HOME > 全文掲載 >

「障害者の交通条件の改善に関する要望書」


Tweet
last update: 20151221


障害者の交通条件の改善に関する要望書

                           1991年7月18日
運輸大臣 村岡 兼造 殿
              誰もが使える交通機関を求める全国行動実行委員会
               呼び掛け団体 DPI日本会議 議長 中西 正司
           障害者の交通条件の改善に関する要望書

 障害者が自由に行動するための条件を社会的に作り上げていくことの必要性と重要性については、障害をもつ当事者のみならず、国会や自治体をはじめとする各方面から強く指摘されていることであります。私たちは障害者の移動の自由にかける願いや、電車やバスといった交通機関が利用しにくい現状について、かねてより繰り返し運輸省に対して説明をし、障害者を取り巻く交通環境の早急な改善を訴えてまいりました。
 こうした私たちの提訴に対して運輸省としても一定の理解をされ、対策を講じておられることとは存じますが、障害者の移動環境の将来に関して、私たちは一向に明るい見通しを抱くことができないのが現状であります。1981年の国際障害者年より10年を経過し、「国連・障害者の10年」の締めくくりの年を来年に控えた今、障害者の完全参加と平等の実現に向けた課題の中で、障害者の移動・交通環境整備は、もっとも遅れが目立つ分野であるといわざるをえません。
 昨年アメリカで制定されたADA(アメリカ障害者法)に代表されるように、世界の先進国では障害者の移動上の障害を排除する措置が具体的に取られ、障害者を社会の正当な構成員として位置付ける動きが広まっております。わが国に於いてもノーマライゼーションの考え方に基づく社会づくりを行なうことは社会的なコンセンサスとなっており、運輸省当局もノーマライゼーションの理念に基づく運輸行政の推進を唱えられております。しかしその実体化となるとほとんど手が付けられていないといっても過言ではないでしょう。交通・アクセスの面でノーマライゼーションを実現するためには、鉄道の駅に車いす障害者をはじめ誰もが使えるエレベーターなどの設備を整備し、また、路線バスの構造を車いすでも簡単に乗車できるものとするなどの具体的な対策が早急に講じられなければなりません。強制力のないガイドラインと財政的な裏付けのない鉄道事業者に対する指導では、大きな危険と困難をともなう障害者の交通機関の利用の現状を、抜本的に改善していくことは不可能であると考えます。
 また、運輸省では先頃一定基準以上の駅にエスカレーターを設置するという方針を打ち出し、JR各社ならびに私鉄各社に通知されたということであります。このこと自体は鉄道駅の利用者の利便性を高めることにつながるものであるとは思われますが、車いす使用者をはじめとする障害者や高齢者の鉄道利用条件の改善につながるものとはなりえません。これに関する整備指針によれば、車いすに乗車したまま利用するエスカレーターの構造等も指示されていますが、このことにより、せっかくエレベーター設置を図ろうという方針を打ち出し鉄道事業者までがエスカレーターでの対応に留めてしまうのではないかということを恐れるものでもあります。同じく整備指針の(3)では代替施設としてエレベーターまたはスロープの設置が規定されていますが、障害者にとってはあくまでもエレベーター、スロープの設置が原則であり、エスカレーターが代替施設であることを明確に位置付けたうえで指導される必要があります。
 東京、神奈川、大阪といったいくつかの自治体においては、障害者の交通・アクセスを自治体の責任によって保障するという考え方が生まれ始め、鉄道駅のエレベーター設置に対する助成制度やリフトバスの一般路線運行など交通環境改善の具体的な対策が講じられようとしています。こうした自治体の動きをより活発化させいく上でも、エレベーター設置を原則とする交通環境改善を推進する制度的裏付けをもった国の明確な姿勢が必要とされております。障害者の移動上の制約を一刻も早く解消していくために、私たちは以下の諸点の改善を早急に図られるよう要望するものであります。

                   記
1.国はすべての障害者の鉄道・バス等への単独利用を当然の権利として認め、交通事業者に対して単独利用を拒否することのないよう、指導を徹底させること。特にバスの利用に際して、付き添い乗車を義務付けている運輸省通達は障害者の人権を侵害するものであるので、早急に撤廃すること。

2.国は障害者をはじめすべての移動制約者の自由な鉄道利用を可能にするため、駅にエレベーター、スロープ等の設備を義務付けるための法改正を行なうこと。

3.抜本的な法改正が行なわれるまでは、国は交通事業者に対して駅のエレベーター、スロープの設置、ならびにバスのリフト化などを強力に指導し、そのための財政的補助を行なうこと。

4.国は障害者をはじめ誰もが交通機関を利用できるようにしていくために、交通機関の在り方と方向性を検討する、当事者を含めた協議機関の設置を図ること。

5.「鉄道駅におけるエスカレーターの整備指針」に基づく鉄道事業者へのエスカレーター設置の指導は、障害者の交通条件の改善とは切り離して行なうこと。

6.リフト付きバスの一般路線への就航を図るため、国として具体的な検討を開始すること。


REV: 20151221
アクセス  ◇全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)