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「日本人類遺伝学会理事会との話し合い(4月10日)」


last update: 20151221


日本人類遺伝学会理事会との話し合い(4月10日)

出席理事:松田(熊本大学小児科医)・中込(学会理事長)・黒木(神奈川子ども
医療センター所長)
そしれん・DPI:中村,篠原,堤,池田,山崎,原田
★記者会見のとき(すごく緊張していて,まじめで固かった)と,理事たちの話し
方がまるきり違うのに,まず驚いた。
私たちは抗議に行っているのに,まるでその緊張感がなく,にこやかに「たいへん
お待たせして申し訳ありません。入れるのかな? 大丈夫? あ,上手だね」とい
った調子で,まるきり子ども扱いの口ぶりだったのに,ずっこけた。
★理事のあいだでも,意見が十分煮詰まっていないという印象を受けた。
理事長の中込氏は,「あなたたちは,出生前診断を必要と思うのかね」と私たちに
意見を求めたあとで,「僕は,出生前診断が本来必要ないと思っている。いまはど
この産婦人科医でも出生前診断が行われていて,たとえば色盲も診断を受けたいと
いって来る人がいるんだよ。僕は,そういう人には,受けさせないが」といい,出
生前診断に歯止めをかけるための基準が必要だ」ということを強調。となりの松田
氏が,「先生,先生」と,発言を制するような口ぶりを見せる一幕もあった。
★松田氏は,「母親のために出生前診断が必要」という感じの人だった。
「女性は,障害児を産んだことで傷つく。でも,中絶しても傷つくのだ」とか,
「もし医師が『大丈夫,丈夫な子が産まれます』と言っておいて,もし障害児が生
まれたら,生まれてきた子の立場がないじゃないか」とか,ピント外れのことをけ
っこう言っていたが,とにかく現状で母親が障害児を産みたくないといった場合の,
母親の権利を守るために,出生前診断とそれに基づく中絶規定をつくりたい口ぶり
だった。
★「いまの社会は,障害児を含めて生きているのだということを,教育の場できち
んと伝えていない」「子どもを産む場合に,必ず数%の確率で障害児が生まれるの
だということを,産婦人科医は親たちにきちんと伝えてほしい」というところまで
話はいった。
中込氏は得意そうに,「ぼくは大学で,学生たちに必ずその話はしています」とい
っていたが,「その数%の障害児も,幸せな人生を送れるのだということまで話し
てくれていますか」と問うと,「いや,そこまでは話していない」との答え。
障害児が生まれるということが,いまの社会では不安と恐怖の対象にしたなってい
ない,重い障害があっても,短いいのちでも,幸せな生きることができるというポ
ジティブな情報をきちんと伝えてほしいということを強調した。
松田氏が,「いや,ほんとにそのとおりだと思いますよ。あるお母さんが,二人の
子が続けて目が見えない子だったので,ぼくはすごく心配で申し訳なかったんだけ
ど,最近その子が成長してすごく明るく元気に育っているのを見て,涙が出てきま
した」といっていた。結局この人,「対等に,あたりまえに」という感性からは,
遠いなと思ってしまった。
★結局の所,理事会でも意見はバラバラだが,遺伝子診断や出生前診断について,
彼らがつくっているようなガイドラインに法的拘束力をもたせたい,そのために広
く社会的なディスカッションの場をつくりたいというのが,共通した意見なのだと
思う。それは,遺伝子の研究者として,また臨床医としては当然の立場であると思
う。
★彼らの話では,フランスには「生命倫理3法」というのがあり,アメリカやWH
Oにも,そのような法律やガイドラインがあるという。そこでは,ダウン症などの
重篤な障害ももつ胎児の中絶なども規定しているという。日本にも,そのような生
命倫理に関する法律をつくりたいというのが彼らの思いのようだ。
 国内での法制化に時間がかかると,学会が今度は国際社会に働きかける可能性も
十分にある。障害を持つことに対する不安・恐怖をどのように払拭していくかを,
国際レベルで取り組む必要に迫られている。
 これは,臓器移植法,安楽死法などと共通する,現代社会の課題であると思う。

※ 以上『MONTHLY BEGIN』(障害者総合情報ネットワーク)42号(1997年4月)
pp.4-5からの転載です。改行の仕方等含めそのまま入力。この文章の執筆者は不明。
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