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第2章

CILの現状

――質問紙による調査から――

Ishii,Masaaki Inoue,Tomoki Teramoto,Akihisa1)
石井 雅章  井上 智紀  寺本 晃久

last update: 20151221


T はじめに

  第1章でCILがどんな活動をしている団体なのか、ある程度理解していただけたと思う。それでは、現在CILはどのような活動をどの程度行なっているのか。本章では、統計的なデータを用いこれを報告する。
  我々は今回、CILの活動状況を調べるために、1993年11月〜1994年1月に質問紙による調査をJIL(全国自立生活センター協議会)加盟団体のうち35団体に実施し、18団体から回答を得た。質問の内容は多岐に渡ったが(→巻末資料U)、ここではそれをそのまま集計するのではなく、T:運営、U:介助、V:自立生活プログラム(ILP)とピア・カウンセリング、以上3つの分野に分けてまとめた。質問によってはここに集計結果を利用していないものがある。大量の質問に親切にお答えくださった各CILの皆さんにこのことをお詫びしたい。また以下では、この調査結果の他に、いくつかの資料を用いてデータを補い出来る限り、過去から現在の全容を把握するようつとめている。そのため、項目によっては母数にばらつきがある。集計方法等は各々の集計結果について記してあるが、あらかじめこのことをお断りしておく。2)
  また、ここで集計されたデータがどのような意味を持つのかをはっきりさせるため、参考となる比較データを示しているところがある。特に、介助サービスについては、全国社会福祉協議会が行った「住民参加型住宅福祉サービス調査」(1992年11月〜12月実施)の結果を用いている。

U 運営

  1 JIL加盟団体の発足年

《表1》JIL加盟団体発足年分布

発足年 〜80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93

団体数 7 1 1 0 2 1 1 0 2 4 5 7 3 6
★ ☆  

  総団体数:40 ★:ヒューマンケア協会設立 ☆:自立生活協議会(JIL)設立
  JIL加盟全40団体の発足年の分布(《表1》)を見ると、1985年以前に発足している団体もかなりある(12団体、30%)。ヒューマンケア協会が第1章に見たような運営方式を採用する組織としてのCILの最初の団体で、その設立が1986年である。それ以前に設立された団体は、運動団体や作業所などから発展してCILになったものが多いと考えられる。他方で、21のCIL(全体の62.5%)が最近5年間の間に設立されている。JILの結成以降に設立された団体も多い。機関誌等を見ると、JILの活動に促され結成された団体もこれらの中にかなりあるようだ。
参考のため、第5回自立生活問題研究全国大会(1993年10月)で配付された「ILセンター設立・運営に関するアンケートのまとめ」より、16の団体についての「設立経過のパターン」をあげておく。

  設立経過のパターン(16団体)
 1.運動団体から発展(独立)して成立する型    7団体
 2.作業所から発展(独立)して成立する型     2団体
 3.集会を発展して成立する型           1団体
 4.地域の仲間が集まって成立する型        3団体
 5.同じ養護学校卒業生が集まって成立する型    1団体
 6.ピアカンやILP受講で刺激を受けて成立する型 1団体
 7.その他                    1団体

  2 JIL加盟時期
  
《グラフ1》















  1で見たようにJILの設立とその加盟の時期は必ずしも一致していない。JILが発足する以前から、CILとして活動を始めている団体も多い。そこで今度は、JIL加盟全40団体の加盟時期をグラフにまとめてみた(《グラフ1》)。
  会員数は2年間でJIL発足当初の2倍以上に増えている。その内訳を見てみると、正会員数は微増にとどまっており(13→14→16)、準会員の数も92年から93年にかけてはあまり増えていない(2→5→6)のに対し、未来会員数の増加が著しい(1→9→18)。新しくJILに加盟した団体はすぐにその加盟条件を満たすような活動はできないようだ。実際には、これからCILとして様々な活動を実施していくための準備や情報収集のために、まずJILに加盟する団体も多いと考えられる。

  3 予算、助成金、人件費

  CILの運営には資金が大きく関係してくる。次に、CILの金銭面でのデータを見てみよう。《表2》は1992年度25団体、《表3》は1993年度27団体について、予算、助成金、人件費の総計と1団体あたりの平均を推計したものである。活動開始が年度途中である等の理由で、集計できなかった団体もある。こうした団体についても(例えば年度途中からの運営状況を調べて)集計すれば、総額は若干増えるだろうが、平均値は下がることになるだろう。

《表2》92年度予算総額、助成金、人件費(25団体)
1992年度 予算総額(A)  助成金(B) B/A 人件費(C) C/A
総計 320,743,217円 152,326,773円 122,354,030円
平均 12,829,729円 6,093,071円 47.4%   4,894,161円 38.1%

《表3》93年度予算総額、助成金、人件費(27団体)

1993年度 予算総額(A) 助成金(B) B/A  人件費(C) C/A
総計  375,050,472円 207,424,000円 186,595,080円
平均   13,890,758円  7,682,370円 55.3% 6,910,929円 49.8%

  この1年間でも予算総額は、平均で100万円程、割合として8.3%増えていることがわかる。また、助成金収入は26.1%、人件費支出は41.2%増加している。
  また、予算総額の中で助成金総額が占める割合(B/A)は、93年度には50%を超えており、その割合は増加の傾向にある(47.5%→55.3%)。
  このことを別のグラフを用いて見てみよう。《グラフ2》は各CILの予算総額と助成金の関係を示したものである。横の軸は予算規模、縦の軸は助成金額をそれぞれ表している。助成金を僅かしか受けていないが事業収入の多い作業所や、書き損じ葉書による切手売上が、予算の40%を占めるCIL(第10章注参照)などのように、いくつかの例外があるが、予算金額が多くなるのに比例して、助成金の額も増えていることがわかる。


《グラフ2》














  《グラフ3》《グラフ4》《グラフ5》はそれぞれ、予算額、助成金額、人件費の金額別の団体数を示したものである。
  予算総額が 1,000万円以上のCILが、92年度は40.0%、1993年度では約半数(48.2%)を占めている。ある程度安定した運営が可能になった団体が増えてきていると言えよう。その半面、 100万円未満のCILも全体の5分の1程(16.0%→18.5%)程あり、むしろ増加している。活動を開始してまもない組織、助成を受けられない地方自治体の団体の加盟が増加していることによるものだろうが、CIL間で予算額に大きなばらつきがあることが読み取れる。(《グラフ3》)

《グラフ3》















《グラフ4》














《グラフ5》














  助成金に関しても、全体としては、年度間による変化はあまりないが、年間 1,000万円以上の助成金を受けている団体が増えてきており、全体の中でも相当の割合を占めている(24.0%→37.6%)。他方で、助成金を全く受けていない団体、 100万円未満の団体も全体の約3分の1を占める(32.0→33.3%)。(《グラフ4》)
  人件費は、CIL間の格差がはっきりと表れている。全体的には、人件費が上昇しているが、逆に、人件費がゼロのCIL、つまり、事務局スタッフが完全に無償ボランティアとして働いているところも全体の3分の1と依然として多い(32.0%→33.3%)。(《グラフ5》)また、全体としてみた場合に、助成金の額と人件費の額とがかなり対応していることが見てとれる。助成金のある場合には、(多くはこれまで職を得ていなかった障害者の)スタッフの収入となり、ない場合には無償の活動を担い続けるということである。
V 介助サービス

  CILの主要な活動の一つである介助サービスはどのぐらいの実績をあげているのか。
  介助サービスの統計的データは、過去にもJILなどが集計している。ここではこれも用いて、CILによる介助サービスの2年分の実績を報告するとともに、全国社会福祉協議会による「住民参加型在宅福祉サービス」についての調査結果3)との比較を行う。これは、「住民参加型在宅福祉サービス」の実施団体、このうち特に地域住民の参加を基本として住民自主組織が行っている「住民相互型サービス団体」がCILと多くの類似点を持っており、介助に関する数量的な比較の対象として、またCILがどの程度の役割を現在果たしているかを知るために、適当と思われるためである。ただし、この調査のデータのうち、住民互助型と他の住民参加型在宅福祉サービスの形態とが区別されず、総数のみ集計されている項目が多くある。以下、住民互助型サービス団体についてのデータは「住民互助型団体」、他の形態を含む総数のデータを「全社協調査団体」とする。

  1 団体数とサービスの開始時期

  JIL加盟40団体で介助サービスを実施しているのは、試験的に実施している団体も含めて現在20団体である。他方、全社協の調査によれば、1992年2月現在の「住民参加型在宅福祉団体」の総数は452団体、このうち「住民互助型」が147団体である。(《表4》)調査時期が違うため単純に比較できないが、住民参加型団体の総数の4〜5%、住民互助型団体の12〜14%を占めることになる4)。

《表4》 サービス実施団体数

住民互助型 社協運営型 協同組合型 行政関与型 施設運営型 その他 計 CIL
 147  148   81   31   4 41 452 20

《表5》介助サービス開始時期

   事業開始時期 全社協調査 CIL
81年3月以前   6   0
81年4月〜85年3月   31   0
85年4月〜87年3月   41   2
87年4月〜89年3月   61   4
89年4月〜90年3月   59   3
90年4月〜91年3月   56   2
91年4月〜92年3月   43   1
92年4月以降   44   6
不明   4   2
計   345    20
  また介助サービス(有料)を開始した時期(《表5》)を見ると、CILが全社協調査団体と比べて、比較的新しいサービス提供団体であることがわかる。

  2 介助サービスの実態

  それでは、介助サービスは実際にどの程度、そしてどのように行なわれているのだろうか(《表6》《表7》《表8》)。《表7》《表8》については全社協調査団体に関するデータも比較のため加えてある。なお《表7》のA〜D(《表8》もこの数値を用いている)は各々調査対象、回答数が異なる。その都度説明する。

《表6》1992年度・1993年度CILの総計(15団体・20団体)
総計 介助総時間  介助件数  介助利用者数  介助者数
1992CIL 147,471.5時間 37,647件    504人    975人
1993CIL 202,641.5時間 53,210件   851人 1,690人

《表7》1992年度・1993年度CILと全社協調査団体(1991年度)の平均

平均 介助総時間  介助件数  介助利用者数   介助者数
全社協調査 A 14,980.0時間 B 4,892件 C 76人(48人) D 60人(49人)
1992CIL   9,831.4時間   2,896件    36人   70人
1993CIL 10,132.1時間 2,956件    45人 89人

《表8》1992年度・1993年度CILと全社協調査団体の単位別データ

年度 介助総時間/件数 件数/利用者 件数/介助者 介助者/利用者
全社協調査 3.1時間/件 43.3件/人 55.2件/人 0.8人/人
1992CIL   3.9時間/件 74.7件/人 38.6件/人  1.9人/人
1993CIL   3.8時間/件 62.5件/人 31.5件/人  2.0人/人

  CIL全体として、介助総時間は上昇の傾向にある。これは、介助サービスを実施している団体が増加しているとともに、各団体の介助時間数も伸びていることが関係している。
  なお、全社協調査では、1992年11〜12月の調査時点で1年以上の事業実績のある団体に対して1991年度の総時間(延べ時間)についての回答を求め、 214団体の回答があった。その総計は3,205,651時間で、これを単純に全 452団体で換算すると6,770,814時間になるとしている5)。もちろんそこにも断られているように、実態はこの数字に達していないはずであり、また年度も異なるが、この時間に対する1992年度・1993年度のCILの実績の割合を求めると2.2〜3.0%になる。先ほどみた事業実施団体数に占める割合も含め、これをどう見るか。「福祉公社」のことは知っているが、CILのことは聞いたことがないという人は意外に割合が高いと感じるかもしれない。また、《表7》のA・Bにも関わることだが、類型別の総数の記載がなく、比較して参考になる「住民互助型」の団体についての総数がわからない6)。「行政関与型」「福祉公社型」「施設運営型」など、財政的な基盤が安定している団体、既存の大きな組織が運営する事業は事業規模も大きい(このことは時間・件数の分布表でも明らかにみてとれる)。「住民互助型」を採り出して比較してみた場合には、見えてくるものが違ってくるだろう。
  《表7》の全社協調査団体のA:平均介助時間は上記の320万余時間を214団体で割ったものであり、B:平均利用件数は、上と同じ方法の調査の結果2,211,118件を回答数213団体で割ったものである7)。AはCILの 1.5倍ほどになっている。だが各団体の介助時間数の分布《グラフ6》《グラフ7》をみてみると面白いことがわかる8)。

《グラフ6》














《グラフ7》














  年間10,000時間以上の介助実績のある団体が、上記214団体中では29団体(29%)、214団体中の住民互助型サービス団体では、59団体中5団体(8.5%)しかないのに、CILでは45%(20団体中9団体)に達している。CILの介助サービスは運営が軌道に乗り出した所であれば、比較的大規模なサービスを展開していることがわかる。
  介助1件当たりの時間はCILの方が約1時間程長い(《表8》)。ここに、CILの介助サービスの特徴が表れていると言えよう。
  全国社会福祉協議会による調査では、サービス水準の目標についての質問には重介護サービス(主に身辺介助を指すと思われる)、看護サービスまでをあげる団体は、3割程度しかいない。また重介護サービスや看護サービスまで求められたときの対応について聞いたところ、自団体内で対応している(対応していく)という回答は、2割程度(《表9》《表10》)にとどまっている。
  他方、《表11》は、CILの介助サービスの内容を自由に書いてもらう質問(→巻末質問表:3.@)への回答から10の団体分を採り出し作成したものである(例えば自立生活センター・立川は「一人暮らし24時間の介助なんでも」と記入している)。他の団体も含め、身辺介助は全てのCILが行なっている。また、こうした性格のものであるから、表には○がついてない家事援助等についても身辺介助と同時に当然行なわれているものと考えられる。むしろ、自由回答において、身辺介助が、他に優先して第一にあげられていることが、CILの特色を語っていると言える。また、移動介助についても同様にあげられており、「家の中」でのサービスに限らないサービスが提供されていることがわかる。
  CILは特に重度の障害者に対する介助サービスの提供をめざしているため、重介護サービスへの対応ができており、そのため1件当たりの介助時間も長くなるようだ。

《表9》住民参加型団体におけるサービス水準目標

  めざすサービスの程度
家事援助サービスの範囲 37.1%
軽易な介護・介助サービスまで対応 63.8%
重介護サービスまで対応 23.5%
看護サービスまで対応 9.6%
無回答 0.6%

《表10》重介護サービスや看護サービスまで求められた場合の対応

        対応の仕方
専門的機関、福祉事務所等を紹介する程度 26.7%
専門的機関、福祉事務所等に連絡、サービス調整 51.6%
そこまで対応する機能がなくてもなんとか対応 12.8%
専門的機能を持っているので対応している 8.4%
そこまでの機能がないので断るだけ 8.7%
無回答 7.5% 
《表11》各CILの提供している介助内容

  身辺介助 食事介助 家事援助 移動介助 その他の介助
札幌いちご会   ○ ○  ○  ○ 朗読 宿泊介助
オフィスIL準備室   ○ ○  ○ 部屋の整理
ヒューマンケア協会   ○ ○  ○  ○ 相談
CIL・立川   ○  ○  ○  ○ 
HANDS世田谷   ○ ○  ○  ○ 宿泊介助
第一若駒の家   ○ ○  ○ 
ホットハート静岡   ○ ○  ○ 代筆 話し相手
ホットハートしみず   ○  ○  ○ 遊び相手
中部障害者   ○  ○    ○
広島レモンの会   ○ ○  ○  ○ 代筆 言葉の介助

  3 介助利用者

  1団体あたりの介助利用者数(実人数)をみると(《表7》)、CIL(1992年度:36人→1993年度:45人)と「住民互助型」団体(1992年度で平均48人、《表7》Cの括弧内)はあまり変らない。全社協調査で回答のあった 315団体の平均利用者数は76人(《表6》のC)だから、CILと「住民互助型」サービス団体の利用者は比較して少なめである。ただ、全社協調査でも、利用者が200人を超えている全体の5.8%(20団体)の数値が平均値を押し上げているもので、60.9%、210団体は利用者50人未満となっている。「住民互助型」についてその分布をみたのが《グラフ9》である9)。
  CILのデータを年度別に見ると、利用者数の増加が顕著である。93年度になって利用者が 100人を超える団体が出てきている(《グラフ8》)。

《グラフ8》













《グラフ9》














  次に、介助利用者の内訳のグラフと表を見てみよう(《グラフ10》)。総数は、圧倒的に肢体不自由の人の割合が高い。しかし、団体別の分布を見ると、全ての団体で肢体不自由の人の利用が多いわけではない。ヒューマンケア協会(D)やホットハートしみず(H)では、高齢者の割合が高く、特にホットハートしみずは、高齢者の利用会員が最も多い。また、生活援助為センターは、知的障害を持つ利用者が他のCILと比べてかなり多い。

《グラフ10》















  A:札幌いちご会、B:オフィスIL、C:生活援助為センター、D:ヒューマンケア 協会、E:自立生活センター立川、F:HANDS世田谷、G:自立生活企画、H:ホ ットハートしみず、I:大阪中部障害者解放センター、J:広島レモンの会
《表12》

 肢体 視覚 聴覚 知的 精神 高齢者 その他
総数   344  15  2  43  12  83  18
 %   66.5 2.9 0.3 8.3 2.3 16.0 3.4

  4 介助者

《グラフ11》














《グラフ12》














  《グラフ11》《グラフ12》はそれぞれ、CILと住民互助型サービス団体の介助者の人数(登録者数ではなく実働数)の分布である。平均値は《表7》に記した。Dの60人は、回答のあった 318団体の平均値(1992年9月現在)であり、括弧内の49人はその中の「住民互助型」団体の平均値である。10) これを見ると、CILは比較的介助者が多いことがわかる。住民互助型サービス団体で介助者が50人以上いる団体は2割程度であるのに比べて、CILでは、半数以上の団体が50人以上の介助者を確保している。また、《表8》を見てもわかるように、CILは、利用者1人当たりの介助者数が約2人である。これは、先に述べたように、1人の介助に長い時間を要することによるものと思われる。

《グラフ13》11)















  利用者のニーズにあったサービスを考えれば、介助者の数だけではなく、その内訳も気になるところだ。《グラフ13》は、CIL、全社協調査団体12) の男女比を表している。これを見ると、CILの介助者は、全社協調査団体に比べはるかに男性の割合が高いことがわかる。CILの場合は、特に身辺介助や入浴介助を行うところがほとんどなので、介助者の性別は利用者にとって重要な点である。このデータは、CILの介助サービスにおける理念を明確に示していると言えるだろう。
  最後に、CIL(10団体)の介助者の属性別の分類を見てみよう(《グラフ14》、《表13》)。総数をみると、学生が最も多く次に主婦となっているが両方を合せても55.1%である。他に職業を持つ人も全体の3分の1程度を占める。また、HANDS世田谷(F)は、会社員・公務員の数が主婦の数を超え、ホットハートしみず(H)では、会社員・公務員の数の割合が最も高い。介助者が多様な属性を持つことは、CILの介助サービスを円滑に運営していく上で重要なことだ。例えば、介助者が主婦層だけの団体では、夜間の介助や、男性の入浴介助には対応しにくくなる。
  他方、全社協調査団体に担い手の89.6%は40〜60歳代であり、また常勤で働いている人の割合は 8.4%、パートタイムで働いている人の割合が23.8%である。ほとんどが女性であることは先に見た。中高年の専業主婦あるいはパートタイムで働く主婦の割合が非常に高い。介助者の社会的属性の分布が顕著に異なることがわかる。13)














A:札幌いちご会、B:オフィスIL、C:生活援助為センター、D:ヒューマンケア協会、E:自立生活センター・立川、F:HANDS世田谷、G:ホットハート静岡、H:ホットハートしみず、I:大阪中部障害者解放センター、J:広島レモンの会、K:自立生活企画

《表13》

 学生 主婦 CIL以外の 会社員 障害者 自営業 無職 その他
福祉関係職 公務員
総数(人)  417 333    95   334 10  23 54 68 
  % 31.2 24.9 7.1 25.0 0.7 1.7 4.0 5.0

  
  表とグラフ、そして何よりも比較のためのデータの処理が多様であったために、煩雑になってしまったが、最後にもう一度ポイントを押さえておこう。

  1.CILの介助サービスは、団体数としては少数であるが、住民互助型団体全般と比   較すると派遣時間の多い団体の割合が高い。
  2.1件当たりの介助時間が長く、重介護サービスに対応している。
  3.介助利用者は障害者中心。1団体あたりの利用者は比較的少人数であるが増加の傾   向が見られる。
  4.介助者の数は、他の介助サービスと比較して、利用者1人当たりにすると多い方で   ある。
  5.男性の介助者の割合が比較的高く、また介助者の社会的属性も多様である。このこ   とは全社協調査に比べると顕著である。

W 自立生活プログラムとピア・カウンセリング

  1 ILP実施状況

  今回の調査結果と東京都自立生活センター協議会が把握しているデータによれば、1994年3月時点で、全国自立生活センター協議会(JIL)の40の加盟団体の中で自立生活プログラムを実施しているのは25団体である。また東京都の会員団体では、加盟13団体中11団体が実施している。
  今回の調査の自立生活プログラムに関する質問に対して回答を寄せた団体は12、この中で実施している団体は7団体あった。若干の追加調査と既存の資料を利用することによって、12の実施団体について、自立生活プログラム開始時からの推移が明らかになった14)。その結果が下の《表12》である。1986年度から1989年度にかけてはヒューマンケア協会だけが行なっていたが、1990年から実施団体が増え、それに伴いシリーズ数、参加人数、ともに年々増加しているのがわかる。1986年度からの総参加者(各年のDの累計)は 540人となっている。もちろんこれはプログラムを実施している25団体中の12団体に限った数であるから、実際にはこれらの数はもっと多い。15)
  1つのシリーズは8〜12回程度、5〜10人程度の参加者を得て行なわれる。参加費は10,000円から12,000円で実施している団体が多い。 

《表12》ILP実施状況
年度 A B C D E F
1986   1   1   1   5 12  60
1987   1   0   3 19 38 240
1988   1   0   1   7 12 84
1989   1   0 1   7 12 84
1990   3   2 8 78 57 538
1991   5   2 12 97 109 848
1992  10   5 20 146 186 1314
1993  12   2 26 197 235 1746

        A:実施団体数(11団体中)
         B:新規開始団体
         C:総シリーズ回数
         D:各シリーズの回数の総計
         E:総参加者数
         F:延人数(各シリーズの回数×参加人数を合計したもの)



  2 ILPプログラムリーダー    

  《表13》は、この項目について実態を把握できた9団体の自立生活プログラムのリーダーの障害別、性別人数を示したものである(「その他」は胎児性軟骨異栄養症、骨形成不全、脊椎カリエス等)。
  障害の種別では脳性麻痺(CP)の人が全35人中22人と多いが、これは身体障害の中で脳性麻痺の占める割合が高いことに対応するものだろう。
  性別で合計してみると、男性が16人であるのに対して、女性が19人と女性の割合が高いことがわかる。

          《表13》ILPリーダーの障害別人数

CP 筋ジス 頚損 ポリオ その他
HANDS世田谷 男  3
女  1
CIL・立川 男  1  1
女  1
ヒューマンケア 男
女  3  1  1
      町田ヒューマン 男  1  1
  ネットワーク 女  2  1
自立生活 男  1  2
企画 女
ホットハート静岡 男  1

中部障害者 男 1
解放センター 女 3
広島レモンの会 男 2
男  1  1
北九州 男  1  1 
女  3  1
 22 3  4 2  4


  3 ピア・カウンセリング

  第1章に述べたように、「ピア・カウンセリング講座」がピア・カウンセリングの手法を伝える役割を果たすと同時に、ピア・カウンセリングの実践の場ともなっている。1回の集中講座は3日から5日。長期講座は10回から12回連続で行なわれている。参加費は、 5,000円、10,000円、12,000円、15,000円となっている。
  8団体について、実施時からの推移が明らかになった。これを集計した結果を《表14》に示した16) 。(1993年度が7団体になっているのがこれはこの年度に1団体が講座を開催しなかったことによる。)

        《表14》ピア・カウンセリング実施回数と参加者数
        
 A  B  C
1988  1 1  30
1989  3  2 73 A:実施団体数 
1990  3  0  69 B:新規開始団体
1991  3  1 66 C:総参加者数
1992  5  1 98
1993  7 3 118

  このように講座の形式をとって行なわれるものの他に、個別のカウンセリングが行なわれている。それの実施状況を《表15》にまとめた。

   《表15》 個別カウンセリングの実施状況

生活援助為センター 年間約20件      
HANDS世田谷 今まで96件、年間約30件      
自立生活センター・立川 個人相談あり      
第一若駒の家 今まで30件、年間約5件      
自立生活企画 今まで60件、年間約24件      
AJU車椅子センター 個人相談あり      
広島レモンの会 今まで 110件      
北九州自立生活推進センター 今まで3件      
  

  4 各CILの実施状況

  個々のCILの自立生活プログラム、ピア・カウンセリング講座の実施状況はどのようになっているだろうか。これを示したのが《表16》である。
  ●印がついているのは、その団体が東京都内の団体であることを示している。自立生活プログラム実施26団体中東京都内の団体が11団体を占めていることを先に述べた。今回その実施の経緯の全容が把握された自立生活プログラムの実施団体12団体中、都内の団体は6団体、その総シリーズ回数は69であるが、このうち東京都内の団体の実施回数が56となっていることがわかる。1団体あたりの回数をみても、都内の団体9.3回に対して、都外の団体は2.3回と、前者は後者の約4倍の回数実施しているということである。

  《表16》自立生活プログラム、ピア・カウンセリング講座実施状況

    ■:自立生活プログラム   ○:ピア・カウンセリング集中講座
                  ★:ピア・カウンセリング長期講座
(年) 86   87   88   89   90   91   92   93   94
● ヒューマンケア   ■  ■■■   ■ ■   ■■ ■■■ ■■ ■■■
協会           ○   ○★   ○★ ★○ ★ ★ ★○
AJU車椅子         
 センター             ★     ★       ★
● 町田ヒューマン                  ■  ■ ■ ■ ■■■■■ ■
ネットワーク                  ○   ○   ○   ○★
● 若駒自立                 ■■■ ■■■ ■ ■ ■ ■
情報室
● HANDS                     ■     ■ ■ ■■
世田谷                                ○
● CIL立川                      ■■ ■■■ ■■■ ■
                      ○   ○   ○
中部障害                          ■   ■ ■
者解放C
スタジオI                           ■ ■■  ■

北九州                           ■   ■■
                               ○
広島レモン                            ■  ■
 の会
ホットハート                             ■■
静岡                           ○   ○
船橋                            ■  ■
CIL
● 自立生活                               ■■
 企画
オフィス
 IL                              ○

  このように実施団体数から見ても、実施団体が全体に占める割合からみても、東京都の団体でプログラムが積極的に実施されていることがわかる。総実施シリーズ回数、各シリーズの回数を足し合せた総回数、総参加人数を見ても同じである(1回あたりの参加人数や、1シリーズあたりの回数自体はそう変わらない)。これは、プログラムを最初に始め、それを拡大してきたのが東京都内の団体であったこと、先行した団体が周囲の団体に講師・リーダーを派遣するなど、積極的にプログラムを広げる努力をしてきたことによる(現在、講師やリーダーの派遣は全国的な規模で行なわれているが、それでも距離的な近さは有利に働く)。と同時に、自治体による財政的な支援が他の自治体に比べ充実していることによるものと思われる。



1) 執筆分担はT・Uが石井、Vが石井・井上、Wが寺本。
2) 調査の実施方法や、データ処理における留意点について簡単に述べておく。
・調査の実施について
  調査は1993年11月に実施された(→序章U−5)。質問紙作成にあたって、各CILへの発送の前にJILから意見をいただき、修正を加えた。11月にJIL加盟団体名簿を使用し、28団体に質問紙を送付した。そして、年をあらためて1回目に送付できなかった7団体に2回目の発送をおこなった(この際はファックスを使用)。最終的に回答のあった団体は18団体であった(設立準備中などの事情で全く回答が書かれていない団体もあったが、これもこの数の中に数えている。)
・データの集計について
  この章では今回我々が行った数量調査とJILが1993年5月に実施した「JIL加盟団体92年度事業実地状況調査」(集計されたものは、『第5回自立生活問題研究全国集会資料集』(自立生活問題研究全国集会実行委員会[1993])に記載されている)で得られたデータを集計し直して用いた他、JILから提供を受けたデータ、機関誌等の事業報告を利用している。JILの調査は1992年度のデータ、我々のデータは1993年度の上半期のデータでなので、簡単な通時的比較を行った。そのため、介助に関するデータ、予算に関するデータについて、次のようなデータの加工を行なった。
  @我々の実施した数量調査は上半期のデータなので、介助総時間数、介助件数は2倍して1年間のデータを推定した。介助利用者数、介助者数(ともに実数)は、そのままで1年分とした。
  A1992年度のデータがある団体で、1993年度のデータがわからない団体は、1992年度のデータと同じものとした。介助サービスを実施しているほとんどの団体の介助実績が増加していることを考えれば、ここでの推計は控え目なものと言える。
  B予算に関するデータが1992年度、または1993年度のどちらかしかわからない団体については、2年間同じ予算であると仮定して集計を行った。また、1993年度内に設立された団体については、1993年度のみ集計したが、予算金額、助成金、人件費とも平均以下であり、全体の平均値を押し下げる働きをしている。
  以上のようなデータの集計を行っているために、集計データは完全に正確なものではないが、大まかな変化はつかめるものと思う。 
  また、数量調査では回答のなかった団体、あるいは回答されていなかった項目に関しては、機関誌などその他の資料があれば、それを用いることで補った。それでもわからない項目については、そのままにした。我々のこの調査は、全ての団体についてデータが得られて十分な意味をもつ。回答の送付を再度要請するなど、十分な対応をとらなかったことは今回の調査の反省点である。
3) この調査は、都道府県や指定都市の社会福祉協議会に登録している団体、あるいは、協議会等がその存在を把握している団体を対象に行われたものである。その報告書として全国社会福祉協議会[1993]がある(以下全社協[1993]と略記)。電話で問い合せたところ、この報告書の後の調査報告はなされていないということなので、データとしては少し古いが、この報告書を以下で利用している。
  なお、住民参加型在宅福祉サービスは、以下のように定義され、「住民互助型団体」はこのうち住民の自主組織を母体とするものである。CILも、A「住民相互のたすけあい」をどう解するかは問題だが、@Bの条件を満たしている。
  「住民参加型在宅福祉サービスとは、地域住民の参加を基本として、住民自主組織や市区町村社会福祉協議会、生活共同組合、農業共同組合、福祉公社・事業団、社会福祉施設等が行なうサービスで、@営利を目的とせず、A住民相互のたすけあいを基調として、B有償・有料制<あるいは「時間貯蓄制度」「点数預託制度」によって行なう家事援助、介助サービス<ホームヘルプ・サービス>を中心とした在宅福祉サービスをいう。また、こうしたサービス(活動)を行なう団体を「住民参加型在宅福祉サービス団体」という。(全社協[1993:表紙裏])
4) 全社協[1993:11](表1)。この 452団体の中にCILがどれほど含まれているか も問題である。電話で問い合せたところ、この全社協の調査を受けたCILと受けていないCILがあり、不明のところもあるので正確に把握することができない。本文に記した割合は、CILの数を分母に加えた場合と加えない場合の双方について計算したものである。
5) 全社協[1993:58]。
6) 件数・時間の分布表はある。件数は全社協[1993:57](表80)、時間数は全社協[19 93:59](表81)。時間については《グラフ7》で用いる。)
7) 全社協[1993:58]。
8) 全社協[1993:59](表81・82)から作成。割合はコンピュータ上で実数から計算さ れたもので、計算手続きの違いから、左記の表の数値と完全には対応しない。以下の表、 グラフにおいても同様である。
9) 以上、全社協[1993:48-50](表66・67・68)。グラフは表68を用いて作成した。
10) 以上、全社協[1993:51-53](表70・72)。平均値は表70、分布図は表72より。
11) グラフ作成の都合上、全社協調査から不明( 0.2%)を削除した。
12) 全社協[1993:67](表1)(調査対象については全社協[1993:6])。
13) 全社協[1993:67-70](表2・10)
14) 今回の調査では1992年後半以降について聞いている。1992年前半までのデータについ ては、各団体が発行している機関誌等の記事等を中心にまとめた立岩[1992b]他をも とにした。
15) ただし、この11団体には以前から積極的にプログラムを行なってきた団体の多くが含 まれているから、実施総数が表に記した数の倍になるということはない。
16) 1992年前半までのデータについては同様に立岩[1992b]を使い、さらに1993年末に 「東京都自立生活センター協議会」(東京都内のCILの連絡協議会、都内のJIL加 盟団体が全て参加している)が行なった調査結果も利用している。


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REV: 20151221
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