last update: 20131126
◇1-3 その他
◆1-3-1
遺伝カウンセリングにおける非指示性:実証研究
Susan Michie, Faye Bron, Martin Bobrow, and Theresa M. Marteau 1997
Nondirectiveness in Genetic Counseling: An Empirical Study,
Am J Hum Genet 60:40-47
上記論文のSummary(p.40)の全訳
遺伝カウンセリングにとって非指示的な態度(nondirectiveness)をとることは非
常に重要な意味を持っている。しかし、「非指示的態度とはこうである」という一
般的に認められた定義がなく、また非指示的態度が、カウンセリングを受ける側
(counselee)に与える影響について、データを使って証明した論文もない。今回の
調査は、面談記録からカウンセリングの指示的態度の度合い「指示性度」(directive
ness)を段階評価し、さらにカウンセラーの自己評価およびクライエントの評価と
ともに比較し、「指示性度」について実証的調査(empirical investigation)を行
ったものである。まず、指示性の程度を段階評価するため、1)助言(advice)を与え
た、2)クライエントの行動(behavior)・考え(thoughts)・感情(emotions)について
私見を述べた、あるいは3)それらに対して選択的に強化発言をした(selective
reinforcement)、のいずれかに分類することにした――以下それぞれ、助言
(advice)、評価(evaluation)、強化(reinforcement)、と呼ぶ。 131の面接記録を
分析したところ、1回の面接あたり、助言発言(advice statement)が平均 5.8回、
評価発言(evaluation statement)が 5.8回、そして強化発言(reinforcement state
ment)は 1.7回なされていることがわかった。また、自分のカウンセリングの態度
をどう評価するかという質問に対して、「絶対に指示的ではない」といえるカウン
セラーは11人中1人もいなかった。他方、クライエントの半数が、何かの決断を下
した際、カウンセラーに指導されて決めていた。また、指示性度の段階評価に用い
た項目は、評価者間信頼度(interrater reliability)を満たしていた(kappa=
0.63)。因子分析(factor analysis)の結果も、因子が1つである(formed one
factor)とでた(固有値eigenvalue 1.72)。また、カウンセラーが自己評価したも
の、クライエントが評価したもの、面談記録から評価したものと較べたところ、こ
れら三者間で、指示性度に相関関係は見られなかった。さらに三者いずれの尺度
(measures)をとっても、クライエントの不安(anxiety)・心配(concern)の度合いや、
開示内容に対する満足度(satisfaction with information)、あるいはクライエン
トの期待の達成度(the meeting of counselee's expectations)との間に、相関関
係はなかった。ただし、面談記録から割り出した指示性度は、面談時間の長さ、会
話が途切れた頻度(blocks of speech)、社会的・感情的問題(social and emotional
issues being raised)がどれほど話し合われたか、面談が終わった後に問題を残さ
なかったかどうか(concerns being followed up)、という、面談過程の要因
(process measures)との間に関係がみられた。クライエントの社会経済的地位が低
いほど、あるいはカウンセラーが特に気にかけているクライエントほど、助言がよ
り多くなされた。評価発言は、カウンセリングの訓練を受けたカウンセラーの間に
よくみられた。これらの結果から、遺伝カウ
[資料集p.15]
ンセリングは、カウンセラーが見ても、あるいはクライエントが見ても、また標準
的な評価スケールを用いて評価してみても、一様に非指示的に行われていた
(uniformly nondirective)とは言えない、ということがわかった。
[資料集p.16]
*作成:小川 浩史