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「2-2-1 WHO科学者グループの報告書『遺伝性疾患の制御』」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131126

◇2-2 遺伝病対策

◆2-2-1

WHO科学者グループの報告書『遺伝性疾患の制御』

WHO Scientific Group 1996 Control of Hereditary Diseases, WHO Technical Report Series 865

上記報告書の結論と勧告(Conclusions and recommendations, pp.79-81)の全訳

 「科学者グループ(The Scientific Group)」が強調しているのは、国際的なヒト ゲノム研究と分子生物学におけるめざましい発展によって、遺伝学を使って広い範 囲の疾患の予防と治療を行うことが可能になり、またそうすることがますます要求 されてくるだろうということである。そこでグループは、その提言と結論を以下の ようにまとめた。

(1)遺伝学を使って健康増進をはかる試みは全て、一般的なヘルスサービスの枠 組みの中で行われるべきで、
  社会経済的発展の目的を反映するものでなければならない。
(2)現在、大概どの国にも言えることだが、遺伝医療サービスの開発とその調整 についてもっと注意を払うべき
  である。例えば、現在いかなる技術が使えるかを明確にし、それらを整理すること、正確な疫学的データを集
  積すること、医療専門家を教育すること、公衆衛生上望ましい提案を確実に実行すること、臨床遺伝学の専
  門家を育成すること、研究所での診断サービス(特に、核型分析およびDNA分析)を確実に行えるようにする
  こと、そして国民に健康教育をするための適切な教材を開発することなどである。
(3)発展途上国においては遺伝性疾患の発生率がことに高いため、臨床の場や研究所で遺伝子診断を行い、
  遺伝性疾患を管理できるように、そのための教育センターを作るべきである。さらに、これらのセンターは、一
  般的なヘルスサービスの中の不可欠な役割を担うべきである。
(4)遺伝学を使った健康教育をあらゆるレベルで行うという目的のもとで、国際的な協力をはかるべきである。特
  に教育教材の開発面で協力するべきである。
(5)遺伝子スクリーニングは、情報が提供されていない人々(an uninformed pubic)に対して強制されるべきでは
  なく、それゆえ、遺伝に関するコミュニティの理解が高まるような手段が見出されねばならない。
(6)治療可能な遺伝性疾患の場合、新生児に対するスクリーニングは、ルーティンとして行うべきであり(should
   be a routine practice)、あらゆる子どもの利益のために推奨されるべきである(should be recommended in
   the interests of all chidren)。
(7)出生前診断は女性にとって大切な選択肢であり、いつでも行えるようにするべきである。胎児医療の専門家
  は、現在ほとんどすべての国々で必要とされている。
(8)染色体異常疾患のリスクや高齢出産による流産のリスクが高いといった情報は、家族計画や、その他女性
  の健康管理計画に不可欠な役割を果たすものとされるべきである。

      [資料集p.46]

(9)先天性疾患を予防するために、早期に(受精前に)風疹の予防接種を受けることが勧められる。そして、Rh
  溶血性疾患の場合も、適切なスクリーニングと出産後の抗Dグロブリンの投与による予防をさらに広めるべき
  である。
(10)冠状動脈疾患、糖尿病、脳梗塞、がんといったような、一般的によくある疾患が若年のうちに発症する体質
  の家族には、その旨を明らかにし、生活指導を行い、必要なときには専門家による管理を行うことも必要であ
  る。
(11)現存する資源を最大限に利用するためには、プライマリヘルスケアのスタッフを教育し、遺伝性疾患体質を
  持つ家族歴をとったり、基本的なアドバイスを与えられるようにするべきである。より難しい管理が必要な患者
  の場合を考えると、専門家を集めた施設を作った方がより望ましいだろう。
(12)ヒトゲノム研究の結果は国際的に利用し、遺伝性疾患の管理や、遺伝的体質によっては発症しやすい主要
  な疾患の管理に応用されるべきであろう。
(13)国家レベルの団体と国際レベルでの団体が協力しあって、家族性疾患や多原因性疾患の研究のために、
  遺伝子マーカー(疾患の有無を決定する情報)をあらゆる国が自由に使えるようにするべきである。WHOは、
  センターあるいはセンターのグループ全体を承認する形で支援することが可能である。それによって、遺伝子
  マーカー、遺伝子データ、遺伝子技術を、先進国から発展途上国にすばやく移転することができるであろう。
(14)遺伝医学の進歩が、医学以外の目的に乱用されることがあってはならない。DNAが研究に使われる場合
  は、本人の同意がとられていなければならない。
(15)DNAそのものやDNA技術に対して特許や所有権を設定することが、遺伝子診断や遺伝子治療に及ぼす影
  響は、広く関心を呼んでいるところである。遺伝子診断などの遺伝子技術の使用が制限されないようにするた
  めには、国際的な取り決めが必要となるであろう。しかし、個人情報を伴わないDNA本体は特許権保護の対
  象にするべきではない。
(16)遺伝情報は、守秘として取り扱い、できればコード化された状態で保存されるべきであり、仮に公開する場
  合は本人の同意をとらなければならない。その遺伝情報が、ハイリスクの本人にとって、経済的・社会的に不
  利になるような形で利用されてはならない。
(17)遺伝カウンセリングの原則、すなわち、カウンセリングは誰でも受けられること、自主性が重んじられるこ
  と、非指示的であること、患者の同意・選択に基づくものであること、個人情報が保護されることなどの原則に
  加えて、患者を全人的に尊重することが、どこの国においても守られなければならない。
(18)ヒトゲノムプロジェクトの健康にかかわる情報や教育教材は、広く利用されうる形に作られ、自由に利用、コ
  ピーできなければならない。
(19)WHOは、医療遺伝学や関連する倫理的・法的・社会的問題に関する情報の普及に貢献しなければならな
  い。

      [資料集p.47]



*作成:小川 浩史
REV: 20131126
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