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「胎児条項の導入に反対する意見書」

SOSHIREN 1997/04/03

last update: 20151221


胎児条項の導入に反対する意見書

日本人類遺伝学会殿
日本人類遺伝学会理事長 中込弥男殿

                 1997年4月3日
                 SOSHIREN 女(わたし)からだから
                 新宿区富久町8−27
                 ニューライフ新宿東305ジョキ内
                 03−3353−4474

 3月30日の読売新聞によれば,日本人類遺伝学会は,遺伝性疾患をもつ胎児の
中絶を認める胎児条項を母体保護法に導入するよう,国に求める方針であるとのこ
とです。私たちは以下の理由から,このことに強く反対します。
 1)胎児条項は,女性の自己決定と相反するものです。
 私たちは,女性のからだと性と生殖に関する決定は本人自身が行うものと考え,
刑法堕胎罪と母体保護法を廃止し,女性の自己決定にもとづく法律をつくることを
求めてきました。私たちが求めるのは,子供をもつか否かの選択を保障する法律で
あって,子供を性別や障害の有る無しで選ぶものではありません。選択の保障とと
もに,女性が性とからだに関する情報を充分に得ることができ,子供がいるかいな
いか,子供に障害が有るか無いか,どちらの場合でも差別や不利益を受けない状況
が必要です。女性の自己決定は,それらがあってこそ成り立ちます。
 障害者を差別する社会は,今でさえ”五体満足”な子供のみが望まれ,障害児を
産まないように仕向けて女性を苦しい立場に立たせています。さらに胎児条項をつ
くることは,この傾向を強めるばかりです。女性の立場と人権を貴会が認識せず,
さらに条件を付けて縛ろうとすることに,強い憤りをおぼえます。
 2)胎児条項は,優生保護法の改正に逆行します。
 私たちは障害に対する偏見や差別を,なくしたいと願っています。昨年,優生保
護法が不十分ながら改正され,障害者を差別する優生思想の条文がやっと削除され
ました。胎児条項をつくることは,この改正に逆行して優生思想を深めることにな
ります。これを許すことはできません。記事に「(胎児条項がない)今のままでい
ることが障害者の人権を尊重することにはならない」との理事長の発言があります
が,条項の導入が障害者の人権を尊重するとの意味でしょうか。理解できません。
たとえ重い遺伝性疾患に限っての中絶条項であっても,障害や遺伝性疾患全体に,
否定的に作用することは明らかです。このことは,障害者だけでなくすべての人々
を脅かすことになるでしょう。
 3)胎児条項は,国が法律で差別を行うことになります。
 現行の母体保護法では,人工妊娠中絶を許す条件に該当するかどうかを医師が認
定し,本人と配偶者の同意を得て行うことになっています。言ってみれば,国が医
師に認定を委ねて,国の意思において行われることなのです。ここに胎児条項を加
えるのであれば,それも国の意思の反映に他なりません。このような法律を,私た
ちは持ちたくありません。

 以上のことから,日本人類遺伝学会が胎児条項導入の方針を撤回されるよう,求
めます。



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