第4章「介助者をどこに求めるか――ホームヘルプサービスとの比較」
金山 信一
last update: 20151221
第4章
介助者をどこに求めるか
――ホームヘルプサービスとの比較――
Kaneyama, Shinichi
金山 信一
はじめに
今回,インタビュー調査を進めていくなかで,介助のシステムにはいくつかの種類があること,利用者である障害者は,その一つを利用しているというわけではなく,いくつかを組み合わせて利用していることがわかった。そしてその組み合わせはみんな一様ではなく,それぞれの人で違っていた。利用者は自分にあった介助システムを選択している。これは私が全く知らなかったことであり,驚きだった。彼らはしたたかに介助者を獲得している。それまでの私は,障害者達はもっと受け身的であると想像していたのである。
インタビューに出てきた介助の形態は,以下のA〜Fの6種類に分けることができる。
A:行政の派遣するホームヘルパー
B:自立生活センター等の派遣する介助者
C:他の非営利民間団体の派遣する介助者
D:ボランティア
E:個人契約の有償介助
F:家族
そのなかでも大きな位置を占めていたのが,A:行政が主体となって派遣するホームヘルパーと,B:自立生活センターの派遣する介助者であった。1)
本報告では,第一に,特にAとB双方の長所と短所として利用者が何を挙げているのか,利用者がいくつかある中からある介助システムを選択し組み合わせているとすれば,一体何を基準にしているのかを検討する。そしてそこから利用者のニーズが何なのかを検討する。
第二に,B:自立生活センターが行っている介助サービスは,A:ホームヘルプサービスが改善されるならば将来的には必要なくなるものなのか,このことについて考えてみる。私は,行政が行うサービスの質・量に問題があるから,それを補うべくBが行われているのだと考えていた。仕方なく行政の肩代わりをしているのだと考えていた。これは,利用者が指摘するホームヘルプサービスの問題点がもし将来解消されるなら,Bは不要になるということである。行政がもっとしっかりしてくれれば肩代わりをする必要もまたなくなるはずだということである。そう考えてよいのか。これを検証してみたい。
T 介助を組み合わせる
今回インタビューを行なった障害者で介助を必要とする人は,29人だった。では上に挙げたそれぞれの介助を何人が利用しているのか。
ホームヘルパー 17人
自立生活センター 23人
他の非営利民間団体 2人
ボランティア 9人
個人契約の有償介助 4人
家族 6人
もちろん,自立生活センターを利用している人が多いのは,今回のインタビュー対象者が自立生活センターに関係する人達だからである。これが一般的だということではない。
次に,これらの介助を利用者はどのように組み合わせているのか。
ホームヘルパー+自立生活センター 7人
ホームヘルパー+自立生活センター+ボランティア 6人
自立生活センター+家族 4人
ボランティア(友人など)のみ 2人
ホームヘルパー+自立生活センター+個人の有償介助 2人
ホームヘルパー+自立生活センター+ボランティア+家族 2人
家族のみ 1人
個人の有償介助のみ 1人
自立生活センター+ボランティア 1人
ホームヘルパー+自立生活センター+個人の有償介助+家族 1人
自立生活センター+その他の民間団体+ボランティア 1人
ホームヘルパー+自立生活センター+ボランティア+家族+その他の民間団体 1人
数種の介助を組み合わせて利用している人が大変多い。いくつかのケースを見ていく。
@ Aさん(男性/39歳/脳性麻痺・1級)
1人で暮らしている。利用している介助は3種類。
・ホームヘルパー 3時間×週6回→週18時間 女性6人 掃除・洗濯・食事
・自立生活センター 7時間×週6回→週42時間 男性10人 風呂・トイレ・移動
・ボランティア 週3〜4回 →週12時間 土曜日だけ9〜11時まで 男性8人 女性2人 男性:風呂・トイレ・移動 女性:掃除・洗濯・食事
ホームヘルパーの利用時間は従来の制度上限一杯である(後述)。介助内容は家事援助で,女性6人は1週間全体の人数。自立生活センターの介助は身辺介助。介助者はいずれも男性で,これは身辺介助は基本的に同性介助としているセンターの方針による。ボランティアの人数は1週間でどれだけの人が携わるかという数字である(延べ人数ではない)。
A Bさん(男性/34歳/脳性麻痺・1級)
結婚しており1歳3カ月の子供がいる。3人家族である。利用している介助は4種類。
・ホームヘルパー 3時間×週2日→週6時間
・自立生活センター 2時間×週2日→週4時間 男性3人 入浴・着替え・トイレ等
・個人契約の有償介助 週7回
・家族
このケースでは,4種類の介助を組み合わせて,生活に必要な介助量を確保している。家族の負担は軽い。特に目につくのは,個人契約の有償介助が毎日利用されていることである。獲得方法としては,「アパートの近所にバイトとして誘う。また,大学をまわり,クラブの学生に頼んで来てもらう。」といっていた。大学のクラブや,サークルに一度頼むと,先輩から後輩へと引き継がれるようである。一方,次のようなケースもある。
B Cさん(女性/37歳/骨形成不全・1級)
独り暮らし。利用している介助は1種類。ボランティアの友人のみである。ただ,Cさんは電動車椅子での移動が可能であり,重いものを運ぶこと以外は自分で大抵のことはできる。友人は週5〜6日は泊まっていく。
Bさんのように多くの介助を利用している人もいれば,Cさんのように1種類の介助で生活している人もいる。障害の程度の違いにもよる。
先に挙げたように,全体のなかで組み合わせとして多かったのは,ホームヘルパー+自立生活センター,ボランティア+ホームヘルパー+自立生活センターという組み合わせで,各々7人,6人だった。また,インタビューを行なった障害者28人中,ホームヘルパーと自立生活センターの介助者の両方を利用している人が17人いた。両方の介助システムを利用しているということは,2つのシステムが比較可能だということである。この人達へのインタビューを中心に,これから示す各項目について,利用者の評価を見ていきたい。
U 比較
1 量
まず,現時点で,ホームヘルパー(A),自立生活センター(B)それぞれがどれだけの介助が供給可能かについて。
A:1日3時間,週6日つまり1週あたり18時間という派遣時間の制限があったが,1993年3月にその上限が取りはらわれた。つまり,自治体の条件(財源,職員数など)さえ整えば,毎日24時間の介助者派遣体制も可能になった2)。しかし状況は変わっているとはいえない。上限がなくなったといっても,要綱から上限を明示した一文がなくなったというだけで,そこから先は実施主体である自治体の裁量に任されている(→第5章:小山)。インタビューの結果,ホームヘルパーを利用している人17人中,制限撤廃以前の週18時間を超えて派遣を受けている人はいなかった(18時間の派遣を受けている人は2人だった)。そこには,福祉行政の地域格差の問題も浮かび上がってくる。
質問者「(生活の場所に)大田区を選んだっていうのは」
Dさん「あのね残念なことに,今,東京都と,川崎と横浜,ま,神奈川県ですよね,で分けると,要するに,介助に対して,障害者が自立しようとするために,経済的な基盤,裏付け,それがかなり,東京の方が,恵まれているんですよ。全国で東京,大阪にはかなわないです。」
質問者「地方とかだと数が少ないってこともあって厳しいものがあるみたいですね。」
Dさん「そうです。財政的なものがありますね。都の財政と他の財政とありますよね。
だからほんとに,村とか町とか行っちゃうと,3000人のところに障害者が5人いても,その人が自活するために,介助に対するお金を出しましょうっていっても,ま,財源的なものがありますから,高齡者福祉に行っちゃいますから,どっちかっていうとまわってこないんですよね。残念なことに。今,僕らの自立生活セミナーっていうのを川崎でやってるんですよ。そこで他の地域と比較するっていうのをやっているんですけれども,やっぱり介助だとか,住宅のことに関してのことは,東京より川崎の方が全然遅れてますよ。川崎市のヘルパーさんなんて週3時間,3日までしか,要するに合計9時間しか認められていないんですよ。それ以外24時間介助受ける人はどうすんのか,自分で家政婦さんとかヘルパーさんとか雇わなくちゃいけないんですよ。お金を出して。で,その金も,自分で稼いだお金とか,親からのお金を出さないと。だけども東京都では,一応重度障害者に関しては1日6000円の30日分,18万円が保障されているんです。ですからそういうものとか,それから,生活保護,生活保護は川崎でも受けられるんですけれども,そういうものを利用すると,かなり高額な金額を得ることができるんですよ。得るっていうか,要するに経済的な恩恵に預かることができる。ですから東京で自活されている方っていうのは,そういうお金をうまく利用して介助者をみつけて生活している方が多いです。私町田でも良かったんですけどね,でも,何となくやっぱり,(大田区の方が)家から近い。電動車椅子で行ける範囲。家が川崎だけど,多摩川渡るとすぐ大田区なんですよ。数キロで行ける範囲ですから。電動車椅子に乗ってますんで,あの,実家とそこが近いほうがいいだろうっていうことでそこを選んだんです。そんな関係で。」
Dさん「だからどんどん障害者の方は,本当にね,気持ちさえあれば気持ちとあと,住宅とか,介助者みつければ,そうやって出ることは可能だと思います。これからそういう動きは多くなると思いますよ。親はなかなかね,出さないんでしょうけど。だから私は,東京と川崎だけでも違うから,とりあえず東京に。私は24時間必要はないけれども,でも,最近やっぱり寝返りがちょっとつらくなってきましたから,将来的には24時間必要,それに近い状態になるでしょうから。今は朝起きる時に起こしてもらったりとか,着替えさせてもらったりとか,御飯の用意をしてもらったりとか。それから寝る時。昼間はこうやってなにかと暮らしていますが,排尿,排便とかありますけれども,そのへんが…。部分部分で私をかばってくれればいいわけですから,ある程度,24時間までいかなくても,まあ半分ぐらいで済むかとは思いますけどね。」
B:自立生活センターには介助者派遣の量に制限はない。介助料を払うことができるならば24時間の介助を受けることも可能である。しかし,逆にお金がなければ利用できないともいえる。この利用者が払う介助料というのは大抵行政から支給されたものである。行政からの金を受給するにも障害の程度などにより様々な基準があり,人によって支給される額が違う。その金にも限度があるのでやたらには自立生活センターの介助を利用できない。
質問者「じゃあ,ヒューマンケアのサービスで,ここをもう少し良くして欲しいとか,今こういうのが困っているとか,そういう点はありますか。」
Eさん「うーん,そうですね…,どうだろう…,特にこれといってないんだよねぇ。ないんだけど,強いてあげればお金のことかな,やっぱり。」
質問者「高いということですか。」
Eさん「うん,ちょっとねぇ。収入の割に…。まあ,僕は生活保護を受けていないし,介護人派遣事業だけだから。」
質問者「他に気をつかっていることはありますか。介助する上で。」
Fさん「そうですね,ひとつはコーディネーターの立場から,その人の財力がどのぐらいあるかなんてのは気になります。というのは,有料でしょ。いろんな手当ては受けていても,やっぱりそう裕福な暮らしではないと思うのね。だからその人がどれだけ財力があって,有料介助を使っているのか,あの,多分,介護費用が出ていても,それは生活の一部にまわされている部分もあるんじゃないかと思うのね。だから,どれぐらい困っているのか,裕福なのか。そのあたりはいつも気になっています。」
ホームヘルパーの派遣時間は上限が撤廃される前のままである。週に18時間以上介助を必要とする人にとっては,自立生活センター等からの介助者が必要になる。しかしお金の面で言えば,自立生活センターに比べ,行政の制度は所得がある人はそれに応じて負担があるが3),それ以外は無料である。無料であることの意味は大きいと思われる。無料であるというメリットが他のデメリットをカバーすることにより,とりあえず無料なので利用するという人が多いと思われるからである。
2 介助者の質
A:聞かれた意見としては,以下のようなものがある。
質問者「センターの介助サービスと行政のヘルパーさん両方とも経験しているわけですけれども,なにかやっぱり違いみたいなものとかありますか?」
Gさん「うーんとねぇ,どんなだろう,パーソナリティの問題じゃないかなぁとは思うけど,向こうは(行政のこと)主婦ベテラン20年なんていう人がざらにいるから知識の量とかこなせる数の量とか圧倒的に向こうの方が多いよね,でもそれだからといってそれが私がその人とそういう条件があるのが心地良い関係かっていうとそうでもなくって,『あっまずい人に来られたなぁ。早く交替になんないかなぁ。』っていうのもあったしね。」
質問者「そういうのはどういう時ですか?」
Gさん「あぁーっ!だってしないんだもん,うちに来てなんにも!おしゃべりして帰って(笑),どうしようかと思って。」
ベテランの主婦が多いので家事の要領がいいということである。これは後にも出てくるが,ホームヘルパーの担い手の人々の属性によるものである。
B:一方,自立生活センターはどうであろうか。
Hさん「私,まだ入って1年ですから言えるんですけれども,あの,すごくヒューマンケア自立生活センターのサービスはいいんじゃないかって。自慢したりしてはいませんけど。」
質問者「他の自立生活センターに比べて?」
Hさん「他のじゃなくって,ヘルパーさんと比較して。ヘルパーさんとか,家政婦協会さんと。」
質問者「融通がきくとかそういうことですか?」
Hさん「いや,心がこもっている。低額でも一生懸命やってくださる人が多いような気がしますね。」
同じようなことが他の利用者からも聞かれた。インタビューによれば,自立生活センターの介助者は介助に対する意識が高いと受け止められているようである。
では,介助者に対する教育によって違いは出てくるのだろうか。その前に,A・B双方で介助に関わる教育・講習はどのようになっているのだろうか。
A:正規の職員は,特に資格が必要というわけではないが,筆記試験と面接を通らなくてはなることができない。ヘルパーとなった後は一定の研修が用意されている。行政から委託されている民間団体の場合,介助者になるための試験等はない。研修はあるが,実施はその団体に任されている。その場合正規の職員ほどは行なわれないようである。
B:自立生活センターでは,介助者が登録するとすぐに初心者講習会が用意されている。これは全員に行われる。その後は幾つかの講習会や,勉強会(障害者を交え意見の交換を行う)が行われる。ただこちらの方は参加自由で全員が受けるものではない。介助マニュアルなども各自立生活センターで作成されている。しかし介助のノウハウはもっぱら介助の経験や,介助者同士の間での介助の方法に関する情報交換を通して学習していくようである。このように多くの部分がそれぞれの人に任せられているわけであるが,それによって介助内容に個人差が出てきてしまうということも起こっている。
Hさん「この間市役所の人がここにいらっしゃって,やっぱり市役所の方でも研修っていうかね,教育が必要だって。その…色々聞くという話をしていましたけどね。」
質問者「市役所の方は研修はしない?」
Hさん「委託の方はしてないみたいですね。家政婦協会さんとか,もう,委託しっぱなしということでやっているみたいね。各家庭でいろんな苦情を聞いてますけども耳が痛いんですけどもって言っていましたけど。」
質問者「そこへいくと,ヒューマンケアの介助の方は,講習会を受けているとか?」
Hさん「講習会はそれほどやっていないと思いますよ。基礎講座を春と秋とか,あと,ちょちょっと何回か,でも,計6回ぐらいなんだかんだやってますけども。」
講習と並んで,介助者交流会での介助者同士の情報交換も,介助の手法を身につけることに役立っているようだ。
質問者「ヒューマンネットワークの中では交流会があるんですよね。」
Iさん「ヒューマンの中で,利用者交流会,ケアスタッフ交流会,会員の交流会ね。」
質問者「それぞれいろんな意味をもってくるんですか。」
Iさん「会にいても,こんな利用者がいたのかって感じで,個人個人の関係でしかないから,あんまり広がらないから,結構そういうところに行くと,そうね,情報交換を。どういうふうにやったら一番この人の介助がやりやすいのかっていうのを,不安に思っている介助者もかなりいるから,例えば自分が金曜日にAさんのところに入っていたら,火曜日のAさんの介助の人に交流会で会ったときに,私も悩んでいるんだけど,っていった具合に,あら私はこういうふうにやっているわよっていって。介助の方法とか広がっていくでしょ。『じゃ私も変えてやってみるわ』とかさ。」
質問者「そういう中でこちらの気負いもなくなってくるというのはありますか。」
Iさん「そうね。」
今回聞き取りを行った範囲では,A・Bのシステムの違い,介助者の層の違いによって介助の質が変わってくる部分があると同時に,派遣された個々の人の「当たりはずれ」もかなりあるようだった。
3 介助する人の層(性別・年齢)
ではホームヘルパーや,自立生活センターの介助者の人達はどんな人達なのだろうか。
A:ヘルパーのほとんどは女性で,しかも若い人が少ない。それは今まで採用してきた人が女性だけだったことと,若い人が少ないというのは,就職の選択肢として考えるには,職業として確立されていない部分があるからであると考えられる(給与など)。家政婦協会に依託する場合でも状況は変わらない。この場合は中年以上の女性が多く,介助内容も家事が中心となる。家事に慣れていて安心できるという評価,母親と同世代なので安心という評価と,口出しが多いという評価,両方があった。次のような発言もあった。
Jさん「(家政婦協会から派遣されている人は)年齢もやはり,お年寄りの方がみえているんで,重いものは持てないとか,買い物もなんかちょっと気をつかって,重いものは頼めないとか,ちょっと遠慮するとか気をつかうことがありますしね。」
B:自立生活センターの派遣する介助者の場合,男性介助者の占める割合は行政のそれに比べれば大きい。しかしそれでも男性介助者の手が足りない状況がある。また,比較的学生などの若い人が多く,学校を卒業したら辞めていくというケースが多い。
Hさん「今私,自分が障害者(の利用者のコーディネイト)を担当していますけれども,なかなか大変です。学生さん住所変わってしまうし。」
質問者「学生が多いですか。主婦の人とか…。」
Hさん「私の場合は主婦の人。男の人の場合は同性介助なので男性が多いですね。」
質問者「でも男性の介助の方は少ない…。」
Hさん「そうですねぇ。今は学生さんとあと,定年退職した人を頼んでいるんですが。なかなかいないですね。時給っていうかね,有償ですけど。やっぱり低賃金…,低いですから。学生さん(バイト先として)もっといいとこありますからね。」
どうして介助者の層に偏りがあるのだろうか。そこには,介助は女性がするものだという意識の存在があろう。また介助が仕事としてわりにあうものではないということにもよるようだ。介助者としての収入だけでは,家族を養っていくことは難しい。そこで男性の介助者が少なく,親の収入に依存している学生,夫の収入があり子育て時期を過ぎた主婦,年金生活者達が多いのである。
質問者「行政のヘルパーは?」
Kさん「利用しているんですけど,ヘルパー,市役所の職員としてのヘルパーは本当に少ないんですよ。十何人とかその程度なんですよ。とてもそれじゃ賄いきれないですから,家政婦紹介所という所に派遣を依頼して,それとか高齢者事業団,高齡者の人達がリタイアした後の仕事する場に依頼するんですが。実際町田市でやっているヘルパーといった活動はみんなそういう形でやっている人達なんですよね。実際男性の職場としては認められていないし,認められていない理由は,保障制度ができていないからだと思うんですけど。」
4 融通が利く/利かない(=選択できる)
融通が利く,利かないというのは利用者である障害者が自分で思ったように選択することができるかということである。以下に挙げる介助者の選択,時間,場所,内容,についてみていく。
(1)介助者を選択できるか
A:正規の職員が派遣されている場合は,別の人に替えるのは難しいらしい。しかし委託されている民間団体から派遣される介助者なら話は変わってくるようである。インタビューの中で,仕事内容に問題があることを行政に伝え,行政が委託している民間団体(家政婦協会など)から派遣された介助者を,代えてもらったケースがあった。だがこの場合でも,特定の別の介助者を指名できるというわけではなく,選択というよりは,拒否ができるといったほうがよい。もちろん代わりの人がいればという前提に基づく。
他方でホームヘルパーは頻繁に来る人が変わるという意見も聞かれた。これは行政側の都合によるものだろう。気に入った人が派遣されて来たなら同じ人が続けて来て欲しいと思うのは当然のことである。利用者としては,介助者が代わる度に新しい関係を築かなくてはならないので負担になってしまう。
質問者「行政の介助者について,困ったこととかありますか。」
Jさん「家事援助の方,今来てくださっている人についてはないんですけれど,初めての家事援助が来てくれたときの1年から1年半ぐらいは,もう,すごいコロコロ変わっていたんですよね。」
質問者「一定じゃなくて,次は違う,また次は違う人というように?」
Jさん「ええ,それはそれでしんどかったっていうことと,急に来れないっていうのがあったし。1週間のうち真ん中は,私にとって大事な,貴重な時間なので,やっぱりちゃんと来ていただかないと困るんで,その時に家事援助の方を入れていたんですね。でも,しょっちゅうやめるというか,来なかったりしたんで,あまり重要でない週末の方に変えたとか,そういうこともありますし。」
質問者「人が変わるとか,来る時に来ないっていっていうことで,市役所なり,なんなりにクレームっていうのは言ったことはありますか。」
Jさん「あ,言ったことがあります。あまりにも内容がひどかった人がいたのでね。仕事の内容でお断りしたことが…,『替えてくれ』と。」
質問者「役所にそう言ったら,それはそういうふうになった?実現された?」
Jさん「あっ,そうです。」
質問者「すぐに?」
Jさん「ええ。もうその次の週からは替わって。」
質問者「内容的にはどういう。その人に限っていえば。」
Jさん「仕事の内容が私の意にそわなかったというか。洗濯物を干すのにも本当にぐちゃぐちゃのままかけたりね。あれはどう見ても,乾けばあのままの形で…」
質問者「ぐしゃぐしゃで乾いちゃった。」
Jさん「ええ。全然伸ばさないで,タオルなんかもね。あれはひどかったし,はたきをちょっとかけて欲しいっていうのを,床をほうきで掃くようにしていて,ちょっと常識では考えられないことをしていたんで。」
質問者「その時言いました?『そうじゃなくて』とか。」
Jさん「いや,あきれてました。すぐに替えてもらおうと思って。」
質問者「その方は何回? 1回来ただけ?」
Jさん「もちろん1回で。」
質問者「それはもう多分本人に言っても直りそうにないと?」
Jさん「ええ。」
質問者「直接行政に言わなきゃだめだろうなって?」
Jさん「そう。」
Hさん「私もよくわからなかったんですけれども,お願いしてから毎週代わっていたんですよね。私がいけないのか,指示っていうかな,私がへたで嫌がられて代わっちゃうのか…。かわるがわる入っていました。向こうの言い分はわからないんですが,けれども…,私はね,とてもちょっと…,なかなか大変な…」
質問者「やはり関係を作っていくっていうのがありますから。」
Hさん「正直に言ってなんていうかな…。よくありますよ。まめに働く人,厭わないで働く。でも何となく厭んじゃう人が多かったような気がしてたんですけど。今いらしている方は,やっといい人に巡り合えたという感じで,ずっといらしてくださいねって言っています。」
B:それでは,自立生活センターではどうなっているだろうか。CIL立川の介助マニュアル(自立生活センター・立川[1992])から引用する。
「当センターでは有償で介助サービスを提供しています。現行の利用料が「労働」の対価として十分であるかの議論は残るにしても,「介助にさいた時間とその労働」に対して一定の報酬を支払うことは,当事者(障害者)が介助者に「してほしい」ことを気がねなく求めるのを助け,また介助者も報酬を受け取ることで介助に責任を感じるようになります。当事者と介助者は,面談を経て契約条項に基づく「雇用関係」を結ぶわけですから,介助者が当事者の意志を尊重しない場合には,当事者が最終的に介助者を解雇する権利を持つことができるのです。このことは,当事者が自らの意志に責任をもって行動することにつながると思います。」
「面接から介助契約を結ぶまでの具体的な流れを説明します。
ア.介助の依頼についてはコーディネーターが依頼者のご家庭を訪問して直接お話しをうかがった上で会員登録をしていただき,「介助依頼者登録カード」に依頼内容を記入していただきます。介助希望者の場合もコーディネーターが直接お話しをうかがい,会員登録をしていただき,「介助スタッフ登録カード」に希望条件を記入していただきます。
イ.「介助依頼者登録カード」と「介助スタッフ登録カード」に基づいてコーディネーターが,条件の合う依頼者と介助スタッフを紹介することになります。紹介に際しては,依頼者と介助スタッフ双方が直接面談していただき,お互いに介助内容について合意できれば決められた日程で介助がスタートします。面談には,コーディネーターも同席し,定期的な介助の場合には契約をかわします。」(『絆――より良い関係を築くための介助マニュアル』より)
このように介助者を選択することは原則的には可能である。しかし,人手不足という問題があるので,全ての要求に答えられるとは限らないようだ。これらの事は他の自立生活センターでもほぼ同じである。
このように,どちらも介助者は利用者の要求により,介助者を代えることはできるようである。ただ,行政は介助者の拒否はできるが,別の特定の介助者を選ぶことはできないのに対し,自立生活センターでは介助者を選択できるということを利用者に保障している。
介助者といえば利用者にとって日常生活を送るための手や足である。自分と合わないと思う介助者や,仕事ぶりに問題があると思われる介助者を無理に使うことはない。その意味では介助者の選択は可能でなくてはならない。
付け加えるなら,自立生活センターの方針として,同性による介助が原則とある。確かに身辺介助においては(排泄,入浴など)それでよいだろうが,不都合なケースもある。例えば,利用者が女性であり,重い荷物を運んでもらうことは女性の介助者にはなかなか頼みにくいなどである。こういう時には男性の介助者を派遣して欲しいという声が聞かれた。
Lさん「(自立生活センターから派遣される介助者について)学生が2人,OLが1人。」
質問者「全部女性?」
Lさん「女性。男性も入れて欲しいんですけど,コーディネーターの方が入れてくれないもんで。一応同性介助が基本らしいですから,特例もあるそうですけど。」
質問者「家事に関しては異性であっても構わない。異性であったほうが嬉しい?」
Lさん「例えばね,力仕事とかありますよね,釘を打ったり,棚を作ったり。その時は介助者に頼めないんですよね,女の人に。だからついついそういう方が…ほんとの介助としてハードなんだろうけれども,やっぱり友達関係に頼んでしまう部分がありますよね。」
質問者「ヒューマンケアから介助に来てくれる方というのはだいたい決まっている人なんですか。」
Eさん「そうですね。週というか,曜日単位で決まっている。」
質問者「それは男性の方ですか,女性の方ですか。」
Eさん「男性。まあ,本当は女性の方も入っていただいたほうが,食事とかね。男性が多いもんだから,ついつい店屋物とか,コンビニ弁当とかになっちゃうんだけど。」
(2)時間帯
次に介助を受ける時間帯についてみる。
A:同じ意見がたくさん聞かれた。それは「本当に介助を必要とする時間に派遣されない」という意見である。代表的な意見を挙げる。
質問者「こちらのセンターからの介助サービスとホームヘルパーさんとの違いみたいなのは…。いいところや悪いところ,色々あると思うんですけれど。」
Mさん「一つはね,僕たちがこの『町田ヒューマンネットワーク』で介助者派遣をやろうというきっかけになったのは,障害者が生活する時にいろんな介助がいるわけだけれども,行政のヘルパーというのは,9時〜5時の時間帯で,それも土日は除くだとか,祭日はだめだとか,あるいは連休のときも休みだし,お正月休みも来ないし,という形で,役所タイムでしかヘルパーは動かないわけですよ。だからすごい制約があって。普通のみんなの生活というのは役所タイムではなく,役所タイムというのは仕事をするタイムだから生活するタイムじゃないわけでしょ。朝の時間とか,夕方の時間とか,夜の時間,あるいは土日とか,お正月休みだって日常生活というのは続くわけだから,そういうところに役所では来てくれないから,じゃあ自分達で必要な介助を自分達で提供していこうというところで始めたわけでしょう。ですから積極的に,うちの介助だと,朝の介助だとか,夜,夕方の介助だとか,障害者にしてもね,ま,うちにずっといる障害者もいますけど,多くの障害者が昼間は作業所に行っていたり,自分の仕事をもっていたり,あるいはいろんな昼間の生活を送っているわけでしょ,活動に出かけたりとか。で,一番介助が必要なのは朝の時間。ベットから出て,食事して,出かけるまでの1時間か2時間,それから夕方帰ってきてからお風呂に入ったり,トイレ済ましたり,食事作って食べて,ベットに移って寝るまでの時間とか,色々と一番介助が必要な時間でしょ。その時間帯にヘルパーが来ないから,じゃ自分達でということで,その時間帯を積極的に向けていく形をとっているんですよ。ただまあ,民間団体の一つの限界がありますからね。役所はいろんな制約があって昼間しか来ないんだけど,きちっと保障してずっと継続しますよね,もちろん役所の仕事だから当然だけど。でもうちの場合だと,積極的に夜もやり,昼もやり,土日もやってるんだけど,けどいかんせんスタッフの人数が少ないし,どんどんどんどん注文が来たらとてもじゃないけど応えきれない状態でしょう。それから,どこまできっちり保障できるかというようなところでは,弱い部分があるわけですよ。」
この派遣されない時間帯というのは,家族が介助を行なうようにという行政側の考えによるものであろう。
ただホームヘルパーでもなかには融通が利く例もある。
質問者「市の方では融通が利く?」
Rさん「市の方もその本人どうしで融通を利かしてやってくれることも…。」
質問者「やってもいいんですか?」
Rさん「そう。」
質問者「市のヘルパーは夜中とかはない。」
Rさん「夜中とかはあれだけど。自分が昼間いないってこともある。夜9時位まで。」
質問者「それは市のヘルパーでも?」
Rさん「とにかく3時間っていう時間の制約あるんだけど,その3時間をどのようにしても,2人の相談で,融通利かしてやってくださいって…。」
質問者「でも,今までインタビューしてきた中では,融通が利かないって声が。」
Rさん「それはね,市役所の職員じゃないからできるんじゃないのかな。」
民間団体に委託されるようになった結果,職務規定のある公務員よりも,利用者にとっては融通が利くと感じられるようである。
B:自立生活センターの場合問題はなく,希望の時間帯で契約すればよい(センターによっては,介助料が利用時間帯によって異なる)。さらに予定が入っていなくとも利用者が緊急に介助者を必要とする時は,連絡すれば常時センターに待機している職員が派遣される。自立生活を送っている障害者達にとって日常生活における突然の出来事,例えば病気になったり,事故が起こるということは,一番の不安な要素である。その点にも自立生活センターは対応しているのである。さらに不定期の派遣も行なっている。普段の生活では介助を必要としないが,たまに介助が必要であるという人に対しての派遣である。それは例えば旅行に行くためであったり,コンサートに行くためなどである。行政にもガイドヘルパーなどの制度があるが,利用するためには資格審査や,面倒な手続きがいる。それに比べ自立生活センターにおいては,煩雑な手続きがないので利用者は不定期の介助を気軽に利用できるのである。ただ,そのような時間帯に派遣可能な介助スタッフの数も限られているので,それとの兼ね合いが問題となる。
質問者「介助は頼んだことはありますか。ヒューマンネットワークなどの。」
Nさん「旅行行くときはありますけど,普段の生活ではありません。」
質問者「現在なんですけど。八王子とかのセンター,ヒューマンケアからの介助サービスなどは受けていますか?」
Oさん「僕は,介助サービスは受けていないね。手が利くからほとんど。なにか僕の動かせないものは女房ができちゃうから,女房は健常者だから。介助サービスは全然。ほんのちょっとだけ。」
質問者「そうですか。それはだいたい月に何回,年に何回?」
Oさん「いいやもう,女房なんかがちょっと夏休みに遊びでイギリスに行ったときに,ちょっと僕が褥瘡っていうのができて,家で寝ていたのね,それで5,6回きてもらっただけ,それだけしかないね,経験としては。」
利用時間帯は全員に聞かなかったのだが,定期的に,ボランティア,自立生活センター,個人の有償介助を利用している人18人のなかで,ホームヘルパーが派遣されない早朝や夜に利用しているとはっきりインタビューからわかった人が8人いた。これからわかることは,行政の介助者の派遣されない時間帯を補うものとして,ボランティア,自立生活センター,個人の有償介助が利用されているということである。
こうしてみてみると派遣される時間帯という点において自立生活センターは行政を大きく引き離している。利用者にとって自立生活センターは理想の形態であるといえよう。しかしそこに,金の問題やスタッフ不足の問題(どちらも先に述べたとおり)が入ってくるので複雑になってくる。
(3)場所
利用者は介助を受ける場所を選択できるだろうか。
A:ホームヘルパーの派遣は原則として自宅で行なわれ,しかも派遣される時間には本人が自宅にいなくてはならないことになっている。留守宅には派遣されないのである。つまり利用者に外出しなくてはならない用事があったとしても,ホームヘルパーが来るので家で待っていなくてはならない,また外出先から同様の理由で家に帰らなくてはならないなど,活動が制限されてしまう。これでは選択ができるとはいえない。
質問者「センターの介助サービスは受けていらっしゃいますか。」
Cさん「受けていません。」
質問者「じゃあ介助は…。」
Cさん「介助は全て友人に頼んでいます。最初は行政のホームヘルパーを頼んでいたんだけど,仕事とかであたし家いないからやめたの。」
B:ホームヘルプサービスと対照的である。頼んでおけば留守宅への介助者派遣も可能であり,介助者と一緒に外出することもできる。場所の選択ができる。ここでも行政よりも自立生活センターの方が利用者のニーズに答えるものだといえるだろう。
質問者「例えば,ホームヘルパーの介助と比べて,ヒューマンケア協会の介助はここがいいっていう利点みたいなとことかありますか。」
Pさん「ホームヘルパーはだいたい昼間なんですよ。で,ホームヘルパーのときは絶対家にいないといけないんですよ。」
質問者「じゃ,時間的なこととか,あと自分がいなきゃいけないとか,そういうことで融通が利かないって…。」
Pさん「そうです。」
質問者「じゃ,センターだといなくても大丈夫…。」
Pさん「どうしても用事があるときは,これこれの事をやってって言えば。」
(4)内容
次に内容についてである。介助の内容を利用者は選択できるのだろうか。
A:ホームヘルパーは,家事援助者と身辺介助者は,はっきりと決められている。ゆえに,家事援助者として派遣されれば,身辺介助に属することはしない。逆も言える。これは,行政の介助者派遣に関する「家族に対しての援助である」という考えや,利用者や介助者にとって危険な作業は避けるという考えによるのだろう。しかし利用者側にしてみればそのようにはっきり割り切れるものではない。家事援助に属するものと身辺介助に属するものが混在しているほうが普通である。また,家事援助と身辺介助のそれぞれにも細かい規則がある。したがって,利用者は,どのようなことを頼むことが可能か,そして不可能かを理解しておく必要がある。選択の幅はかなり制限されているといってよい。
B:自立生活センターの方は,契約時に頼めば大抵のことは可能になる。「本人への援助」という性格によるものだろう。本人ができるかできないだけが基準となるのである。また家事援助者と身辺介助者という分け方はされていない。利用者の選択の幅は広い。
質問者「(ヘルパーは)規則で定められている以外のことはしてくれない。」
Jさん「ええ。」
質問者「そういう点からすると,ヒューマンケアの方は色々なことをしてくれる?」
Jさん「ええ。あの…融通が利くって感じですね。」
質問者「時間?」
Jさん「ええ。時間もそうですし,内容も。一応,最初にはちゃんと時間とか内容もこういう感じで,というような契約みたいなものをするんですけど,普段の時間以外にやってもらいたいときに,事前に頼めば,やってくださいますし。」
質問者「ヒューマンの方で介助してもらうってことで,ホームヘルパーなんかと比べてこれはいいとか…。よくても悪くてもどっちでもいいんですけどね。」
Qさん「ホームヘルパーの場合は,身体に触れることは一切しないって条件で…。」
質問者「家事援助っていう?」
Qさん「そう。だから体に触るような,…軟膏塗るだけでもだめだとか,一応ね。」
質問者「それが,とりあえずヒューマンの方はないんですか?」
Qさん「そう,医療まではいかないんだけど。」
質問者「ぎりぎりまでですか。」
Qさん「境目があるでしょ。その間はヒューマンはほら,お互い頼めばそういう条件で入ってもらって,OKであればやっていただけるけど。」
この点もインタビューの中でよく聞かれた。ホームヘルパーは融通が利かない,それに比べると自立生活センターは良いといったものである。
V 利用者が選ぶ
1 何故それを利用するか
今まで行なってきた作業から何が言えるだろうか。ホームヘルパーを利用している人は半数以上いる。だが,自立生活センターの介助サービスと比較してホームヘルプサービスは,障害者のニーズに答えられているとは言い難いものであった。それなのに何故多くの人が利用しているのだろうか。
その理由として考えられるのは,一つには,お金がかからないということである。ホームヘルパーの派遣は,申請が認められば,そして一定の所得を超えなければ,18時間までは無料である。先にも触れたとおり,お金がかからないということの意味は大きい。「東京都重度脳性麻痺者等介護人派遣事業」,そして生活保護を受けている人であれば「他人介護加算」(→第5章:小山)で必要を満たせない場合,介助料の負担のないホームヘルプサービスを利用する。必要量が多い人,また制度的な制約があっても上限まで利用できる人は,上限一杯まで利用することになる。しかしそれだけでは十分な介助が得られない場合がある。そうなったときにそれを補う形で他の介助システムを利用することになる。
だが他方で,例えば,1日に14〜15時間の介助を必要とするがホームヘルプサービスは週2回に限り,上限までは利用していない人もいる。それはホームヘルプサービスが日中しかも利用者が在宅する自宅において行なわれることによる使い勝手の悪さ(この人の場合には,日中はほとんど仕事で外出している4)),そして,ホームヘルプサービスを上限まで利用しなくても介護人派遣制度等の利用によって有償の介助に対する負担が可能であることによっている。同様の理由で,申請すればホームヘルパーの介助を受けることができるが,全く利用していない人もいた。
また,以上に挙げた時間的な制約(利用の上限・派遣時間帯),そして本人のいる自宅への派遣という制約以外に,ホームヘルパーの多くが自治体が派遣を委託している家政婦協会から派遣される家事援助者であるために,介助内容についても家事が中心になっているといった制約があった。さらに,ホームヘルパーのほとんどが女性であるため,男性の介助者を得たい場合にその必要を満たすことができない。そして,ホームヘルプサービスの場合,介助者を選ぶことができない。介助内容に不満がある場合,介助者との関係がうまくとれない場合に,ホームヘルパーの交替を要求しそれが認められたケースがあったことを先にみたが,それでも最初から介助者を選択できるわけではなく,あくまで派遣されてきた人を交替させてもらったということである。逆に,うまくいっていても派遣側の都合で頻繁に交替があるということも指摘されていた。こうした不満を抱きながらホームヘルプサービスを利用している人もおり,またこうした制約のためにホームヘルプサービスを使い切っていない人もいる。
これは,もしホームヘルプサービスが自立生活センターの供給するサービスのように,時間あたりの利用料を払う制度であったなら,両者の経済的な負担が同じであったら,ホームヘルプサービスの利用量はさらに減る可能性もあるということでもある。
2 今後
では,ホームヘルプサービスと,自立生活センターのように民間団体が介助を供給していくシステム,この2つの流れはこれから先どうなっていくのだろうか。
これまで見てきたホームヘルプサービスの問題点をなくしていくことはできないことではないはずである。ホームヘルプサービスの派遣時間を増やす。24時間の介助体制のため交替制の勤務制度をとる。給与面や諸制度も改善して,介助者層の偏りもなくしていく。同時に介助内容の改善を行なう。介助者や介助内容を選択できるようにする。これらはみな実現されていることではないが,やろうと思えばやれることではないか。そして,少なくとも国(そして東京都の場合では都)の要綱等では,利用時間の上限の撤廃はなされており,改善の動きも見られるようだ。
すると,ホームヘルプサービスの制度と自立生活センターの活動に違いがなくなってくる。そうなると,自立生活センターの介助部門が存在する理由が減っていき,そしてなくなってくるのではないだろうか。最初に記したように私は当初そのように考えていた。5)
だが第一に,民間団体に委託する部分も含めて,必要な介助者を調達することができるのかということがある。むろんこれは,給与水準をどの程度に設定するのか等によって変わってくるが,それでも今後も増大し続ける必要を満たすのは容易なことではない。実際,国のレベルでは,従来のホームヘルプサービスの枠内で必要量を調達することをあきらめる,あるいは費用を安くあげるためにむしろ積極的に民間組織の活動範囲を増やしていこうとする動きもあるようだ。
ただこうした動きに対しては,行政の責任回避だとして批判し,あくまで行政に対応を求めていくという立場もあるだろう。とすれば,これは,自立生活センター等の民間組織が介助サービスを提供すべき積極的な理由にはならないかもしれない。
しかし第二に,自立生活センターは,介助を受ける当事者が介助サービスを供給・媒介する組織である。もちろん,当事者が運営する組織なら全てがうまくいくというのではない。実際,以上で見たように,いくつかの問題点の指摘も利用者からあった。けれども,当事者が運営していることによって,ホームヘルプサービスには見られない,利用者側の必要に即したサービス供給が行なわれているのもまた事実である。その方向にホームヘルプサービスの制度も変わっていくことができるかもしれない。しかし,それでも,例えば介助者と利用者との間で両者の言い分を聞いて解決策を見い出していくといった場面では,当事者主体の組織のメリットは残るだろう。
第三に,利用者がAとBを比較してどちらが良い悪いと言えるのは,AとBの両方があってのことである。見てきたように,実際に自由な選択が可能になっているというわけではないが,それでも利用者は,ある程度は両者を比較した上で,より必要にあった方を選ぶことができている。少なくとも比較して評価し,不満を言うことができている。このことによって,評価される側はサービスの質を上げる努力をすることにもなるだろう。今回調査した3つの地域でのホームヘルパーの派遣に比較的柔軟性があるのも,利用者側の(組織の)行政に対する発言力が強いということとともに,ホームヘルプサービス以外にも介助供給システムがありそれと常に比較されているという要因があるのかもしれない。
とすれば,この競合という状態が続いていってもよいのではないか。
では,上に見たような費用負担のあり方の違いはどうしたらよいのだろうか。これに対しては,費用の供給主体と介助の供給主体を切り離し,前者について同一の条件を設定するというやり方があるだろう。例えば,利用者に介助にかかる費用を渡し,どのような組織を利用するのかを選択できるようにするといった方法が考えられる。また公的な医療保険のような方法もある。病院に公立病院と私立病院の両方があってどちらかを選択して利用できるのと同じようなシステムを作るのである。6)
このように考えると,当初私が思っていたように,仮にA:ホームヘルプサービスが充実していっても,B:自立生活センターのような民間組織の意義がなくなるわけではないようだ。7)8)
注
1) Fは一番一般的だが,ここでは,そうした家族の手を離れて自立生活を志向する障害 者について取り上げているので,詳しくは触れない。
Dでは介助は無償で行われる(交通費だけは障害者が負担することもある)。ボラン ティアセンターなどのように,組織があり,そこから派遣されるという形もあれば,友 人などの個人としての場合もある。獲得の方法としては,組織的なものは,登録して派 遣してもらう。一方個人的なものは,駅や周辺の大学でのビラまきなどによって獲得す る。また,友人のつてなど,いわゆるコネによって獲得する場合が多い。
これはEについても同じである。個人的にみつけ契約する。双方の間で決められた介助料が払われる。しかし簡単にはみつからないようである。Eの場合は,主体が障害者なので,障害者の意向にそった介助内容となる。その反面ボランティアも同様だが,個人対個人なので,なにか事故が起きたときの保障がないので不安だという声が聞かれた。
2) 調査を行なった3市の1992年度における人口とホームヘルプサービスの実施状況は以 下の通り(東京都福祉局障害福祉部在宅福祉課[1993]による)。
人口 常勤職員 家事援助者 計 派遣対象世帯数 予算額(千円)
八王子市 470847 4 60 64 79 33943
立川市 154884 4 56 60 81 62612
町田市 353745 7 90 97 97 54740
3) 年収 300万円の一人暮らしの障害者の場合,1時間当たり 850円の自己負担になる (横須賀[1993:127])から,そこそこの年収のある人にとっては負担はかなり重い。
4) そしてこの人の場合,先にもそういう例があったが,ホームヘルプサービスもこの制 度の規定からは「逸脱」した形で利用している。
「ホームヘルパーは週2回来ている。ただ,日本のホームヘルパー制度っていうのは基本的には留守訪問しないのね。私は例外中の例外で,特例中の特例なのよ。行政に鍵を預けてる。それで,いない時に入って,掃除とか,洗濯とかをやっていく。」
5) ホームヘルパーの制度が利用者の要求に応えて充実し,行政の不備な点に異を唱えて活動してきた自立生活センターの介助者派遣部門の存在意義がなくなる。そこで介助者派遣部門がなくなる。介助に関わる自立生活センターの役割としては,行政と利用者のあいだにはいって利用者の要求を行政に伝えたり,利用者の介助者との関係やトラブルに関するカウンセリングなどを行なう,ホームヘルパーの利用の仕方を指導していくといったことが考えられる。
6) 自立生活センターがホームヘルプサービス委託先の民間団体になり,介助者を派遣し,行政は財政面を受け持つという分業体制も考えられる。ただこの場合には,行政の監督がつくことで自立生活センター本来の自由な活動ができなくなる可能性もある。この点も含め,介助供給システムのあり方については小山(→第5章)が検討している。
7) もちろん,今回調査したような組織が全国のどこにでもあるわけではない。むしろな いところの方がずっと多いのだから,特にそういう地域では「公立」の方の充実が欠かせない。だが同時に,上に述べたような費用の給付システムをとることによって,民間組織が台頭しやすいようにしておくのがよいと考える。
8) 引用したインタビューの対象者は以下の通り。
Dさん 男性/42歳/進行性筋ジストロフィー・1級 家族と同居 介助は父親(母親 は亡くなっている)。弟はたまに手伝う程度。川崎在住のため,自立生活セン ターの介助は受けていない。もうすぐ独り暮らしを始めるため,介助者を募集 中。
Eさん 男性/26歳/脳性麻痺・1級 一人暮らし A+B+D
A:週2回 水,金曜の10時半〜11時半 女性 一般家事・トイレ・布団の上 げおろし
B:上記以外の朝 男性 食事・トイレ・布団の上げおろし・炊事・洗濯
D:月3回 第1,2,4土曜日 1度に2人 一般家事・トイレ・布団の上 げおろし 介助者とは「若駒の家」で知り合う。交通費は出す。日曜日は 友人。
Fさん 自立生活センターのコーディネーター
Gさん 女性/?歳/頚椎損傷・1級 1990年から一人暮らし A+B+D
A:週何回かは不明 家事援助 9時〜17時
B:月1回ぐらい 出かける時
D:ヘルパーの時間以外,必要があれば友人に来てもらう。
Hさん 女性/40代/ポリオ・1級 A+B+D
A:月2回 2週間に1回 1回2〜3時間 掃除・洗濯・外回りの掃除
B:3時間 掃除 必要に応じて不定期に。手続きしたらすぐというわけでは なく,1週間位かかる(人が空いているかによる)。
D:友人
Iさん 女性/?歳/Bさんの介助者
Jさん 女性/33歳/脊髄炎による四肢麻痺・1級 結婚して夫と暮らす A+B
A:週1回 1回3時間女性1人 家事 家政婦紹介所からの派遣
B:週2回 1回3〜4時間 1人から2人 家事 後は必要に応じて来ても らう。
Kさん 男性/34歳/頚椎損傷・1級 5年前から一人暮らし A+B
A:不明
B:毎日 泊まり介助 12時間 実質5〜6時間
Lさん 女性/22歳/脳性麻痺・1級 一人暮らし B+D
B:週3回 午後5時から9時(仕事が5時まで) 女性 一般的な家事 友 人に比べ,いざという時に頼めない。週12時間で大体間に合う。
D:友人のみ いざという時は友人に頼む。ハードなことは頼まない。
Mさん 男性/51歳/脊椎カリエス・1級 結婚して妻と暮らす 日常的な生活では特 に介助を必要としない。A+B
A:週 1回 1回5〜6時間 毎回同じ人 掃除・物運び・料理 床掃除・ 留守の間におかずを作ってもらう・ものの移動・トイレの掃除
B:月1回 たまに使う程度 大きな仕事があった時(夏服の入れ替えなど, 大きなものを動かす,ワックスをかける)
Nさん 男性/19歳/脳性麻痺・1級 親元で暮らしている B+E
B:普段は頼まない 旅行の時の介助のみ
Oさん 男性/46歳/脊椎損傷・1級 1979年に結婚 E(配偶者)+ごくたまにB
Pさん 女性/32歳/脳性麻痺・1級 一人暮らし A+B+D
A:週2回 女性2人 洗濯・掃除
B:週2回 女性2人 17時30分からの2時間は必ず頼んでいる。食事
D:週2回 女性2人 学生(東海大福祉サークル)
Qさん 男性/37歳/頚椎損傷・1級 一人暮らし A+B
A:週3回 1回3時間 女性1人 掃除・トイレ・買い物
B:週2回 1回3時間 掃除・排泄介助・買い物・その他雑用
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