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「生活支援センターについて」

全国精神障害者社会復帰施設協会 19920000

萩原 浩史 20191210  『詳論 相談支援――その基本構造と形成過程・精神障害を中心に』,生活書院,資料

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last update:20200719


「生活支援センターについて」
全国精神障害者社会復帰施設協会
1992年

はじめに
 精神障害者の社会復帰・社会参加を促進する諸施策は、「入院中心の医療体制から、地域における精神障害者ケア」へと、その転機を求められている。それに伴い、或いはそれと並行して精神障害者のニーズも多様な形で顕在化し始めている。その主たる要因は、精神障害者の地域生活支援システムが確立されていないことによる。
 精神障害者も一市民であることからすれば、障害の残存に関する事柄を除き、ごく普通の生活を享受できるサービスが、医療において行われるべきだとの主張がある。また、保健所、ディケア施設等の既存の施設において生活を支える上での必要な支援が可能であるという主張もある。
 しかし、地域で生活しようとしている、或いは地域で生活している精神障害者の生活を支える機能と役割を、既存の施設が果たしている、ないしは果たせているとはいいがたい。
 このような状況下での生活支援は、精神障害者が日常生活をする上での諸権利を擁護することが前提であり、諸施設の利害を離れて存在することが望ましい。このことから、生活支援センターはきわめて公的独自性を有するものであり、かつ、広範なサービスを提供できるものでなければならないといえる。
 この現実は、生活支援センターの圏域とサービス機能の範囲によりその規模が異なるものの、精神障害者の生活保障に向けてのサービス機能の拡大のみならず、諸社会資源の調整という意味で、精神保健制度の有効活用やその在り方に大きく影響を及ぼすものとなる。
 精神障害者の社会復帰・社会参加を加速していくことが求められている今日、すみやかに精神障害者の生活支援を可能にする資源が必要であるという前提にたち、上記のことをふまえながらも、可能な条件のもとでの生活支援センター構想を模索しなければならない。このように意図をもって「生活支援センター(案)」を以下の通り提案することとした。

生活支援センター

1.生活支援センターの目的
 生活支援センターは、在宅精神障害者の日常生活を支援するため、各種社会資源を活用し、かつ、地域社会資源の開発に努めつつ、利用者が社会資源の有効活用を図れるようにマネイジメントする機能を有し、在宅精神障害者の日常生活に係わる課題に対応することを目的とする。

2.生活支援センターの独立性
 生活支援センターは、精神障害者の地域ケアの継続性、一貫性、責任性を維持するために、独立した組織として設置されることが望ましいが、独立性が保持されれば、当面既存の施設に併設することができる。

3.生活支援センターの設置主体及び運営主体
 生活支援センターの設置主体及び運営主体は、国、都道府県、市町村、精神保健法にもとづく精神障害者社会復帰施設を運営する法人であることが望ましい。

4.生活支援センターの事業
 生活支援センターは、精神障害者が日常生活を営む上での課題に対し、相談・援助ならびに必要な社会資源の提供を行い、その者の社会的自立をより有効に図るために、以下の事業を行うことができる。
(1)相談事業
 精神障害者の日常生活上の困難、施設利用及び施設選択上の社会資源に関する有効利用、心理的援助等に関する相談を行う事業。
(2)ケースマネイジメント事業
 精神障害者がどのような施設や機関を利用するのが最も適切なのか評価すると共に、処遇計画を策定し、対象者がそれに適応できるように援助する。さらに一定期間毎に再評価を行い、常に最適の処遇と最大の効果をあげるよう社会資源の効果的活用を図る事業を行う。
(3)自助グループ支援
 精神障害者の自助グループの活動の場の提供、自助グループの活動に対する支援事業。
(4)憩いの場の提供事業
在宅精神障害者の憩いの場の提供、及び憩いの活動を支援する事業。
(5)在宅精神障害者支援事業
 在宅精神障害者の求めに応じ、その住居を訪問し、日常生活に関する必要な援助を行う人を派遣する事業。
(6)給食サービス事業
 単身生活者をはじめ、給食サービスを必要とする者に、給食の提供をする事業。

5.運営委員会の設置
 生活支援センターが、精神障害者の個別ニードに応え、社会復帰計画をたて、諸社会資源の有効活用を図る上で、関係機関との連携は欠かせない。
 また、関係機関への助言・介入を実施するうえで、諸機関の理解を求め、緊密な関係を保持する上で、関係機関や諸施設の長による生活支援センターの運営委員会を組織すること。
(例:保健・福祉サービス推進委員会/構成委員、保健所長、病院長ないしはPSW、社会復帰施設長、福祉事務所長等)

6.生活支援センターの規模及び職員配置
 4に掲げる事業のうち、自助グループ支援事業や憩いの場の提供事業を日替わりで提供するとしても、10名程度の活動スペースが必要である。加えて2〜3名の職員が、事業及び相談にのれるスペースを整備すること。
 また4に掲げる事業を行うには、精神保健活動に10年以上の経験を有し、当施設の運営・管理できる能力を有する者をセンターの長とし、ケースマネージャー(ソーシャルワーカー)2名を配置すること。

7.生活支援センターに要する費用
(1)施設整備費
 活動の場を10名提供するとして、一人あたり15.8uを必要面積とすれば、158u。職員3名の事務室と、相談を受けるスペースならびに事務備品収納場所を加え、一人10u×30u(サービス内容によっては調理整備を整え(ママ)、必要なスペースを確保すること。)
188u×授産施設・施設整備補助単価とする。ただし、当該センターは借事務所で代替できる。その場合、事務所借上費用の75%を補助金として公費助成する。以下賃借料も同様とする。
(2)運営補助金
 事務費(主に人件費)は、生活支援センター長を大卒10年以上としていること、職員を大卒精神科ソーシャルワーカーとしていることから勘案して、基準額を500万円とし、関係機関の連絡調整費を100万円加算する。
(3)利用料
 利用者は登録制とし、登録料等の利用料を軽微な額で徴収することができるものとする。

8.当面の設置数
 生活支援センターは、当面モデル事業的数値で整備し、その効果を測定する必要がある。したがって、年度毎に10〜20ヶ所程度進捗させ、当該センターの見直しを適宜実施する。なお、見直しに際しては、既存の生活支援センターが見直しに応じた改変が可能なように配慮する必要がある。さらに、5〜10年後には二次医療圏に1ヶ所、その後は市町村毎に設置できることが望ましいが、精神障害者社会復帰施設の進捗が優先されるべきである。

以上


*作成:坂本 唯
UP:20191129 REV:20200719
萩原 浩史  ◇『詳論 相談支援』  ◇精神障害/精神医療  ◇「社会復帰」  ◇全文掲載

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