HOME > 全文掲載 >

「編集後記」


last update: 20151221


編集後記


 千葉大学・社会学専攻3年生にとっての一大イベント「社会調査実習」。丸1年に及ぶ調査の末,ようやくここに幕を閉じることができた。
 思いおこせばちょうど昨年の今頃,テーマが「障害者」に決まったとき,「一体どうなることやら」というのが私たち大半の本音であった。「だって私たち,障害を持つ人のことなんて全然知らないのに……。」けれども,いまこうしてでき上がった報告書に目を通すと,むしろ何も知らないで調査をしたおかげでオリジナリティーのある原稿が書けたのだな,と思われる部分もある。そもそも「何も知らない」からって,気にすることはなくて,自分自身が障害を持っていてもいなくても,障害を持つ知人がいてもいなくても,それぞれその人の立場で「障害者」が抱えている問題を考えればいい。「そんなこと,自分には全く関係がないよ。」そう言い切れる人なんていないはずだもの。
 この調査で私たちは,「自分の立場から考える」ということはできたと思う。けれど,それが上に挙げたような様々な立場の人に伝わるか,という点が心配である。実際この1年間,初めてのこと尽くしであった。これだけの人数でこれだけ時間をかけて調査をするのも,インタヴューも,何もかも。大概のことはクリアしてきだが,最も大きな壁となったのは,不特定多数の人に読まれるにふさわしい文章を書くことであったと思う。原稿の直しにはかなりの労力を費やした。その成果があらわれていればいいのだけれど。
 この報告書には,面白い発見がちりばめられている。そしてそれらは,私たちが今まで「当たり前」とか「本当のこと」と思っていたものを壊してしまう。例えば,行政の行なうサービスを最大限利用しようとする障害者を見て,自分たちと違うなと思う。本当は行政に対して積極的な姿勢で望んでもいいはずなのに,そうしないことが当たり前になっている私たちは,社会は,一体何なのか。障害を持つ人とのコミュニケーションがうまくいかないと感じた時,その原因は彼の障害そのものにあると思い込むことがある。その原因がむしろ,障害を持つがゆえに置かれてしまう環境にあるのだとすれば,これまでの障害者に対する先入観,さらには自分のコミュニケーションに対する考え方を変えていかなければならないだろう。……ね,「当たり前」がそうじゃなくなってるでしょ?
 本当は「謝辞」なんかで締めくくっちゃうのはいやなんだけど,これだけは言わないと。お忙しい中,私たちのインタヴューに応じてくださった方々に感謝します。皆さんの興味深いお話は,どんな本を探しても載っていない貴重な資料として,最後まで活用させていただきました。心からお礼を申し上げます。
 そしてこの1年間,私たちの調査を支えてくださった奥村先生,立岩先生,本当にありがとうございました。おふたりの面倒見の良さについつい甘えてしまい,ずいぶんとご迷惑をおかけしました。でも,こんなにすばらしい先生方と調査をすることができて,とても幸せです。
                            
                               1994年4月24日
                   社会調査実習報告書編集長  曲淵 優子

  ▲この報告書の目次へ


REV: 20151221
全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)