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自立生活センターに対する行政の支援体制

Yanai,Takefumi・Harada,Yasuyuki
梁井 健史・原田 康行1)

千葉大学文学部社会学研究室 編 19940517 『障害者という場所――自立生活から社会を見る』

last update: 20151221


はじめに

 1993年7月に東京都内の自立生活センター(CIL)3団体その他を調査した。その結果,これらの団体の運営に関しては行政の助成によるところが大きく,その中でも「東京都地域福祉振興基金」からの助成が大きな割合を占めていること,その他に市からの助成を受けていることがわかった。Tでは,それらの概要についての調査結果を報告する。
 この調査の中で,東京都以外の地域のCILはそのような助成を受けているのかどうかが気になってきた。そこで,各CILの機関誌を調べたところ,「埼玉障害者市民ネットワーク」の機関誌2)に「シラコバト長寿社会福祉基金」を見つけ,それが全国規模で設置される「地域福祉基金」の埼玉県版であることがわかる。次にこの地域福祉基金が東京都地域福祉振興基金と同じ性格のものであることを確認した。そこで,各自治体の地域福祉基金が,東京都のようにその地域のCILの支えになっているのかどうかを調べていくこととなった。具体的には,まず「全国自立生活センター協議会(JIL)」加盟団体の中から“介助サービス”を“有償”で行っている団体3)で東京都以外のものをいくつか挙げ,次にその団体が属している都道府県や市町村の自治体に地域福祉基金について電話で問い合わせるという方法をとった。この結果をUで報告する。
 結果として明らかになったことは,東京都のCILは「東京都地域福祉振興基金」による助成を受けているが,この基金と同じ性格を持つ「地域福祉基金」からの助成は東京都以外のCILにはなされていないということである。Vでこのことについて考えてみる。

T 東京都のCILに対する助成

 1 東京都地域福祉振興基金

 東京都には町田ヒューマンネットワーク,CIL・立川,ヒューマンケア協会等の自立生活センター(CIL)がある。これらの団体はいずれも介助サービスや自立生活プログラム等を行なっている。なかでも介助サービスはそれぞれの地域の障害者にとって,無くてはならないものとなっている。利用者の多くはホームヘルパーやボランティアと併用して,それぞれの短所を補うようにしてより生活しやすいように工夫しているのだが,ホームヘルパーの派遣は時間帯等,制約が多い。これに対して,CILは,外出や仕事等を含む生活の様々な場面に介助を提供している(→第4章:金山)。これらのCILは,運営費のかなりの部分を助成金から得ている4)。今回調査した東京都の3つのCILでは,都からの助成として「東京都地域福祉振興基金」による「地域福祉振興事業助成金」,そして市からの助成を得ていた。
 まず東京都地域福祉振興基金による助成から見ていく5)。この基金は,その額が高いために東京都の福祉関係の団体にとって重要な位置を占めている。
 東京都は1987年度予算で「地域福祉振興基金」 200億円を積立し,この実務を行なう団体として財団法人「東京都社会福祉振興財団」を設立し,1988年度から基金の利息分を在宅福祉のサービス提供組織の運営費として助成する事業を開始した。『平成4年度地域福祉振興事業助成金交付実施要綱』によると,地域福祉振興事業助成金の目的と対象事業は以下のとおりである。

「(目的)
第1条 この要綱は,地域の民間団体等が在宅福祉サービス等の多様な展開を目指して実施する先駆的,開拓的,実験的実践に対して,それらが地域に根ざしたサービスとして安定した運営が確保されるよう助成金を交付することにより,在宅福祉事業等を推進し,もって,地域福祉の振興を図ることを目的とする。
(助成の対象)
第2条 この助成の対象となる団体及び事業は,次のとおりとする。
 (1) 対象団体
  東京都の区域内に所在し,都民を対象に社会福祉活動を実施している団体で,営利団体を除く次の団体とする。
  ア 社会福祉法人又は民法第34条の規定により設立された法人
  イ 区市町村の出資等によって設立,運営される公社等の団体
  ウ 地域福祉の振興に寄与する事業を行うその他の民間団体
 (2) 対象事業
  各種在宅福祉事業の中で,東京都の既存の公的制度や補助事業に組み入れられていない先駆的,開拓的,実験的な次の事業とする。
  ア 地域の相互連帯に支えられた参加型福祉としての有償家事援助サービス
  イ 毎日配食など,質,量の面で新たな試みを加味した食事サービス
  ウ 会員制度を取り入れた民間実践活動としてのミニキャブ運行システム
  エ 障害者が地域で自立した生活を送るための障害者自立生活プログラム等の試み
  オ 地域福祉の振興に係わる情報システムの研究,開発,ネットワーク事業
  カ 福祉コミュニティ推進のため,社会福祉協議会等が地域住民やボランティアと共同で行う福祉啓発活動や体験学習活動など地域に根ざした民間サイドの地域づくり活動
  キ 地域福祉,在宅福祉について具体的テーマを持って取り組まれる各種調査,研究活動
  ク 多様な福祉サービスをネットワーク化し,効率的,効果的な組織作りを進めるために社会福祉協議会が行う福祉組織化活動
  ケ 社会福祉協議会等が自らの活動や目標などを設定し,実践するために行う地域福祉活動計画(住民活動計画)の策定
  コ その他,地域福祉の振興のために特に助成が必要と認められる具体的なサービス提供事業」

 地域福祉振興基金は1987年度の 200億円の積み立ての後,毎年 100億円が追加され1990年度には基金額 500億円となった。助成総額も1988〜1991年度にかけて1億 3,894.5万円,2億 3,917.9万円,3億 8,855.9万円,6億 1,531.1万円と増加している。
 各事業について基準額が設定されている。A:基準額×助成率と,B:対象事業に係わる所要額−収入額を比較し,少ない方が助成額となる。純民間団体の場合の助成率は4分の3(社会福祉協議会,公社等は3分の2)である。
 助成を受けるためのの条件として会員数がある。有償家事援助サービスなら原則として利用会員50名以上,協力会員 100名以上。障害者自立生活プログラムであれば,利用者50名以上など。
 有償家事援助サービスに対する助成の基準額は,1991年度以降,人件費 500万円,事業費(事務所運営に要する経費) 200万円。年間利用件数 3,000件以上の純民間団体はコーディネーター等を複数設置でき,さらに 500万円上乗せできる。また,自立生活プログラム事業に対しては,やはり1991年度以降,人件費 500万円,事業費 200万円が基準額となっている。両方の事業を行なっているCILは有償家事援助サービス事業に対しての助成と,自立生活プログラムに対する助成とを同時に獲得することができる。
 ヒューマンケア協会(1986年6月発足)は,この基金による助成が開始された1988年度から助成を受けている。また町田ヒューマンネットワーク(1989年12月発足)と,自立生活センター・立川(1990年12月発足)は,それぞれ発足の次の年度から助成を受けている。
 各CILが今までに受けた東京都地域福祉振興基金からの助成金と,東京都地域福祉振興基金が各CILの収入総額に占める割合は表1の通りである。6)

                 表1

  CIL立川   町田ヒューマンネットワーク ヒューマンケア協会
88年度助成   5,625,000円 44%
89年度助成  7,500,000円 41%
90年度助成   4,470,000円 49%   7,500,000円 34%
91年度助成  7,223,000円 58%  10,500,000円 49%  14,250,000円 37%
92年度助成  14,250,000円 52% 14,250,000円 44%  14,250,000円 35%
93年度予算  14,250,000円 41%  21,750,000円 57%  14,250,000円 42%

 CIL立川とヒューマンケア協会の場合,いずれも家事援助サービス7)の年間利用が3000件を超えているので,1200万円と 700万円を合わせた1900万円が基準額で,その4分の3,1425万円が助成金となる。また町田ヒューマンネットワークの場合は,1993年度からさらにアクセス・キャブの運行により基準額で人件費 500万円,事業費 200万円,自動車購入経費 300万円の合計の4分の3である 750万円が助成され,有償家事援助サービス事業・自立生活プログラム事業に対する助成1425万円と合せ,2175万円が助成額となる。8)
 2 市の助成金

 さらに市レベルでも福祉団体等への助成金が予算化されている。
 CIL立川に対する立川市の助成は1992年度から行なわれている(福祉計画課が担当)。1992・1993年とも,自立生活プログラムと介助サービスの2つの事業が助成対象になっている。
 1993年度の総額 800万円の助成の内訳は,自立生活プログラムについて 370万円,介助派遣事業について 430万円となっており,さらに内訳を見ると,自立生活プログラムについて,人件費補助 170万円,家賃 120万円,研修費・車の維持費・謝礼等80万円,計 370万円。介助派遣事業について,人件費補助 200万円,家賃助成90万円,その他 140万円,計 430万円である。ピアカウンセリング部門は1993年度は予算化していないが,1994年度から助成が検討される。
 町田ヒューマンネットワークに対する助成は,「町田市社会福祉事業団体補助金交付要項」に基づくもので,1993年度から行なわれている(福祉計画課が担当)。ハンディキャブ事業に対しては助成を行っていない。また1994年度以降も予定はないということである。
八王子市のヒューマンケア協会に対する助成は,有償家事援助サービスに対する補助として,1989年度から行なわれている(障害福祉課が担当)。
 これらの市からの助成の推移と各CILの収入総額に占める割合をまとめたものが表2である。また,1993年度各CILの予算総額に占める都・市からの助成金の割合は《グラフ1》のとおりである。

                  表2

  CIL立川   町田ヒューマンネットワーク  ヒューマンケア協会
88年度助成       0円  0%
89年度助成 625,000円  3%
90年度助成       0円  0%    625,000円  3%
91年度助成      0円 0%       0円 0%    625,000円  2%
92年度助成   6,160,000円 22%       0円  0%   2,400,000円  7%
93年度予算   8,000,000円 23%   2,000,000円  5%  2,400,000円  7%


U 地域福祉基金

 1 基金の趣旨

 東京都の東京都地域福祉基金と似た全国的な制度として「地域福祉基金」がある。これは都道府県自治体とその各市町村に地方交付税交付金の一部を基金として設置させ,その果実を運用することにより,地域福祉の振興に役立てようとするものである。
 その趣旨を説明している通知の一部を引用する。9)

「1 基金の設置
(1) 高齢者保健福祉の増進を図るため,地域においても,在宅福祉の向上,健康づくり等の課題につき,民間活動の活発化を図りつつ,地域の特性に応じた高齢者保健福祉施策を積極的に推進する必要がある。このため,民間活動に適切なインセンティブを付与することなどを目的として,地方公共団体が「地域福祉基金」を設置する経費について,地方交付税措置を行うこととし,平成3年度地方財政計画に 2,100億円(都道府県分 700億円,市町村分 1,400億円)を計上することにしている。
各地方公共団体においては,この趣旨に沿った基金を設置することが期待される。
(2) この基金は「ふるさと創生の福祉版」として位置けられるものであり,従って単なる基金の積立てに終わることがないよう,基金の趣旨や助成内容等を広報紙等を通じ広く住民に周知徹底して地域の知恵と情報を結集し,地域ぐるみの取り組みに発展するよう留意することが必要である。

 2 基金の考え方
 基金の設置費に対する財政措置は地方交付税によって行われるものであることから,基金の目的・内容等は地方公共団体が地域の実情に応じ,住民の創意と工夫を活かして独自に決めるものであるが,この基金は,概ね次のような考え方で設置・運用されることが想定されている。
(1) 基金は果実運用型であること。
(2) 基金の運用益を用いて行う事業は,長寿社会に備えて在宅福祉の向上,健康づくり,ボランティア活動の活発化等のため,地域の実情に応じて各種民間団体が行う先導的事業に対する助成等の事業であること。
(3) 基金の運用益を用いて行う事業からは,国庫補助対象事業からは除外されるものであること。
(4) 単なる財源の振替は,基金創設の趣旨にそぐわないものであることから,基金の運用益は,従来都道府県又は市町村が単独施策として実施していた施策の拡充又は新規に行う施策に充てられるものであること。
(5) 基金の運用益による助成対象事業を例示すれば次のとおりであること。
 ア 在宅福祉等の普及,向上
  ・在宅介護者に対する介護技術の指導,講習,情報提供
  ・地域の実情に応じた独自の在宅保健福祉サービス
  ・地域の実情に応じた先駆的な在宅保健福祉サービスに係わる調査研究
  ・シルバーサービスの育成,普及
  ・福祉公社等に対する出損又は助成
  ・その他在宅保健福祉の普及,向上に資する事業
 イ 健康,生きがいづくりの推進
  ・民間団体による健康講座,長寿社会フェスティバル,スポーツ大会等の開催等
  ・健康,生きがいづくりマニュアルの作成等啓発普及
  ・地域の実情に応じた健康,生きがいづくりに係わる調査研究
  ・その他の健康,生きがいづくりの推進に資する事業
 ウ ボランティア活動の活発化
  ・ボランティア団体の資材費や啓発費等の活動費
  ・ボランティア団体のネットワーク化のための事業
  ・ボランティアに対する研修,講習
  ・ボランティア基金に対する出損又は助成
  ・その他ボランティア活動の活発化に資する事業」

 この「地域福祉基金」は,1991年度には総額 2,100億円(都道府県分 700億円,市町村分 1,400億円)が財政措置され,1992年度には総額 3,500億円(都道府県分 700億円,市町村分 2,800億円)が積み増しされ,さらに1993年度には 4,000億円(都道府県分 700億円,市町村分 3,300億円)が積み増しされることとなり,3年間で総額 9,600億円(都道府県分 2,100億円,市町村分 7,500億円)の基金となった。
 上に引用された通知を見れば,この基金からのCILに対する助成は可能なはずである。CILは (5)アに該当する事業を行なっているからである。さらに,ここに挙げられている「福祉公社」はCILと同様に有償でサービスを提供している非営利組織であり,また福祉公社「等」とも記されている。
 しかしながら,有償で介助サービスを提供している3つのCILに電話で問い合わせたところ,東京都以外で有償介助サービスを行う団体でこの基金の助成を受けていたのは,埼玉県の「社団法人埼玉障害者自立生活協会」だけであり,これについても自立生活プログラムに対してであって有償介助サービスについては助成はなされていなかった。また,この組織の介助部門である「ケア・システムわら細工」も春日部市から助成を受けてはいなかった。
 「札幌いちご会」には,厚生省の実施する「障害者明るい暮らし事業」から,道の身体障害者協会の窓口をとおして出ている。また,札幌市から障害者自主活動促進事業として出ているものがある。これは地域福祉基金とは別物である。
 A県B市(この団体のある市が匿名を希望したため仮名とする)の団体には,B市から年間30万円「障害者の社会活動」として出ているが,これは地域福祉基金とは関係ない。地域福祉基金については,今後申請していく予定だそうだ。
 なぜ上記の民間団体の行う介助サービスに対して,各自治体は各々の地域福祉基金から助成することができないのであろうか。上記の3つの団体が介助サービスを行なっている地方自治体の役所に,この基金が具体的にどの様な使い方をされているか,聞いてみた。
 2 各自治体の助成の実態

 以下は各自治体の役所に電話をかけ,うかがった内容を記録したものである。
 質問の主な内容は,どういう部署が担当しているのか,「地域福祉基金」の設置に関する通知がなされる前から,同様の趣旨を持つ「基金」が存在していたかどうか,どのような事業に使われているか,どんな団体に助成しているか,といった基本的なことと,「有償で介助サービスを行う民間団体」に対して助成できるかどうかである。これに限定したのは,前述した東京都の3団体は「有償で介助サービスを行う民間団体」であり,それらに対しては東京都地域福祉振興基金から助成が出ているからである。
 また,各自治体における基金の名称等の確認のため,社会福祉法人全国社会福祉協議会の行った『平成4年度地域福祉基金設置状況調査<都道府県分>』(全国社会福祉協議会[1993])を用いた。(政令指定都市についても記載されている。また,1992年度における金額も掲載されているので以下に付記した。なお,各自治体の実施する事業の名称は資料での名称と異なることがある。)

 @ 北海道:地域福祉課 「北海道地域福祉基金」
   (基金(原資)額:52億円・基金による果実:1億 9,000万円)

 「障害福祉活動に対して,厚生省の出した趣旨に添っていれば,広くボランティア活動など個人でもグループでも,申し出があれば出せる。ただし,予算に限界がある。」とのことであった。また「社協(社会福祉協議会)がらみで」出ており,その「社協がらみ」の事業としては,高齢者福祉のボランティア,精神障害者の地域共同作業所,老人福祉(離床:寝たきりを防ぐ),在宅福祉(高齢者),障害者の社会活動,高齢者の生きがい(道民を対象とするイベント),福祉の店(障害者の授産施設で作った製品を売る場所を提供),精神障害者のグループホーム,精神障害者の社会復帰など,合計13本がある。
 また,「民間の介助サービスに対して,出しているか」という質問に対しては,「各市町村には,国のヘルパー制度があるから,出していない」とのことであった。
 先に引用した通知をみると,基金の運用益による助成対象事業には「地域の実情に応じた独自の在宅保健福祉サービス」などの,「在宅福祉等の普及,向上」を実現するための事業が,まず挙げられている。にもかかわらず,この自治体では“民間の介助サービス”は,助成の対象となっていない。介助サービスは,既存の“国の行うヘルパー制度”で足りると考えているようである。したがって,民間の介助サービスについて問題となると考えられる条件(有償であるかどうか,法人格を持っているかどうか,事業の規模等)は,はじめから検討の対象となっていない。

 A 札幌市:民生局社会福祉部庶務課 「札幌市地域福祉振興基金」

 ボランティア団体,社会福祉法人,公益法人の地域福祉を振興する基金であるというこで,民間団体で在宅ケアサービスを行っている団体は対象外であった。これに対して,そのような団体は「厚生省の通達した趣旨に添うものではないか」とたずねたところ,「各自治体の裁量に任せられているため厚生省の出した趣旨には,必ずしも従わなくてもいい」とのことであった。具体的にどの団体に基金が出されているかについては,「個人の名簿,団体名は公表できない」という返答だった。
 道庁と同じく“民間の介助サービス”は対象外となっている。したがって,「民間団体の有償介助サービス」は“民間の介助サービス”という点で対象外となってしまう。ここでも道庁と同じく,「地域の実情に応じた独自の在宅保健福祉サービス」を助成対象事業とする連名通知の趣旨とは異なる見解を示しており,趣旨と異なっていてもかまわないということの根拠を「各自治体の裁量に任せられている」こととしている。

 B 埼玉県:生活福祉部地域福祉課 「シラコバト長寿社会福祉基金」10)
  (基金(原資)額:53億円・基金による果実:1億 2,150万円)

 現在「シラコバト長寿社会福祉基金」は地域福祉基金として位置づけられている。1993年度は,社団法人・埼玉県障害者自立生活協会に 100万円,また社会福祉協議会を通じてボランティア団体などへ助成が行われている。民間の介護人派遣事業をしている団体に対して出せるかという質問に対し,「趣旨が在宅福祉の振興なので,事業の内容と基金を照らし合わせて出すことが可能である。」とのことであった。
 また,既に1977年から,県で独自の在宅介護県協議会をつくり,県内の団体に配分している。社会福祉法人格,もしくはそれに準ずるものであることや県域全体をカバーするような事業や団体であることが助成を受ける条件となっている。
 1993年度の事業の概要は,以下の通りである。
  ・住民参加型在宅福祉サービス
  ・市町村ボランティアセンターとコーディネイターの設置
  ・保健福祉のマンパワー養成事業
   ボランティアリーダーの養成。
  ・精神保健ボランティア養成事業
   県の社会福祉協議会を通して,市町村の社会福祉協議会に委託している。
  ・地域の交流事業
   地域のふれあいを目的とする。
 民間の有料介助サービスに対して助成は可能である。したがって,この自治体の地域福祉基金に対する見解は,基金の運用益による助成対象事業に「地域の実情に応じた独自の在宅保健福祉サービス」などの事業を挙げ,「在宅福祉等の普及,向上」を掲げる連名通知の趣旨に添わないものではない。
 但し,“法人格”を持っていることと,“事業の提供区域が県域全体に及ぶもの”であることが条件となる。“県域全体に及ぶ”とは,埼玉県では埼玉障害者自立生活協会の実施する自立生活プログラムのような県全域をカバーするサービスに対しては助成できるが,サービスの性格上,県全体をカバーすることができない介助サービスについては助成できないことを意味する。そうすると,上記の1993年度の事業「住民参加型在宅福祉サービス」とは,いったい何を意味するのか疑問が残る。

 C 川口市 「川口市地域福祉基金」

 基金のことは「こちらもよくわからない。現状は『ケースワーク』のみを考えている。」そうである。
 扱う部署については,「今のところ,それを扱う課はない。助成については,障害者団体なり施設なりが要望すれば,その時々に応じて運用というところまでいくことになるだろうが,そのような要望は出てきていない。」とのことで,基金については「基金そのものは県が扱っているので,そちらに聞いてくれ。市役所としては直接には関わらない。市役所の方で推薦状を出すということはあるかもしれないが,中味は扱っていない。」とのことであった。
 地域福祉基金は事実上運用されていないようである。「要望がでれば…」ということでもあったので,要望も出ていないらしい。
 この市の役所の人は,地域福祉基金についてはよく知らないようであった。もともと「地域福祉基金」は全国都道府県,市町村の各地方公共団体が地方交付税交付金をもとに設置する基金である。それなのに「基金そのものは県が扱っている…」とはどういうことなのであろうか。いずれにせよ「有償で介助サービスを行う民間団体」に助成できるかどうかは未知数である。

 D 春日部市 「ふじ福祉基金」

 1991年の通知以前からある「ふじ福祉基金」と地域福祉基金が一緒になった。民間団体の有償介助サービスに対して助成できるかどうかは,今のところ検討されてはいない。基金の運用益は,市の社会福祉協議会に直接出ていて,個別の団体には直接には出ていない。「お金は社会福祉協議会傘下の家事援助サービスを行う団体で動いているようである」ということであった。基金をもとに助成を受けるにあたって,法人格を必要をする,有償の程度,等の規定については,「検討されていない。要望が出ればその都度検討するが,実際に話が出てきていない。細かな規定などは,まだ検討されてはいないため,電話で答える事はできない。ただし,文章で問い合わせればそれに答えることはできる。」という答だった。なお,こうした問い合わせは社会福祉協議会からもきているそうである。

 E A県:地域福祉課地域福祉係 「A県地域福祉基金」
(基金(原資)額:49億 7,000万円・基金による果実:1億 5,000万円)

 基本的には地域福祉,在宅福祉の向上と高齢者の生きがい対策が主な目的である。
 主な対象事業は,
 ・特別養護老人ホームにおいて入居者の介護の際に使われる福祉機器の研究・開発に対  して民間企業に助成。
 ・各市町村にある社会福祉協議会の事業に対して助成。
 以上の2本立てで,民間が行う活動に対して助成を行う。対象者は法人格を持っている必要はない。1991年の通知以前から,「A県ふれあい基金」をもち,ボランティア関係の事業を助成していた。地域福祉振興基金ができてからは,これとは別に並行して存在する。県の出資金と民間の寄付金を合わせたものを民間財団法人にまわし,民間の福祉活動のために充てている。「民間で有償で介助サービスを行っている団体に基金からの助成は可能かどうか」を問い合わせたところ,「有償というのがどの程度かで違ってくる,今の段階ではわからない,検討もされていない。」とのことであった。
 民間の有償介助サービスに対して助成できるかどうかは,“有償の程度”の問題をクリアすれば,可能かもしれない。但し,今のところこの問題は検討されていない。

 F B市:福祉総務課 「B市福祉対策基金」

 この基金の趣旨はこれから高齢者が増え,21世紀の高齢化社会に向けて,「高齢化社会対策基本計画」に基づいて一般の人の健康の増進と福祉対策のためのものである。
 「基金を今まで貯めてきたので,今年度(1993年度)から市の事業に使っていく。あとは民間(社会福祉協議会)に対する補助金が少し。基金は厚生省の通知の前からあったが,通知後に地域福祉振興基金として,のりかえた。」そうである。また,「高齢者対策中心のものである。高齢化に向けて市民の意識が向上することが大切。自分で貯金して備える等,高齢化社会を考えてもらいたい」とのことであった。
 主な事業としては以下のものが挙げられる。
 ・民間高齢化社会対策キャンペーン事業:参加団体は,B市民生委員協議会,B県連合町内会,B市老人クラブ連合会,B市子供会,等。
 ・健康生きがいづくりの推進事業:高齢者の生きがいと健康づくりに取り組む。B市老人クラブ連合会に事業委託している。
 県が各市町村に指導を行っている。県レベルの自治体が,その地域の市町村レベルの自治体に指導や調整を行っているらしいことは他の自治体に対する聞き取りの中からもうかがえた。本来,各自治体が自由に使ってよいとされる地方交付税交付金が,県レベルの自治体の指導を必要とするとはどういうことなのであろうか。
 しかし,その指導自体もそう明確なものではないようだ。指導の内容をまとめた文書の趣旨の中には,「クエスチョンマーク入り」のもの(役所の人が言うには,この文書の中に「…事業,…事業?,…事業?」というように列記されている)があるという。
 民間における有償介助サービスに助成できるかどうかたずねたところ,「有償が問題となる。」とのことだった。また,その際社会福祉法人格は問題とならないらしい。この点では,県とは多少見解が異なっており,程度に関わらず“有償”ということで助成は不可能である。したがって「有償で介助サービスを行う民間団体」に対して,「B市福祉対策基金」からは助成できないようである。

 以上のように,各自治体の裁量でということになっているとはいえ,基金に対する解釈,基金による助成事業の実際は様々である。そして,「有償で介助サービスを行う民間団体」に対する助成には,有償が問題となったり,法人格を必要としたり,サービス地域の規模を指定したり,総じて否定的,あるいは消極的であった。

V 考察

 都道府県レベルでは一応どの自治体も基金を設置しており,その取り組み方は基金(原資)額にも対応してかなりの差がある。各市町村のレベルではさらにはっきりと差が出くる。なかには,「地域福祉基金」の存在自体をよく知らないところもあり,その認識の程度までが全く異なっている。また,存在は知っていても「通知」とは異なる見解を示している自治体,異なる使い方をしている自治体の方が多い。
 まず,従来の行政の施策にこの基金を利用したり,社会福祉協議会等の既存の組織に助成の対象を限定している自治体が多く見られた。これでは「民間活動に適切なインセンティブを付与すること」(「通知」 1(1))にはならない。
 また,「要望があれば検討する」としている自治体がある。しかし,要望する側である民間団体の方に地域福祉基金のことがよく知らされていないようである。「基金の趣旨や助成内容等を広報紙等を通じ広く住民に周知徹底して地域の知恵と情報を結集し」(「通知」1(2))てはいないということだ。
 このようになっているのは,まず,各自治体が従来の枠組みの中で仕事を日々続けており,その中で,この基金に国が期待しているものが自治体に伝わっていない,またそれを自治体の側が受け止めようとしていないということであろう。自治体が直接に供給するサービスか,社会福祉協議会等の社会福祉法人の事業,そうでなければ「ボランティア活動」という枠組み,発想の中で,法人格を持たない,有償でサービスを提供する団体は視野に入ってきていないようである。
 これは,国が地方交付税交付金の一部で基金をつくるように通知し,運用を各自治体の裁量に任せてしまっていることにもよるだろう(地方交付税交付金は,本来「各自治体が自由に使ってよい」ものという性格をもっている)。そして,「裁量に任された」ことを理由に国の指導そのままではなく独自の見解を示す一方,本来独立して運用してよいと考えられる市町村レベルの地域福祉基金を県が指導し,県と市町村は互いに調整をつけながら地域福祉基金に取り組んでいるようにみえる。東京都の基金の場合には,最初からその目的が「地域の民間団体等が在宅福祉サービス等の多様な展開を目指して実施する先駆的,開拓的,実験的実践に対して」(「要綱」・第1条)と明確であり,それを設置した主体と実施する主体の間に距離がないのに対して,「地域福祉基金」の場合には,制度的に自治体に運用が任されているから,国はそう細かく口出しできない。国の意向と自治体の意向・対応とのずれがなかなか解消されないような仕組になっている。こうしたことからも「わからない」といった対応や,消極的な姿勢が出てくるし,国の側の意向と違った対応がなされることにもなる。
 だが,繰り返せば,厚生省・自治省の連名通知に従えば「有償介助サービスを行う民間団体」に助成は可能なはずである。自治体の側の現状維持的な姿勢の転換が求められる。また,この基金の助成の対象になるはずの団体としては,まずこの基金の性格をよく把握し,積極的に申請・要求活動を行なう必要があるだろう。自治体の独自の規定によってこの基金による助成が行なわれるにしても,「通知」の内容を依り所として自らの立場を主張することはできるはずだし,自治体の側も自らにその要求を拒絶する合理的な理由はないのだから,助成を受けられる可能性はあるはずである。そしてその際,東京都では同様の趣旨の基金による助成がCILに対して行なわれ,それがその活動の発展に大きく寄与していることも,地域福祉基金からの助成を要求する側にとっては有利な材料になるはずである。



1) 本章は,Tの助成金額については原田が,Tの残りとU・Vを梁井が調査・執筆した。
2) 『ネットワーク情報』1992初夏号:25-29
3) 介助サービスを行う民間の非営利団体は全国に約 500団体存在するが,そのうち常識的には介助サービスを受ける側にいるとされる障害者が自ら理想の介助サービスを考え,供給しようとしているのがこれらの団体である。ただ,ここでの報告者の最大の関心は,“「有償で介助サービスを行う」というユニークな事業を行う団体に,行政が支援できる可能性があるか”にある。
4) 助成金には公的なものと民間のものがあるが,民間のものは継続的な事業に対して助 成を行なうものではないので,ここでは検討しない。
5) この基金からのCILへの助成についての紹介として立岩[1993]。
6) 表1・表2の作成にあたって,質問紙による数量調査の他に,以下の資料を利用した。「町田ヒューマンネットワーク1992年度決算書@」(『町田ヒューマンネットワークニュース』25(1993年6月8日)),「1992年度決算報告書」(『CILたちかわ通信』14(1993年4月24日)),「1992年度決算書」(『ヒューマンケア・ニュース』24(1993年6月8日))。
7) 各CILが提供しているのは「介助サービス」であり,「家事援助」だけでなく「身辺介助」等も含まれるから,両者は正確には対応しないとも言える。だが,これは「要綱」の方に問題がある。
8) ヒューマンケア協会の1988〜1989年度の助成額は,基準額がそれぞれ 750万円・1000万円・1000万円だったことによるもの。CIL立川の1991年度は,上で示したB:支出−収入の方が助成額となっており,92年度以降は,B:支出−収入がA:基準額×3/4を上回ったので,つまり事業が拡大したので,Aが助成額になっている。町田ヒューマンネットワークの1990年度も同様にBが助成額。1991年度は介助サービスの年間利用回数がまだ3000件に達していないので,1400万円が基準額になっている。
9) 「高齢者保健福祉推進特別事業について」(都道府県知事,政令指定都市市長あて自 治事務次官・厚生事務次官連名通知,1991年度6月3日付,自治政第56号・厚生政第17 号)。この基金についての紹介として立岩[1994]。
10) 埼玉県では「シラコバト長寿社会福祉基金」が地域福祉基金としての位置づけを担っている。その目的は「誰もが幸せに暮らせる地域社会づくりを目的として,1977年度に設置された「シラコバト福祉基金」を,1991年度4月から,シラコバト長寿社会福祉基金に拡充した。長寿社会に備え,在宅福祉の向上,健康づくり,ボランティア活動の活発化等,民間団体の先導的事業に対する助成を行い,豊かで活力にあふれた長寿社会づくりを目指す」ことである(『ネットワーク情報』1992初夏号より)。ちなみにシラコバト=白子鳩は埼玉県の鳥。


UP:1996 REV:
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