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「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」に関する一般的意見第5号


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「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」に関する一般的意見第5号
(1994年)*

 1994年11月25日に開かれた第11会期の第38回会合で採択
 (翻訳・解説)
 長瀬修
 *『季刊福祉労働』76号、1997年秋号(1997年9月25日)に掲載。
 翻訳は日本障害者協議会のJDジャーナルに96年4月号から9月号まで当初、掲載。

「障害者」

1、障害者の人権に関して「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」が
持つ重要性は国際社会によってしばしば強調されてきた。(注1)1992年の事務
総長による「障害者に関する世界行動計画」と「国連障害者の10年」の評価は、結
論として「障害は経済的、社会的要素と密接に関連している」とし、「世界の多くの
地域で生活条件は非常に厳しく、食料、水、住居、保健、教育といった基本的なニー
ズ(ベーシックニーズ)の提供が国家の計画の根幹とならざるをえない」(注2)と
した。比較的、生活水準の高い国においても、規約が認めている経済的、社会的、文
化的権利全般を享受する機会が障害者に対して否定されることが頻繁にある。
2、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会、ならびに先行した作業部会
は、総会(注3)と人権委員会(注4)によって、障害者が関連する権利を完全に享
受できるよう保障するという政府の持つ規約遵守義務を果たしているかどうかモニ
ターするよう明確に求められた。しかしながら、委員会の現在までの経験によれば、
障害者の人権に関して政府は報告書でほとんど関心を示していない。これは、事務総
長の「多くの政府は、障害者の状況を効果的に改善するための断固たる総合的施策を
欠いている」という結論とも符合している。(注5)したがって規約に含まれる義務
との関連において、障害者に関する問題がどのように生じるのかを研究し重要視する
のは適切である。
3、依然として障害(disability)という用語の定義に関する国際的合意は存在して
いない。しかし、本文書に関しては1993年の基準規則が採用しているアプローチ
を利用すれば十分である。同基準は次のように述べている。
 「障害(disability)は・・・全ての人口集団で起きている数多くの異なる機能的
制約を要約した言葉である。人は身体的・知的・感覚的な損傷(impairment)、医学的
状態、精神病により障害を持つかもしれない。こういった損傷、状態、病気の性格は
永続的な場合も一時的な場合もある」。(注6)
4、基準規則が採用しているアプローチに従って、この一般的意見では従来の
disabled personsではなくpersons with disabilitiesを用いる。disabled persons
はその人の「人格ある存在」(person)として機能する能力が低下しているという誤
解を生むかも知れないという意見があるからである。(訳注 本訳ではpersons with
disabilitiesを「障害者」としてある)
5、社会権規約は障害者に直接に言及していない。しかしながら、世界人権宣言は全
ての人間は生まれながらにして自由で平等であると認識している。そして社会権規約
の規定は社会の構成員全員に完全に適用されるので、障害者は社会権規約が認知して
いる権利全般を明確に持っている。さらに、特別な対応が必要な場合に政府は、利用
できる資源最大限の範囲で、社会権規約に規定されている権利を享受しようとする際
に障害から派生する不利を障害者が乗り越えようとすることを可能にするための適切
な方策を取る義務がある。そのうえ、「規定」の権利は、特定の列挙された根拠、も
しくは「他の地位」に基づく「いかなる差別もなしに行使される」という社会権規約
の第2条(2)の規定は障害に基づく差別に明白に適用される。
6、社会権規約に障害に関連する直接的な規定が欠けているのは、四半世紀以上も前
に社会権規約が起草された時点では、障害の問題を言外に示唆するだけでなく、明白
に言及することの重要性が十分に認識されていなかったことに起因する可能性が高
い。しかし、最近の国際的人権文書は障害を特に取り上げている。そのような文書に
は、こどもの権利条約(第23条)、人権と民族の権利に関するアフリカ憲章(第1
8条(4))、経済、社会、文化的権利分野での人権に関する米州条約の追加的議定
書(第18条)が含まれる。このように、障害者の人権が一般的な法律、政策、計画
そして特別な法律、政策、計画を通じて守られ、促進されなければならないことへの
理解が広まってきたのである。
7、このアプローチに基づいて、国際社会は次の文書を通じて障害者の広範囲にわた
る人権保障への決意を確認した。その文書とは(a)障害の予防、リハビリテーショ
ン、(障害者の)社会生活、発展への「完全参加」と「平等」の促進を目指す政策的
枠組みを提供する「障害者に関する世界行動計画」(注7)、(b)1990年に採
択された「障害に関する国家調整委員会もしくは同様の機構の設立、発展に関するガ
イドライン」(注8)、(c)1991年に採択された「精神病者の保護と精神保健
の改善のための原則」(注9)、(d)1993年に採択され、全ての障害者が「他
の市民と同様に・・・権利を行使し、義務を果たす」ことを保障するのを目的とする
「障害者の機会均等化に関する基準規則」(以降、基準規則と略)(注10)であ
る。基準規則の重要性は高く、社会権規約における政府の関連する義務を一層正確に
確認するのに非常に有用な参考文献である。

第1章 締結国の全般的義務

8、国連は今日の世界に5億人以上の障害者がいると推定している。この数字のう
ち、8割が途上国の農村部に住んでいる。必要なサービスが一部しか得られない、も
しくは全く得られない人が全体の7割に及ぶと推定される。したがって、障害者の状
況を改善するという課題は社会権規約の締結国全てに直接、関連している。障害者の
経済的、社会的、文化的権利の完全実現を促進するためにどの手段を選ぶかは国に
よって大きく異なるが、政策面とプログラム面で大きな努力が必要でない国は存在し
ない。(注11)

9、自国で利用可能な資源の最大限の範囲で関連する権利の実現を漸進的に促進する
という社会権規約の締結国が持つ義務は、障害者に対して否定的な影響を及ぼす可能
性がある施策を単に控えること以上を政府が行うことを明確に義務づけている。この
ように弱く不利な立場におかれている集団の場合には、障害者全員に社会での完全参
加と平等という目標を実現するために、構造的不利を減少させ、適切な優遇措置を障
害者に対して与える積極的な行動が義務である。つまり、この目的のために、追加的
な資源(財源、人材)が準備される必要があり、広範な特別施策が必要である。

10、事務総長の報告によれば、過去10年間の先進国、途上国での推移は障害者に
とって特に好ましからざるものだった。

  「現在起こっている経済的、社会的の状況悪化は低成長率、高失業率、公的支出
の減少、進行中の構造調整、民営化を特徴とし、施策に否定的影響を与えてきた・・
・現状の否定的傾向が続くならば、[障害者が]ますます社会の周辺部に追いやられ、
その場限りの支援に依存せざるを得なくなる危険性がある」(注12)

 当委員会が以前に述べている(1990年の第5回会期で採択された一般的意見第
3号第12段落)ように、各国の弱い立場の構成員を保護する締結国の義務は深刻な
資源的制約がある時にこそ重要性を増す。

11、世界の多くの政府が市場に基づいた政策を採用する傾向にあるのを鑑みるに、
この文脈の中で締結国の義務の特定の側面を重視するのが適切である。その一つが公
共部門だけでなく民間部門も適切な範囲内で、障害者が平等に扱われるよう保障する
ための規制下におく必要である。公共サービスの提供の手段がますます民営化され、
自由市場がかつてないほど頼りにされていくという文脈で、民間の雇用主、民間の商
品やサービスの提供者、その他の非公共体が障害者に関する無差別と平等の規範に従
うことは不可欠である。このような保護が公共部門だけにとどまる場合には、障害者
が社会活動の本流に参加し、社会の積極的な構成員として本領を発揮する力は深刻
に、そして恣意的に制限されてしまう。これは法的な措置が民間部門での差別撤廃に
常に最も有効であると示唆しているわけではない。例えば基準規則は政府が「障害を
持つ人、その権利、潜在能力・ニーズ・貢献に関して社会の意識を向上させるための
行動を取る」必要性を重視している。(注13)

 12、政府の介入がなければ、自由市場の作用は障害者個人もしくは障害者集団に
不満足な結果をもたらすことがある。そういった場合には政府が行動を起こし、市場
の力が生み出した結果を調節する、補足する、補償する、もしくは乗り越える適切な
措置を講じる義務がある。同様に、障害者への様々な支援に関して政府が民間の自発
的組織に依存するのは適切である一方、そのような活動があるからといって社会権規
約に基づく義務を完全に遵守する責任から政府が免除される訳ではない。「障害者に
関する世界行動計画」が述べているように、「損傷をもたらす諸条件の解決と障害の
結果への対処は共に究極的に政府の責任である」。(注14)

 第2章 実施手段

 13、締結国が障害者に関連する社会権規約に基づく義務を果たそうとする方法
は、本質的に他の義務に関して利用できる方法と同じである(1989年の第3会期
で採択された一般的意見第1号を参照)。方法には次が含まれる。
 *定期的なモニタリングにより、国内にある問題の性質と広がりを確認する。
 *確認されたニーズに対応する適切な政策とプログラムを採用する。
 *必要に応じて法律を作成すると共に、既存の差別的な法律を撤廃する。
 *予算的措置を講じる、また必要に応じて国際協力・支援を求める。
最後の項目に関し、社会権規約の第22条、第23条に則った国際協力は一部の途上
国が社会権規約に基づく義務を履行するのを可能にする特に重要な要素であると言え
る。

14、さらに、この分野での政策立案と計画の実施には、関係者を代表する集団の関
与と、その集団との緊密な協議が基本であることを国際社会は一貫して認めてきた。
このために、基準規則は障害問題に関する国家的焦点として機能する国家調整委員会
もしくは同様の機構の設立を促進するために、全力を尽くすよう勧告している。実施
に当たって政府は、1990年の「障害に関する国家調整委員会の設立、発展のため
のガイドライン」(注8)を考慮するべきである。

第3章 障害に基づく差別を撤廃する義務

15、法制と実態の両面での障害者への差別は長い歴史を持ち、様々な形態を取る。
教育機会を否定するといった不当ではっきりと分けへだてする差別から、物理的、社
会的障壁の強制によってもたらされる隔離と孤立などのような「目立たない」差別ま
である。社会権規約に関して「障害に基づく差別」とは経済的、社会的、文化的権利
の認知、享受、行使を無効にする、もしくは損なう効果を持つ、障害に基づく全ての
区別・排除・制限もしくは優遇・妥当な配慮(reasonable accommodation)の否定を含
むと定義されうる。無視、無知、偏見、誤れる仮定、排除、区別もしくは分離を通じ
て、障害者は自らの経済的、社会的、文化的権利を非障害者と平等な立場で行使する
のを頻繁に妨げられてきている。障害に基づく差別は教育、就労、住宅、移動、文化
生活、公共施設・サービスへのアクセスの分野で特に深刻である。

16、過去10年間での法律面でのいくばくかの前進にもかかわらず(注15)、障
害者の法的状況は相変わらず、心もとない。過去と現在の差別への救済を行い、将来
の差別を防止するために、ほとんど全ての締結国で総合的反差別法が不可欠のようで
ある。そのような法律は、障害者に可能かつ適切な範囲での法的救済を提供するだけ
でなく、障害者が、統合され、自己決定を行う、自立した生活を送るのを可能にする
社会政策計画を提供するものでなければならない。

17、反差別施策は、「障害者に関する世界行動計画」に「個人のニーズは重要さに
おいて同等であり、これらのニーズが社会の立案の基礎とされるべきであり、全ての
個人に平等な参加への機会が保障されるよう全ての資源が利用されるべきである。障
害者政策は[障害者の]すべての地域社会サービスへのアクセスを保障すべきである」
(注16)と述べられている、障害者と非障害者の平等の原則に基づくべきである。
18、現存する差別を取り除き、障害者に均等な機会を確立するために適切な施策を
実施しなければならないために、このような行動は、「経済的、社会的および文化的
権利に関する国際規約」の第2条2項における差別と解釈されてはならない。

第4章 社会権規約の個別の規定

A 第3条 男女の同等の権利

19、障害者は社会的な性(ジェンダー)を持たない人間であるかのように扱われる
場合がある。結果として障害女性が受ける二重差別はしばしば無視されてしまう。
(注17)障害女性の状況を特別に重視するよう求める国際社会からの繰り返しの要
請にもかかわらず、「国連障害者の10年」の期間にもほとんど何らの努力もなされ
なかった。障害女性の無視については事務総長の「障害者に関する世界行動計画」の
実施に関する報告書に数回、記述されている。(注18)本委員会は締結国が、経済
的、社会的、文化的権利に関するプログラムの実施に高い優先順位を将来は与え、障
害女性の状況に関する取り組みを行うよう強く要請する。

B 第6条ー第8条 労働の権利
20、雇用・就労分野は障害に基づく差別が顕著で根強い。多くの国では、障害者の
失業率が非障害者の2倍から3倍である。障害者が雇用されている場合でも、社会保
障、法的保障がほとんどない低賃金の仕事に従事している場合が多く、労働市場の主
流からは隔離されている場合が多い。障害者の通常の労働市場への統合は締結国によ
り積極的に支持されるべきである。
21、第6条第1項の「全ての者が自由に選択し、叉は承諾する労働によって生計を
立てる機会を得る権利」は、障害労働者に開かれている現実の機会が、低水準の条件
下のいわゆる「保護された sheltered」機関だけである場合には実現されない。ある
種別の障害者が特定の職業もしくは特定の製品の生産にしか実質的に従事できないよ
うな仕組みもこのような権利の侵害をしている可能性がある。同様に、「精神病者の
保護と精神保健の改善のための原則」(注9)の原則9第3項に照らして、強制労働
に匹敵する施設内の「治療的処置」も社会権規約とは相容れない。これに関しては、
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に含まれる強制労働の禁止も関係する潜
在的可能性がある。
22、基準規則によれば、障害者は農村部であれ、都市部であれ生産的で収入が得ら
れる就労への均等な機会を労働市場で持たなければならない。(注19)これが実現
するためには、統合への障壁全般とりわけ雇用・就労への障壁を除去するのが特に重
要である。国際労働機構が述べているように、交通、住居、職場といった分野で社会
が築いてきた物理的障壁が、障害者が職に就けない理由として挙げられてきた。(注
20)例えば、職場が車イスでは利用できないように設計、建築されている限り、雇
用主は自らが車イス利用者を雇えないことを「正当化」できる。政府は障害労働者の
ニーズに適切に対処できる柔軟で、従来とは異なる業務の態勢を推進、規制する政策
を策定すべきである。
23、同様に、障害者が利用できる交通手段を政府が保障できていないことにより、
障害者が適切で統合された仕事に就く、教育訓練・職業訓練の機会を利用する、あら
ゆる種類の機関に通う、それぞれの可能性が大きく減少している。適切な交通手段、
また、必要に応じた特別仕様の交通手段へのアクセスの提供は、社会権規約が認知し
ている権利ほとんど全てを障害者が現実のものとするために肝要である。
24、社会権規約第6条第2項により必要とされている「技術及び職業の指導及び訓
練に関する計画」は全ての障害者のニーズを反映すべきであり、統合された環境で行
われなければならず、障害者の代表の完全な関与を得て計画、実施されるべきであ
る。
25、第7条の「公正かつ良好な作業条件」は保護された機関で働くか、通常の労働
市場で働くかを問わず、全ての障害労働者を対象としている。障害労働者は、非障害
労働者と同等の仕事をしている際に、賃金や他の条件に関して差別されてはならな
い。締結国は労働者保護基準の低下や、最低賃金以下の支払いの口実に障害が用いら
れないようにする責任がある。
26、労働組合関係の権利(第8条)は障害労働者にも平等に適用され、特別な機関
で働くか、通常の労働市場で働くかは無関係である。さらに、第8条は結社の自由の
権利など他の権利と共に、障害者が自らの組織を結成する権利の重要性を強調するも
のである。これらの組織が障害者の「経済的及び社会的利益を増進し、及び保護す
る」(第8条第1項(a))面で効果的であるためには、政府機関や他の機関は障害
者に関する全ての事項に関して障害者組織と定期的に協議すべきである。障害者組織
が存続するために、財政面などで政府から支援が必要な場合もある。
27、国際労働機構は「障害者の職業リハビリテーションと雇用に関する159号条
約」(1983年)をはじめとする障害者の仕事に関して価値ある総合的政策文書を
策定してきた。(注21)委員会は社会権規約の締結国に同条約の批准の検討を奬め
る。
C 第9条 社会保障
28、社会保障と所得保障施策は障害者にとって特に重要である。基準規則に述べら
れているように、「政府は障害もしくは障害に関する要素によって一時的に所得を
失った、もしくは減らした、または就労機会を否定された障害者に対し、適切な所得
援助の提供を保障すべきである」。(注22)このような援助は、障害に関連してし
ばしば生じる支援や他の支出の特別な必要性に対応するものでなければならない。こ
の支援は障害者の介助を担当する人(圧倒的に女性)も可能な限り対象とすべきであ
ることを付け加える。障害者の家族をはじめとするそのような人は、自らの援助役と
しての役割のために、経済的支援を緊急に必要としている場合が多い。(注23)
29、障害者の施設入所は、他の理由によって必要である場合を除いて、障害者の社
会保障と所得援助の権利の代替物と見なすことはできない。

D 第10条 家族・母親・子どもの保護
30、社会権規約の「保護と援助」が家族に対して与えられるべきであるという規定
は、障害者に関しては、障害者が希望する場合、障害者が自分の家族と暮らすことを
可能にするために可能な限り全てのことがなされなければならないことを意味してい
る。第10条は国際人権法の一般的原則にしたがって、障害者が結婚し、自らの家族
を持つ権利をも意味している。このような権利は、特に知的障害者の場合には、頻繁
に無視されたり、否定されたりしている。(注24)この文脈、また他の文脈におい
ても、「家族」という用語は幅広く、適切な各国での用法にしたがって解釈されるべ
きである。締結国は法と社会政策がこれらの権利の実現を妨げないよう保障すべきで
ある。障害者は家庭内での権利の行使と義務の遂行のために、必要なカウンセリング
を利用できるべきである。(注25)
31、障害女性は母性と妊娠に関する保護と援助を得る権利も持っている。基準規則
が述べているように、「障害者は自己の性的存在としての経験、性的関係を持つ、親
を経験する機会を否定されてはならない」。(注26)このニーズと欲求はレクリ
エーションと生殖両方の文脈で認知され、対処されるべきである。こういった権利は
世界中で日常的に障害男性と障害女性両方に対して否定されてきている。(注27)
本人のインフォームド・コンセント(充分な説明と同意)がない、障害女性に対する
不妊手術と人工妊娠中絶は第10条第2項の重大な侵害である。
32、障害児は搾取、虐待、放置の対象となりがちであり、社会権規約の第10条
(子どもの権利条約の関連条項によって補強されている)にしたがって、特別の保護
を必要としている。

E 第11条 適切な生活水準への権利

33、障害者が適切な食料、利用可能な住居、その他の基本的な物質的ニーズを満た
すことを保障する必要に加えて、「障害者がその日常生活面での自立のレベルを高
め、その権利を行使するのを支援する」ために、障害者に「補助具を含む支援サービ
ス」(注28)が提供されることを保障すべきである。適切な衣類への権利も特別な
衣類のニーズを持つ障害者の場合には特に意義を持っている。障害者が社会で完全
に、そして効果的に活動するためにである。可能な限り、これに関して適切な人的介
助が提供されるべきである。このような介助は介助を受ける人の人権を充分に尊重す
る方法と精神の基に行われるべきである。同様に、社会権規約の一般的意見第4号
(第6会期、1991年)の第8段落に述べられているように、適切な住居への権利
には、障害者が自ら利用できる住居への権利も含まれている。

 F 第12条 身体的、精神的健康への権利

34、基準規則によれば「政府は障害者、特に幼児と児童が社会の他の構成員と同じ
体系の中で同じ程度の医療が提供されるよう保障すべきである」。(注29)身体
的、精神的健康への権利は、(a)障害者の自立、(b)一層の障害の防止、(c)
障害者の社会統合の支援を可能にする医学的・社会的サービス(装具を含む)を利用
し、そういったサービスから得るところがある権利をも意味している。(注30)同
様に、障害者は「最大限の自立と機能のレベルに達し、そのレベルを維持する」こと
を可能にするリハビリテーションサービスの提供を受けるべきである。(注31)こ
のようなサービスは全て、障害者が自らの権利と尊厳を完全に尊重される形で提供さ
れるべきである。

G 第13条、第14条 教育への権利

35、多くの国の学校計画では障害者が普通教育体系で学ぶことが最善であることと
今日、認識されている。(注32)したがって、基準規則は「政府は障害を持つ児童
・青年・成人の統合された環境での初等・中等・高等教育機会均等の原則を認識すべ
きである」と述べている。(注33)このような取り組みを現実のものにするため
に、障害児を普通学校で教育するための研修を教員が受けることを締結国は保障すべ
きである。また、障害者を障害を持たない同級生と同じレベルにまで引き上げるため
に、必要な器具と支援の提供を締結国は保障すべきである。ろう児を例に取れば、手
話はろう児が接すべき独立した言語として認識されるべきであり、手話の重要性がろ
う児の社会的環境全般の中で認識されるべきである。

H 第15条 文化的生活に参加し、科学的進歩による利益を享受する権利
36、基準規則は「政府は都市部であれ農村部であれ、障害者自身のためのみなら
ず、地域社会を豊かにするために、障害者がその創造的・芸術的・知的潜在可能性を
利用する機会を持つよう保障すべきである・・・政府は障害者に、劇場、美術館、映
画館、図書館といった文化的催し・サービスを提供し、これを障害者が利用できるよ
うにするよう促進すべきである」と規定している。(注34)レクリエーション関係
の場所、スポーツ関連の場所、観光地にも同様の規定が適用される。
37、障害者の文化生活とレクリエーションへの完全参加の権利はコミュニケーショ
ンの障壁が可能な限り最大限、除去されることを必要としている。これに関しては、
「本のテープ版、知的障害者向けに明確なスタイルと色彩で簡単な言葉で書かれたも
の、ろう者に対応したテレビや劇」などが有用な方策である。
38、障害者が文化生活に平等に参加するのを促進するために、政府は社会全般に対
して障害に関する情報提供と教育を行うべきである。特に、障害者に対する偏見や迷
信を取り払うための措置が取られなければならない。てんかんを魔物に取つかれる現
象とみなしたり、障害児をその家系への罰の一種とみなすのが、偏見や迷信の例であ
る。同様に一般社会は、障害者も他の人と同じく食堂、ホテル、レクリエーション施
設、文化的施設を利用する権利を持っていることを認めるように教育されるべきであ
る。

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(原注)
*1994年11月25日に開かれた第11会期の第38回会合で採択された。
(1)この件に関する総合的な見解は障害と人権に関する特別報告者であるレアンド
ロ・デスポーイの最終報告書(E/CN.4/Sub.2/1991/31)参照
(2)A/47/415, 第5段落
(3)「障害者に関する世界行動計画」を採択した1982年12月3日の総会決議
37/52参照。また、A/37/351/Add.1 ならびにCorr.18を参照
(4)人権委員会決議1982/48,第4段落と人権委員会1982/第7段落参

(5)A/47/415, 第6段落
(6)国連総会決議48/96、1993年12月20日の付属文書(Annex)、序文の第
17段落
(7)障害者に関する世界行動計画、A/37/351/Add.1 and Corr.1, 第8章、第1段
落(訳注 これは決議37/52の第3章第82段落に当たる)
(8)A/C.3/46の付属文書(Annex)。「途上国での障害に関する国家調整委員会も
しくは同様の機構の設立、発展のためのガイドラインに関する国際会議」報告書
(CSDHA/DDP/NDC/4)も参照。経済社会理事会決議1991/8並びに総会決議49/96(19
91年12月16日)も参照。
(9)総会決議46/119(1991年12月17日)の付属文書(Annex)。
(10)(6)の序文、第15段落を参照。
(11)A/47/415の随所
(12)A/47/415、第5段落
(13)注6参照、規則1
(14)注7参照、第3段落
(15)A/47/415、第37・38段落
(16)注7参照、第25段落
(17)注1参照、第140段落
(18)A/47/415、第35・第46・第74・第77段落
(19)注6参照、規則7
(20)A/CONF.157/PC/61/Add.10参照、12頁
(21)障害者の職業リハビリテーションに関する勧告99号(1955年)と障害
者の職業リハビリテーションに関する勧告168号をも参照
(22)注6参照、規則1、第1段落
(23)A/47/415 第78段落
(24)注1参照、第190段落と第193段落
(25)注7参照、第74段落
(26)注6参照、規則9、第2段落
(27) E/CN.6/1991/2、第14段落ならびに第59段落ー第68段落
(28)注6参照、規則4
(29)同上、規則2、第3段落
(30)障害者の権利宣言(1975年12月9日の総会決議3447(XXX))
参照、第6段落。注7も参照、第97段落ー第107段落
(31)注6参照、規則3
(32)A/47/415、第63段落
(33)注6参照、規則6
(34)同上、規則10、第1・2段落
(35)A/47/415、第79段落
---------------------------------------------------------------

(解説)
 本文書は文書番号E/1995/22, E/C.12/1994/20「経済的、社会的および文化的権利
に関する委員会第11および第12会期報告書」の付属文書IVである。
 1948年に国連総会で採択された「世界人権宣言」に法的な拘束力を持たせるた
めに「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」(社会権規約もしくはA
規約)と「市民的および政治的権利に関する国際規約」(自由権規約もしくはB規
約)が1966年が国連総会で採択された。
 規約の加盟国は国連の経済社会理事会に5年毎に報告書を提出する。社会権規約に
関する加盟国からの報告書は、18名の専門家から構成される「経済的、社会的およ
び文化的権利に関する委員会」が検討し、提出国政府と協議を行う。
 障害分野に関してはこれまで各国政府の報告書でほとんど触れられていない経緯が
あり(本文の第2段落参照)、障害者に関する一般的意見採択を契機に各国政府はそ
の報告書で、障害者の人権を取り上げるよう求められている。
 一般的意見は拘束力を持たないが、社会権規約の解釈に関する権威ある文書とし
て、政府や関係者に影響力を持っている。
 注目されるのは、社会権規約に関して、NGO(非政府組織)が独自のカウンター
レポート(対抗報告書)を提出することができることである。さらに、政府の報告書
を検討する際に、NGOが口頭で発表することもできる。これは国連の人権分野でも
異例である。
 日本政府は1979年に両規約を批准している。外務省人権難民課の話では、日本
政府の次回報告書提出は1997年はじめの予定である。

(参考文献)
久保田洋他「国連・NGO実践ハンドブック」1993年、岩波書店
 国際連合広報センター編・監訳「国際連合の基礎知識」、1991年、世界の動き

 テレジア・デグナー「国際的意味合いにおける障害者の人権」『ノーマライゼー
ション 障害者の福祉』1995年11月号、41ー44頁
Aliston, P. (1995) "International Covenant on Economic, Social and Cultural
Rights", Degener, T. and Koster-Dreese, Y. (eds) Human
Rights and Disabled Persons pp. 94-105, Martinus Nijhoff Publishers
 阿部浩己、今井直「テキストブック 国際人権法」1996年、日本評論社
 小田滋、石本泰雄(編)「解説条約集第6版」1996年、三省堂
 日高六郎(監)「国際化時代の人権入門」1996年、明石書店


REV: 20151221
障害者の権利条約  ◇国際連合  ◇全文掲載
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