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「NPOの制度改革に関する緊急提言」

NPO研究フォーラム

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last update: 20151221


NPOの制度改革に関する緊急提言

1995年2月24日
NPO研究フォーラム

 ※プレーンなテキスト・ファイル版もあります。

 この提言は、世界的に伸長が著しい非営利組織( Non-profit Organization、以
下“NPO”と表記する)について、法制、税制等の制度改革の必要性を指摘し、
改革のための指針を提示しようとするものである。ここでいうNPOとは、自主的、
自立的な活動を行う非政府、非営利の組織であり、いわゆるNGOを含むものであ
る。
 国際社会において、NPOは、自然災害や人為的な紛争における人道的支援活動、
地球的規模の環境問題、難病に対する取り組みなど、市場に委ねても、各国政府や
政府間組織に任せても、必ずしも効率的に解決しがたい諸問題が多発するなかで、
そうした問題に多元的かつボーダレスに取り組み得る自立した担い手として、近年
その存在と機能に注目が集まっている。アメリカ Johns Hopkins大学のLester
Salamon教授によれば、NPOの隆盛は "Associational Revolution" とも呼びうる
ほどの大きなうねりを起こしつつあり、そのインパクトは19世紀後半の国民国家の
成立に匹敵するというのである。
 日本においては、各国に伍するNPOの歴史を有し、戦前においても活発なフィ
ランソロピー活動の事例がみられたにもかかわらず、戦後世界有数の経済大国に達
した今日、必ずしもNPOが健全な発展をしているとはいえない状況にある。最近
では日本でも、価値観の多様化、国際化、人口の高齢化といった構造変化を背景と
して、草の根レベルでの文化・芸術活動、国際交流、地球環境保護、社会福祉サー
ビスなどへのニーズの高まりがみられる。しかし、多様化する公共サービスを全て
政府主導で一元的に供給することは不可能であるし、また官僚支配の弊害を助長し
たり、政府部門の肥大化をもたらすリスクをはらんでいる。
 我々は、多元的で機動的な対応ができるNPOこそ、質の高い公共サービスを供
給する担い手として最もふさわしいと考える。幸い日本でも、企業の社会貢献意識
の高まり、個人のボランティア活動の活発化など、NPO活動を資金やマンパワー
の面で支える供給側の基盤が強化されつつある。最近の例では、阪神大震災におい
て、機能不全に陥った中央政府や地方自治体に代わって、実に多数のボランティア
が、被災者救出、医療、食糧確保などに活躍し、NPOが重要な役割を果たしたこ
とは特筆されるべきであり、日本のNPOの潜在力と発展可能性を示す注目すべき
事例であると考えられる。
 しかし、NPOを支える制度面に目を向けると、明治時代に制定された民法に依
拠する公益法人制度やそれと連動する税制は、NPOの活動を伸展させていく上で
様々な問題点を持っている。例えば、非営利活動を行う組織が法人格を取得するに
は主務官庁の許可が必要であるが、実質的な許可基準が官庁によって異なっていた
り、許可の見返りに天下り役人の受け入れを強要されるといった事例がしばしばみ
られる。この結果、官庁の下部組織のような公益法人が多数存在する一方、たとえ
ば阪神大震災の復興の最前線で活動しているボランティア組織の多くは法人格を持
たないが故に様々な面で活動が制約されるといった問題も起こっている。また、本
来「非営利・公益法人」に限定されるべき公益法人制度に「非営利・非公益法人」
が混在し、公益法人が主務官庁の許可により設立されると、活動の公益性を問うこ
となく税制上の優遇が与えられるというのはいかにも不合理である。さらに、一部
の公益法人のずさんな運営や税制上の優遇措置の悪用等が、NPOセクター全体の
社会的信頼をそこねている事例が後を絶たない。
 以上のような現状をふまえ、NPOに関わる研究者・実務家で構成するNPO研
究フォーラムは、日本においてもNPOに関する制度改革が喫緊の課題であるとの
認識のもと、その早期実現を訴えるため、以下のとおり緊急提言を行うこととした。

***************

提言1.登録非営利法人(仮称)の創設

 非営利の活動を行おうとする団体は、例えば、法務省(各地の法務局)に、法人
名、代表者、所在地、活動内容等を登録(登記)することによって法人格を取得し、
「登録非営利法人(仮称)」となることができるようにする。この手続きは、会社
の設立登記に準じて簡素・迅速に処理されるべきであり、法務局等は当該法人の活
動内容について「非営利」であるかどうかを提出書類に基づき確認するのみとすべ
きである。なお、この登録は義務ではなく、法人格を必要としないNPOには登録
しない自由が保障され、また、登録による法人格の取得は税制上の優遇措置に連動
するものではない。
 この登録制度により、現在法人格のない任意団体として活動している規模の小さ
なNPOにも法人化の道が開かれ、資産・債権債務の帰属、契約、課税などに伴う
法律上の権利主体としての地位を明確なものとすることができる。

提言2.非課税資格審査の一元化

 上記の登録非営利法人のうち、あらかじめ明文化された要件を満たす法人を、税
務官庁に対する届け出により「免税非営利法人(仮称)」とし、この法人の活動に
かかわる資産収益(利子配当収入等)や関連事業収益を非課税とする。各種公益信
託についても、同様の手続きにより非課税を適用する。
 この制度改革は、いわゆる準則主義に基づき統一的な基準で免税非営利法人の資
格を与えるものである。現行制度は、主務官庁による設立許可により非課税資格が
付与されるために主務官庁によって実質的な許可要件が異なり一貫性に欠けるとい
う問題点があるが、新制度ではこの問題が解消される。

提言3.公益寄付金控除法人(仮称)の創設

 上記の免税非営利法人のうち、公益を目的とする事業を行う、または行おうとす
る法人は、税務官庁へ届け出ることにより、「公益寄付金控除法人(仮称)」にな
ることができ、その法人に寄付をした個人・法人に対して、所得控除・損金算入
(または寄付額の一定比率の税額控除)を認める寄付金控除制度を新たに設ける。
 また、この公益寄付金控除法人に対する土地・株式などの資産の寄付については
譲渡所得税を非課税とする(現行のみなし譲渡所得課税を廃止)。さらに、個人が
行う公益寄付に関する税制上の取り扱いが法人が寄付した場合と実質的に同等とな
るようにすべきである。なお、公益信託についても、公益寄付金控除法人と同様の
要件により「公益寄付金控除信託(仮称)」となることができるようにすべきであ
る。また、相続税や地方税についても、公益寄付に対する税制上の誘因を高める方
向での改革が必要である。
 一方、新たに、学識経験者等を構成メンバーとする「公益審査委員会(仮称)」
を、内閣から独立した中立的第三者機関として設立する。税務官庁は、公益寄付金
控除法人の主張する「公益性」が税務上妥当でないと判断する時は、公益審査委員
会に公益性の審査を委任することができる。公益審査委員会によって公益性がない
と判断された場合には、当該法人に事後的に控除分の税を課すものとする。
 これらにより、公益目的の寄付に対して、アメリカなどと比較しても遜色ない程
度の税制上の誘因を与えることが期待されるとともに、現行の寄付金税制の根幹を
なす特定公益増進法人制度のような官庁の縦割りによる認定基準の不統一や認定過
程の非公開による不透明といった問題が解消され、より整合的な制度に改められる
ことになる。

提言4.NPOのディスクロージャーの推進

 民間非営利活動の健全な発展のためには、個々のNPOが、公益・非営利の設立
目的に恥じない運営に努めることはもとより、NPOセクターが伸長する実態に即
応した「顔の見える」存在となることを目指して、社会に対して積極的に、自らの
活動内容等の情報を開示する必要がある。
 そこで、上記の各法人の活動内容については、税制上の優遇の程度に応じて、情
報公開を義務付けるべきである。具体的には、税制上優遇されていない登録非営利
法人については、これら法人の代表者、所在地、運営主体などの情報を法務局等で
公開する。次に、免税非営利法人には、最低限、上場会社等に対して求められる有
価証券報告書に準じた事業内容、財務内容のディスクロージャーを義務づける。さ
らに公益寄付金控除法人には、以上に加えて寄付金の使途の詳細について開示させ
る。

提言5.ボランティア支援制度の確立

 NPOの活動を支える人的資源としてボランティアの役割はきわめて大きく、N
POの活動基盤を強化するためには、ボランティア支援のための制度を確立する必
要がある。具体的には、ボランティア活動に伴う危険に備えるためのボランティア
保険制度を整備するほか、個人がボランティア活動にともない負担した費用(交通
費・通信費、宿泊費、保険料など)について何らかの税控除を認めること、ボラン
ティア活動を金銭的な寄付と同等の無償労働サービスの提供とみなし、税制上の優
遇措置を与えるなどの制度改革が必要である。

***************

 以上の緊急提言の中には、場合によっては民法を含む現行法規の大幅な改正を必
要とするものが含まれることから、当フォーラムとしては、今後、各界多数の賛同
が得られるよう、具体的な制度改革案の作成に向けて精力的に論議を重ね、集約を
図るための拠点としての機能を発揮したいと考えている。
 現在、NPOに関する制度改革を志向する試みが国内でも複数始動している。こ
の緊急提言がNPO関係者の幅広い参画と連携に寄与することを切に希望する。

内容に関する照会先:大阪大学・本間正明(Tel:06-850-5619, Fax:850-5274)
          大阪大学・山内直人(Tel:06-850-5621, Fax:850-5274)
                (e-mail:yamauchi@econ.osaka-u.ac.jp)

NPO研究フォーラムの概要

1.目的および設立の経緯
 NPO研究フォーラム(NPO Research Forum of Japan )は、民間非営利組織
(NPO)やフィランソロピーに関する諸問題の調査研究を目的とするグループで、
大学所属の研究者およびNPOの実務家を会員とする、研究所と学会の性格を併せ
持つ柔軟な組織です。
 NPO研究フォーラムとして発足したのは1993年3月ですが、その前身は1985年
に発足した「公益法人税制研究会」に遡ります。公益法人税制研究会の研究成果は
『公益法人の活動と税制−日本とアメリカの財団・社団』(橋本徹・古田精司・本
間正明編著)として清文社から刊行され、高い評価を得ております。
 NPO研究フォーラム設立後の研究成果としては『フィランソロピーの社会経済
学』(本間正明編著、東洋経済新報社)があります。

2.事業
 当フォーラムは当面次の事業を行っております。
a)国内研究交流事業:原則として毎月1回例会を開催し、会員の研究成果の報告に
基づき 意見交換を行う。適宜公開研究集会を開催する。
b)国際研究交流事業:ISTR (International Society for Third-Sector Research)
その他 国際学会に積極的に参加する。(当フォーラムはISTRの団体会員になって
おります。)
c)調査研究事業:会員有志により研究プロジェクトチームを組織し、共同研究を行
う。

3.事務局
 当フォーラムは事務局を大阪大学国際公共政策研究科内に置いております。
   (560 大阪府豊中市待兼山町1-16 Tel:06-850-5621, Fax:06-850-5274)

4.組織
個人会員:NPO研究に従事しているか、もしくは関心を有する研究者および実務
家であ れば、会員の推薦により会員になることができます。現会員数:30余名
役員:現在の役員は次のとおりです。
   理事・会長(chairman)   本間正明(大阪大学)
   理  事 (director)    跡田直澄(名古屋市立大学)
                 出口正之 (サントリー文化財団)
                 山内直人 (大阪大学)
   理事・事務局長(president) 今田忠(笹川平和財団)
   監  事  (auditor)    三島祥宏(大阪コミュニティ財団)

5.財政
 現在はサントリー文化財団の支援により運営されておりますが、将来は個人会費、
団体賛助会費、財団からの助成金、企業、団体等からの寄付金・研究委託金等によ
り運営することを考えております。
                                  以上

……

00059/00352 NBA01616 大田 弘子    NPOの制度改革に関する緊急提言
( 4) 95/03/08 19:53

 民間の研究者・実務家で構成されるNPO研究フォーラム(会長:本間正明・大
阪大学教授)は、NPO(民間非営利組織)の制度改革に関する緊急提言を、以下
の通り発表しました。阪神大震災からの復興にボランティアをはじめとする草の根
的な民間非営利活動が重要な役割を果たしておりますが、この提言は、こうした活
動を支援するための法制、税制などの制度改革の方向を示したものです。


REV: 20151221
全文掲載
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