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ワーカーズ・コレクティブ連合会の役割 第10章


last update: 20151221


第10章

ワーカーズ・コレクティブ連合会の役割

                                Chou, Tomoko
                                 蝶 朋子

 『NPOが変える!?――非営利組織の社会学(1994年度社会調査実習報告書)』第10章

 NPOを支援するNPOについては第1章でも触れられた。それにも様々なものがある。個々の組織とは独立に,その経営等に対して助言等を行うNPOも米国などにはあるし,第1章にみたように,現在,NPOについての研究・提言を行っている組織も,具体的なサポートを志向している部分があり,実際にやがてそういう組織に育っていくかもしれない。と同時に,個々の組織の連合体が独自の役割を果たすこともある。こうした組織は,その特定の領域についての詳しい実践的な知識を持っているし,専従のスタッフがいる事務局を置くことができれば,個々の組織の活動から独立して,個々の組織に対する支援,活動の拡大,対外的な働きかけを含めた共通の利害に関わる活動を行うことができる。昨年度の「自立生活センター」調査では,「全国自立生活センター協議会」(JIL)がそういう役割を果たしていた★01。ここでは,ワーカーズ・コレクティブの連合会の活動についてみる。

T 連合会

 1989年4月に東京で「東京ワーカーズ連合会」が,9月に神奈川で「神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会」が設立された。その後,「ワーカーズ・コレクティブ千葉県連合会」,「ワーカーズ・コレクティブ埼玉県連絡会」と設立された。関東以外にも,「ワーカーズ・コレクティブ北海道連絡協議会」,「ワーカーズ・コレクティブ山梨県連絡会」などがある。「東京ワーカーズ連合会」は,1993年4月事業協同組合として法人格を取得し,「東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合」となっている。
 神奈川県の連合会に加入しているワーカーズ・コレクティブが94団体で一番多く,東京52団体,千葉18団体と続く。活動者の多くが主婦ということもあり,食べ物関係のお店が多い。また,ここ数年で家事介護などの福祉ワーカーズが増えてきている。神奈川,東京では福祉ワーカーズに所属している人が連合会加入者の半数を越えている。千葉にもたすけあいワーカーズという福祉関係のワーカーズ・コレクティブがあるが,連合会には加入していない。
 この章では主に千葉県連合会の活動をみる。千葉県連合会は,1989年に発足し情報交換や交流をしてきた連絡会から発展して1992年9月に結成され,1995年に3年目を迎える。
 意志決定機構としては定期総会,理事会がある。定期総会は年に1回。1年間の活動の点検をし,来年度の方針を話し合う。ワーカーズ・コレクティブの人数に応じて代議員を出し(50人ごとに1人)議案と予算案について討議,承認する。なるべくたくさんの組合員にきてもらえるような総会作りを目指していて,94年の総会では介護漫才を呼んだそうだ。ただ承認するだけでなく,きちんと話し合って決めていこうと,質問などが出やすいような議事運営,雰囲気作りを心掛けているという話だった。
 理事会は月に1回開催,連合会理事長,理事9人で構成され,事務局員も出席する。理事は全てのワーカーズ・コレクティブから出ているわけではなく,1つの部門(請負事業,食べ物屋,リサイクルなど)から2,3人ぐらいを目安に選ばれる。任期は2年で,選任に当たっては,定期総会での承認を得る。連合会として企画するものは,すべてこの理事会で決定している。会議では,各ワーカーズ・コレクティブの情報交換や,定期総会での提案や議案書作り,研修会,講習会,シンポジウム,イベントの報告(千葉の連合会で企画したものや,他県のワーカーズ・コレクティブの見学,参加の報告もある)がなされる。また他県のワーカーズ・コレクティブとの交流や連絡,千葉県の連合会としてどういう動きをするかも理事会で決定される。
 活動資金について。千葉県の連合会の場合,会費と事業収入による資金で活動している。会費は次の3つを足したものである。1つが各ワーカーズ・コレクティブの分配金の0.09%。2つめが各ワーカーズ・コレクティブの人数×1200円(これは機関紙発行の費用に使われる)。3つめが総会に出席する代議員×1万円。事業収入としては,共同仕入れによる収入と開業講座の参加料などがある。将来的には会費を下げられるよう,仕入れ事業の発展を目指している。
 この千葉県連合会が何をめざして,どういう活動を行っているのか,以下,連合会のスタッフである山内京子さんと内藤美佐子さんへのインタビュー調査などをもとに見ていく。

U 連合会の活動・1

 1 設立支援

山内「ワーカーズにとって必要な研修なんかができたばっかりのワーカーズなんかでは自前でできないでしょ。そうするとどうしても古いところが教えるでしょ。その,いつも教える人っていうのは仕事になんなくなる。一番最初にできた(ワーカーズ・コレクティブの)「かい」の事務局なんかにはしっちゅう電話がかかってきたり,会計がどうしたこうしたとか。私なんかも運営のことなんかで呼ばれていくじゃない。ただっていうのも,呼ぶ方も気が引けちゃうし,あの人も忙しいだろうって。仕事になるような形をつくらないと,研修をしあうっていうことが保証できない。もったいない。やっぱり,きちんとみんなで新しいワーカーズの支援,作ることの呼びかけをする… それぞれが少しずつ費用をもちよったり,運営委員を出したりすることで,連合会  が機能してきたんですけどね。」

 ワーカーズ・コレクティブを始めたいと思っても自分達だけではなかなか始められない。そのやり方はワーカーズ・コレクティブをやってきた人しか教えられない。経験を積んだワーカーズ・コレクティブが教えることになる。すると教えるほうは仕事ができなくなる。そこでそういう活動をする部分が独立に求められる。連合会はこうやって始まった。
 開業講座が,新しく始めたいと考えている人を支援する。この開業講座には誰でも参加することができ,ワーカーズ・コレクティブの作り方,ノウハウを知ることができる。
 千葉県連合会では94年7月に第1回開業講座が行われた。第2回は95年1月〜2月(調査時点で参加者募集中)。年に2回開催する予定である。活動経験を持つ人が講師になり,
新しくワーカーズ・コレクティブを開業したいと思っている人に,作り方やノウハウを教える。ワーカーズ・コレクティブとは何かという話から,実際開業して成功している講師の話(ワーカーズ・コレクティブの現状,事業システム,開業ノウハウの報告),お店紹介のビデオ鑑賞,お弁当のメニュー作りやリサイクル品の値付けを実際にやってみたそうである。また,社会的手続き,つまり税務署への届け出のことなども詳しく教えている。
第1回は,リサイクルショップと食べ物屋の開業講座があり,参加者は各15人ずつ。『社会運動』という雑誌に紹介されたこともあって,遠くは仙台からの参加者もいたそうである。開業講座を開くまでの準備期間は約半年ほどで,その間10回以上打ち合わせを重ね,ワーカーズ・コレクティブ紹介ビデオ(食べ物屋,リサイクルショップ各15分)や資料を作成した。参加費用は1万円,第1回と第2回の収入は15+15=30万円。かかった費用はビデオを作った分も含めて,50万円ほどだから,ここまでのところでは20万円の赤字ということになる。2回目終了後は,3回目の開催に向けて開業講座の見直しを検討し,教えるべきものを絞り込んでいくことも考えているということだった。(内藤さん)

山内「飲食店やるためのノウハウなんて飲食店業界の本とかにも書いてあるのよね。… 今,ビジネスのマニュアルなんていっぱいあるじゃない。それはそこに預けちゃった方がいいんじゃないかな。それよりワーカーズに関する情報っていうのは,私達しか教えてあげられないわけじゃない。ワーカーズで開業したい人に向けて,徹底したワーカーズのレクチャーをする場にしたほうがいいかなって。それでお金がとれるかなっていうのもあるけど,でもそれが一番私達が公開したいものだから。けっこう今満載だから。… 自分達も素人で教えてもらうところなくって苦労してきたでしょ。保健所の許可から,役所の手続きから,経営の採算とることとか技術とか,いっぱい教えたいのよね。だけど,どうかなって… 」

 講師の人も,公式の場で人に自分達の情報を伝えるということで,ワーカーズ・コレクティブの成長と自信という大きな収穫を得ることができたそうだ。また,神奈川県の連合会では,新規に設立されるワーカーズ・コレクティブの設立指導も行っており,編集・情報関連の事業を行うワーカーズ・コレクティブのための開業講座なども行われている。
 活動は情報の提供だけにとどまらない。東京,神奈川では,開業にあたっての資金調達,開業後の運転資金,事業の拡大のために,連合会に加入しているワーカーズ・コレクティブに対する融資も行っている。東京の連合会は,事業協同組合として法人格を取得していて,労働金庫を通した資金の貸し付けのほかにも損害保険の代理店事業も行っている。実績がなく開業資金を貸してもらえないワーカーズ・コレクティブに事業資金を協同組合が借りて,組合員に転貸することで,新しいワーカーズ・コレクティブを作りやすくしている。千葉では資金貸し付けはまだ行われていない。独自で貸し付け事業をするには法人格の取得が必要で,共同仕入れの事業高が増えてくれば事業協同組合として法人格の取得も検討するそうだ。ただ,神奈川のように,法人格を取得しなくても,神奈川県労働金庫と提携し,設備資金,運転資金を低利で融資しているところもある。
 2 事業の支援

 新しく作られるワーカーズ・コレクティブへの支援だけでなく,既に事業を開始しているワーカーズ・コレクティブに対する事業の支援も連合会の役割の一つである。例えば神奈川県連合会では,開業講座と,開業した後の経営戦略,財務,人材管理などの事業情報を提供する事業講座を分けて開催している。千葉県連合会で行われる具体的な活動として,は,研修活動,会計講座による会計指導,講演会,部会活動,経営相談などがある。
 部会は,請負事業部門,食べ物屋部門,リサイクル部門に分かれ,1・2ケ月に一度会合を行っている(1994年は請負事業部門は開かれていない)。主に情報交換や話し合い,研修を行っている。食べ物屋部会では料理講習会をやったり,惣菜を入れるトレーを発砲スチロールから紙製のものに取り替えようと話し合いを続けている。リサイクル部会では,古着,古布をリサイクルするファイバーリサイクルについても話し合われている。
 研修としては,各部会ごとに技術研修を行ったり,全てのワーカーズ・コレクティブを対象に会計講座を開いたり,事業経営のレベルアップのための研修会などがある。ワーカーズ・コレクティブが必要とする研修のお手本がないので,連合会では何が必要か,どのような内容にするか,話し合いを続けている。1993年の会計講座は,各ワーカーズ・コレクティブの会計担当者と次期会計担当者が参加し,3回連続で複式簿記講座を行った。簡単な練習問題による伝票起こしから始まって,貸借対照表,損益計算書を作成し,会計の基礎実務の学習をした。会計講座は,年に2回の開催を予定しており,ビジネスセミナーの開催も検討している。
 連合会で主催される講演会は,ワーカーズ・コレクティブで事業を拡大して成功している人の話を聞いたり,元気の出るようなテーマにしたいと考えている。
 代表者会議は,年に2回,各ワーカーズの代表者が集まり,情報交換を行うものである。各ワーカーズから必ず1人理事会に理事を出しているわけではないので,直接話し合わなければいけないことを話し合い,伝えなければいけない情報を伝え,活動者の生の声を聞くために開かれている。代表者1人だけでなく,次期代表者など他の人も一緒に参加することができる。
 東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合のアンケート調査によると,経営上の問題が生じたときの主な相談先として,50%の人が連合会をあげている(東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合[1995a])。「すごく赤字のところもあって。そういう所に立て直すアドバイスをして上げるっていうのも連合の役割かな。そういう役目も担ってるから。あと研修会もあるしね,料理とか経営に関してとか。自分のとこだけのことを考えれば,(連合会が無くても)絶対に困るというものでもないけど,でもやっぱり見えないところで力になってもらっていると思うし。」(山内さん)
 千葉県連合会では,共同仕入れも行っている。一括して共同注文したものに手数料5%を上乗せし,お惣菜チームなどの食べ物関係のワーカーズ・コレクティブに販売している。手数料は連合会の活動資金になる。米が94年9月に開始され,その他の食材についても10月に開始されている。また包装材(可燃)の共同仕入れも94年度中に実現できるよう活動していくそうである。
 あと,共同仕入れというわけではないが,書籍を仕入れて各ワーカーズ・コレクティブの活動者に紹介している。こちらの方は利益を得るためというよりは,「研修と並行して必要かなって,勉強しなきゃね」(山内),ということで始めた。本屋さんで探し,探してもなく,結局注文するより便利だという。出版社から直接1〜2割引きで仕入れ,定価との差額は連合会の収入になる。

 3 情報活動

 連合会は事業の内容や運営,同業種間,異業種間の事業連携に関する情報交換,共有の場でもある。情報の発信・交換・共有は定期総会,代表者会議,部会活動などの会合で行われるほか,連合会が発行している機関紙他の刊行物で行われている。
 94年11月の12号まで隔月だった千葉県連合会の機関紙『ワーコレ千葉』は13号から毎月発行になった(B5×4頁)。「連合会でいまやっているのは情報発信,一番大きいのは情報発信です。いま機関紙もわりと報告が多いんですけど,これからは連載や特集をやろうかと思っているの。女性の 100万円の壁とか,女性の税金とか年金とか保険とか特集を組もうと思っているんです。そして毎回1つワーカーズ・コレクティブを紹介しようと。」(山内さん)
 中身の充実を計るため,連載や特集を組んだり,2ケ月に1回だった発行を1ケ月に1度に増やす。経済的な負担も大きくなるため,今まで毎回生活クラブの組合員(班)にまで回していたのを必要なときだけ回すことにした。ワーカーズ・コレクティブの内部の人を意識して作っている機関紙なので,組合員の人にも読んでほしいというのを選んで発信していくらしい。「(生活クラブの)組合員自体も完璧に(ワーカーズ・コレクティブのことを)分かっているというわけではないので,まずは組合員に分かってもらいたいっていうのが最初の段階かな。… (組合員に配らなくなる)ということでは宣伝がいまいち逆戻りしそうな気がするんで,どうやって補うかということをきちんと考えなきゃいけないんですけどね。」(山内さん)
 また現在,ガイドブックの改訂版の発行と講演録ブックレットの作成を目指している。
 ワーカーズ・コレクティブを地域の人にアピールする機会を作ること,地域に必要な事業を起こしていることを社会にみせていく形を整えることも連合会の役割である。
 連合会ではワーカーズ・コレクティブを紹介するパンフレットを作っている。千葉県のワーカーズ・コレクティブの一覧表と説明が記載されていて,連合会事務局と各お店や事業所においてある。千葉県連合会は,生活クラブ生協が毎年開催しているデバンダ祭りに実行委員会の一員として参加している。各ワーカーズ・コレクティブの事業所も参加して,お弁当やサンドイッチを出し,一緒にワーカーズ・コレクティブ紹介のパンフレットも配った。(内藤さん)
 そのほかでも「いろんな形でばらまこうと思っているんですけど。ただ資金の関係とかもあって」思うようにばらまけない。機関紙は他の連合会や横浜女性フォーラムに送っている。市役所など公的な場所には「事業関係っていうのは警戒されますから」置いてもらえない。「まだ(ワーカーズっていうのは)認められてませんから。そのためには実績を作ってからでしょうね。」「公的なところで置いてくれるとしたら女性センターだと思うんだ。一番可能性があるのはね。そういうためにあるんでしょって威張れるし(笑)。千葉はそんなにないけど東京とかにはあるし,千葉の人でも女性問題とか興味ある人ってそういうところに出入りしてたり,学習会に足を運んだりしてるから千葉の情報を東京で得てもいいわけだし。だから,発信はいろんなところで受け入れてもらえればどんどんやろうと思ってますけど。」(山内さん)

V 連合会の活動・2

 1 女性が働くこと

 以上は,今あるワーカーズ・コレクティブを知らせ,それを伝え,開業や事業の展開を支援していく事業だが,連合会が行っているのはそれだけではない。ワーカーズ・コレクティブや,そこで働く人達,さらに広く女性全般が抱えている問題を考え,その解決の道を見出していこうともしている。それは,これまで紹介してきた活動と独立に行われているわけではない。たとえば,機関紙の中にもそうした要素がある。
 神奈川連合会の機関紙『うえい』(隔月発行,A4×12頁, 100円)は,ワーカーズ・コレクティブメンバー募集紙『うえい』と機関紙『ワーコレ神奈川』が一つになって94年9月に創刊されたものだが,求人情報,ワーカーズ・コレクティブの紹介,経営についてのQ&Aの他,特集にインタビュー等,盛り沢山である。たとえば,創刊号から毎号掲載されているインタビューでは,星野昌子さん(神奈川県立かながわ女性センター館長),桜井陽子さん(フォーラムよこはま企画事業グループコーディネーター),広岡守穂さん(中央大学法学部教授),松井やよりさん(フリージャーナリスト,アジア女性資料センター代表)等が登場している。またシリーズとして「ワーカーズ・コレクティブで働くことと女性の自立」というコーナーが毎号あり,「アンペイドワーク」についての学習会の報告,国際連合の統計の紹介,「カイロ国際人口会議」の成果の紹介,等がなされている。
 「回転木馬」(→第8章)の飯田さんは言う。

「自分達の中だけっていうのは,本当に情報が狭くなっちゃうんですよね。… 千葉っていうのは遅れてるなって思うけど,神奈川なんかはすごいですよね。女性フォーラム的な,女性の自立のためのものも活発に行われてますけども,(連合会に入っていれば)そういう情報なんかも入ってくるしね。そういう情報が入ったら入ったで面白みも出てくるし。情報の多さっていうのではかなり違うと思います。」

 様々な会合でも,ワーカーズ・コレクティブの今後,働く女性の今後について議論される。さらに,より広範な参加者を得て,シンポジウムや会議が開催されてきている。
 1994年11月,東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合の主催で,「ワーカーズ・コレクティブフォーラム'94 in Tokyo」が開催された。ワーカーズ・コレクティブの活動をしているメンバー,生活クラブ生協の組合員,北海道・山梨県・千葉県の連合会,日生協中央地連,労働金庫世田谷支店,生活クラブ東京とその連合会,ライオンフーズ,そして一般の人で,43団体 160人余の人がこのフォーラムに参加した。ワーカーズ・コレクティブ活動者による事例報告や,パネリストによる提案,自由討論などが行われた。
 フォーラムに先だってアンケート調査が実施され(全国のワーカーズ・コレクティブ125団体に依頼,100団体より回収。調査期間は1994年7月8日〜7月31日),その結果が配布資料にまとめられ,このフォーラムの報告集(東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合[1995a])にも掲載されている。このような活動によって,ワーカーズ・コレクティブの現状とその問題点が明らかにされる。様々なデータがあげられ,その分析がなされているが,その終わりの部分であげられた「現状の問題点」は次のようなものである。

「〇経済的自立を目指す人の選択肢となっていない。
  年収70万未満が63%,70〜99万円が25%。労働時間月 100時間以下が75%。
 〇社会保険・昇給の規定・退職金制度の未整備または未加入のところが多い。
  厚生年金,健康保険未加入が90%,労災・雇用保険未加入が77%。退職金制度なし72  %。
 〇経営主体の不安要素および,社会保険や給与保証の面で自信がもてず,5年先,10年  先が見通せないでいる。」(東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合[1995a:38])

 たとえば2点めについて,1990年労働省の調査によるとパートタイマーの健康保険・厚生年金保険加入率は女子で24.8%,雇用保険が29.0%であり,この調査でのワーカーズ・コレクティブの加入状況はそれを下回っていること等も指摘されている。
 またこうした現状分析を踏まえた「課題」も列挙されている。

「〇市場を広げ,効率を上げ,労働生産性を高めることにより,事業体と,働く女性たち  の経済的自立を促進する。
 〇経営者としての知識や技能を身につけ,レベルアップしていく。
 〇いまある公的な支援策(貸付制度や経営相談)の洗い出しと活用,支援策の拡大要請  を進めていく。
 〇ネットワークの強化と活用について可能性を具体的に検討する。
 〇高齢社会に向けて,長く働き続けるための条件整備。
 〇結婚が,永久就職=終身保険ではなくなった時代の女性と税制・年金システムについ  て自分たちの選択する方向性を検討し,21世紀に向けて行動する。」
 (東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合[1995a:38])

 この時の,参加者一同の「アピール」は以下のようなものである。

 「(フォーラムの)成果をふまえ,見えてきた課題を共有化し解決するために,ワーカ ーズ・コレクティブは
 1.経営者意識の育成や人材育成,資金面での公的なサポートのシステム
 2.個人課税の観点から,配偶者についての控除や年金制度の早期見直し
 3.ワーカーズ・コレクティブの社会的位置づけと税制上の優遇などの法制化
 以上3点の実現に向けて行動していきます。」
 (東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合[1995a:33])
 2 法制化

 ワーカーズ・コレクティブ,そして連合会が抱えている課題には,その連合会だけでは解決できないものも含まれてくる。このような場合,連合会が協力して解決していこうとしている。東京,神奈川,千葉,埼玉のワーカーズ・コレクティブの県単位組織(連合会・連絡会)で構成される組織として1989年に結成された「全国市民事業連絡会」(1995年に改称,後述)がある。
 会議は,連合会の代表者で主に構成されていて,月に1回開かれており,情報交換と報告会が行われている。インタビューにうかがった時は,95年7月の「ワーカーズ・コレクティブ全国会議」の企画,実行のための準備に追われていた。
 この連絡会は,首都圏の各連合会(連絡会)が情報を共有し,ワーカーズ・コレクティブの法制化に向けた行動計画を検討してきた。今回のいくつかのワーカーズ・コレクティブ,そして連合会のスタッフへのインタビュー調査では,法制化の具体的なイメージを得ることはできなかったが,この連絡会では,数年前から徐々に法制化への動きを起こしてきているようである。
 その前にワーカーズ・コレクティブが法律上,どのように扱われているのかを見ておく。
現在のところ,ワーカーズ・コレクティブは「人格なき社団」か「企業組合」というかたちをとる。

「人格=「権利能力」のない社団 社団法人と同様の実態をもつが法人格の認められない団体。公益又は営利を目的としない団体や設立中などで未登録の団体がこれにあたる。法人格をもたないが,できるだけ社団法人の規定を類推適用することが妥当と解されている。社団の財産は社員に合意的又は総有的に帰属する。だたし,登記は代表者名義でするほかない。民事訴訟の当事者となり得ることは,明文でみとめられている。また,権利能力のない社団のうち,代表者又は管理者の定めのあるもので,一定の収益事業を営むものは,法人税法等の税法上,法人とみなされている。」(『法律用語辞典』,有斐閣)

「企業組合 明治24年成立の中小企業等共同組合法に依拠する中小企業者の共同事業体であるが,組合員が各々独立の事業を営むというものではなく,自己の資本と労働力を結集して一個の統合的な事業体を形成するものである。組合員の3分の2以上が組合の行う事業に従事し,また当該事業従事者の半数以上が組合員であることが義務付けられ,総会の承認なしに組合員が自己または第三者のために企業組合の行う事業の部類に属する事業をすることが禁止されているのもそのためである。自己の事業を組合に提供し,組合の事業に従事する組合員は,組合から給料,賃金等の報酬を受けて,勤労者のごとくになる。
 企業組合制度化のねらいは,中小企業者の合同を進め,経営規模の拡大を図ることであった。そのため,一見会社形態であるかにみえるが,本質的には協同組合であって,その経営は協同組合原則に則って民主的に運営される。たとえば,議決権は1人1票制で,加入脱退の自由も認められ,また出資制限(1組合員の出資口数は総口数の25/100まで)と配当制限(出資配当は年1割まで。余剰があれば従事分量配当)もある。それゆえ,企業制という面からみると,協事組合に劣ることになる。」(同上)

 千葉県内のワーカーズ・コレクティブでは,「かい」,「回転木場」,「アンティ」が「企業組合」,その他は「人格なき社団」である。
 企業組合になるためには,「2年間の予算とか売上とか… ちょっと厚めの収支書とか,いろんな書類を提出しなきゃならない」。すると県の方から許可がでる。
 「人格なき社団」の状態では,お金を借りる時に個人名義で借りるしかない。また公的な融資も受けることができない。ものを買うにも個人で買うかたちになる。責任の問題もある。「企業組合」になる利点は,まず,こうした契約,資金調達にあたっての利点である。(内藤さん)
 そして(「企業組合」といってもそうよく知られたものではないのではあるが→第8章「アンティ」),一定の社会的認知を得ることはできる。「認可制だから,知事が認めるってところが,株式会社みたいに出資金さえ出せばなれるもんではないわけだから,それなりの条件をそろえて,申請して,知事がいいですよって言ってるわけだから,そういう意味で」(山内さん)力になる。融資を受けたい場合などでも条件が有利になる。
 したがって,融資を受けたりしながら事業を拡大していく時,「企業組合」という形態をとるメリットはある。だが,ワーカーズ・コレクティブの組織形態と「企業組合」として定められている組織形態とは完全に一致するわけではない(この辺りは前記「モデル定款」に詳しい)。そこで,ワーカーズ・コレクティブ独自の,あるいはワーカーズ・コレクティブのような組織形態を包括するようなかたちでの,法制化が求められている。
 そして法制化が主張される時,もう一つ,税制上での優遇も求められている。ここでは,このことに関連して,「非営利性」という性格についてどのような姿勢を打出してきているのか,この部分では主張に少しずつ変化もあるようなので,その経緯を簡単に見ておく。
 1991年5月には法制化のための「ワーカーズ・コレクティブ モデル定款(案)」(全国市民事業連絡会[1991])を作成,同時に「全国市民事業連絡会・就業協同組合法制研究会」の名で「就業協同組合の法制化および振興施策の整備についての要請」を出した。
 「モデル定款」の前に置かれる解説(全国市民事業連絡会[1991:1-9])は,「1.新しいタイプの生産・サービス協同組合の登場」「2.新しい生活・サービス協同組合の特徴」「3.ワーカーズ・コレクティブと企業組合のモデル定款の対比」という構成になっている。ここで全体を紹介することはできないが,2の(7) ではワーカーズ・コレクティブの「非営利性」について次のように書かれている。

「(7) 非営利企業の性質を資本と労働の2つの側面によって規定する。
組合の出資金への配当は,銀行の定期預金の利子の水準にする。一般に生産協同組合の出資株は,組合員の脱退時に,払い戻すか,組合で買上げるか,組合員が他に譲渡するかによって処分される。この定款では,組合員の権利は会員権にあって,脱退時には会員資格がなくなるので,出資株は払い戻される。出資配当は銀行利子なみ以下であるので,譲渡する意味もないとおもわれる。
 労働の対価については,地域の同職種の賃金とほぼ同じ水準を想定する。剰余金がある場合には,従事日数に応じた労働配当をする。その額は一般の企業において,賃金の補完として慣行化している期末手当の水準に準ずることにする。
 その剰余金があれば,その10%を社会・教育積立金にくりいれ,なお剰余があれば,出資金にたいして資本配当をする。
 市民事業としてのワーカーズ・コレクティブは,公共企業と私的企業の間にある市民社会の市民資本として,剰余金の配分面でも,非営利をこのように規定する。」
(全国市民事業連絡会[1991:4-5])

「就業協同組合の法制化および振興施策の整備についての要請」では

 「一,出資組合の定款の内容が,協同組合原則に準じていれば,有限責任の協同組合法   人(仮称・就業協同組合法人)として,簡易な手続きによって認可すること。
  二,組合が組合員の従事分量に応じて分配した剰余金は,法人税において非課税とす   ること。
  三,…」
  十,剰余金の配当は,従事分量による配当をさきにし,のこりがあれば,定期預金の   利子の範囲で払い込み出資金に応じておこなうものとする。
  十一,…」

 などとなっている。
 また,1993年7月3・4日には,この全国市民事業連絡会の活動の中から,ワーカーズ・コレクティブ全国会議実行委員会の主催で「ワーカーズ・コレクティブ全国会議」が開催され,72団体, 187人の参加を得た(ワーカーズ・コレクティブ全国会議実行委員会編[1993])。この時の基調講演が石見尚氏(日本ルネッサンス研究所代表)の「ワーカーズ・コレクティブの法制化に向けて」というものだった。この会議では,ワーカーズ・コレクティブの現状,問題点について様々な発表・討議があったが,法制化について立ち入った議論は行われなかったようだ。
 インタビュー調査の時点で準備中だった「第2回ワーカーズ・コレクティブ全国会議」は,「ワーカーズ・コレクティブで社会を変えられるか」というテーマで1995年7月8日に開催された。そして同日,全国市民事業連絡会はその名称を「ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン」(WNJ)と変更した。「名称変更のお知らせ」には「全国のワーカーズ・コレクティブが参加し易いセンター機能がワーカーズ・コレクティブ運動の推進に蓋か不可欠であると考え,今後のセンター構想も含めて名称変更し,ワーカーズ・コレクティブの「価値と原則」に基づいて,運動と事業の一層の発展のために有効に機能する会を目指したいと思います。ご理解のうえ,今後の共同行動で仲間の和を広げることへの参加を希望いたします」とある。
 全国会議実行委員会案として提出され,採択された「ワーカーズ・コレクティブの価値と原則」の「C財務」の項は次のようになっている。

「初期出資で起業をする自覚を持ち,また起業に必要な資本を準備します。なお資本の一部分は,不分割とし,個人に帰さないものとします。社会的基準による公正な労働所得および社会保障の実現をめざし,財務に関する情報は公開しなければならない。解散時に清算後の組合財産は他の協同組合,またはワーカーズ・コレクティブに譲ります。」(『うえい』7(1995.7.1):11より)

 清算に関連する部分はさきの「モデル定款」では次のようになっていた。

「組合の清算にあたって,組合負債の完済後にのこる資産は,次の順序で分配される。
  @組合員の出資金の払い戻し
  A組合員口座にくりいれた組合員の積立金
  B社会・教育積立金の残額は組合員に分配することなく,この定款の1の目的に   役立てるために総会できめる方法で,地域社会の振興の基金に寄贈する。
  Cなお残余がある場合には,従事日数に応じて分配する。」
(「47.清算」,全国市民事業連絡会[1991:19-20])

 「モデル定款」から「価値と原則」へ,利益の非分配という性格がより強調されるようになってきているようだ。そして,「第2回ワーカーズ・コレクティブ全国会議」の名で,「…下記事項について法制化運動を推進し,関係各所に要請する」という「ワーカーズ・コレクティブの法制化にむけての声明」(1995年7月8日)が出されている。

1.先進世界の協同組合労働の原則に則り,自ら組織し,協同して働くことの自由を 具現するワーカーズ・コレクティブは,都市,農村漁村をとわず,また男女の区別 なく,すべての働く人々に法的,制度的保障をあたえることを要望いたします。
2.ワーカーズ・コレクティブの法制化は,国際協同組合同盟(ICA)の新「協同 組合原則」(1995年)に基づく21世紀型の協同組合法とすべきであります。
3.協同労働の協同組合法制の整備とともにつぎの支援策を要望いたします。
 @市民事業振興基金の創設
 A共有資本(不分割資本)の形成についての税制上の優遇措置
 B公的機関との連携による研修あるいは相談機能の設置
 C公的セクターの事業計画への参画と事業の依託」

 法制化については,今回のインタビュー調査の中でも,「法律を作らなきゃっていうほど困っている人ってまだそんなにいないのよ。こんなに困ってると言える人はほんの人握りしかいないからね。ごく大雑把な考え方でとりあえずは主張はできると思うけれど,それ以上になると自分達だけではお手上げだと思う。法制化と言えるほど自分達の実態がないし,こっちを整備していくほうが私達の役割を考えたときに重要じゃないか」(山内さん)といった指摘もある。神奈川,東京はワーコレの数も多く,法制化をという動きも盛んだが,千葉では実態としてそこまでいっていないということもあるかもしれない。以上で見てきた法制化への動きにしても,どの程度理解されているか。
 先に引用したのは今年(1995年)の7月以前の発言である。続きがある。
山内「法制化っていった時に,雇われない働き方っていうのを認めさせるっていうか,その認識を高めさせるっていうレベルの法制化もあるかもしれない。今すぐ法律作っても使えないだろうなって思ってるから。まだそれは(1995年)7月までにもっと詰めていくようになるんだろうけど。… 法律が縦割りだから。生協法,農協漁協法,商法の中にあるのとか。協同組合っていうものの価値をきちんと一つの所でまとめて,それは営利企業とは違うっていう整理のされ方ってしてないのよね。そっちの方が先決かなって,私は思っている。協同組合っていうものが,市民が自分の意志で自分達の生活のために権利と義務を出しあうことから成立する組織なわけだから,それが株だけ集まればできる株式会社と同じなのが腹立たしいから。だけど難しいんだよね。法制化なんて専門的なことでしょ。… ごく大ざっぱな考え方で,とりあえずそうなんじゃないですかって主張はできるんだけど,それ以上のところで法案っていった時にお手上げだなっていう気がするし。具体的な知識をもっている人と協同組合について議論できる場がまず必要かなって思う。…リアルに考えてないんだと思う。ほんとにリアルに考えたら,私達には作ったものに対する責任もあるじゃない。… その法律が自分達にとって良かったものにしなきゃ意味ないじゃんね。そういうの考えたら,現役の内にできるかなっていうぐらい,私はそのくらい大変なことだなって思っているし。逆に,そんなに簡単に法律ができるとそれはそれで恐いじゃない。よくみんな議員を使えばとかって言うけど,そうだとしたら逆の側の法律もすぐにできちゃうっていうことだから。… 私はまだもっと自分達の努力はまだまだ足りないと思っているから。そこら辺のリアリティの違いかなって。… 」
−「やっぱり法制化って難しいですよね。」
 「難しくないといやだと思わない?。法律だよ。そんなすぐにボコボコできるようじ ゃあぶなくってしょうがないじゃん。容易じゃなくって当たり前だと思うの,私は。 健全な市民として。」

 ワーカーズ・コレクティブをどう社会の中に,そして法律の中に位置づけるか,それはこれからの課題ということになるのかもしれない。



★01 立岩・石井・増田・渡邉[1994],立岩[1995b]。
★02 労働者協同組合:日本にこうした企業が生まれたのは1970年代の初めで,政府が失業対策事業への新たな就労を認めなくなったからだった。そのため当時の全日自労建設一般労組は,自治体の事業を請け負うための労働者協同組合を自らつくり,失業者を吸収するという方式を考え出した。現在,不況の影響もあり組合員も増加傾向にある。しかし,労働者協同組合に関する法律はなく,組合を作っても人格無き社団(任意団体)となるか,法人格を取得しても税制上の特典のない企業組合となるしかない。「法人格の面でも,税制面でも労働者協同組合をちゃんと協同組合と位置付けた法律を」というのが,日本労働協同組合連合会の主張である。(『朝日新聞』1994-1-5)


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REV: 20151221
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