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「砂糖きび畑の風に吹かれて 〜第2回人権教育スタディツアー〜」

松波めぐみ 1997
アムネスティ・インターナショナル日本支部「ニュースレター」1997年2月号

last update: 20151221


砂糖きび畑の風に吹かれて 〜第2回人権教育スタディツアー〜

松波めぐみ 1997
アムネスティ・インターナショナル日本支部「ニュースレター」1997年2月号

 2度めを迎えた人権教育スタディツアー。
 今回のツアーの主目的は、フィリピンの中でも抑圧された層であるネグロス島
の砂糖きび労働者と生活を共にして「現実」に触れながら、同時に、現地で展開
開されている人権教育〜〜演劇を使った人権ワークショップ〜〜を体験すること
とでした。ワークショップに時間をとれたのが今回の特徴です。
            (人権教育チーム関西、西宮グループ  松波めぐみ)
●砂糖の島・ネグロスへ
 今回訪れたネグロス島は、かつて「飢餓と内戦の島」として報道された所。植
民地時代からの砂糖きび農園が広い面積を占めるが、十年前の国際的な砂糖価格
の暴落は、元々厳しかった労働者の生活に致命的な打撃を与えた。栄養不良で死
んでいく子どもがいた一方、武装勢力による抗争と人権侵害を背景に国内難民も
発生した。その後は国内外のNGOの活動もあって事態は好転し、現在は落ち着
いている。そのネグロス島に住むアムネスティメンバーが、私たちの受入れに奔
走してくれた。
 初日の夜にネグロス到着、現地メンバーの歓迎を受けた。翌日はオリエンテー
ションの後、刑務所(City Jail)と貧困層の住む漁村を訪問。いずれも社会の
矛盾が象徴的に現れる場所だ。刑務所では未決囚の人たちと話ができた。「妹が
病気なのに薬を買うお金がなくって、車を盗んだんだ」という少年の話にホロリ
としたり、学齢期の入所者への教育が行われていないことに心を痛めたり、短時
間ながら強い印象を残した。

●砂糖きび農園の広がる村で
 翌朝ジープで村に移動。見渡す限り緑の砂糖きび農園が続く。これから3日間
続けて「午前中と夜はホームスティ、午後はワークショップに参加」という日程
だ。農園ではお隣との密接さ、外での水浴びや畑での労働体験など全てが新鮮だ。
しかし一見平和な景色と村人の笑顔とは裏腹に、社会の最下層に位置づけられて
いる砂糖きび労働者の状況も、ほのかに見えてきた。農園主に雇われている身分
では不満があっても声に出すことは困難だ。親や祖父母の世代が権利を奪われて
きたのを知る子どもたちも、やはり労働者になる以外の選択はほとんど無い。

●人権と演劇の出会い・ワークショップ
 地元の高校を訪ねると全校挙げての熱烈歓迎を受け、呆気にとられるやら嬉し
いやら。この高校の教室を借りて、人権&演劇のワークショップは始まった。私
たちとほぼ同数、15人の高校生が一緒に参加してくれる(彼らもファシリテータ
も現地のアムネスティメンバー)。初対面の緊張も体を使ったゲームでほぐれて
いった。
 「自分にどんな権利があるのか、自分の住む社会や世界全体の中で人権はどう
なっているか、自分は何ができるのか」等をワークを通して学んでいく。中には
日本から来た私たちとこの村で生活する彼らとの「違い」を明確に意識せざるを
えないような場面があって、ドキドキしたり悲しくなったこともあった。いつで
も現実から始めなければ、ということだろうか。
 3日間とも人権のワークの後で、演劇のワークがあった。少人数のグループで
虫、火山、乗り物等を表現したり、ある感情を思いっきり出してみたり。言わば
自分の思いを表現するための練習だ。なぜ演劇か?の問に対する答はこういうも
のだった;「フィリピンにも沈黙の文化があり、理不尽なことがあっても運命と
思って受け入れてしまいがちだ。そうでなく痛いものは痛いと声に出して、行動
を起こしていけるようになるためには、体を使う演劇は有効な手段なのです」。
 私自身、ただ知識を得たのではなく、フィリピンの高校生らと文字どおり一緒
に飛んだり跳ねたりしたことは、感覚として自分の中に残っていく気がする。

●「無言劇・世界人権宣言」
 ワークショップの最後には、世界人権宣言の条項をテーマにした劇を5人位の
グループで創作し、全校生徒の前で披露することになった。私のグループは「集
会の自由」がテーマ。表現力豊かな生徒に助けられて何とか演じることができた。
 私たちは当然のように声をかけあって集まる。しかしその「集会の自由」が守
られなかった時代をフィリピンの人々は経験してきた。今もビルマや東ティモー
ル等世界中に、切実にそれを求めている人がいることを思う。アムネスティに入
会したばかりという人も、いつしか「拷問禁止」や「働く権利」の劇では、迫真
の演技を見せてくれた。

●ツアーを終えて(感想)
 砂糖きび農園の強い日差しを、今でもふっと思い出す。
 ネグロスやフィリピンの状況に根ざした人権教育を試みているアムネスティの
仲間に出会えて、励みになった。ワークショップと生活体験とが織り混ざって、
さまざまな書き尽くせない体験をすることができた。砂糖労働者や現地のアムネ
スティメンバー、高校生らとの一対一の交流を通して、楽しい中にも自分の価値
観の問い直しを体験した参加者も少なくなかったようだ。
 目に見える人権抑圧が少ない日本では、異質な背景を持った他者との出会いの
機会を作っていくことも、人権教育の重要な要素ではないだろうか。
 今回の体験を生かして、日本での活動の可能性をさらに探って行きたいと思う。



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