するまで生じないのであれば、検査も成人するのを待つ べきであろう。ただし、子ども本人が十分な理解力を持っていればこの限りではな い。
4. 利益・損害の判断がつけにくいときは、子ども(理解力がある場合)と家族と ケースバイケースの話し合いで決めるべきである。
5. 医療者側で利益がないと判断したら、検査をしなければならない義務はない。

B. 決断過程における家族のかかわり

1. 両親・子どもに対する教育・カウンセリングを、本人達の理解に合わせて、検 査の前後に行う。医療者側は、その準備をしておく必要がある。
2. 両親に検査についての了承を得ておくこと。さらに子どもからも、できれば (決断能力があれば)承諾を得ること。ただし、子どもの決断能力の有無を判断す るときは慎重に行う。子どもの変わりやすい気分に惑わされず、理解力と精神の発 達度合いを見ながら、できるだけ本人の自発的な承諾が得られるようにしなければ ならない。
3. 医療者は常に子どもの立場に立って、判断をすること。
4. 子どもが十分判断がつく場合で、本人が検査結果を知りたいにもかかわらず両 親が本人に隠したがり、親子の意見の食い違いがみられたら、子どもの意見が優先 されるべきである。できれば、こういった食い違いは検査前に克服しておくのが望 ましい。

C. 研究の将来について

 将来にわたって、研究は予防・治療につなげていかなければならない。検査によ る心理社会的な影響についても研究が必要である。

II. 論点(Discussion)

A. 子どもに対する遺伝子検査の利益・損害(長所・短所)

 両親が子どもに成人になって発症する疾患の検査を受けさせたいと希望すること がある。もしも問題が見つかれば、あらかじめ準備ができるからというものだが、 これは心理社会的に大きな問題となる。賛否両論があるが、医療としてではない検 査の利用は問題が大きすぎて、小児科の範疇を越えかねない。
 他の臨床場面でもそうであるように、子ども本人に自発的なインフォームドコン セントをする能力がない場合、本人の福祉をまず第一に考えて決断しなければなら ない。その際、以下にあげるような、検査の利益・損害を検討する必要がある。

      [資料集p.70]

 (医療面での問題)

 治療・予防の可能性、サーベイランスについての決断、予後・診断について
1. 治療と予防。早期からの投薬や生活指導によって治療に結び付けられる検査は、 広く認められているものである。しかし、治療に必ずしも結びつかず、度重なる検 査と効果のはっきりしない治療などで、負担を増すだけになってしまう場合もある。 このことを踏まえて、ルーチンとして検査を行ってしまう前に、予防・治療面での 検査の利益・損害を確かめておく必要がある。
2. サーベイランス。がんの遺伝子の発見によって、発症前から監督すること(サ ーベイランス)が可能になる。サーベイランスが有効な疾患もあり(網膜芽腫)、 検査も有効だが、早期発見が予後の改善に貢献しない場合は、検査そのものの意義 がないことになる。
3. サーベイランスの縮小。2.とは逆に、遺伝子検査の結果が陰性であれば、それ 以降のサーベイランスは必要なくなる。これは検査による利益である。
4. 検査の利益がもう一点ある。すなわち、検査が診断の精度をあげることになる 場合、あるいは遺伝型と表現型が一致している疾患の場合、検査は有効である。
5. 一般の診察方法では正確な診断が下せない場合、遺伝子検査が有効なときがあ る(fragile xにおけるDNA検査など)。子どもの遺伝子を調べることで、家族の遺 伝疾患がはっきりするというメリットもある。ただし、この場合予期しないことま で(本当の父親・養子関係)がわかってしまうことがあるので注意しなければなら ない。

 (心理社会面での問題)

 心理社会面での問題は、遺伝子検査によって悪化することもあれば、改善するこ ともあるので、十分な話し合いが必要である。検査に対して強度の不安がある場合 は、検査は行うべきではない。
1. 不確実性の縮減。不確実さを解消できることが、遺伝子検査のもたらす心理的 な利益である。ハンチントン病の検査で、陽性陰性がはっきり出ると不安が減る一 方で、中間の結果が出ると不安も減らないという報告もある(Wiggins et al. 1992)。検査の結果、余命が短いとわかっても、準備をすることが可能になるだろ う。知らないでいると、両親も子どもも不安なままだが、陰性がはっきりすれば両 者ともに安心できるというメリットがあるし、陽性であっても、問題を直視するき っかけとなるだろう。
2. 自己のイメージの変化の問題。自己形成の大事な時期に自分が遺伝病を持って いると知ると、自己喪失につながりかねない(Koocher 1986)。また、病気に関する 理解力不足から、病気を自分のせいにしかねない(Perrin and Gerrity 1981)。こ のような状態で、情報が家族以外にもれると、さらなる自己喪失につながる。他方 で、家族に同じ疾患を持つ人がいることが、子どもを前向きにすることも報告され ている(Peterson and Boyd, in press)。また、仮に子どもが陰性と出ても、子ど も本人は、他の家族が遺伝疾患をもってそれで死ぬかもしれないのに自分だけ生き 残って悪いという罪の意識(survivor guilt)を抱く場合がある(Wexler 1985)。子 どもにとって、病気になるかどうかわからない"not knowing"という状態の方が、 むしろ疾患を持つ家族と痛みを分かち合うことができることもある

      [資料集p.71]

(Fanos and Johnson 1993)。また、疾患を持つことが子ども本人のアイデンティテ ィになっている場合もあり、この場合は、検査で陰性がわかった時点でアイデンテ ィティの再構築が必要になる。このように子ども達には遺伝疾患に対する根拠のな い思い込みがありうるので、検査をするしないにかかわらず、年齢に応じたカウン セリングが必要となる。
3. 家族関係にもたらす影響。発症前診断は、子どもの、両親・兄弟との人間関係 に影響を及ぼす(Fanos and Johnson 1993)。問題遺伝子を持つことで、甘やかされ たり、距離をとられたり、スケープゴートとして扱われたりする(Gardiner 1969)。 重大な疾患を持つ子どもの親は、子どもを守りすぎて遊びにも出さず、「傷つきや すい子ども」症候群("vulnerable child" syndrome)に陥ることもある(Green and Solnit 1964)。この反応は、検査で遺伝子の正常が確認されても起きる。疾患を持 つ子どもばかり可愛がると、その兄弟は親をとられたと感じる(Carandang et at. 1979)。一人の子どもが検査すれば、他の家族にもそれが知られてしまう。その中 には、検査について考えたくない人もいるし、あるいはそれをきっかけに検査を考 える人もいるだろう。伝える義務と患者本人の隠したい希望がぶつかったときは、 本人の意思を尊重して、隠したことで身体の異常を生じない限り、親族には黙って おくことが、現在すすめられる対応(President's Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research 1983) であり、実際行われていること(Werts and Fletcher 1988)でもある。
4. 人生設計との関係。将来の健康状態が予測できることは、本人の進学計画、職 業選択、キャリア、居住地(家族や医療施設の近くなど)の選択に影響を及ぼし、 退職計画や保健の受け取りの計画などをも左右する(McEwen et at. 1993)。
 問題の遺伝子を持つ子どもは、汚名を着せられ、いわれない差別を受けることが ある(Billings et al. 1992)。子どもに対する周りの期待も、陽性と出る前と出た 後では大きく異なる。発症前に診断を下すことは、保険加入もできなくなるし (Ostrer et al. 1993)、長期的に進学の予定を立てることもマイホームを持つこと もできなくなりかねない(Billings et al. 1992; Alper and Natowicz 1993)。さ らに、養子縁組みの際も検査情報が使われかねない(Wertz et al. 1994)。また、 現在のところ、ADA法が遺伝性疾患に適応されるかは定かではなく、実例もない (Natowicz et al. 1992)。

 (リプロダクションの問題)

 遺伝子診断を考える上で、家族計画の問題は避けて通れない問題である。カウン セラーが非指示的な態度であっても、遺伝情報は陽性と出た人の選択に大きな影響 を及ぼす。遺伝疾患を持たない子どもが欲しければ、養子縁組み、ドナー配偶子を 使った人工授精、着床前診断、胎児診断、堕胎などの方法がある。堕胎を前提とし ない胎児診断は、ときには疾患のある子どもを持つための準備ができるという長所 がある。
 子どもがこの点でメリットを得ることは少ない。性行為を行ったとしても遺伝問 題を考えて家族計画を立てることは希だし、それほど実用的に理解もしていない。 子どもよりもむしろ両親の方が、次の子どもをどうするかという判断に役立てるこ とができるだろう。

B. 子どもと家族の利益の追求

      [資料集p.72]

 子どもの医療のことは親が決めるのが一般的ではあるが、親の決断が子どもに害 を及ぼすのであれば、この親の権利は制限されなければならない。しかし、遺伝子 診断の場合、結果が曖昧なところがあり、この問題をさらに難しくしている。子ど もも成長するにしたがって決断に加わるようになるだろう。すると親と意見が対立 することもあるだろう。そのとき、医療者は、親と子どもの両方の利害を追求しな ければならない義務が生じる。

 (親権の前提)

 遺伝子検査についての話し合いでは、親権は基本的な原則となる。
1. 親権の歴史:
 20世紀以前の法律は、子どもを父親の所有物とみなしていた(Melton 1983)。 子どもに価値があったのは確かだが、育児に関しては親がすべてを握っていたので ある。今日の子どもは所有物よりは個人とみなされてはいるが、教育・食事・医療 ・福祉(well-being)は親の決断のもとにある(Pelias 1991)。
 子どものことを決めるには親という立場が最も適当だし、利害関係も最も大きい、 というのが親権の最も大きな第一の根拠である(Melton 1983)。二つ目の根拠は、 親が自分のことは自分で決めたいということで、子どもの代わりに決めることもこ こには含まれる(Holder 1988)。後者の根拠は、つまり自主性という道徳原則に端 を発するもので、インフォームドコンセントの中心概念でもある。子どもは自分で 的確な判断を下せないから、その役割を両親あるいは保護者に担ってもらい、他方 彼らは自分達の自主性の延長として、子どもに代わって決断を下すのである (Buchanan and Brock 1989)。
2. 親権の制限:
 両親の決断が子どもにとって害になるといえる明らかな理由がある場合は、親権 は制限され得る(Wadlington 1983)。児童虐待法が、このように親権を制限するも ののよい例である。同法は親の利害にかかわらず、子どもに医療を受けさせるべき だとも定めている。例えば、フェニルケトン尿症(PKU)のスクリーニングは子ど も本人の利益になるので親が受けさせるのが正当であろう(Laberge and Knoppers 1990)。同様に、予防接種も、本人および公衆衛生のために利益になるので、受け させるべきであろう。また、輸血や、細菌性髄膜炎の治療などは、親が反対しても 行った方がよいだろう(American Academy of Pediatrics Commitee on Bioethics 1988)。
 両親は、子どものために治療手段を探ることが、法律で義務づけられている。例 えば、本人が望まないのに、裁判所の許可なしで、未成年者の断種手術をさせては ならない(Reilly 1991)。また、子どもを、親の勝手で、研究対象にさせてもなら ない。連邦政府も、成人の研究参加は認めているものの、子どもを研究対象にする 場合、研究のメリットと安全性が厳しい基準をクリアーしなければならないと定め ている(45 CFR46.408,1994)。
 また、臨床の場で、診断・治療にメリットがなくむしろリスクやコストが大きい と医療者が考えたとき、診断・治療を拒否することができる。患者には、治療を拒 否するという面での自己決定権はあるが、医療者に対して治療を強要することがで きる自由はないからだ(Brett and McCullough 1986; Youngner 1988)。例えば、患 者は、ウイルス感染だからといって抗生物質を請求することもできないし、ただの 頭痛なのにCTスキャンを要求することもできない。しかしながら医療者側には、な ぜ治療・

      [資料集p.73]

検査を行わないかを説明する義務があり、さらに必要あれば、治療・検査を請け負 う医療者を紹介する義務もある。
3. 子どもの権利を認めていこうという法的傾向:
 法律は、大人には決断能力があるとしているが、子どもにはその能力を認めてい ない。しかし、医療面で親の同意がなくても子どもの同意で治療を行うという動き が、多くの州でみられる(Wadlington 1983; Holder 1988)。これらの州では「大人 としての未成年者ルール」("mature minor rule")を取り入れていて、未成年者を ある程度の決断なら下せるものとみなしている。このルールは、未成年者の医療に 対する意識を高めたいという州側の意向がある場合に適用され、避妊・性病・薬物 アルコール依存などの場合がこれに相当する。また、自分で生計を立てている場合、 結婚・妊娠している場合、子どもがいる場合などといった、法的に独立したとみな される未成年者("emancipated minor")も同様に、法的な大人として決断能力があ るとみなされる。

 (子どもの決断能力)

 18歳というのが一般の法律で決断能力の有無の境になっているが、大人として の未成年者ルールや法的に独立したとみなされる未成年者といった概念があるのは、 子どもの理解能力・道徳的判断能力の発達を経験上観察できるからである。これら の能力は、継時的に人によって異なる速さで成熟する(Weithorn 1983; Buchanan and Brock 1989)といわれる。すなわち子どもは、連続した発達段階を経ながら、 自らの福祉に関する決断能力も獲得していく。よって、子どもの能力に見合った段 階で話し合いに参加させていくことが、次の発達につながっていくのである。この ような心理的・哲学的な根拠があって、18歳未満の子どもにもある程度の自己決 定を許すという、微妙な違いが出てくることへの理解が可能になるのである。
 自己決定能力は、3つの能力、すなわち理解力・コミュニケーション能力、合理 的で慎重な思考能力、そして道徳価値観の展開・維持能力に分けられる(Buchanan and Brock 1989)。子どもは7歳までに、ある程度の言語・理解能力を備えるため、 自分で物事を決めるようになる。そこでアメリカでは、7歳の子どもならば、リサ ーチの調査対象になるという本人の「賛同」("assent")は有効であるとみなしてい る(45 CFR 16.408,1994)。同意(consent)には個人の独立した選択をする能力が不 可欠だが、賛同(assent)にはリスクとメリットを理解する初歩的な理解能力があり、 参加するかしないかだけを決められればよいからである(Grodin 1994)。
 子どもは青年期を通して、死の概念、原因があれば結果があること、物事の善悪、 今が将来と関係するという感覚などを学ぶ(Buchanan and Brock 1989)。こういっ た青年期の決断能力の発達にともなって、本人の意向がますます重要になってくる。 両親の意向と異なったり、それが必ずしも本人のためにならなくても、本人の意向 に注意をむけなければならない。青年期の子どもは、キャリアのことや子どもを産 むかどうかの選択に関する情報に純粋な関心をもつ段階にあるのかもしれない。た だし、家族・同年代の子どもからの強制や、差別、自己イメージの変化に耐えられ ないことも起こりうる。12歳から14歳であれば、検査・治療のもたらす個別の リスクとメリットを評価する能力がある子どももいる(Wadlington 1983; Weithorn 1983)。

      [資料集p.74]

 (子どもの医療面の委託を受けた者としての医療者)

 検査の要求および結果の守秘要求に対して、誠意をもって対応すること。
1. 検査要求の評価
 生殖問題のカウンセリングでは、医療提供者は非指示的な態度を保たなければな らないが、他方で患者との医療上の委託関係を考慮に入れると、時には特定の選択 をすすめることもある。さらに、子どもを担当しているのであれば、子どもの福祉 に反することを行わないという場面もあろう。しかし、親の意見も尊重しなければ ならない。すなわち、医療者は子どもの利害に対する責任と親の望みとの間のバラ ンスをとらなければならない。つまり、親からの要求内容を、子どもに対するメリ ットとデメリットとの観点から、評価しなければならないのである。しかし、状況 が医療よりも心理社会的性格を帯びてくると、この評価もより難しくなるであろう。
 遺伝子検査に関しては、そのリスクと利益について、現在わかっていることより ももっとより多くのことがわかるような時機が来るまで、「第一に傷つけてはなら ない」("primum non nocere")の原則に従うべきである、つまり、不確かな結果に ぶつかったら、不明確な利益を追うよりも、危害を加える可能性を避けるべきだ。 リスクよりも利益の方が十分大きくなるまで検査は延期すべきだという議論を立て ることも可能となる。しかし、検査による利益・損害が明らかでない場合こそ、判 断能力のある子どもの意思と両親の意思とに重点をおくことが必要となる。こうい った問題はいつも簡単に解決するとは限らない。医療提供者は、最低限、家族と詳 細にわたる話し合いを進めなければならない。両親によっては、遺伝子検査を過信 して、まったくリスクがないと誤解している人もいる。さらに、他の遺伝サービス 提供者、小児科、カウンセラー、倫理委員会に相談して、検査の損得、子どもの決 断能力、自主性などを評価してもらうのもよいだろう。また、検査の意味について 両親と話し合いをする中で、医療提供者は、子ども・家族に対する価値観について 両親との合意点を探ることができよう。もしも合意が得られなければ、検査を断っ てもよいし、他の医療者を紹介してもよいだろう。
 遺伝医学の臨床応用は、子どもにとって必ずしも最良の利益をもたらすとは限ら ない検査がつきまとう。例えば、両親が娘のテイザックス(Tay-Sachs)病遺伝子の 有無を調べさせ、娘の将来の家族計画に役立てさせようとする場合、娘にとって直 接利益がないまま汚名を着せられかねないという深刻な問題につながる。または、 子どもの将来発症する疾患を調べさせ、両親が自分達の家族計画や社会経済的問題 の決断に役立てようとする場合は、また違った問題が起きてくる。例えば、子ども の遺伝子によって、次の出産計画を決めたり、将来発症する病気を調べてから学費 を貯めるかどうかを決めたりするといった問題である。このような場合、家族の利 益をとるか、あるいは子どもの利益をとるかでまったく逆の結果になる。子どもの 将来を予言することになる発症前診断が、潜在的にもたらす独特な問題は、十分注 意をして議論されるべきである。

2. 守秘要求の検討
 なかには、検査の結果を子どもに黙っていて欲しいという親もいる。この場合、 子どもの福祉のためを思って自分達が決断したいという親の利害と、自己決定権と いう子どもの利害との間の葛藤が生じる。さらに、子どもが成長して自分で物事を 決めるようになると、たとえ開示することが子どもの福祉に貢献しないと医療提供 者が考えていても、開示をしないでおくことはさらに難しくなる。

      [資料集p.75]

 また、検査結果を開示したら子どもにどんなに害を及ぼすかと親なりに解釈する 一方で、万が一隠していること自体が露呈する心配もある。親は開示することを避 けつつも、こういった葛藤を抱いているのである。医療提供者は、こういった問題 を話し合っている間は、検査を先送りにすることも考えるべきであろう。
 万一この話し合いが済む前に検査が行われてしまったら、十分話し合ってから、 開示するかどうかを決めればよい。その際、子どもの年齢、治療の必要性、治療計 画を作るときに子どもを加えるかなどの点について話し合うような、包括的なカウ ンセリングが必要となる。子どもが成人したときには、検査が行われたことをまず 伝え、結果を知りたいかどうかは本人に任せるべきであろう。

C. 結論
 子どもの遺伝子検査をする際、医療提供者は、子どもの利益と、両親・家族の利 益とを推し量らなければならない。さらに、家族と一緒に、医療面・心理社会面・ 生殖面での問題について話し合い、子どもにとっていちばんよいケアを探らなけれ ばならない。つまり医療提供者は、個々の家族と包括的な話し合いをし、検査につ いての個別の情報と提案を伝えなければならない。検査のもたらすものは非常によ いものであることもありうるし、非常に悪いものである場合もあり、しかもますま す検査の適用自体広がってきている現在、家族カウンセリングにおける医療者の役 割は重大になってきている。

      [資料集p.76]



*作成:小川 浩史
REV: 20131126
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