第13章
交通アクセス問題をめぐる経過と現状
Kamijo, Tatsuo
上條 達雄
last update: 20151221
はじめに
交通機関は全ての人が自由に利用できる。つまり誰でも好きなときに鉄道やバスを使って、自分の行きたいところに行くことができる。誰でもそう思っている。だが「交通アクセス問題」という言葉がある。今になって「交通に近づく」とはどういうことだろうか。
交通に求められるのは何か。まず効率の良さ、そして便利さ、快適さといったことであろう。今回障害を持つ人たちに話を聞いた。それまで施設や家庭の中にいた障害を持つ人たちが地域の中で生活を始めようとしている。さらには電動車椅子が開発・改良され、多くの肢体障害を持つ人が外出する機会が増えた。
我々が普段当たり前にしている「外出」という行為を、やっとできるようになり始めた障害者は、街に出て、その不便さを実感した。交通機関利用の不便さもその一つである。つまり、誰でも利用できるはずの交通機関を利用することができない人、あるいは利用することが非常に困難な人がいる。これまでの交通は誰に対して便利で、効率が良く、快適だったのか。もちろん十分満足いくものではないが、それは健常者のためのものであった。
交通アクセス問題はそれを利用するのが辛い人たちの問題である。だがそれは少数の人達の問題ではない。いずれは自分もなる高齢者、大きな荷物をもった旅行者、妊婦、ベビーカーを押す母親、買物カートを使う人など、全ての人が「交通弱者」「移動制約者」でありうる。「交通アクセス問題」とは、全ての人が置かれうる「ある特定の状況」の呼び名なのである。
T 現状
1 ハードウェア改善の必要性
なぜ、今、交通アクセスが問題なのだろうか。そして、それはどういう問題なのだろうか。
例えば、駅で車椅子に乗った人や視覚障害の人を見かけたことがあると思う。その人たちが階段を上ってホームに行くときに何人もの人に手伝ってもらったり、あるいは、視覚障害の人が切符を買うのに苦労していたり、ホームから落ちそうなほど際に寄っていて危ないと思ったことはないだろうか。
実際、障害者が交通機関を利用するに際して、事故や乗車拒否などのトラブルが何件も起こっている。その人たちにとっては現在の交通ターミナル施設や車両などは、必ずしも利用しやすいものではない。むしろ利用しづらいものである。我々はどこかに出かけるときに電車、バス、車、飛行機などの交通手段を使う。誰もが使うそれらのものを、使うことにとても苦労する人もいる。そういう現状がある。それをどうしたらいいのか?簡単に言えば、これが交通アクセス問題である。
利用しづらい人には他の人が手伝えばいい。これが一つの答えである。駅で危なかったり困ったりしていたときにいつも駅員やまわりの人が助けてくれれば、それも良いかも知れない。しかし、それは利用者にとって必ずしも最善のことではない。車椅子の人が駅の階段を移動するとき、まず駅員や周囲の人に介助を頼まなくてはいけない。人に何かを頼むときは気を使わなくてはいけない。それだけでなく手伝ってもらっていることに恐縮することもあるだろう。また時には駅員も忙しく、待たされる。常にまわりの人に手伝ってもらえるわけでもない。交通機関は気楽に利用できなくてはいけない。そこでは、エレベーター、スロープなどのハードウェアの整備が一つの解決策になり得る。そうすれば、車椅子の利用者も健常者と同じように気軽に駅を利用できる。
一方それらの提供者、つまり交通機関側はどうだろうか。多くの駅で駅員は車椅子の障害者や年寄りが移動するのに手を貸している。それらの「移動制約者」は今後増加する傾向にある。駅員だけでは十分に対応しきれなくなるだけでなく、効率も悪い。提供者の側にとってもハードウェアの整備が課題となる。
エレベーターなどのハードウェアの整備はソフトウェアを否定するわけではない。例えば視覚障害などで情報を入手することが困難な人には手助けが必要である。ハードウェアが完備されても人の手を必要とすることは多く残る。しかし、それはハードウェアの整備と矛盾しない。設備・機械によって対応できる部分を整備することは、使うべきところに人を配置することができることにもつながるのである。
ここまでは誰にも異論はないはずである。では、あとはともかく「障害者用」に設備を整えていけば良いということになるか。そう単純ではない。いくつかの基本的な問題を考えておかねばならない。これをUで検討し、Vでそれを巡る障害者側の運動と行政の対応について報告する。これが本報告の主題となるが、その前に、T−2で交通機関を分類し、T−3でこれまでの改善の状況について簡単にまとめておくことにする。
2 分類
ここで現在の交通機関を分類するとともに、本稿で取り上げる対象を整理しておく。
*公共交通機関
・大量輸送交通(大量輸送、定期路線を特徴とする交通機関)
・鉄道:エレベーター、エスカレーターなどの設置
・バス:リフト付きバス、低床スロープ付きバスの路線化
・航空機
・個別輸送交通(Door To Door型交通機関)
・バス的なもの
・タクシー:ハンディキャブ1)も含める
*私的交通手段
・自家用乗用車:免許制度、購入制度、改造コストなど
・自動二輪、原動機付き自転車、自転車
・その他:(電動)車いすなど
このように交通機関といっても、鉄道、路線バス、観光バス、航空機、タクシーや送迎用のリフト付きバン、自家用乗用車など何種類もある。その中の鉄道にしても、車両と駅舎では問題が異なり、さらに駅舎だけでも、スロープ、エレベーター、点字ブロック、点字の案内板、障害者用トイレなどの設備の問題がある。それら全てについてここで検討することは到底不可能である。
本報告ではおもに最も利用者の多い鉄道と路線バスについてみる。中でも、駅のエレベーター設置、リフト付きバスの路線への導入を検討の主題にする。それには理由がある。それまで各自治体まかせだった対策から、現在、全国レベルでの改善と制度化を求める要求が、DPI日本会議2)という組織が中心になって進められており、その中で駅のエレベーター化と公共バスのリフト化が大きな柱になっている。また、私と國分(→第12章)が行ったアンケート3)でも、駅の中の設備について一番早く改善して欲しいものは何ですかという質問に対して、8人中7人がエレベーターと答えている。以上から、上記の2点にしぼって本稿では報告する。
3 駅舎及び路線バス改善の現状
移動制約者対策がどのようにされてきたか、駅舎の垂直移動手段と路線バスについて報告する。
はじめに駅舎での垂直移動について。車椅子用ステップ付きエスカレーターが初めて設置されたのは1985年、横浜市だった。またエレベーターに関しては、1980年に大阪市で設置されたのが最初である。その後の設置状況は以下のようなものである。4)
1982年末 1991年
国鉄 エスカレーター設置 73駅 JR エスカレーター設置 171駅
エレベーター設置 41駅 エレベーター設置 110駅
私鉄(大手15社) 私鉄(大手15社)
エスカレーター設置 75駅 エスカレーター設置 214駅
エレベーター設置 23駅 エレベーター設置 69駅
この10年間で、2倍から3倍は増えたことになる。さらに平成4年(1992年)版『運輸白書』の「高齢者・障害者等のための公共輸送機関施設整備等の状況」という表によると、身体障害者用トイレの設置駅数は同じ10年間で3倍から4倍に増えている。1991年の段階で、改札口の拡幅、自動券売機への点字テープ貼付、誘導・警告ブロックの設置の項目に関しては、それぞれ 1,200駅以上が実施している。なおJR(当時は国鉄)の点字ブロックに関しては1983年に義務化されており、1991年で 1,776駅と高い数字を出している5)。そしてこれらは現在、1991年6月の「鉄道駅におけるエスカレーターの整備指針」をはじめとする各種のガイドラインに沿って進められている、と運輸省は述べている。
また、近畿圏内の交通機関の現状についての調査6)によると、アクセス可能駅(エレベーターやスロープなどが整った、障害者も比較的容易に利用できる駅)の割合は次のようになっている。
阪急電鉄 45.2% 近畿日本鉄道 34.6% 京阪電鉄 29.3%
南海鉄道 21.2% JR西日本 19.4% 阪神電鉄 13.0%
自治体別では、京都市では67%、神戸市では93%の駅がアクセス可能になっている。また大阪市では、地下鉄について、1991年より約 130億円をかけて、エスカレーター51基、エレベーター16基を1996年までに設置する方針を出した。
次にバスについて。バスをめぐる状況の改善の動きはまだ新しく、1991年に東京都で超低床スロープ付きバスが運行を開始し、大阪と京都市でリフト付き路線バスが運行されたばかりである。
1992年度末でのリフト付きバス運行の現状は、大阪市22両、東京都16両、横浜市8両、名古屋市・京都市・神戸市それぞれ3両、全国で計55両となっている。7)
東京都交通局の平成5年度(1993年度)予算要請資料によると、1993年から3ヶ年計画で約5億円をかけて、リフト付き超低床バス整備助成事業8)を進めるらしい。これが実現されると、都営バスでは 2.5%、民営バスでは 1.3%の車両がリフト付きバスになる。
以上、徐々にではあるが障害者の使える交通機関が増えていることを見てきた。しかし、ただ増えれば良いのだろうか。そうではない。以下では、いくつか考えておくべき、解決すべき基本的な問題があることを指摘し、それについてどのような論議がなされ、どのような方向に向かいつつあるのかを報告する。
U 交通のあり方
1 利用に対する制限
まず、交通機関の整備・改善以前の問題として、障害者の交通機関の利用に対する行政による制約が存在する。
バス乗車について1978年に出された運輸省自動車局の局長通達「車いす利用者の乗合バス乗車について」9)には以下のような規定がある。
「2.乗降等に必要な介護人が同伴していること。
……
5.車いすは、車内では固定場所においてブレーキをかけた上バンド等により固定する こととし、運転者への必要な合図等は介護人が行なうこと。」
また、運輸省陸運局の「盲導犬及び車椅子乗車時に関する乗車事項」によっても、以下のような規制がなされている。10)
・バス1台につき車椅子1台限り
・バスの構造上、車椅子は折り畳むか、一定の場所に固定バンドで固定すること
・通勤、通学ラッシュ時の乗車を避けること
・車椅子1台に介助者2名以上を伴う
こうしてバスについては付き添い乗車が義務づけられており、単独乗車は現在も認められていない(鉄道では、21年前(1973年)にすでに認められている)。そして、繰り返すまでもなく明確な文章で、通勤・通学時には乗れず、2人以上の車椅子の人が同時に乗れず、1人につき2人介助者が必要で、指示するのはその介助者であることが規定されている。障害を持つ人のために何かすることの前に、まずこうした規制を見直し、不要なものから廃止する必要がある。
2 どんな設備がよいのか
同じ交通機関を使う場合にも、同じ建物の中で移動する場合にも、移動を容易にするために取り得る手段は、技術的には、一つしかないわけではない。では、移動さえできればそのいずれでも良いのだろうか。あるいはかける費用が少なくてすむ手段がよいのだろうか。そうではない。移動制約者にとってどれが望ましいか、これが第2の問題である。
まず、車椅子での駅内の垂直移動に関してはどの方法が最適か。現在その方法としてエレベーター、エスカレーター、簡易リフト、ステッピングカー、スロープなどがあり、各々長所もあるがいくつかについては問題点も指摘されている。
ステッピングカーについては説明が必要だろう。これはキャタピラ式の階段昇降機で、これを使えば、それまで車椅子を持ち上げて運ぶのに4人くらい必要だったものが、1人で足りるようになる。また駅自体の改造を必要としない。1992年3月1日現在、JRでは52駅56台、大手私鉄6社では21駅21台が稼働している。しかし移動するスピードが極端に遅く、駅員が使い方を十分習熟していないために手間取るといった問題がある11)。 そして実際、京王線の北野駅では、これを使用の際、途中で機械が滑って転落し、入院するという事故が起きた12)。 このように安全面にも課題がある。
エスカレーターについても同様に安全面での問題点がある。普通のエスカレーターを車いすの人が利用する場合、前輪を上の段、後輪を下の段と2段使うことになる。車輪を動かないように固定できるため、下で支える介助者はほとんど力を使わずに済むが、それでも必ず一人は介助者が必要である。そして何よりも障害者自身かなり体が傾き、慣れない人には非常に恐い。スキーで後ろ向きに滑る様子をイメージしてもらいたい。それに似ている。万が一、車輪が動いた際には大事故につながる。13)
これらに比べ、エレベーターは少なくとも駅舎内の垂直移動手段としては、安全性は高く、積載人数も多く、輸送速度も速い14)。 実際、当事者側もエレベーターが望ましいと考えている。
ではバスについてはどうか。リフト付きバスがよいのか、スロープ付き低床バスがよいのか。
第1に、バスが停車する場所の構造にもよるが、スロープでは段差を解消しきることはできない。介助者が必要だ。一人で乗車できる方がよいのならリフト付きの方が望ましい。
第2に、スロープ付き低床バスは、その構造上、従来であれば床の下部中央に収まる機械類を側面に分離させている。つまりバス車両を前から見て上から切断した床の断面図は凹型になる。そして健常者の座席は高い場所にあり、車椅子は低い場所に収まることになる。つまり、両者の座席の高さにかなりの段差がある。障害者は健常者と話すときにかなり見上げなくてはならず、低床バスには不満の声もある15)。 我々も友達とバスに乗って一人は見上げながら、もう一人は見下ろしながら話をしなくてはいけなければおかしいと思うだろう。それと同じことである。その点リフト付きバスの床は同じ高さである。
他にも、各々について長所・短所があるらしく、それらを検討した上でないとはっきりしたことは言えないが、以上の2点をみればリフト付きバスを選択すべきだということになる。後に見るように、当事者が要求しているのもリフト付きバスの方である。16)
このように、利用する側にとっては、移動できさえすればそれで良いわけではない。ところが、障害を持つ人のための対策を講ずる、講じてあげるという発想のもとで、このことが忘れられがちである。というか、設備を整える側が、何が利用者にとって良いのかを知らない。知らないのは当然なのだが、知らないから意見を求めるという発想をすることがなかった。一番安易な手段がとられ、それが利用を制約することになり、せっかくの設備が十分に使われず、結局高くついてしまうことにもなる。
3 誰もが使えること
駅にはエレベーターが必要である。そして先に見たように設置件数自体は増えてきている。しかし、これまで障害者のためにといって設置されてきたエレベーターは、多くの場合、障害者専用のエレベーターである。「障害者専用」でよいのか。これが第3の問題である。
1991年8月、問題を投げかける一つの事件が起こった。8月17日の夜から翌日の朝まで、埼玉県熊谷市のJR熊谷駅で23歳の車椅子の女性がエレベーター内に閉じこめられたのである。17)
熊谷駅のエレベーターは障害者専用であり、一日の稼働回数が少なく若者のたまり場にならないようにとの防犯上の理由から、エレベーターに鍵がついており、それを近くの交番が管理していた。本来なら駅員か交番の警官が立ち合わなくてはならないはずだったが、その時は警官が駅まで乗せてきたタクシーの運転手を介助者とまちがえ、運転手の方は警官に任せればいいと考えたために、両方帰ってしまったことから、この事故が発生した。
この事故は利用者を誰にするかという問題を提示している。実際議論がなされた。その多くが一般の利用者にも開放すれば、これらの事件はなくなることを指摘したものだった。現在のところ駅のエレベーターは障害者専用がほとんどである。今まで行政側から出されたガイドラインのもとで改善が進められてきたが、この事故のような問題は考えられてこなかった。また、改札を通らない(通れない)位置に設置されていることが多いため、無賃乗車を防ぐためにも、通常は鍵をかけ、利用の度に駅員を呼び出す必要があった。もしこのエレベーターが一般の乗客が通行する場所に設置され、利用可能なものだったのなら、より多くの人が利用することができ、このような事故も起こりえなかったはずである。
安全性だけの問題ではない。「移動する」という行為について考えてみよう。ある場所から別の場所へ単に物理的に動くことが移動であろうか。何人かの仲間と駅を利用したとしよう。その中に車椅子の人が一人いたとする。エレベーターがあるため車椅子の人はそれを利用しようとすると、障害者専用で何人かの仲間は階段を使わなくてはいけなかった。些細なことである。しかしそのために盛り上がっていた会話が中断されたりすることもある。ただ物理的に身体を目的地まで運べばそれで良いというわけではない。一緒に移動していることに意味がある場合もある。快適で楽しいということも移動には必要である。わざわざ障害者と健常者の移動の方法を分離することはないし、それは逆に不自然なことではないか。
だから、ただ数量的に設備を整えればよいというのではない。特殊な設備を特別な場所に作るのではなく、交通・移動機関全般が誰にでも使えるものであるべきなのである。
ただ、鉄道や路線バスの整備だけでは、全てについて十分に対応することはできないだろう。T−2で分類したように、公共交通機関には鉄道やバスなどの大量輸送交通とハンディキャブなどの個別輸送交通がある。東京、大阪などの都市部では大量輸送交通網が発達しているから、それでかなりの程度をまかなえるはずである。しかし、地方によっては鉄道やバスの路線も十分ではなく、本数も少ない所もある。また雪が多いなどの気候の違いによっても状況は大いに異なる。人はさまざまな場所に行きたがる。都市部においてさえ、自分の行きたい場所まで必ずしも鉄道やバスが通っているわけではない。主要な大量輸送交通を補助するための交通の整備もあわせて必要である。タクシーやハンディキャブなどがこれに相当する。
この二つの形態の兼ね合いを考える時、アメリカ合衆国の交通政策が良いモデルになる。アメリカでは大量輸送交通と個別輸送交通が、各々、メインストリーム(Main Stream)、パラトランジット(Paratransit)の形で分けられている。メインストリームの整備は、カリフォルニアのように気候が温暖で交通網が整っている地域で、いち早く実施された。しかし、交通網が発達していない地域、あるいは冬の雪道ではバス停などに行けない地域もある。それらの地域では、パラトランジットが提供される。パラトランジットは、いわゆる Door To Door Service (リフト付きのバンによるタクシーのようなサービス)で、多くの場合、予約制で複数の人と乗合になる。アメリカではパラトランジットをメインストリームの補完交通ではなく、それ自体を一つの公共交通と位置づける。また、どれか一つを選択するのでなく、組み合わせることで交通システムを整えている18)。
つまり、大量輸送交通の整備だけでは十分とは言えない。移動手段として、鉄道や路線バスでは賄いきれず、ハンディキャブなどの個別輸送が不可欠な地域もある。誰もが交通機関を利用できるためには、個別輸送交通の整備も同時に考えていく必要がある。
4 法律の整備
これまで交通機関の整備は基本的に交通事業者に委ねられていた。事業者側に計画がなければ障害者たちは直接駅や会社側と交渉をし、設置を要求するという方法をとることになる。その過程は非常に厳しく、例えば都営新宿線の本八幡駅から江戸川区にかけての5つの駅を車椅子でもアクセス可能にするのに1973年から13年もの月日が費やされた。立川駅のように1981年から同じく13年間も交渉しているが、いまだに改善されないケースもある19)。
だが公共交通機関の問題は、その字のごとく特定の人や事業者の問題ではなく、公である自治体や国の問題である。そのため行政が法律を制定して取り組むべきであるとする考え方がある。
多くの都市や町は、駅を中心にして道路や繁華街、公共施設などが形成されている。また多くの人が移動するために駅を利用している。その意味でも、駅は街の重要な公共施設である。公共の建物に建築基準を定めている法律がある。「建築基準法」である。ならば、駅舎などの交通ターミナルを使いやすいようにするためには、その基準を細かくすればいいのではないか。結論から言うと、そう単純ではない。というよりも、法律すらない。どういうことなのか詳しく説明するためにと、「街づくり運動」を取上げなければならない。ただし、この運動の詳細な説明を行うのではない。あくまで、駅舎などの交通ターミナルの改善と法・条例の整備との関係で見ていくことにする。
街づくり運動の理念は「誰もが住みやすい街づくりをしよう」ということであり、具体的にはデパート、ホテル、美術館から一般の道路、駅舎も含めた公共施設を、誰でも利用しやすい建築構造にしようという運動である。具体的には、公共建築物に対する細かな建築基準(出入口の幅、円滑な移動を可能にするエレベーターなどの設置、トイレなどの整備)を規定し、その遵守を求める。そしてこれを実現するために、基準が守られない場合は罰則も与えることのできる拘束力を持った法規定が必要だということになる。
先にも触れたように、現在、建築物の構造に関しては「建築基準法」によって、出入口の幅などの最低基準やそれらを満たさなくてはいけない建築物の条件などが定められている。またこの法律により建築確認を拒否することができる。すなわち一定の強制力を持つ。そして各自治体ではこれに基づいて「建築基準条例」が作られている。しかしこの「建築基準法」に問題がある。
まず、そこで規定されている建築基準が甘いことが挙げられる。そのためスロープ、出入口の幅、トイレなどの設備が不十分で障害者が利用するには困難な建物が多く、不満の声が上がり、街づくり運動が行われている。
次に交通ターミナルに関しては、駅舎は「鉄道事業法」(1976年法律第92号)によって規制され、管轄は建設省でなく運輸省であり、建築基準法の対象外とされている。そして鉄道事業法では駅舎の建築構造に対する必要な規定がない。そのため現在、駅舎整備は民間の鉄道事業者に委ねられている。
これまでも建築基準法以外に、自治体や国からは、さまざまな障害を持った人も利用しやすい施設の建築に関して要綱やガイドラインなどは出されていた。しかしそれらは皆、こうするのが望ましい、という指針であり、法的な拘束力がなく、守らなくても罰則は課せられない。そこでとられたのが、建築基準法に基づきながら独自の規制を行なうことである。建築基準法の第40条では、地方の特殊性に応じて付加的要件20) を定めることを認めている。1990年に神奈川県はこれを適用し、建築基準条例を改正した。これによって特殊建築物には新たな建築規制がされるようになった。しかし前述したように、鉄道運行関連は建設省の指定する特殊建築物に含まれていないため、駅舎に規制を加えることはできなかった。
そこで、建築基準条例改正でも抜け落ちてしまう建物について、新たに街づくり条例を作ってカバーしたのが、大阪府と兵庫県である。1992年に大阪府と兵庫県は、建築基準条例を改正すると同時に、「福祉の街づくり条例」を制定した。大阪府の街づくり条例の対象にする建築物は、多くの人が利用する大規模な施設であり、そこには駅舎も含まれている21)。 また、兵庫県の条例の特徴は、新、改築だけでなく既存の施設や民間施設も対象とすること、従わない場合は勧告、公表まで踏み切ることができる、といった点にある。このようにいくつかの自治体では条例の整備が進んでいる22)。 しかし、これらの条例もまた、条例が法律の下位にあり、法律に強制力をもった規定がないため、その拘束力には限界がある。23)
したがって、公共建築物・輸送機関全般を対象にし、具体的な拘束力を持つ法律の整備が大きな課題になる。24)
アメリカはそれに関してもモデルになるであろう。アメリカの交通政策には大きな役目を果たしている法律がある。リハビリテーション法、ADA法である。リハビリテーション法(Rehabilitation Act, 1973年)は障害者・高齢者が、連邦政府の財政援助を受けている事業で、参加を締め出されるなどの差別を禁止した法律で、その第 504条では、路線バスの50%にリフトを付けること、できなければパラトランジットで対応することを規定している。またADA法(Americans with Disabilities Act、 1990年)は障害者に対する差別を撤廃する法律であり、固定された経路を走る全ての新しいバスは、障害者の利用が可能でなければならない、主要路線(バス、鉄道等)を使えない障害者に対して、交通事業者はパラトランジットを提供しなければならない等の規定がある。両法において、事業者がこれを守らない場合は、障害者、あるいは高齢者に対する差別とみなされる25)。
この法律を制定したことで、アメリカの交通対策は行政主導のもと迅速に進められる。例えばこの法が円滑に施行されたとすると、13年後(2003年)には全てのバスが車椅子利用者にとって利用できるようになる26)。
交通システムのハードウェア整備のためには、誰が基準の設定に関わるのか、整備の実施とそのためのコストの負担をどこが担うのか、誰が実施状況を評価しどのような手段で基準を遵守させるのか等を考えなくてはいけない。ただ法を制定すればいいのでなく、その内容が問題になる。交通対策の具体的手段や計画の要請・評価の責任主体、守られない場合の対応などが明示されているアメリカの法は、この点でも参考になる。上にみた大阪府と兵庫県では、自治体が要請し、鉄道会社が実施し(設備をつける)、それを自治体が評価する(計画書の提出、従わない場合は勧告、公表)形が作られた。自治体は助成というかたちで実施にも関わり、自治体主導のもと整備が進められる。また条例の策定にあたって当事者側も、その主張が全面的に通ったわけではないが、参加した。現状では条例が持つことのできない拘束力を法律は持つことができる。それをどのようなかたちで実現していくのか。どのような手続きで移動を制約されている当事者の意見を反映させていくのか。また、公的な助成が有効であり必要であるとすれば、どのようなかたちで、どの範囲までを国・自治体が負担することにするのか。こうした点についての検討が必要となる。
V 全国運動の展開と運輸省の対応
上記の現状を見てもわかるように、自治体レベルでの対応・対策であるため格差が出始めている。そのような状況の中で、このまま個別あるいは自治体別に展開するよりも全国レベルでの対策を国が打ち出すべきであるとの考えのもとに、それを要求する行動が出てきた。
1991年7月18日、DPI日本会議は運輸省に要望書を提出し、それに先駆け全国に呼びかけて、「誰もが使える交通機関を求める全国行動実行委員会」も組織された。
委員会は、交通利用の現状を根本的に改善していくためには、強制力のあるガイドラインと財政的裏付けのある鉄道事業に対する行政の指導が必要である、と主張する。具体的な要望は6点。要約すると、次のようになる。
@ 鉄道・バス等への単独乗車を当然の権利として認める。
A 駅にはエレベーター、スロープを義務づける。
B 抜本的な法改正を早急にし、それまでの間は指導と財政的補助を行う。
C 交通機関のあり方と方向性を考え直すために、当事者を含めた協議機関を設置する こと。
D エスカレーター設置の指導は、障害者の交通条件の改善と切り離すこと。
E リフト付きバスの一般路線への導入を図る。
@はU−1で触れた、バスに関しての1978年の運輸省自動車局の局長通達(自車 286号・自旅 104号)、同省陸運局の「盲導犬及び車椅子乗車時に関する乗車事項」で定められた規制等を指している。
ADは駅舎の垂直移動はエレベーターを原則にすべきだということである(→U−2)。
Bは単に基準・ガイドラインの設定では足りず、また条例の制定にも限界があり、法律の改正、あるいはアメリカのリハビリテーション法、ADA法のような法律を制定すべきだというものである(→U−4)。
Cは行政や交通事業者が単に設備を数量的に増やすのではなく、当事者の意見も含めて「あり方」から考えるべきだという内容である。(→U−2・3)
Eはバス車両の中ではリフト付き車両を主流とし、それを「一般路線」に導入して欲しいということである(→U−2・3)。
これを見れば分かるように、Uで指摘したいくつかの問題点について当事者側の見解が盛り込まれている。その後、この6点の要求内容を柱として、動きが展開される。
翌1992年、DPI日本会議と運輸省との1回目の交渉が行われたのは10月12日だった。また、交渉に合せ、11・12日にDPI日本会議が呼びかけて、「誰もが使える交通機関を求める運動」が北は札幌から南は熊本まで、全国18ヶ所、延べ 1,500人以上が参加して行われた。新宿では 150人が集会、デモ行進に参加し、新宿駅〜池袋駅まで乗り込みを行った。神奈川では 300人が参加した。千葉でも25人が船橋市内の公園で集会を行い、船橋駅でビラをまいてから四街道駅までの乗り込みを行った27)。
次に交渉を見ていこう。10月12日、11月10日の2回にわたるDPI日本会議と運輸省の交渉において、運輸省は、「ガイドラインの見直し」「やさしさ総点検・総合計画策定」についての検討委員会での検討が進行中あるいは予定されていることを述べ28)、DPI日本会議の要望事項については次のような答弁を行なった29)。
・@Eについては「バスの標準化に向けた委員会(仮称)」があり、技術安全課で検討し、2年後(1994年)に結論を出す。
・Aについては、整備指針・指導基準は財源確保の保障ができず、まだ制定されていないが、準備は進めている。
・Cについては、オブザーバー参加、議事録の提示とも前例がなく、要望に応じるのは困難である。また、障害者団体の意見がバラバラであり、人によってはエスカレーターをつけろと要求してくるところもある。できれば一本にまとめて欲しい。
交渉に臨んだ側にとってこの回答は満足できるものではなかったが、両者の間で、エレベーターの整備のあり方とバスに関する諸問題を中心に協議を進めることは確認された。この運輸省との交渉と全国規模のデモンストレーションは1993年も行なわれている。
このように運動・交渉が続けられる中で、1993年から1994年にかけて、従来見られなかった施策が示されている。重要なことが2つある。
第1に移動制約者の駅舎内での垂直移動はエレベーターを原則にすることが明示されたことである。1993年8月5日付の鉄道局の「鉄道駅におけるエレベーター整備指針について」から抜粋する。
「運輸省としても平成3年に「鉄道駅におけるエスカレーターの整備指針」を制定し、移動制約者等の移動負担の改善対策を講じたところである。しかしながら、車いすやベビーカー利用者等はエスカレーターでは著しく移動が制約されること等から、移動制約者に幅広く利用できる施設としては、基本的にはエレベーターで対応すべきと考えられる。」
具体的な整備指針は以下の3点。
「1:新設、大改造を行う駅で、スロープにより段差を解消できない場合は少なくとも1つの通路にエレベーターを設置することとする。……
2:既設駅におけるエレベーター設置は、……5m以上の段差があり1日あたりの乗降客が 5,000人以上ある駅について、……順次計画的に整備すするよう努めることとする。
3:エレベーターの設置に当たっては、駅の構造上問題がない限り、容易に利用できる位置に設置し、一般利用者も利用可能とすることとする。」
大都市の駅では順次エレベーターが設置され、利用も一般に開放されることが運輸省の指針としてはっきり打ち出されている。30)
第2に助成制度の新設。1994年度の予算案には駅舎にエレベーターやエスカレーターを設置するための新しい助成制度の設立が盛り込まれた。設置費の1割を国の予算から助成する、同時に財団「交通アメニティ推進機構(仮称)」を設立し、民間の鉄道やバス会社などから5年間で 100億円の基金を募り、その利子からも1割を補助する、といった内容のものである。これは国の助成制度としては初めてのものである。31)
おわりに
このように最近になっていくつかの点で政府の方針も変わってきてはいる。だが、法律自体の制定・改正など多くの課題が残されているし、何をどうすべきかという議論自体が尽くされているわけではない。今回報告した駅のエレベーター、リフト付きバスの導入だけでもまだはっきりした答えが出されていない問題は残っている。また、本報告では触れることができなかったが、航空機、補助交通、自家用乗用車などにもそれぞれ様々な問題がある。
ただ、これからどうしていくべきかを決めていく時、大切なことははっきりしている。「交通のあり方」を考えること、つまり「移動する」とは我々が日常生活を営むうえでどのような意味をもつのか、そこから考えるということである。それを気づかせてくれたのが、実際に外に出て、交通機関を利用して、それまであまり気に止められていなかった問題を浮かび上がらせた障害者たちである。本報告では、彼らが提起したことの中からいくつかの基本的な問題を取り出した。それを踏まえながら、報告で取上げることのできなかった部分についてもっと詳しく現状を把握し、さらに議論を深めていく必要がある。
注
1) U−3でふれるため、そちらを参照。
2) 障害者の社会への完全参加と機会の平等を目標とした、世界事務局をカナダに置くD PI(Disabled People's International )という国際組織の日本支部。差別撤廃の法 律の制定、移動交通機関改善、自立生活を促進させるための環境整備を中心に取り組ん でいる(機関誌として『われら自身の声』がある)。
3) 江戸川区に事務所を置く「障害者情報いきいきセンター」が行なったサイパン旅行のビデオ上映会に来ていた、肢体不自由の障害を持つ人たち8名に行なったアンケート。1994年1月22日に実施。
4) 平成4(1992)年版『運輸白書』:73(「高齢者・障害者等の対策への取り組み」)
5) JR東日本では1992年1月に自社内に「人にやさしい駅づくり委員会」を設置して、 券売機、階段手すりの点字の表示、点字運賃表の整備、改良型のステッピングカー(階 段昇降機)の導入、国内外における現状調査などに取り組んでいる。
しかしJRに対する評価はきびしい。
「(JRの整備が遅れている理由について)経営者の考え方よ。……アメリカだと、 売上の何パーセントは、社会に還元しなければだめっていう、するのが義務なんだっ ていうのがあるじゃない。日本だと、余ったお金を、福祉ってそういう考え方じゃな い、余ったお金は出すけれども。JRなんかは利用の少ないところになんで出さなき ゃだめなんだって。阪急なんかは、利用は少なくってもみんな乗客なんだから、ちゃ んと乗り降りを保障するのは、うちらの仕事であるという考え方。JR全然ない。来 られちゃ困るけど、ワーワー騒ぐからしょうがなく乗せてやるっていうのがありあり だもの。(質問者:競争もありますよね。)それもあるね。(質問者:あっちはサー ビス合戦しないとやってられないから。)だから、障害者もサービスの対象として見 ているわけだ。JRなんかは、サービスの対象としてみてない。来られちゃ困るって 言ってる。」(Aさん:立川市在住・車椅子使用)
6) 大阪頚損連が1990年に行なった調査。 尾上[1993:26]に紹介されている。上の発言 にもあるように関西の私鉄に対する評価は比較的高い。
7) 東京都交通局の平成5年(1993年)予算要求資料より。わかこま自立情報室編[1993 :47]に収録されている。
8) その事業計画によると、都営バスに関しては、1995年までに30両を新たに導入し、全 路線( 111路線)中特に利用の多い18路線で、30〜60分間隔程度の定時運行を確保する 予定らしい。一方民営バス(対象12社)に関しては、当面のところ1社あたり1路線を 実験路線として、定時運休が可能になることを目標にする。そのために1995年までに新 たに20両を導入し、1996年以降30両を整備する。合計50両という数字は、1路線につき 4〜5両で30〜60分間隔の定時運行が可能として、12社で最低限必要な数を出したもの である。この計画はわかこま自立情報室[1993:47]に収録されている。
9) 1978年3月27日、自動車局局長から各陸運局長・沖縄総合事務局長宛通達、自車286 号・自旅104号。他の移動に関わる制約について秋山[1984]、等。
10) 木之下[1993:65]
11) 堀[1993:103]。また井内も次のように述べる。
「乗っている者は不安を感じ、また速度が遅いなど実用的でないことから、障害者の間では非常に評判が悪い。」(井内[1993:162])
12) 堀[1993:103]
13) 車椅子が乗る部分を水平に出来るエスカレーターもあるが、Aさんは次のように評価 する。
「駅員を呼び出すと、駅員が飛んで来て、ボタンをかちってあげる。そうすると、エ スカレーターが止まる。『ただ今車椅子の人が乗りますので、乗らないで下さい、乗 らないで下さい』って場内放送と、ベルが、ブブブブと鳴って、乗っちゃだめってい うのが出てきた。で、逆回転して、ステップが出てきて、そこに乗って、すーっと行 く。あの欠点は、流れを止めるの。流れを止めるからもめるの。酔っぱらいのおじさ んかなんかが、『なんで止めるんだ』ってなるわけ。」
14) 秋山・木村・三星[1993:205-212]
15) Bさん(八王子市在住・車椅子使用)による。
16) リフト付きバスにも、運行路線の範囲・時間帯、車椅子の定員、利用者の安全性とド ライバーの操作性、運行管理など検討が必要な点がある(秋山・木村・三星[1993:217- 218])。
また個別のインタビューの中でKさんは、リフト付きバスよりもスロープ付きバスを 導入する方が経費も少なくて済むし、電動のリフトに比べて故障も少ないと話してくれ た。ただ、リフト付きバスにせよスロープ付き低床バスにせよ、いずれにしても車両の 改造は必要であり、経費も極端に差があるわけではないという指摘もある。
なお、注3のアンケートで、障害者に路線バスに関して一番早く改善してもらいたい 点について聞いたところ、8名中3名がバス乗り場と答え、以下リフト付きバスの運行、 料金支払機の高さ、スロープ付きバスの運行の順だった。バス乗り場に関しては、ちょ っとしたことではあるが、バスが停車するときの位置が歩道に少し近づいただけで、障 害者の方はだいぶ楽に乗れるようになるらしい。特に車椅子を使う障害者は乗降車時に 一番気を使う。それが円滑にされるのが大きな課題だが、スウェーデンやイギリスでは それらの施策が進んでいる(中村[1993:167-184])。
17) 『朝日新聞』1991年8月19日朝刊p.31(『いちご通信』91他にも概略収録)より。
18) 秋山[1991:170-173]。日本の個別輸送機関としては「ハンディキャブ」がある。ハ ンディキャブはリフトがついた車両のことで、7人乗りで車椅子1、2台のものと、4 人乗りで車椅子1台のミニキャブと2タイプある。そしてそのサービスは、自治体が直 接提供する場合もあり、また社会福祉協議会やタクシー会社と契約して行なう場合もあ る。さらに、ボランティア団体が行なっている場合もある。利用料金に関しては、利用 者がガソリン代程度を支払う場合が多い(秋山[1991:167-169])。
なお、今回我々が調査を行なった町田ヒューマンネットワーク、他に立川市のCIL ・PAL、札幌いちご会、田無市の自立生活企画などの自立生活センターでも移送サー ビスを提供している。
19) 1994年3月、開放型のエレベーター(改札口の内側にあるため誰もが使える)の設置 工事の1994年度中着工が決定された。(『CILたちかわ通信』21(1994年4月):1)
20) @上乗せの項目は本来は安全・衛生条項に限られ、A特殊建築物と称される建物のみ が対象となっている。その結果、駅舎、道路、地下街などは規制の対象にならない。多 くの自治体では@を広く解釈している。
21) 「福祉のまちづくり条例」(兵庫県条例第37号)では、第1条の2「この条例におい て「公益的施設」とは、……公共の交通機関の施設その他の県民の共同の福祉又は利便 のための施設」で、また「大阪府福祉のまちづくり条例」(大阪府条例第36号)では、 第14条の6「鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第8条第1項に規定する停車場のうち 駅」でそれぞれ条例の適用対象とされている。(わかこま自立情報室編[1993:9-15])
22) この他にも、今年には東京都で建築安全条例が改正される予定であり、現在京都府、 奈良県、滋賀県、山梨県でも街づくり条例制定へ向けて自治体が取り組んでいる。これ に連動して他の県でも各種の指針、要綱、ガイドラインが出されたり、協議されたりし ている。なお千葉県に関しては、1988年7月に「千葉県障害者の住みよい街づくり推進 指針」が施行されているが、条例化に関しては今のところ考えてられていない。(わか こま自立情報室編[1993:8])
23) 1992年11月1日の『神戸新聞』によると、兵庫県の条例に対しては、障害者団体から は「基準が甘すぎる」「拘束力がない」といった批判がなされている。また、1992年11 月24日の『読売新聞』によれば、大阪府の街づくり条例制定について、施設側としては、 改善計画の提出、整備状況の報告、工事実施までの監視、コストの上昇などがあって態 度は冷ややかである。また小規模施設には規制が及ばない。例えばコンビニエンススト アの入口の幅は規制できない。そのため、車椅子生活をしている人からは、条例の限界 が強く指摘されている。(わかこま自立情報室編[1993:16-17]に再録されている。)
24) 地方自治体の条例に強制力を付与するという方法もありうる。しかし、現状でも、自 治体などによって進行状況がかなり異なり、格差が出ている。まずは法律の整備が必要 と考える。
25) 秋山[1991:168,170-185]
26) 秋山[1991:177-178]
27) わかこま自立情報室編[1993:18-19]
28) この時点までの運輸省の高齢者・身体障害者等のための交通対策(交通弱者対策)の 経過の概要は以下のとおり(わかこま自立情報室編[1993:7])
1982 公共ターミナルにおけるガイドライン(交通公共ターミナル身体障害者用施設整備ガイドライン)提出
1988 車両構造に関するモデルデザイン
1991 鉄道駅エスカレーター指針
1992 1982年版 公共ターミナルにおけるガイドライン改正
29) わかこま自立情報室編[1993:20-21]
30) 運輸省「人にやさしい」交通機関施設実現のための施策の展開(わかこま自立情報室 編[1993:6-7])によると、1993年度、運輸省は次の4つを柱として、今後交通弱者対 策を進めるとしている。
1:ターミナルの改良。主な内容は、鉄道駅・バス・空港・港湾ターミナルにおけるエ レベーター、エスカレーター等の整備。
2:車両の改良。主な内容は、鉄道車両・バス・タクシーの改善。
3:交通技術の研究・調査。具体的には、Aの調査を行ない、その予算が1993年度予算 案に盛り込まれた。
4:交通体系の整備。具体的には、@の調査を行なう。
@「高齢者、身体障害者等のためのモデル交通計画」策定調査。これは、より安全か つ利用しやすい設備、装置の開発を目的とするもので、全国から3モデル地区(大都市 地域、地方中核都市、地方中小都市)を選定して調査するものである。1993年は実態調 査、1994年は改善策の検討、1995年に交通計画策定を行なうという計画である。
A「人にやさしいバスシステム」「ターミナル誘導システム」などの移動円滑技術に 関する研究調査。これは1993年にモデルシステム概念を設定して、1994年にモデルシス テムを試設計、報告書の作成、配布を行うというものである。
@の予算要求額は4,500万円で、Aの方は1,300万円である。
31) 『朝日新聞』1994年2月15日朝刊。
これまで国からの企業などへの助成制度はなかった。自治省は、公営バスに関して、 リフト付きバスを購入する際は、特別交付税で一般のバスとの差額の2分の1を補助す るとしているが、この対象に民営バスは含まれていない(堀[1993:102])。
ただ、自治体独自の助成制度を設けているところはある。駅のエレベーターについて は、東京都、神奈川県、横浜市、大阪市、川崎市、神戸市などで助成が実施されている。 エレベーター1基につき 3,500万円から 7,000万円が助成される。半額以上を行政側が 負担することになる(秋山・木村・三星[1993:190])。またJR町田駅、桜木町駅や 西武鉄道航空公園駅などのように、全額を市が負担したケースもある(秋山・清水[19 93:211])。
※『障害者という場所 ―自立生活から社会を見る(1993年度社会調査実習報告書)―』
千葉大学文学部社会学研究室、1994年5月、千葉大学部文学部社会学研究室、375p.、
1200円(260 千葉市稲毛区弥生町1-33千葉大学文学部社会学研究室 043-290-2293
fax:043-290-2294)