カリフォルニア州では、州政府と契約している非営利組織が、知的障害をもつ人々に対する援助サービスを提供しています。この非営利組織はリージョナルセンターと呼ばれ、州全体で21あります。ただし、リージョナルセンターが直接サービスを行うのではなく、ほとんどは地域にあるサービス供給主体からサービスを買い、それを必要な人々に必要なだけ、無料で提供しています。つまり、センターは援助を必要としている人と援助を提供する人とをつなぐ役割を果たすのですが、そのときに、どのような援助を受けるかは援助を受ける人自身が決めることができます。
その人が障害をもっており、何らかの援助が必要だと認められれば、3才までなら、個別家族サービスプラン(Individualized Family Service Plan(IFSP))で、援助の内容を決めます。学齢期(4才9ヶ月〜22才)になれば、地域の学校区が特殊教育サービスを提供しますが、そのときにも個別教育プラン(Individualized Educational Plan(IEP))を作成して、親と学校区の間で教育の内容とそのためのサービスを決めます。
成人すれば、基本的には本人が自分の生活を決めていくことができます。生活していくために何らかの援助が必要なら、個人別プラン(Individual Program Plan(IPP))を作って援助の内容を決めていきます(ここで「基本的に」としたのは、後見人がついた場合、本人の権利の一部が後見人によって代行されるからです)。
このように、援助を受ける側が自分の生活やそのための援助の内容を決めることができるのですが、現実には、まだまだ十分に機能しているわけではありません。当事者の希望に添わない援助が行われたり、IPPを作るときにリージョナルセンターの職員が当事者を無視したり、必要なサービスが得られなかったりしました。
こうした問題に対処するために、障害をもっている人の生活をチェックする必要が生まれました。そこで1996年11月に始まったのが「生活の質を見る(Looking at Life Quality)」という生活の質に関する調査です。
サービス提供者以外のボランティアを中心として、あらかじめ定めた25項目の基準をもとに聞き取りをしていくもので、今後3年間で2000人を対象としています。この25項目の基準には、たとえば、次のような質問が含まれています。
「あなたは自分が必要なもの・欲しいもの・好きなもの・嫌いなものを決定していますか」
「あなたは地域社会の一員として、統合された環境の中で生活し、働き、遊んでいますか」
サービスの内容をチェックするということについては、たとえば日本でも、入所施設で倫理綱領がつくられる場合があります。これは、支援体制や生活環境の改善、職員の対応の仕方や虐待などの防止などの目的で、主に職員の取るべき態度や禁止事項がまとめられている、いわば職員向けの施設内規則(指針)です。しかし、こうした倫理綱領と比較して、「生活の質を見る」の特徴として、第一にこれがひとつの施設の中で通用する基準ではなく、州レベルで通用するという点があげられます。第二に、当事者にも見える形で存在しており、当事者が自分自身でこの基準に基づいて自分の生活を評価できる点があります。「生活の質を見る」には、対象者用とは別に、援助を行う側が自分で自己評価をするためのガイドブックも用意されていますが、それは同じ基準で作られています。さらに、調査で吸い上げられたものはその人自身の支援のあり方や、州全体のサービス提供のあり方にまで反映される資料となります。倫理綱領の場合、施設内だけでなく、さらに職員に限定して、職員がどう行動するか/してはいけないかを定めているにすぎず、しかも、しばしば言葉遣いは難解で入所者が使うようなものにはなっていません。また、入所者側からのニーズや問題の提示が行われるのではなく、むしろ提供者側の消極的な約束事にとどまっているために、限界があります。
従来からIPPのチェックは行われてはきましたが、それは単にリージョナルセンターのケースマネージャーが、IPPに書かれたサービスが正しく提供されているかどうかを確認するだけにとどまっていました。しかし、サービスが正しく行われていることと、援助を受ける本人が生活に満足していることとは、必ずしも一致しません。新しいチェック制度は、当事者の視点から生活の満足度を見るものなのです。だから、これによって新しいニーズがあるとわかれば、そのためのサービスを新たに作り出すこともできるのです。