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「精神科医療領域における他害と処遇困難性に関する研究」の「研究結果要旨」

厚生科学研究班 精神科医療領域における他害と処遇困難性に関する研究 1990/04

last update:20110801


1 全国処遇困難例実態調査
 昭和六十三年二月、全国の単科精神病院を対象に、入院中の処遇困難患者に関するアンケート調査を行った。対象病院の数は千三百十一(国立病院十六、自治体立病院四十一、法人個人病院千二百五十四)で、八百八十四病院(回収率六七パーセント、一部簡易調査)より回答があり、九百五十例の処遇困難例が報告された。これを簡易調査病院を除いて、回収率一〇〇パーセントと想定して補正すると、全国で千九百七十一例の処遇困難例が入院していると確定される。
 処遇困難をきたす問題行動として、暴力行為が五百五十二例(五八パーセント)と最も多く、次いで脅迫行為二百九十四例(三一パーセント)、器物破損二百九十一例(三一パーセント)であった。
暴力行為を示す処遇困難例は治療が大変困難であるが、前述の手法で補正すると、前面で千二百二十一例と推計され、これらの患者群が中等度から重度の処遇困難者にあたると思われる。
 診断名は、精神分裂病が五百三十例(五六パーセント)で最も多く、次いで精神薄弱百六十二例(一七パーセント)、人格障害百四十二例(一五パーセント)であった。処遇困難性に関係があると思われる生活史・生活環境としては、非協力的な家族が三百三十四例(三五パーセント)、犯罪歴有り百八十九例(二〇パーセント)、アルコール・薬物乱用百五十八例(一七パーセント)などであった。
 病院内での日常生活状況は、保護室を常時使用している症例が二百五十例(二七パーセント)であり、そのうち百五十八例(六八パーセント)は一年以上の長期間に及んでいる。これらの患者は種々の問題行動のためにそこでの生活を余儀なくされており、重度の処遇困難例の中核をなすと思われる。これを前述の手法で補正すると三百三十二例と推計される。
 以上を要約すると、わが国の精神病院には約二千例の処遇困難患者が入院しており、軽度九百例、中度七百例、重度四百例程度と推定される。
2 地域実地調査
 処遇困難例の実態をさらに調査するために、大阪府と石川県の両地域で実地調査を行った。この結果を全国処遇困難例実態調査と比較すると、いくつかの項目の頻度が異なるものの、問題行動、生活史・生活環境、診断名および日常生活状況などの重要な項目の頻度が両調査でほとんど差がなかった。このことは両調査が大筋において異なったものではなく、全国処遇困難例実態調査の信憑性を高めるものと考えられる。
 地域実地調査では、処遇困難の程度を「軽度」、「中度」、「重度」の三段階に判定した。その結果、重度の症例には次のような特徴があった。
1)若年で発症し、現在三十才前半の症例が多い。2)問題行動として暴力行為が多い。3)過去に犯罪歴を持つ者が多い。4)診断名では精神分裂病や精神薄弱者が多い。5)入院経路は、他の精神病院や司法関係機関からのものが多い。6)院内では大多数のものが保護室で生活している。7)過去に精神衛生鑑定を受けたものが約半数いる。
 これらの重度群は、処遇困難例の二三パーセントを占めており、対策が最も急がれるところである。
3 処遇困難例対策
1)治療体系
 現行の指定精神病院の再編成によって、比較的軽度の処遇困難例を担当できるようにし、更に重度な症例に対しては、国公立精神病院を中心に集中治療病棟(仮称)を併設し担当するという二層構造の治療体系とする。しかし、これらの病棟でも対応困難な重度の症例や、長期化した症例を治療する施設が必要となってきた場合、専門病院の設立を検討する。
ア.指定精神病院の整備と強化
 二次医療圏に一ヶ所を目途に、指定精神病院(施設基準を制定)を再編成し、措置入院および一般精神病院で処遇困難な患者(軽度)を受け入れ治療する。
イ.集中治療病棟(仮称)
 原則として国公立精神病院に設置し、概ね人口四百五十万人の地域を担当する。
 規模は十五〜三十床とする。適切な訓練を受けた十分な数の職員を配置する。
2)教育研究施設
 処遇困難例に対応する職員の教育・訓練・研究の機関が必要である。たとえば、国立精神・神経センターに司法精神医学部門を設置することが望まれる。


*作成:桐原 尚之
UP: 20110801 REV:
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