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「ALS死22人 「呼吸器つけても生きてるだけ」──”医の倫理”患者の望み断つ 不十分な医療体制も拍車」


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last update: 20151221


「ALS死22人 「呼吸器つけても生きてるだけ」──”医の倫理”患者の望み断つ 不十分な医療体制も拍車」

『毎日新聞』1993/09/13
http://www.mainichi.co.jp/

入力:立岩…タイプミスがあるかもしれません。

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が病院から「命綱」の人工呼吸器の装着を断られ,結果的に国内で二十二人も死亡していたことが患者団体の調査結果で明らかになった十二日,大きな衝撃が走った。遺伝子操作のレベルまで先端化し、高度な技術を次々に手にする現代医療。だが、「不治の病」や「死」に直面した時、その懐はあまりに狭く、足元が揺らぐことを見せつけた。

 今年一月、三浦廸子さん(五五)=北海道千歳市=は、ALS患者の夫正男さん(当時六十八歳)に人工呼吸器をつけてほしいと、国公立、民間の四病院を回った。すべて断わられた。「お父さん、あきらめよう」。うなずく夫に、言葉が出なかった。
 高校事務員をしていた正男さんが、足のもつれを訴えたのは一九九一年春。病院を転々として翌年、専門病院でALSと診断された。「最後には呼吸が出来なくなります。人工呼吸器をつけても生きているだけの状態ですし、介護も大変です」。医師は迪子さんにそう告げた。将来必ず直面する「生死の選択」を、突きつけられた。
 ころぶと立ち上がれない。お茶一杯、自力で入れられない。言葉がはっきりしなくなる。確実に進行する病状に正男さんは「非常識な病気だ」と、ぶつけどころのない怒りを言い表した。
 在宅療養が出来るようにと、家の改造を始めた。ふろ場では脱衣所の段差をなくし、浴槽にリフトを付けた。車いすで動けるように部屋は自動ドアにした。
 昨年十月下旬、正男さんはむせかえり、苦しみ出した。「器官切開をして、人工呼吸器をつけたい」。暮れに夫がそう言った。翌年一月にかけ、ALS患者を診療している病院をことごとく訪ねた。
 「呼吸器は二台しかない。一台は使用中で、もう一台は救急の蘇生用」「何とかしてあげたいが、ベッドが空いても地元民が優先」などという理由で、どの病院も門戸を閉ざした。
 一カ月後、ようやく国立療養者の入院が決まった。しかし、呼吸器をつける間もなく、容態が急変。一夜明けた二月十一日の朝、正男さんは息絶えた。
 患者団体「日本ALS協会」の実態調査には、患者のその家族から、病院に呼吸器の装着を拒否された生々しい報告が寄せられた。
 四十八歳で亡くなった男性患者は、呼吸器の装着を前提とした入院を断られて在宅療養した。結局、家庭で「ぎりぎりまで介護した」が、呼吸困難で死亡した。
 迪子さんは語る。「ALSのような神経難病の患者でも採算が取れる体制であれば、こんなことは起こらなかった」
 在宅患者で六十代の妻を介護する夫はこう回答した。「(呼吸器をつけることがほんにっのためになるのかどうか)家族としては分からない」
 あるALSの専門医は「そもそも呼吸器をつけた患者は生きている意味がない、という思い込みが医師側にあるのが残念だ」と言う。そして「不十分な医療、福祉体制が『呼吸器をつけたくない』と思うように患者を追い込んでいる原因となっている」と話した。

REV: 20151221
ALS  ◇日本ALS協会北海道支部  ◇日本ALS協会  ◇全文掲載
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