終章「座談会――調査を終えて」
last update: 20151222
終 章
座談会
――調査を終えて――
この座談会は,原稿が大体でそろってきた4月4日に,11人の学生が中心になって行なったものです。内容的には,各章のまとめや検証というより,1年間の調査実習を振り返りながら,それぞれが反省や感想を思いのまま述べたものです。ここでも,本篇に劣らずバラエティに富んだ発言が飛びかい,この調査が私たちに与えた影響の大きさを改めて感じました。なお,実際の座談会は約3時間を要し,非常に長くなってしまったため,ここでは要約したものを掲載します。
参加者:上條達雄,石井雅章,金山信一,井上智紀,大石由美子,曲淵優子,加藤展子,小山雄一郎,寺本晃久,梁井健史,國分夏子(発言順),奥村先生,立岩先生
上條 調査実習もようやく終わろうとしています。きょうは実習を振り返って思い出すことなんかを自由に話してもらおうと思います。
【初めて障害者と接して】
上條 僕は(プレ調査で)JILの総会(1993年6月)が初めてだったんだけど,最初は気をつかって,丁寧な言葉を使って,傷つけたりしないようにとか考えて接しました。トイレ介助とか,寝返り介助とか,いろいろ苦労しました。
石井 JILの総会って言えば,障害者用の改造車を車庫から出そうとして危うく死にかけたことがあった。車庫から車を出して,交替する時に,サイドブレーキを引こうかと思ったら,サイドブレーキがなくて,おかしいなあと。で,ここにレバーがあると思って引いたら,それが手動アクセルで…。
金山 乗る時に,自分で車椅子をたたんで後ろのシートに入れて,自分で運転していたのに感心した。乗り移るために車椅子から板を渡して,そこを滑っていって。何か手伝いましょうかって言ったんだけど,全部自分でできるからいいって。
上條 僕と井上と金山で夜の寝返り介助をやったんだけど,金山君はそれについてはどう?
金山 たまにやるからできるかなと。あれを定期的に寝返り介助頼みますって言われたらできるかなあ。
上條 結構気をつかって寝てて,ちょっとした音で起きたり。
金山 明け方になって,(寝返りが)3回目か4回目の時には俺はもう…。上條と井上はさっと行くんだけど,俺が起きた時にはもう終わってて。
上條 泊まった日の夜,障害者の人達が飲みに行こうってことになって,車椅子を押していったり,酒を飲む時に手伝ったりして。
金山 みんなすごい明るい人ばっかりで,俺達が恐縮してた。
上條 何か,圧倒されてた。まあ,ビールでも飲みなよと言われて,「はい」と。
大石 どんな話したの?
上條 そん時はね,あまり話してなかったよ。
井上 話してるのを聞いてるって感じだった。あの人達の間で世界ができてて,そのノリで話してたから,俺達は勝手がわからないで,ただ聞いてた。
上條 3人でこじんまり並んじゃってて,それで,(介助の)ヘルプがあると行って。
金山 全国から集まってるんだけど,情報交換が密なのか,和気あいあいとしてた。
曲淵 それやってみて,本調査の時はやりやすかった?
上條 どうだろう…,でも,インタビューって形をとると,緊張したね。いくら接したことがあるといっても,やっぱり言葉とかに気をつかった。でも,個人的にはいい体験だったと思う。介助なんてやったことなかったし。
加藤 車椅子を押すだけでも大変。夏のインタビューの帰りに,インタビューの相手の人が次になにか予定があったらしくて,「じゃ,八王子の駅まで送っていって」と言われて,押していったら「あなたはうまいわねえ」とか言われて,すたすたと前に行って…。バランスがとれなくて,真っすぐ行こうとしても,ちょっと道が傾いてたりすると,それてしまって。
石井 そうそう。(JIL総会の)2日目に,送るのに何度も往復したんだけど,やってもらってるほうも,慣れない奴が来ているなってわかるらしくて,「僕の命は君にかかっているからね」と言われた(笑)。ま,冗談だったけどね。確かに,坂があるとあっという間に行ってしまうし。
上條 一度ずれると修正するのも大変だよね。
石井 そうそう。段差がいかに辛いかがよくわかった。
上條 電動車椅子の人って上手いよね。ちょっとしたスペースでもくるっと回転しちゃったりね。
加藤 切り返しとか上手だよね。
上條 でも,あれ重いんだよ。前に足を挟まれたことがあって。個人的にインタビューにいって,帰りにエレベーター使って,僕が降りたところでふっとよけたら,車椅子が来て,足の上を通っていって…(笑)すっごく痛かったんだけど,気をつかわせちゃまずいと思って,何でもないふりをしてたんだけどね。…結構電動車椅子,重いんだ。
小山 船橋(FIL)の人が来た時も,階段を上がるのに4,5人で持っても重かった。
石井 確かに重い。
奥村 5月にアンケートをやってもらった時,皆は今までほとんど障害を持つ人に会ったことがないと答えてくれた。それが,JILの総会行ったり,その後本調査行ったり,まずどのあたりで,びっくりしたり,わからなかったこと知らなかったことがわかったりしたのか,それを皆に聞きたいんだけど。
上條 僕は,最初に総会に行って驚いたんだけど,その時は驚いてるだけで,まだ考える余裕はなかった。考え始めたのは,本調査終わって,自分のテーマを決めてからかな。
奥村 驚いたというのは,何に驚いたの?
上條 僕が4月の時点で知っていたのは,養護学校にいる人達だけだったんだけど,その人達に比べて生き生きしてて,自分が考えていた(障害者の)イメージと違ったことに驚きました。
小山 (障害者に)接するのは初めてじゃなかったから,びっくりしたというのはないけど,ただ脳性マヒで言語障害を持っている人と,そうじゃない人とでは印象が違うなあと思った。例えばこちらの気のつかい方がやっぱり違う。言語障害のために言葉が聞き取りにくい時,本当だったら聞き返さないといけないんだけれども,インタビューしている3人でなんて言ってたか話し合ったりしてしまったり。
大石 言語障害がある人と,一言二言じゃなくて,1時間以上話すことなんて初めてだった…。インタビューをとったテープを文書に起こしたのを読んでも,それは自分のペースで読んでるから,その人が実際どんな人かわからない。でも,私は聞き返すことであまり気をつかったりすることはなかったかな。
寺本 僕は,調査の時はあまり驚くことはそうなかったな。まあ普通だなあと。で,驚いたのは,10月に養護学校にいった時にショックを受けました。あと,2月に初めて介助をやって,新たな発見をしました。これが現実なんだなあと,こういうことを毎日誰かがやっているんだと。
【インタビューってたいへん!】
大石 インタビューするのって初めてで,一番最初は介助者の方にインタビューだったんだけど,どういう話題を作っていったらいいか,話の持っていき方とか,困ったね。(本調査の)2日目からもこんな感じかと思うと,1日目はすごく気が重かった記憶がある。インタビューは難しいなと思った。
曲淵 うちらもインタビューに行く前に,誰がメインで質問して誰がノート取ってとか決めていったんだけど,行ってみると滅茶苦茶で(笑)。だけどだんだん慣れていった。
石井 俺と寺本君は,最初は公園でやったよね。聞きたかったことが,すぱすぱ終わってっちゃう。答えが一言一言で終わっていって。それで,話を作るのが大変だったけど。
寺本 あまりしゃべらない人だったから,30分くらいで終わるんじゃないかと思ったけど。でも,ずっと聞いていくうちに細かいことも聞くことができて,まあなんとかなったかなあと。
曲淵 相手がしゃべるのが好きな人だったら時間が足りないぐらいだったんだけどね。
石井 話がそれたのを元に戻すってのは大変だね。だんだん話がずれていって,面白いんだけど,最初に聞いてたのと違うことをしゃべってたりして。テープ起こししてわかったんだけど,話がそれると,奥村先生が「それはいいんですけど」って,だんだん乱暴になっていってる。(笑)
曲淵 でも,本調査で苦労したから,その後(追調査などで)インタビューしてても,わりとスムーズにいったよ。だから,今後にも生かせるんじゃないでしょうか。
上條 最初はインタビューって難しいなって実感した。帰ってきて反省しちゃったもん。
曲淵 インタビューの前の日に,一緒に行く人と,こんなことを聞こうって打ち合せをするんだけど,だいたいめちゃめちゃ狂っちゃう…。でも,狂ってもいいのかもね。自分の思いついたことだけじゃなくて,いろんなことが聞けるし。
上條 相手の情報がないと困るよね。初日にインタビューした人が,「おもちゃ図書館」っていうのをやってたんだけど,どういうことなのか全然わからなくて。でも相手はそのことについて聞きに来たんだろうと思って話したがるんだけど,俺達何のことだかわからなくて,「勉強してないんで」って言葉を何度も使った覚えがある。
大石 やっぱり始めに下調べというか,その人がどんな人でどんなことをやっててっていうのを知らないと…。あと,こんな意図で,これを聞きたいとか,そういうのをはっきり持ってないと,結局何を聞いたんだかわかんなくなることがあるんだなと。始めのうちは下調べなんかやらなくても聞きたいことが漠然とわかってればなんとかなるやと思ってやってたけど,後からテープ起こししたものを読むと,いかに変な質問をしているかってわかるじゃない。だけど実際インタビューしているとわからない。これから先も誰かにインタビューすることがあるかもしれないけど,そういうことを考えないと…。
加藤 慣れないと,誘導尋問みたいになったりして,後から(テープ起こしを)使おうと思っても,相手が「そう」しか言ってなかったり。(笑)
曲淵 質問と答えの形になってなかったり。
梁井 それ多かったよ,行政班では…。「これってこうなんですよね」「はい」って。
小山 行政班って勉強不足が心配で,行政のことなんて絶対文章化されてどこかにあるんだろうけど,全然それを準備しないまま行っちゃったからね。
梁井 でも,話題には困らなかったけど。
石井 やっぱ基本タームは抑えといた方がいい。生活保護他人介護加算とかフェイスシート(→資料T)で聞くことになってて,みんな聞いてるんだけど,その前に「生活保護は受けてません」って言ってるんだよ。そういう共通項目は抑えといた方がいいな。
曲淵 間抜けだよね。
加藤 でも,その時は必死なんだよ。(笑)
上條 フェイスシートを端から聞いていって,最初から「年齢は?」なんて,そりゃ失礼だろ。
梁井 一番最後の「友達はいますか?」のほうが…。(笑)
上條 ああ,あの最後の。
梁井 「友達いますか? あ,いますよね」とか言って,やめた。
大石 「友達いますか?」って聞き方はさすがに失礼だよね。
上條 でも,何も知らないで聞いたってのが,逆によかったかもしれない。僕は最初交通のことなんて全然気にもしてなかったんだけど,聞いてたら,この人たちはこういうことで困ってるんだってわかった。それで,自分のやるテーマを決められたから,この点に関してはよかったな。何にも知らないで行って,かえって驚きが大きくなった。
【みんな悩んだテーマのお話】
曲淵 私も,本調査行くまでは,障害者と聞いても,「差別問題」しか思いつかなかったのね。だから,それをテーマにするしかないのかなって思ってたけど,調査に行って色々あるんだなってわかって,…そういう点で変わったな。
上條 他にも,合宿終わってからテーマが変わった人もいるけど,そういう人達はどう。
小山 行政班なんかみんなそうだよ。
梁井 話聞いた後に謎が出てきて,それを追ったってところかな。
曲淵 その前は何をしようとしてたの?
梁井 何も考えてなかった。
小山 ただ,漠然とあったのは,(CILは)行政と喧嘩してるんだろうと。でも,そうじゃなかった。それから後は4人で分担して。
上條 寺本君は突然変わったけど,いつ頃だったの?
寺本 やっぱり10月に養護学校に行って,それから悩んじゃって,これはどういうことだろうと思って。それを思うと,夏にインタビューした人達は僕達と変わんないなと。ただ,足とかが悪いだけだと感じるようになったのが始めかな。それでしばらく考えてて,12月ぐらいになってやっと決めて,でもそれでもこの先やっていけるのかわからなかった。ちょうど年末に京都を旅行してて,そこの本屋で『福祉労働』が出ているのを見つけて,ピープルファーストの特集をやってたので,もうこれしかないと思った。それで,旅行中に読んで,感動しちゃって,1月3日に帰ってきて,すぐ石毛さん(『福祉労働』編集長)なんかに電話してなんとかつないでもらって。
石井 1月3日に寺本君から電話がきて,「7日にJIL行かない?」って。(笑)
寺本 10日にはインタビューに行ったりして,それからが早かったっていうか。
立岩 何に感動したの?
寺本 (身体の障害だけの人のようには)自立なんかできないんじゃないかと思ってた。でもそうじゃないんだって,例えば情報を得るだけで済むんだってことがわかったから…。
上條 他の人も,たとえば意識班の人も大分変わったと思うけど。
曲淵 変わってない人の方が少ないんじゃない? 加藤さんぐらいじゃない,変わってな いのって。
加藤 私は自分のテーマに固執して…。でも,やっぱり私の中でも,以前は障害者を差別しちゃいけないとか,障害なんて言葉を使ったらいけないんじゃないかと思ってたけど,それがもう普通の人というか,障害を持ってる人を見ても驚かなくなったのね。町の中で出会っても,前はじっと見たりしてはだめなんだと意識してたけど,でも,ただ「いるな」っていうふうに,特別なこととして感じなくなった。
上條 大石さんはどう?
大石 加藤さんの言ったことを私に当てはめてみると…,まだ,そんなに障害を持ってる人を普通に暮らしてて見かけないじゃない。変わってないというか,例えば私がインタビューしたある人なんか,ずっと寝たままで,話も大変で,聞くほうも大変だったんだけど,それでもそんなに驚きはなかったし。いて当然だと思うし,…うん。
加藤 へぇー,私は衝撃的だったけどね。生活保護で暮らしてるし,周りには趣味の物とかもいっぱい置いてあるんだけど,ほんとに寝るスペースしかないし,日当たりも悪い部屋で寝てるのよ。枕元でインタビューしたんだけど,言語障害もあるし,その時は衝撃的だった。そういう人にインタビューしたから,町で見かけても何とも思わなくなった。
大石 私がびっくりしたのは,生活保護を受けてるから貯金をしちゃいけないとか,趣味をするにも,私たちよりは努力を必要とするとか,その人の持ってる考えがすごくポジティブだったとか,そういうことかな。
上條 そういう面では國分さんも,旅に出る人を見て,テーマを変えたと思うんだけど。
國分 私が会ったのは,ポジティブな考えを持っている人の中でも,最もポジティブな人で,やっぱりそういう人は生き生きしてて,やっと楽しい人生になったんだって人がいて,「こういう人もいるんだよ」ってことが言えたら面白いなって思った。でも,やっていくうちにそんなことよりも,出て行けない人をどうやって出られるようにするのかということのほうが先だなって思うようになった。驚いたことといえば,私がインタビューした人も,車椅子なんだけれども,冒険家に憧れてて,びっくりした。でも,そんな夢を持ってもおかしいことじゃないんだなって気付いた。
【CILの印象】
奥村 今まで,「障害者」ってどんな人か,そういう人と会ってどうだったかっていう話だったよね。今度は,3つのCILに行ってみて,CILってどんなところか,3つともそれぞれ特徴があったと思うんだけど,どこが違うのか,とにかく初めてCILというものに出会ってみて,どんな感想を持ったか,話してもらいたいんだけど。
石井 まだよくわからないのは,結局CILがどれだけ広まっているものなのかということ。立川なんかは目立たないところにあるけど,隣の人が本当に知ってるのかってことが,よくわからない。機関誌を見ればいろいろ問い合わせがあるのはわかるけど,それが実際どれだけの規模でやられているものなのかわからない。
梁井 あの3つの団体は(運営が)うまく行ってるほうで,船橋はまだ介助者がいないとか,他の所で自分たちで(CILを)作ろうとしても,まだそれを支える力がない。
金山 今回調べて,東京は財政も豊かで福祉関係に力を入れる行政だったけど,それに比べて,福島(金山の出身地)なんかはそうではなくて,そういうお金の面での基盤があるからCILもやっていけるんじゃないかと思った。東京はホームヘルパー制度もなかなか良くて,CILの負担がそれほどでもないけど,もし福島県の一市町村でホームヘルパーがないような所でCILをやっても,需要を賄いきれないだろう。
小山 結局,ホームヘルパーを地方でちゃんと整備すれば,CILはいらなくなるのか。今のところ,CILは行政のやれない部分を賄って存在意義があるみたいなところがあるから,じゃあ行政が全部やってしまえばどうなるのか。3つのCILでも,行政のやれない所を補ってやっていこうという所もあるし,今は自分たちが行政の肩代わりをしてやっているだけで,早く行政は整備しろというところもある。で,そういう主張のわかれ方というのは,介助サービスを前面に押し出してるところと,自立生活という理念を打ち出して運営をすすめているところとの違いと結構一致している。
上條 実際にCILを利用している人達の意見も沢山あったと思うんだけど,どうだった?大石 私がインタビューしたのは,青森から来た人なんだけど,向こうは制度的にも整ってないし,周りの人の偏見もあるってしきりに言うのね。だからわざわざ東京に出てきたというくらいで,こっちに来たら全然違うって。周りの人の視線も違うし,道も良くて外に出やすいって。
石井 さっきの地域の話に戻るんだけど,結局,どこも苦労してるんですよね。出だしは結構勝手な団体ですよね,独りで生活している人がいるから介助サービスをやらなければならないとか。でもその勝手さを許すか許さないかというレベルで,やりやすさが違うと思う。東京の方が周りの人が気にしなくて,勝手なことをしててもやればいいじゃないかって。そういうことが役所の方もあると思うんです。全部を見渡している暇はないとか。どっちかっていうと地方の方が勝手なことをさせない。例えば福祉行政に関しても,全部見えちゃってて,ここは自分たち(行政)のテリトリーだからって。勝手な団体が発展しやすい場所としにくい場所があるような気がする。
奥村 自立生活運動という「運動」を調査したわけなんですけど,その,運動のノリの部分で,3つの団体に共通したノリやそれぞれでノリが違うところとかなかった?
石井 JILの総会に行った時がやっぱり活発で,驚いたんだけど,その活発さってのに,内輪のノリをすごく感じました。それは何かなと考えると,生活する範囲が広がって,全国の人と会って話をする機会が増えたりする楽しさがあるんじゃないかと思った。CILで活発にやってる人のノリというのは,それをやって場が広がっていってる部分が大きいんじゃないか。でも,やっていくうちに,意見が違ってきて,あそこはこうだけど,うちはこうだってのが出始めて,そこまで行くとただ内輪のノリってわけでもない。最初からそんなに時間が経ってないんだけど,どんどん発展してってる人達なのかなって思う。もう既に自分たちと相手の比較とか,意見のぶつけあいとかを積極的にやってるんで,どんどん変わっているという気がする。
上條 僕も,札幌いちご会の機関誌等を読んだんだけど,それぞれがしっかりした組織になってて,特に札幌なんか機関誌もしっかりしてて,時どきは他のCILから誰か来たと取り上げたりしてて,お互いにうまくやってる。交通に関して言えば,全国でデモ行動を同じ日にやってるんだ。それぞれのCILが自分たちの場で,それぞれの規模は小さいんだけど,みんなで同じ日にやると大きな運動になるんだなと思った。
【出会った人のこと】
奥村 どうだろう,この人にあってこんな印象を持ったっていう風な素朴なレベルの感想は何かないですか。
石井 立川のスタッフのAさんに会って,初めて障害者の人に圧倒されました。自分たちが8人でインタビューに行って,1対8で,1が勝つんですよ。障害があることを感じないとかじゃなくて,迫ってくるんですよ。そのぐらいのパワーがある。やってる人によってCILのノリも変わるし,それは当事者の側もわかってるんじゃないか。
上條 僕がAさんに会ったのはアポ取りの時でした。その前に町田に行ってスタッフの人と会ったんだけど,すごく穏やかな人でお互い恐縮して「うちでは自立生活に重点を置いてるんですよ」,「自立生活の体験室があって,こういう場所を設けて障害者の自立生活に役立ててるんですよ」って言われて。そうなのかと思って,立川に行くと,Aさんが電話でがーっと話していて,どこか行政の人と話してたみたいだけど,ちょっと間が空くと電話で話して。「部下のことをさん付けで呼んでやがる,なってねえ」とか言って,また電話して。こわい人だなあと思った。(笑)
加藤 ピア・カウンセラーのBさんのインタビューに行ったのね,3人で。やっぱり,ピア・カンのことを聞いたんだけど,感情を解放していいんだよ,生まれた時はみんな平等なんだよって,カウンセリングされてるみたいだった。(笑)それに圧倒されないように,その雰囲気に負けないように,それだけで必死だった。
大石 すごかったよね。
加藤 あれはもう障害とかには関係ない。
小山 個人的にインタビューに行った,3つ以外の自立生活センターのCさんに聞いたんですよ。3つともタイプが違ってるんですが,こちらはどうですかって。でもそういうことは考えてないって言うんですよ。他のセンターは他でやってるし,うちはうちでやってるし,JILの総会なんかには行くけど,普段は考えないって。だから,あの3つは別としても,他の自立生活センターはあんまりそういうことを考えてないんじゃないかなあ。
石井 系統があるっていうか,今のAさんとか,BさんとかCさんとか,あんまり他を気にしなくていいような所は,自分たちでやっていけるんですよね。やっぱりすごいパワーのある人がいてやってる気がして。で,そこから分散して,地方から来て勉強して行くって所になると変わってくる。それがJILの総会で感じたものかなあ。中心になる人がいて,どうもそういう人達を尊敬しているって雰囲気があった。
小山 ちなみに,そのCさんっていう人は,見た目は穏やかな人なんですけど,話してると,頭の良さが話の節々に出るんですよ。理論的な話をしたら絶対こっちが負けるなっていうのが,ちょっと話しただけでわかる,この人は凄く頭がいいんだろうと。だから,組織を運営するのも,物凄くうまいんだろうなって思う。
上條 でも,全部のインタビューがうまくいったわけでもない?
奥村 あるインタビューで,途中まで全然噛み合わなかったことがあった。みんなが「どうやって障害を肯定されたんですか?」とか聞くんだけど,むこうは「肯定なんて…」って相手にしてくれないわけなんですよ。で,ずっとそういう感じで進んで,全員がストレス感じちゃって,向こうもちょっといらいらしてるようで。いろんなこと感じましたが,ひとつは調査のテクニックで,向こうが軽く乗り越えてるようなことを聞いてたっていうのはある。そうすると,相手はそんな初歩的なこと聞くなって態度を取る。もうひとつは,CILのピア・カウンセラーの人なんかに会うと,その人達はとてもポジティブなわけでしょう。でもその人と会ってそういう感じは,率直に言ってしなかった。その人はとても頭のいい人なんだけれど,現在それに見合う仕事が得られてないわけだし,いろんなことやろうとしてるけど必ずしもうまくいっていない。でも,これが多分本当のところなんだという感じがした。つまり,他にポジティブな姿勢をたくさん聞いたんだけど,それは多分話の半分ではないか,そうでない人もたくさんいるはずだ。それがわかったという意味で,そのインタビューに行って良かったなと思いました。どうですか? 一緒にインタビューした人は。
加藤 強烈でしたね。それまでのインタビューでは,下手は下手なりに聞けることは聞けてたんですよね。で,最後の土曜日になって,さあ最後だっていったら,聞くこと聞けなくて…。凄い衝撃だった。
【それぞれの面白かったこと】
立岩 今回の調査で面白いのは,一つのことをずっと前のほうに押し出してるっていうところだけが面白いんじゃなくって,ちょっと読んだり聞いたりしたその時点ではわかんなかったかもしれないけど,例えばテープを起こしてみて,きっちり読んでくと,すごく複雑なことっていうかなあ,何か出てくるって気がするんですよ。
で,Aさん,まあパーソナリティーの話をしてもしょうがないんだけど,割と強烈な性格だけれども,彼は繊細な人でもあるわけですよ。例えば,働くってことについて彼いろんなことをしゃべってて,すごく,両方のこと考えてるっていうかな。つまり一つには,ちゃんと働ける,だけどこの社会の中で働けないのがおかしい,もっと働けるようになんなきゃっていうことがある。それと同時に,でもやっぱり,じゃあみんな同じように働けるかっていうと,それはそうじゃなくって,いろんなことを整備しても働ける度合って人によって違うわけですよ。で,そういう人のことも知ってるし,間近に見てるし,考えて来た,それはちょっとじゃなくって10年も20年も考えて来たと思うんですよね。両方を見ながら,何を言ってくかっていうことを,考えてるんですよ。実際に読んでみるとね。そういう面白さっていうかな,それはものを考える面白さっていうことでもあるんだけれども,そういうのが,わかってくれたらよかった。Dさんっていう人もね,彼もある意味ではすごく能力あるわけじゃん。英語なんて僕なんかよりずっとできるしね。翻訳なんかやってるわけで。だけどやっぱり,自分が能力があって,そういう人がどんどん雇用されてって,っていうことだけ考えてるわけじゃなくって,同時にもう一つのことを考えてる。
どっちのことを言おうか,どっち向いて考えたらいいか,って迷うっていうかなあ,考えなきゃいけない場面っていうのが,本当は,働くってことの他にもいろんな場面にあると思うんだけど,僕らは普段あんまりそんなこと考えない,だけどああいう人達はいろんなものの境目みたいな所にいるからすごく繊細になる。現実に対して繊細になってくるっていうのかな。そういう面白さが,僕はあると思う。それは面白いことだなと思うんですよね。だからまあ,逆に言うと,この人たちがやってることは大変なんだけどね。そういう気が一つするな。
奥村 それぞれなんか面白かったことってあったと思うんですよね。それぞれの人が。例えば,話を聞いた時に面白さを感じた人もいれば,テープ起こしをしている時に,面白いと感じた人もいれば,なんかそれに関する論文とか資料を読んでいって新しい発見をしたりした時に面白いと感じた人もいただろうし,文を書くっていうところで面白いと感じた人もいるかもしれない。何が面白かったのかっていうのをちょっと話してもらえると,いいかもしれない。
上條 僕は,交通のことでいろいろ文献や実態を調べている時が面白かった。まず,成果が目に見えてわかる面白さがあって,ああ調べたからこれがわかった,これがわかったってだんだんと増えていくのが一つ面白かった。もう一つ今まで,テレビとか報道とかでも行政のことやってるから,少しは知ってるかなって思うんだけども,実際行政が何をやってるのかっていうことが全然考えてもなかったことで,どういうふうに行政が対応をしていて,どう決まっていくか,どう実行されてくか,っていう部分的なものをかいま見ることができて,面白かったなと思いました。ただ,残念なことは,せっかくインタビューをとったんだけど,じっくり読んでそれを十分生かすことができなかった。今回は制度ばっかり扱っちゃってて,実際どういうふうに障害者の人達が受け入れているのかっていうのがあんまり見れなかったんで,それは残念だなと思ってます。
井上 調査実際にいく前といった後の内面の変化がみんないろいろあったんでそういうのを見れたなっていうのが一番面白かったな。あと,ほかの人達の感想とか文章にしてあるのとか見たりして,やっぱりみんな少しずつ見方変わってるんだなっていうのを,改めて感じられたっていうのが一番面白かったです。
曲淵 うーん,私はもう自分のやりたいことが思う存分わがままにできたので,とても楽しかったです。私の場合は,テーマが変わったというよりは,もとに戻ったっていう感じで。最初から視覚障害についてやりたかったんだけど,本調査では対象がCIL中心だったから,メディア班なので,センターの機関誌とか,テレビの取材とか,冊子とか無理に路線変更して調査してたっていうのがあってね,でも何か違うなって思って。で,(本調査の)最後の日に視覚障害者の方にインタビューしてみて,やっぱりこっちの路線に決めようと。追調査をたくさんやらなきゃいけなかったけど,結局対象とかが具体的に決まっていれば,もうインタビューもすごく楽で,何を書きたいかってことがどんどん出てくるんだなってわかって面白かったです。
加藤 面白いと思ったのは,障害者にインタビューして,もちろん障害者の中にもいろんな考え方の人がいるっていうことと,それと同時に,調査している私たちのほうも,それぞれ全然考え方も違うし,何に対するっていうんじゃなくって,もうすべてのことに関して,個人的な価値観っていうか,本当に違うなってすごい思った。インタビューの中でも,障害者の人が,いろんな人がいるから面白いなんて言ってるのがあって,本当に,今回の調査で,障害者側に対してもそう思ったし,同時に自分たちに対しても,そうなんだなって,そういう違いがわかることだけでも,私はすごい楽しかったって思いました。
大石 私は,障害者とは限らず,人それぞれかなっていうので全部くくってしまう癖があって,やっぱり会っていろいろ話を聞いた中でも,本当にいろんな人がいろんな考えを持ってて,これを何かに書くっていうのはえらい大変なことだなって思った。一言でいったら人それぞれで終わっちゃうようなことを。とにかく話を聞くこと自体が面白かった。
小山 面白かったこと…まあ,さっきも言ったけど,別に行政と喧嘩してなかったっていうこと…。今日までの中で,一番面白かったのは,原稿書いてて,制度のでかいことやってんですけど,自分で「こんな制度は可能だろうか」なんて考えてる時が楽しかった。あと,自分の中で,例えば今まで気にもしなかった新聞やニュースの中で障害っていう言葉がでてくるとたんに反応しちゃって,新聞のどうでもいい記事なんか切り抜こうとか思っちゃって…何か,すごい意識するように,反応するようになっちゃったなって。最近一番思ったのが,昨日まで塾講師のバイトやってたんですけど,中学一年ぐらいのちっちゃいガキが,「今日電車ん中にさあ,障害者がいたでしょ,すっごいこわかったよね。気持ち悪くってさあ」って,あれくらいの頃って,言いたいこと全部言っちゃいますから。で,前だったら,別に何も考えずに,「お前そんなこと言っちゃだめだよ」って言うところが,その時は言えなかったんですよね。なんで言えなかったかっていうと,そういうふうに考えるやつもいて,インタビューしたらああいうことがあって,そういう考えが頭の中で先にまわっちゃって,とっさに,「そういうこと言っちゃだめ」っていう言葉が出なかった。最近そう思ったってことが自分では面白かったです。
國分 旅行を楽しんでいる人の話を聞いている時が一番楽しかった。特に私が調べてる中で,旅行会社と障害者が言い分をぶつけあってるところがあって,どっちの立場に立っても,ああそうだよな,って両方を肯定してしまって,じゃあはて自分は一体何なんだっていう時に,自分は全然なってないっていうか。自分は何なんだっていうところが,今回に限らず今までの自分の中にいっぱいあるんだな,そこが自分に足りないんだなっていうことを原稿を書いている時に,知らされたっていうのと,それがすごく苦痛だったっていうのと…。
金山 最初,班分けした時から,行政っていうのは考えたんですけど,何でこれをやったかっていうと,自分にも役立つテーマがいいなと思って,決めたんです。というのは,やはり自分もこれから行政の制度とかを,何かしら使って行くと思うんですよね。その制度,障害者に関する制度を調べていくことによって,結構自分にもプラスになるんじゃないかと思って選んだんですけども,結局やってくと,実はすごい大変なことで,やっぱりいろんな制限があって,複雑すぎて簡単にはとらえきれないものなんですよ。年とか障害の程度とか,あとは収入とか,そういった制限があって,でも障害者の人達は,いろんなネットワークで,こういう制度があるよ,だから使った方がいいよっていう情報の交換を密にやっているというのをすごい思ったんですよね。行政の制度っていうのは,知らないと利用できないんですよ。これがありますからみんな使ってくださいっていうような姿勢じゃなくって,こういうのがあるんだけど,使いたい人は使ってくださいとか,あんまり宣伝しないんですよね。で,そういうとこを,障害者の人達ってのは,貪欲に,使える制度は,使えるだけ使おうっていう姿勢があって,やっぱりそういうのは,本当に必要としている人と,僕らみたいに,まあ何があるんだろうな,くらいの人の違い…やっぱり当事者たちは本当に,必要にせまられてやってるんで,行政を利用し尽くすというところがあって,自分たちの求めているものが行政にないところは,どんどん変えていってもらおうっていうところが実感できたのは,楽しかったです。
梁井 ええと,上條くんと同じで,新しい発見があって,各市町村とか都道府県の行政について,どっかに資料があることじゃないことを,現場の声として聞けたっていう発見が面白かったです。で,そういう部分が面白くなかったところでもあり,こっちもよく知らないことで,聞くと向こうもよく知らなくて,「何ですかそれは」「あなたどなたですか」とか疑われて。「で結局何に使いたいんですか」とか,そういうふうに聞かれて,…「わかんない」って言われて,電話に出た人がわからなくて,相手の代わった人もわかんなくって。こっちもどうやって聞き返そうかっていろいろ考えると,もう胃が悪くなりそうで…面白い点と面白くなかった点が同じだった。
石井 面白かったことは,3つくらい。一つは,インタビューで,障害者の人とか,話す機会のなかった人ともしゃべれたし,あとは研究室でも,いろいろ話ができた。いろんな考え方や,自分じゃ思いつかないような視点とかもいろいろ知って,その中から自分なりにいろいろ考えることができたっていうこと。あとは知識として,行政のことなんかで,具体的に,年金とか名前ぐらいしか聞いたことなかったのが,なんか仕組みがわかって。あとは,例えばCILとか,いろんな活動してて,多分こういう理由でやってるんだろうなっていうのを考えて,でも裏ではこういうふうに考えてんのかなとか,もしかしたら全然気がついてないけどそういうことを,CILの活動でやってるのかなとか,いろいろ思いついて。でも実際にやってる方法は,ぽこんとひとつあるわけじゃないですか,現実に。じゃあ,どうしてそれをやってんのかな,とか,そういうことを考えるのが楽しいんですけど,書いてる時にはことさら苦痛で,(原稿が)終わらないっていう…。でも多分終われば面白いんじゃないかなと。
寺本 僕は,知らないことを知るってことが一番面白かったですね。それも,本当にあんまり知られてないことを,しかも,文献になってないようなものや印刷物になってないようなデータとかを,つてをたどって捜し出して,何でもいいから訳したりして,そういうのが,一番楽しかったです。もう何かあったらすぐ,例えば雑誌を見てああこの人いいこと書いてるなって思ったら,その人にすぐ電話とか,そういうふうになって,そういうのが面白かったし,ためになったことでもあります。あと,印象に残ったのは,ある養護学校にインタビューに行って,先生にインタビューしたんだけど,その先生が,ここの学校はすごくいい,とか完璧だって言っていて,その時は納得してたんだけど,でも何かちょっと違うなっていうのがずっとあって,こんなに自信持ってて本当にいいのかなっていうのが…。人間相手にしてるのに,これで完璧だっていうのが,そんなに言えるもんかなって思ってて,それがずっと心に残っています。
【先生方のコメント】
奥村 ちょっと内容の点で立岩先生にコメントしていただきましょう。
立岩 俺は,要求水準高いですから,基本的に。幾つかは,かなりオリジナリティの高い原稿が実際出てるところがある。ただ,このラインで,もうちょっとやるとこれはかなりすごいものになったのではないかと,いう気がするんです。
やっぱり調査報告書だから,まず人が知らないこと調べてきたぞっていうのがほしいわけで,そこんとこは,まあまあぐらいだけどうまくいったとこと,もうちょいのとことあるかな。あと,僕はやっぱり報告書をお金もかけて時間もかけてやるんだったら,なんか外に対してメリットがあることを出そうって言ったわけだけれども,ここはどうかな。もう少しやればもっとうまくいったかもしれない…。あと数日でどこまで行くかっていうのがちょっとわかんないですね。
それから一人一人が報告を書くっていうレベルの話だと,まずね,文章が下手である。基本的に。書き慣れてないって気がするのね,やっぱし。今まで書いてきてない。書いてもまあ,単位がつくだけですから,下手なもん書いても,書いてあればだいたい「可」はきますから…。自分の文章を点検する機会があんまりなかったっていうのが一つある。技術的なことをいうとそういうこと。ただ逆から言えば,この報告書を作る過程で,何回となく文章を差し戻して,チェック入れて,話をして,文章書く訓練ってものをこちら側が強要してさせたわけで,そういう意義はあったとは思う。
それから,書いてあるのに言えてないっていうか,出てるんだけど出てないっていうか,そういうもったいなさがすごくあるんだよね。これは売れるぞっていうところをもっと売った方がいいのに,非常に謙虚でですね,売ってないというところがある。それは,一つは,何を言うと買い手がつくのかっていう市場についての知識がないっていうこともあるかもしれない。そのためには何が問題なのかってことを把握してないといけないわけだから,勉強不足ってことだね。もう一つは,文章ってのをどう書いていくか,やっぱ何かストーリーを作って,これは知らないだろ,こんなこと考えたことないだろっていう,そういうのを出していく,そういう文章の書き方っていうのがまだできてないんだよね。それがまあ惜しい。かなりそういう方向に向けて強引に誘導してきたんだけど…。
それから,僕は勝手なことは非常にいいことだと,常々思っているんだけれども,ただ,勝手ってことは責任とらなきゃいけないということでもあるわけ。現実の現実性を引き受けたうえで言いたいことを言えたら非常にいいんだろうけど。相手が言ってることを十分に汲みつくした上で,やっぱりお前はばかだとかね,言えればかっこいいわけだけど,それがもし本当ならいいんだけど,実は自分の方がばかで,相手が言ってることを理解しきってなくて言ってるってことが,あるかもしれない。まだ相手に勝ってないっていう気がします。
だけど,そういう意味では,もっとぼおっとした調査だとね,そういうふうにもいかないと思うんですよ。つまり,現実に向き合って,それから自分の側にあるものを点検して,それから考えを詰めてものを書いていくっていうふうにはいかないはずなんです。大体こういうことがわかりましたよって,わかりましたってことはだいたい最初から知ってることで,それをなんとなく並べて書くっていうこと以上になかなかいかないわけですよ。
まあそういう意味じゃあ,結果としては志半ばで恐らくこれは終わるだろうと,中途なものとしてできあがるんだろうと思うけれども,中途までいった,まではいった。下手するとそこまでいかなかったかもしれないし。まあ,良かったかなあと。そういう気が今んとこしてます。でもあと何日かかって,結果としてどうなるのかってのは,まだ読めない。非常に今しんどいってことですね。(編集はそれから1月かかった)
奥村 今,みんなの原稿が出てきて,読んでるわけですけど,一つはね,立岩さんが言ったことと同じことを感じるのね。つまり,書くということ,人に伝えるっていう訓練がすごく大事だなって気がするのね。自分が何かこういうことを伝えたいとか,あるいは自分がこういうことを思ってるっていうことと,それを人にわかるように伝えられる,あるいはその前の段階として,何が自分の思ってることで,それがどう面白いのかっていうのを自分でわかるってことは,全然違うことで,自分でわかるとか,自分で伝えるためには,ものすごい習練がいる,あるいはそのために大学で勉強してるんだ,っていう感じがするんですね。なんか面白いものが中に入ってたけど,全然うまく書けていない,全然伝わってこない,あるいはちょっとは伝わってきたけど,それは一生懸命読まないと伝わってこない,っていうような文章が最初はすごく多いわけです。それが,自分の言いたいことはこういうことです,っていうのが,少しずつ出てきて,で,それをどんどんシェイプアップして,今は多分かなり言いたいことを伝えられる文に,なっているんではないかという気がする。
別の言い方をすると,言いたいことにちゃんとそれに値するだけの証拠がなければいけないわけですよね。すごいつまらないことを言うには,その程度の証拠があればいいし,すごく大きなことを言うには,それだけ重たい証拠がなくてはならない。そのアンバランスっていうのは大変もったいないわけで,ちょうど身の丈にあったことが身の丈にあった証拠で言えていると良い。もちろん多くの証拠で多くのことが言えてれば一番いいわけで,言いたいことと,それを裏付ける証拠との釣り合いっていうのが,最初はなかなか取れないわけですよね。その釣り合いとるっていう作業を,今まで少しずつやってきたと思うんです。うまく最後のとこまでできてるかどうかっていうのは,もちろん人によって違うと思うんですが,皆さんにとって多分良い経験ではなかったかなって気がします。
もっと素朴な感想を言うと,僕はこれを読んで,すごく面白いと思います。何が面白いかというと,一つは,今回インタビューという形を取ったわけですが,それを皆さんなりにのっけていて,話を聞いてきた内容自体が面白い,っていうことがある。でもそれだけじゃなくって,もう一つ面白いのは,変な色がついてないってとこが面白い。ふつう,こういうテーマについてはこういうことを言っちゃいけないっていう「あたりまえ」があると思うんです。もちろんもっといろんなことを踏まえて言わなければいけない,ということはあるだろうけど,そういう,言ってみれば今までのしきたりとか先入観とかを少し離れたところで,一方にインタビューしてきたという事実があって,もう一方にそれぞれ皆さんがいて,向き合って,書けることを書いたっていう感じがするのね。そこに今まであったいろんなものをもってきて,それで何か結論を出してしまっては,それは多分今まですでにある結論になってしまうと思うんです。「あたりまえ」からではなくて,それぞれが,自分の立場はこうです,そこから今言えることはこれですってことを言っていて,それによってもしかして今までに言えていないことが言えてる箇所が幾つかあるのではないかという気がするんですね。それと,今日話を聞いても思うのは,その「自分の立場」っていうのは,はじめは全然はっきりしてなかった。それが,調べたり,考えたり,書いたりしていくうちに,初めてはっきりしてきた。最終的には,それぞれが自分の立場から書くところまで自分を追い詰めたっていう気がする。そういう意味で,皆さんが調査した相手と,きちんと向き合ってるという感じがする。それが,今僕なんかが,読んでみて感じる面白さではないかと思うんです。
上條 どうもありがとうございました。まだ編集が終わってないけど,それぞれの中で締めのようなものになっていればいいと思います。ご苦労様でした。
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1993年度社会調査実習参加者一覧
◆社会学研究室教員・
鈴木 春男
天野 正子(1993年度・調査実習副担当)
尾形 隆彰
大澤 真幸
奥村 隆(1993年度・調査実習主担当)
立岩 真也(助手として調査実務を担当)
・ ◆3年生・
浅倉 優香(教育班)
雨宮 健人(就労班)
石井 雅章(社会運動班・質問紙調査担当・副編集長)
石川佳代子(メディア班)
石政信一郎(就労班)
井上 智紀(メディア班・質問紙調査担当)
大石由美子(意識班・編集委員)
大塚佳代子(行政班)
加藤 展子(意識班・編集委員)
金山 信一(行政班)
上條 達雄(メディア班・編集委員・調査団長)
國分 夏子(メディア班・質問紙調査担当・編集委員)
小山雄一郎(行政班・調査副団長)
呉 小萍(就労班)
寺本 晃久(教育班・質問紙調査担当)
原田 康行(行政班)
曲淵 優子(メディア班・編集長)
増田 智子(意識班)
松丸 紀子(教育班)
松本 暁(意識班)
宮崎 理絵(メディア班)
梁井 健史(行政班)
渡邊 和宏(意識班)
※班所属はすべて7月の「本調査」時のものである。
■言及
◆安積 遊歩・立岩 真也 2022/**/** 『(題未定)』,生活書院
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