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『詳論 相談支援』
「障害者ケアガイドライン(精神障害者関係)について」
日本障害者リハビリテーション協会 19960331
萩原 浩史
20191210
『詳論 相談支援――その基本構造と形成過程・精神障害を中心に』
,生活書院,資料
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last update:20200719
「障害者ケアガイドライン(精神障害者関係)について」
日本障害者リハビリテーション協会
1996年3月31日
精神障害者に対しては、第一に、未だ社会的偏見・差別が強く、また、長らく収容医療を中心とした施策が行われてきたため、その社会復帰・福祉施策については、身体障害者や知的障害者のそれと比べて、著しい遅れがある。このため、各種の施策を有効に組み合わせて有効な活用を図るというケアマネジメントの理念に対しては、マネジメントすべき施策が整っていない、という基本的背景・状況を重視しなければならない。
また、第二に、精神障害者の社会復帰施策は、身体障害者や精神薄弱者の制度と比べて、措置の形態とは異なる施設等と利用者の利用契約の形式をとっている。また、身体障害者の福祉施策の実施主体が市町村にほぼ一元化されているのと異なり、精神障害者福祉施策の実施主体は、多元的である。このため、ケアマネジメントの実施に当たっては、実施機関の問題が大きな論点となる。
平成7年の法律改正でも、地域保健福祉活動の重要性が強調され、市町村の役割も明確に規定されたが、保健所も引き続き地域における精神保健福祉業務の中核的な機関としてその施策の推進を期待されている。現行制度においても、保健所は、精神障害者社会復帰施設の入所に係る推薦書を交付する等しているが、保健所は、精神障害者に対する相談に対応し、地域の社会資源の間に立って、利用の調整を行う機能が法律にも明記されたところである。しかし、現状を考えると、その体系は未だ未確立であり、精神障害者のケアマネジメントについては、どこを実施機関としてどのようなネットワークで行うことが効果的であるか、まずはその実施機関や実施手法についての検討が必要である。このため、保健所をはじめ、市町村、医療機関、社会復帰施設、地域生活支援センター等において、ケアアセスメントを活用したケアマネジメント的な手法を試行し、多元的な利用方法も含めて、有効な活用方法を検討することが今後必要である。
さらに、ケアガイドラインは、施設サービスの質の向上を目的とした使い方もできる。ケアアセスメントを通して、利用者のかかえる問題点が各スタッフに対して明らかになり、チームアプローチを通して、利用者の抱える問題点が各スタッフに対して明らかになり、チームアプローチよりも的確になるメリットがある。今後、ケアアセスメントの活用方法と、個別の施設等におけるケアの内容についてのガイドラインを検討することが必要である。
なお、精神障害者のケアマネジメント及びケアアセスメントについては、次のような点に留意することが必要である。
◯地域における普通の暮らしは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第1条にあるように、社会復帰及び自立と社会経済活動への参加の促進のため、多面的なサービスが求められていること。
◯障害者ケアガイドラインの目標は、地域における普通の暮らしが継続できるようにすることであり、精神障害者の場合、病院等を一度退院した後も再入院することが多いが、地域の保健福祉サービスを活用することにより、再入院を防ぐという観点も重要であること。
◯アセスメントの実施者は、日常生活の状況の把握の難しさ、ストレス脆弱性・病上の不安定さを考慮すると、当事者に最も深くかかわっている者が良いという面もある一方、これを客観化するため、第三者の方が適当であるという面もある。また、アセスメントに当たっては、非専門職による利用も念頭においた使いやすいものとすることが必要である一方、精神科ソーシャルワーカーのほか、医師、保健婦、看護婦、臨床心理技術者等各種領域の専門職によるチームアプローチも有効であるとの指摘もある。いずれにしても、ガイドライン及びアセスメント表は、それらを誰がどのように活用するのかによってその効果が大きく左右されるので、人的育成が不可欠の前提であること。
◯日常生活場面の中でのニーズを的確に把握するためには、家庭、医療施設、福祉施設など利用者の実際の生活の場面において、時間を十分にかけてニーズを把握することが重要であること。その際には、その必要性を十分に説明し、利用者(状況により家族、または後見人)の同意(インフォームド・コンセント)を得ることが重要であること。
◯アセスメントについては、本人の意向の確認など、導入プロセスが重要であり、同意書などの方法の検討が重要であること。
◯障害者の日常生活の困難は、障害者のもつ障害自体によることも多いが、周囲の環境が障害者のもつ障害を受容できないことに起因することも多く、障害者の総合的ニーズを把握するには、障害者の身体的側面や精神的側面にのみ目を向けていくことは不十分であり、環境条件まで含めた総合的評価を実施しなければならないこと。
◯アセスメントは、漠然とした相談に対し、ニーズを明らかにしていくという効果がある。また、病院や家族以外の者がアセスメントを実施した場合には、病院や家族にアセスメント結果を伝えることにより、その者の状況や本人の希望等を新たな視点から伝えることができるという利点もあること。
◯ケアマネジメントの前提として、サービスについての施設格差、地域格差の是正が必要であり、より具体的、実践的なケアガイドラインの作成により、その水準向上の努力がなされていくものでなけばならないこと。
◯ガイドラインは、今後常に見直しが必要であること。
◯将来的には、アセスメントとケアマネジメントは、障害の違いによらず、身体障害や知的障害と総合的に実施されることが望まれること。
本検討会の精神障害者部会においては、精神障害者に対するケアマネジメントについての基本論から、具体的なケアアセスメントの手法についてまで、幅広い議論を行ったが、未だ十分な検討を行うには至っていない。その理念や実施機関、手法等については、身体障害者等のケアガイドラインとは、同質の部分もあれば、その特性に応じて修正すべき部分もあり、今後の検討が必要である。また、当面の作業として、まず、アセスメント表の作成を意図したが、LASMIなど、既に実験的に開発された各種のものを参考としつつ、別途のような素案を作成したところであり、これらさらに手を加えた上で、実際に施行するとともに、ケアマネジメントの手法や、個々の施設ごとのケアガイドラインを作成するなど、関係各方面からの意見も聞きながら、充実したものを作成することが必要である。
平成5年の障害者基本法や、平成7年春の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の成立により、社会復帰や精神障害者福祉の法的枠組みは形成され、また、平成7年末の障害者プランによって、その数値目標も掲げられたが、今後は、その内容の充実を図ることが急務であり、この作業がその鍵になるものである。
*作成:松本 彩見
UP:20191129 REV:20200719
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