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「1-2-2 アメリカ遺伝カウンセラー学会倫理規定」

玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子 19970901 『遺伝医療と倫理』(バイオエシックス資料集 第1集)
信州大学医療技術短期大学部心理学研究室

last update: 20131126

◆1-2-2

アメリカ遺伝カウンセラー学会倫理規定

National Society of Genetic Counselors 1992 National Society of Genetic Counselors Code of Ethics, Journal of Genetic Counseling 1:41-43

Dianne M. Bartels, Bonnie S. LeRoy, Arthur L. Caplan eds. 1993  Prescribing Our Future: Ethical Challenges in Genetic Counseling
(『未来を予測する:遺伝カウンセリングへの倫理的挑戦』)Aldine, に National Society of Genetic Counselorsの許可を得てAppendix A(pp.169-171) として再掲されたもの(初出:Human Sciences Press, June 1991)を全訳した

前文

 遺伝カウンセラーとは、専門教育と訓練を受け、遺伝医学と遺伝カウンセリング の経験を積んだ医療従事者(health professionals)である。
 アメリカ遺伝カウンセラー学会(National Society of Genetic Counselors, N SGC)は、遺伝カウンセラーの専門家としての関心事(professional interests) を追求し、専門家同士の意思疎通のためのネットワークづくりを促進し、人の遺伝 子に関する問題を扱う組織である。
 この倫理規定を定めるにあたって、NSGCは、その会員の倫理的責任を確認し、 またカウンセラーの自分自身との関係、クライエントとの関係、同僚との関係、そ して社会との関係について、指針を会員に提供しようとした。NSGCの会員は自 分自身の専門家としての行為がもつ倫理的意味を認識し、この規定に定められたガ イドラインおよび原則を忠実に遵守することが求められる。
 倫理規定とは、専門家の行動を明確にし、それに指針を与え、もって専門の目的 と価値を最高の状態で提供させるための文書である。このNSGC倫理規定は、遺 伝カウンセラーの、自分自身との関係、クライエントとの関係、同僚との関係、社 会との関係を中心にまとめてある。この規定の各項目の初めに、これらの関係につ いて一つずつ説明が加えられてあるとともに、各々の価値や特徴についてまとめら れている。各項目間に共通する価値観が見いだされるかもしれないが、これらは、 各項目内の各ガイドラインの中に生きている。
 あらゆる状況で必要となる項目すべてをガイドラインにまとめることは難しい。 特に種々の関係が矛盾を呈する場合などなおさら困難である。よって必要な時のた めに、具体的なガイドラインを、優先順位を付けて挙げておいた。具体的にガイド ラインに上がっていない内容については、カウンセラーが困難な状況に置いてもバ ランスよく対応できるように、遺伝カウンセラーの経験を斟酌して、多義性を残し てある。

第1条 遺伝カウンセラーの自分自身との関係

 遺伝カウンセラーは能力(competence)、自己統一性(integrity)、威厳(dignity)、 そして自尊心(self-respect)

      [資料集p.12]

を、お互いの中に認めあうように、自分の中にも認めていくべきである。よって、 遺伝カウンセラーは、自分自身にとって、クライエントにとって、同僚にとって、 そして社会にとって、最も適当な人材として成長するために、下記のような努力を しなければならない。
 1)あらゆる状況に必要な、関係する情報のすべてを求めて身につけること
 2)教育および訓練を継続すること
 3)最新の実践基準に常に通じていること
 4)自分の知識と専門技術の限界を知り、いかなる状況に置いても発揮できる能 力の限界を知ること
 5)自分自身の身体的健康および精神的健康は専門行為に影響を与えるものであ り、それらに対して責任を持
  つこと

第2条 遺伝カウンセラーとクライエントとの関係

 遺伝カウンセラーとクライエントとの関係の基礎にあるものは、ケアの価値観、 クライエントの自己決定権の尊重、個性の尊重、福祉の尊重、および自由の尊重で ある。遺伝カウンセラーの第一の関心事はクライエントの利害におかれるべきであ る。よって、遺伝カウンセラーは下記の努力をしなければならない。
 1)サービスを求める人すべてに対して等しくサービスを提供すること
 2)クライエントの信念、文化的伝統、志向(inclination)、置かれた状況、感 情を尊重すること
 3)必要な事実を説明したり、啓蒙したり、他の選択肢とその予想される結果に ついて明確にしておくことで、ク
  ライエントが十分な情報を知った上で、強制され ることなく自ら決断を下せるようにもっていくこと
 4)クライエントを支援し続けられない場合は他の適任の専門家を紹介すること
 5)クライエントから得た情報は、本人が開示するのでなければ、いかなるもの でも守秘扱いにすること
 6)個人的利益、利潤、あるいは利害のための、クライエントの利己的利用は避 けること

第3条 遺伝カウンセラーと同僚との関係

 遺伝カウンセラーの同僚との関係、遺伝カウンセリング専門の学生との関係、他 の医療従事者(health professionals)との関係との基礎にあるものは、お互いに尊 重しあい、いたわり合い、協力し、支え合い、そしてともに自分たちの専門および その目的に忠誠を誓うことである。よって、遺伝カウンセラーは下記の努力をしな ければならない。
 1)ピアサポートの制度を作ることで、他の遺伝カウンセラーおよびカウンセリ ング専門の学生との関係を育み、
  保護していくこと
 2)同僚に倫理的な行動を薦めること
 3)他のヘルス・プロフェッショナル達の伝統、慣習、能力の範囲を理解し、最 高の質のサービスを提供するよう
  協力すること
 4)チーム・メンバーの様々な責任分担について問題が持ち上がったとき、クラ イエントが最高のサービスを受
  けられるようにするためにも、コンセンサスを得る ように同僚と協力すること

      [資料集p.13]

第4条 遺伝カウンセラーと社会との関係

 遺伝カウンセラーと社会との関係は、社会の福祉を向上させる目的を持つ活動へ の参加および利害的参加という意味あいを持つ。よって、遺伝カウンセラーは下記 の努力をしなければならない。
 1)個人の身体的および心理的健康を脅かすような社会動向に常に注意を払うこと
 2)社会的に責任の重い変化をもたらすためには欠かせない活動には参加すること
 3)政策決定者および官公庁にとって、信頼の置ける情報源になり、専門家としての意見を述べること
 4)新しい技術や科学的発展とが社会に与える影響について、そしてこれらの新しい事実の応用の結果、社会に
  起こりうる変化について、公衆に対して情報と教育の機会とを提供すること
 5)人種、性別、性的志向、年齢、宗教、遺伝状態、あるいは社会経済的状態に起因する差別を防ぐこと
 6)社会の法律および規則を忠実に守ること。ただし、法律が専門家としての原則に反する場合には、遺伝カウ
  ンセラーは公衆の利益に資するような変化のために働きかけなければならない。

      [資料集p.14]



*作成:小川 浩史
REV: 20131126
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