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「1-3-3 遺伝ヘルスケア(GHC)の提供者は、指示的なカウンセリングによって産むか産まないかの決断に影響を与えようとすべきか:公衆衛生の視点」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131126

◆1-3-3

遺伝ヘルスケア(GHC)の提供者は、指示的なカウンセリングによって産むか産 まないかの決断に影響を与えようとすべきか:公衆衛生の視点

Robert M. Fineman & M. T. Walton 1996 Should Genetic Health Care (GHC) Providers Attempt to Influence Reproductive Outcomer Using Directive Counseling Techniques: A Public Health Perspective, Sallie B. Freeman, Cynthia F. Hintom, Louis J. Elsas, II, Council of Regional Networks for Genetic Services eds. 1996 Genetic Services : Developing Guidelines for the Public' Health (Proceeding of a conference held in Washington, D. C. February 16-17, 1996), The Council of Regional Networks for Genetic Services, Emory University of Medicine, Pediatrics / Medical Genetics, pp.224-229

Abstract(p.224)の全訳と訳者注

Abstract

 出生前遺伝カウンセリングを行う過程で、次の2つの点が守られなければならな い、と広く言われている。すなわち、
(1)医療を提供する者は、産むか産まぬかの決断に影響を与えようとしてはなら ない、
(2)医療を提供する者は、非指示的態度で遺伝カウンセリングを行わなければな らない、
の2点である。公衆衛生(PH)の観点からすると、これら2つの教義は、非生産的で、 合理性に欠け、さらに公衆衛生の主要な目的(すなわち新生児を含めた全ての住人 の健康と福祉(well-being)を向上させること)と相反することがあり得ると解釈す ることができよう。

 受精前ケアおよび出生前ケアの分野で、遺伝ヘルスケア(GHC)の提供者(すなわち MD、PhDレベルの臨床遺伝学者、修士レベルの遺伝カウンセラーなど)や、公衆衛生 施設の大きな関心をひくような問題には様々なものがある。(例えば、胎児アルコ ール症候群FASの予防、神経管形成障害NTDsの予防、胎児風疹症候群の予防など。) 胎児アルコール症候群の予防に関して公衆衛生の言うことは、「妊娠中は飲むな、 飲むなら妊娠するな」、と明快である。神経管形成障害予防に関して言うことも同 様に明快で、「CDCは妊娠可能な年齢にある全ての女性に対して、葉酸を0.4mg毎日 服用し、神経管形成障害のリスクを下げるように勧めています」、と言う。胎児風 疹症候群などの様々な病気の予防については、州レベルでの法律・規制が潜在的で はあるが大変有効に働いていると考えられ、予防接種に関する法規制がよく知られ ている。

 これまで、優生学的問題や、疾患を持った胎児の治療的堕胎問題があったため、 そして出産障害および遺伝性疾患の初期の予防方法がなかったために、遺伝ヘルス ケアの提供者は上記の2つの教義に沿って遺伝カウンセリングをせざるを得なかっ た。しかし、たとえ子どもが、胎児アルコール症候群や、

      [資料集p.18]

神経管形成障害、胎児風疹症候群などの病気を持って産まれてくるリスクがあるか らといって、健康に産まれてくる可能性までも否定してよいという理由は、道徳的 に考えても、また倫理的、法律的に考えてもない。生殖(reproductive outcome)の 分野で、公衆衛生の目的にかなった結果を追求しなければならないことを考えると、 現在は、遺伝ヘルスケアの提供者にとって、これら2つの教義を個々の症例の中で 見直し、どんな場合に指示的なカウンセリングを行うべきかを決めていく時代であ る。本稿では議論の枠組みを提示してみた。今後こういった問題を論議していく上 で、この枠組みがひとつの指針として役立つであろうと信ずる。

 訳者注:

 Abstractでは、遺伝カウンセリングは、非指示的であるべきだと言われている。 優生主義などの問題があったため非指示的にならざるを得なかった。しかし、現在、 場合によっては指示的にカウンセリングをするべきであると、述べられている。ま た、Abstractだけを見ると、「現在優生学的問題などはないから、指示的でよい」 とも解釈できるが、本文ではそのようには言っていない。本文では、「遺伝カウン セリングは、非指示的であるべきだと言われている。それは、優生主義などの問題 があったため非指示的にならざるを得なかったからだ。カウンセリングをすること によって妊婦が堕胎してしまうことが考えられる場合は、カウンセリングも非指示 的のままで行うべきだ。しかし、たばこを吸うな、酒を飲むな、といったことを指 導する場合を考えると、指示的カウンセリングも認めていかなければならない」と している。

      [資料集p.19]



*作成:小川 浩史
REV: 20131126
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