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「胎児条項発案に反対する意見書」

DPI女性障害者ネットワーク 1997/03/07

last update: 20151221


■「胎児条項発案に反対する意見書」
                              1997年3月7日
日本母性保護産婦人科医会
                       DPI女性障害者ネットワーク

 わたしたちは昨年、優生保護法改正、母体保護法の成立によって、優生部分が削
除されたことに、心から安堵の念を感じたものでした。わたしたちはあの優生保護
法によって、自分の命を「生まれてはいけない命なのか?」と悩み惑い、強力な自
己否定感の中で、やっとの思いで生き延びてきたのです。
 そうした中、さまざまな人権思想の高揚や、運動の成果として、優生保護法を変
えていいのだと気付き、その取り組みを始めてからは、実に息の長い取り組みでし
た。
 にもかかわらず、今回の日本母体保護産婦人科医会の、胎児条項の発案は、わた
したちの安堵の念をたちまちのうちに覆すものです。その恐怖と悲しみは、まさに、
またさらに喉元に刃をあてられたかのようなものであると言っておおげさなもので
はありません。つまり、優生思想に対するわたしたちの想いと行動は、このように
も小さな物としてしか理解されていなかったのかと、慟哭の思いが突き上げます。
 障害をもつ女性たちは、自分自身、生まれてはいけない命なのかと悩んだ10代を
経た後、20代、30代を迎えて、さらに自分のリプロダクティブ・ライツの行使をど
のようにすべきかと迫られます。そのときに、胎児条項があるということは、「お
前の子は、まったく歓迎されないのだ。それどころか、産むべきではない。」と、
言われているに等しいのです。どうしてこのように恐ろしい考えが、どんな命も慈
しみ、祝福すべきである日本母性保護産科婦人科医会から出てくるのでしょうか?

 問題点は、三つあります。
 まず一つは、「障害=不幸」という優生思想が、優生保護法がなくなってもなお、
人々の脳裏に厳然と根を下ろしているということ。
 二つ目に、その思想を、ゆるがせにできないほどの、障害をもつ人にとって生き
にくい街構造や社会が依然として続いていること。
 三つめに、そのような優生思想と社会構造を背景として、またもや女性のからだ
を、人口調節や、命の選別の道具に落とし込めようとしていることです。
 わたしたちは、そうした現実を踏まえて、次のことを強く申し入れたいと思いま
す。
 1.胎児診断と障害児の選択中絶、遺伝相談等の優生思想を増長することに莫大
  なお金を投資する方向性を止め、障害を持つ子を産んでも幸せな人生を創れる
  のだ、という正しい情報を伝えていくための、キャンペーンや資料づくりやカ
  ウンセリングなどに、その専門性や財源を使っていくこと。
 2.たとえ胎児段階で障害を持つ子の命を消し去ったいったとしても、障害をも
  つ人は必ず人類の数パーセントから十数パーセントの割合で存在するという正
  確な認識に立って、命を抹殺するのではなく、どのように社会や街構造を変革
  するか、共に考えていくためのテーブルに着いていくこと。
 3.少なくとも、直ちにできることとして、胎児条項の発案自体が、障害を持つ
  人の生きる権利を完全に抹殺するものである、という認識を持って、早急に撤
  回すること。
 以上、申し入れをおこないます。

★ 以上『MONTHLY BEGIN』(障害者総合情報ネットワーク)41号(1997年3月)
p.1からの転載です。転載の際の入力のミスはないはずです。



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