HOME > 全文掲載 >

「1-3-2 遺伝カウンセラーは最良の選択肢を明言していた」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131126

◆1-3-2

遺伝カウンセラーは最良の選択肢を明言していた

Michael Day 1997 Gene counsellors say what's "best", New Scientist, 3 February 1997

1-3-1の論文が『ニューサイエンティスト』(New Scientist)で紹介されたもの の全訳

 遺伝性疾患の診断に携わっているカウンセラーは、患者が自分で決定するベきだ という規則を自ら破り、どうすべきか(what they should do)ということを口にし てしまっているという事実が、調査によって明らかになった。
 遺伝性疾患のカウンセリングは、産むか産まないかといった決断を患者が自分で 行うべきだという観点から、本来、客観的で「非指示的」(nondirectional)である はずである。しかし、イギリスの2つの医学部の遺伝カウンセリング専門家が調べ たところ、現状は必ずしもそうではないことが判明した。
 ロンドンのガイズ病院とケンブリッジのアデンブルックス病院の調査団が、同病 院で行われた生殖(reproduction)に関する131のカウンセリング例を調べた。カ ウンセリングを行ったのは医師かナースの資格をもち、訓練を受けたカウンセラー 11人だった。調査では、カウンセラーが自分で決断を下すことを避けたかどうか、 あるいは患者にとって一番よいと思うことを勧めたかどうか、さらに、患者の考え や患者の決断を退けたかどうかについて質問された。
 それによると、カウンセラーは患者に対して、自分のよいと思うことを1度のカ ウンセリング当たり平均5.8回述べており、患者の決断が正しかったかどうかに ついても平均1.7回述べていることがわかった。さらに、患者の立場が社会経済 的に低いほど、単なる説明に終わらず自分の見解を述べることが多いことも明らか になった。
 「これはまさに、カウンセラーが指示的発言をしているという状況です。」この 調査を行なったガイズ病院健康心理学者テレサ・マートはこうコメントをしている。 「これこそまさに、私たちが長い間恐れていたことです。これは、優生学的問題に もつながります。」
 この調査が発表された『アメリカ人類遺伝学会誌』1月号(S.Michie, et al. 1997 Am J Hum Genet 60:40-47)で、バルチモアのジョンズホプキンス研究所遺伝 衛生学部のバーバラ・バーンハートもこの結果に投稿を寄せており、調査で明らか になったカウンセラーの主観性の度合は「返す言葉もないほど」であると述べてい る。
 他方でバーンハートは、患者の方からカウンセラーの見解を積極的に求めてくる ことが多いことにも言及している。がんや退行性精神疾患といった、成人期以降に 発症する一般的な疾患についても、数年のうちに遺伝子検査による予測が可能とな るだろう。さらにバーンハートは続けている。結果的に、家庭医のこの分野におけ る役割がより重要となってくるだろうし、医学的なことに関して私的見解を求めら れることが増えることも明らかである、と。

      [資料集p.17]



*作成:小川 浩史
REV: 20131126
遺伝子治療  ◇遺伝子…  ◇全文掲載 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)