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要望書「旧優生保護法による強制不妊手術の被害者に対する謝罪と補償について」


last update: 20151221


厚生大臣
小泉純一郎様

要望書

旧優生保護法による強制不妊手術の被害者に対する謝罪と補償について

先月末より、スウェーデンでの強制不妊手術の問題がマスコミで報道されています。
この問題は、スウェーデンの不妊法(1935−1976)のもとで強制的に不妊
手術させられた被害者が、重い口を開いたことから明らかにされました。被害者は
相当数にのぼり、しかもその大半は女性といわれています。その後、ノルウェー、
デンマーク、スイス、オーストラリアなどでも強制不妊手術が行なわれていたこと
が報告されています。

日本の多くのマスコミは、これらの事実を、人権を重視し福祉を推進してきた国々
の出来事としてセンセーショナルに取り上げました。しかし、残念ながら、そこに
は日本が同様の問題を抱える国であることに対する認識がまったくといっていいほ
どみられませんでした。その問題とは次のような事実です。
1)日本にも昨年まで優生思想に基づく優生保護法(1948−1996)が存在
したこと。この法律は、アメリカ合州国、北欧およびナチスドイツの断種法になら
って制定された戦前の国民優生法を土台にしていること。
2)旧優生保護法には、強制断種手術および事実上強制的な不妊手術に関わる条項
があり、それによって多くの人々が被害を受けたこと。その数は、公式統計だけで
も16,520件(1949−1994)にのぼること。
3)同法の存在を背景にして、障害のある女性の子宮摘出が当事者の意思に反し、
あるいは十分な説明のないままに行なわれてきたこと。これは違法な行為であり、
優生保護法改正後の現在も行なわれているおそれがあること。
4)1996年6月、優生保護法の一部改正として母体保護法が成立し、それによ
って優生的文言や条項が削除され、強制不妊手術の条項も姿を消したものの、被害
者に対する日本政府の謝罪はなく、国の補償についても一切言及されなかったこと。

スウェーデン政府は強制不妊手術の問題を提起し、早速特別調査委員会を設けて補
償の検討を開始したといわれます。この姿勢は評価に値します。私たちは、日本政
府も同様の認識に立って、早急に以下の行動を起こすよう強く要望します。

1.政府は、旧優生保護法のもとで強制的に不妊手術された人たち、および「不良
な生命」と規定されたことにより、誇りと尊厳を奪われた障害をもつ人々すべてに
謝罪すること。あわせて補償も検討すること。らい予防法廃止(1996)にあた
り、当時の菅厚生大臣がハンセン病の人たちに謝罪したという事実もすでにある。
私たちは、旧優生保護法の被害者に対しても同様の謝罪を望むものである。

2.政府は、旧優生保護法がいかに障害者の基本的人権を侵害してきたか、また被
害者に対しどのような形の謝罪と補償が必要かを明らかにするため、歴史的事実の
検証を行うこ、と。そのために特別調査委員会を早急に設けること。同委員会の委
員は、被害者の立場に立って考えることのできる人々を中心に構成すること。検証
にあたっては、被害者のプライバシーの尊重を徹底すること。歴史的事実の検証と
いう名のもとに被害者の人権が侵害されたり、被害者に再度苦痛を与えるようなこ
とがあっては断じてならない。

3.政府は、障害をもつ女性の違法な子宮摘出について、過去のみならず現在の事
実関係についても早急に調査を行うこと。調査にあたっては、当事者の人権とプラ
イバシーの尊重を十二分に徹底すること。さらに、今後このような違法行為が二度
と繰返されないようにするため、また、被害者を総合的に救済するために適切な対
策を講じること。

優生保護法の一部改正である母体保護法は、国会での議論が一切ないまま短時間の
うちに可決成立しました。そのため、私たちは、改正の過程で国会や政府に謝罪を
求める機会さえ十分もつことができませんでした。母体保護法成立後、いくつかの
団体やグループがあらためて政府による謝罪を要求したのですが、政府からは今日
に至るまで何の回答もありません。

母体保護法の成立から1年が経ちます。政府の誠意ある回答を心から期待致します。

      1997年9月16日

              女のからだと医療を考える会
              女の管理と優生思想を問う会
              からだと性の法律をつくる女の会
              グループI(アイ)
              厚生省秩父学園労働組合
              札幌優生保護法改案を阻止し法の撤廃をめざす会
              全国障害者解放運動連絡会議
              SOSHIREN女(わたし)のからだから
              DPI女性障害者ネットワーク
              ウイメンズセンター大阪
              日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会総連合会
              日本婦人会議
              フィンレージの会
              婦人民主クラブ京都洛友支部
              法と権利研究会
              母子保健法改悪に反対する女たち・大阪連絡会
              優生思想を問うネットワーク

              青木真知子 赤石千衣子 赤城恵子 安積遊歩
              芦野由利子 市野川容孝 伊藤妙子 大橋由香子
              荻野美穂 小倉利丸 押田美代子 加藤真規子
              神山美智子 草野いづみ 栗原順子 近藤和子
              小塚知子 佐伯篤子 佐々木静子 篠田美津代
              鈴木良子 関口淳子 永井律子 高木澄子
              高橋久美子 津和慶子 長沖暁子 中嶋公子
              中村早苗 野辺明子 樋口恵子(DPI) 堀江節子
              松友了 牧田真由美 丸本百合子 三井富美代
              毛利子来 山崎ひろみ 山本勝美 柳井真知子
              ヤンソン柳沢由実子 米津知子
              青木やよひ 堤愛子
                       (1997年9月16日現在)



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