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「障害者対策に関する新長期計画推進国際セミナー」報告

寺本 晃久 199605 『ノーマライゼーション(障害者の福祉)』1996-5



 二月、東京と大阪で、障害者計画に関する新長期計画推進国際セミナーが開催されました。今回は、二月十日に戸山サンライズで行われた東京でのセミナーについて報告します。
 このセミナーのために来日したのは、国連障害者基準規則特別報告者ベンクト・リンドクビスト氏、アメリカ合衆国教育省特殊教育・リハビリテーション担当次官ジュディ・ヒューマン氏、デンマークからは、日欧文化交流学院の千葉忠夫氏、オーデンセ市障害者委員会委員ビヤタ・メリング氏の四人の方々でした。千葉氏を除いては何らかの障害を持ち、障害当事者として、それぞれの国であるいは国境を越えて活躍している方々ばかりでした。
 最初に、リンドクビスト氏が国連の基準規則について説明しました。……「国連・障害者の十年」を受け九三年に策定された「基準規則」は、完全参加と平等を達成することを目的とし、この目的を阻んでいる「障壁(barrier)」を取り除くのは各国政府の責任である。具体的な内容としては、教育、就労、所得保障と社会保障の分野での障壁の撤廃について書かれている。そして、基準規則を推進するために、専門家委員会によるモニタリングの機構を設けている。基準規則の重要性として、各国政府が障害者についての政策を行う際の法的な根拠を用意したこと。そして、政府をモニターし基準規則を推進するのに、障害者自身が重要な役割を果たすこと、そのために障害者が組織化を権利として掲げていること。このような内容を持つ基準規則を実施するために彼は世界中を飛び回っているとのことでした。講演の後の会場からの質問では、「基準」ではなく「条約」を、という声が挙がっていました。
 次に、ヒューマン氏が、米国の障害者法立法化の経過とその現在について話しました。彼女が強調したのは、まずリハビリテーション法やADAは“市民権法”である、という点です。これらの法律は、それ以前の人種差別禁止法をモデルにしており、障害者の問題を慈善の対象としてのみ扱うのではなく「権利」の問題として、障害者の持っている能力を最大限生かし社会に貢献できるように条件整備をすること、そのために政府が取り組まなければならないことをうたっています。そして、ADAの成立・実施において、地域の自立生活センターが大きな役割を果たしているということでした。また、特殊教育担当ということで、教育に関する質問が会場からありましたが、それについて彼女が「特殊教育は特殊な“場”で行われなければならないものではなく、統合された場において施される“サービス”です」と述べていたことが印象に残りました。
 千葉氏とメリング氏の講演は、デンマークについてのお話でした。千葉氏は、デンマークにおける平等や分権などの基本的な精神について話されました。メリング氏は、ヘルパーを自分で扱いながら生活している姿について話しました。家を離れても社会が助けてくれる、という福祉社会の様子の具体例がスライドで映し出されていました。
 最後に、八代英太氏がコーディネーターとなって、講演者とのシンポジウムがありました。まず、会場から、わが国の「障害者プラン」についてコメントがありました。「プランに期待をしているが、不十分な点もある。第一に障害者の市民としての権利を確立すること。第二に、地域で生活することをうたっているからには大量の介助サービスが必要である。そして、それを利用する障害者が主体的に生活できるように、自分でヘルパーを雇えるようなしくみを作るべきだ。」「施設の増設ではなく、もっと地域で生きられる体制を整えてほしい。それに、世帯単位で今の福祉が成り立っていることが問題だ。」という意見が出されました。それについて、まずリンドクビスト氏は「政府が方針を示したことが重要。これで、政府の行動をチェックできる」と評価しつつ、「法的な基盤が少し弱い」とも述べました。ヒューマン氏は「これは実現するものなのですか?」とキビシイ質問をし、会場の人々の失笑を買っていましたが、とにかくこれが出発点であること、さらに障害者がこれを実現させるように働きかけることの必要性を訴えました。
 このセミナーを通じて講演者の方々が一貫して主張していたことは、障害者自身の果たす役割についてでした。基準規則にしても、ADAにしても、障害者プランにしても、実施されなければ何にもなりません。これらを実施していくのは障害者自身である、ということです。障害者が、地域や国などあらゆるレベルで発言すること。障害者が組織化すること。訴訟やマスコミなどあらゆる手段を使うこと。議員や役人になって活動するのも効果的だ。自分たちの活動を政府に援助させること。つまり、世界的に見ると、単に政府のやることに反対するだけではなく、むしろ障害者自身が中に入っていって政策を作り、実施していく段階に入っているのではないでしょうか。シンポジウムの中で、省庁や自治体でアクセスやホームヘルプなどの基準が違うということが問題として出されましたが、そのようなことを改善するためにも、障害者が利用者の立場で基準作りに参加することが必要だと考えます。八代氏は、まとめとして次のように述べました。「私たちがしっかりみつめていく。いろいろな施策にかならず当事者が参加すべきだ。そして、これからは厚生省ではなく、建設省や運輸省や文部省の問題でもあります。」


UP:1996 REV:20081126
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