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精神衛生法撤廃にむけて

精神衛生法撤廃全国連絡会議(準) 19860518


精神衛生法撤廃にむけて

精神衛生法「改正」を軸にして、いま刑法「改正」・保安処分新設の攻撃が強められようとしています。
政府・厚生省は、87年春に精神衛生法「改正」案を国会上程することを決め、その日程にあわせて、すでに準備をすすめています。さらに自民党・法務省・日本弁護士連合会・日本精神病院協会など、さまざまなおもわくのちがいはありながらも、精神衛生法「改正」が必要という点で一致し、そのための作業が、急ピッチですすめられているのです。
厚生省はすでに24団体に対して精神衛生法「改正」についての意見を求める一方、評論家や精神医療関係者ら11名の、いわゆる「有職者」による「精神保健の基本問題に関する懇談会」を設置し、4月15日にはその第1回目の会合を開いています。この懇談会は今後も月1回のペースで行われようとしています。厚生省は、こうして各団体・「有職者」の意見をきいたとして、そのうえで年内に公衆衛生審議会を開き、厚生省案を来春国会上程するという政治日程を決めており、そのためのプログラムおよび厚生省が考える精神衛生法「改正」案はほぼまとまっていると考えられます。
これら一切の動きは、すべて「精神障害者」の声を無視し、敵対するものであり、弾劾していかねばなりません。精神衛生法によって直接的に人権を侵害され、差別と抑圧を加えられてきたのは、「精神障害者」です。当事者の声を聞かずして、どうして精神衛生法「改正」が訪れるのでしょうか。
「精神障害者」は地域において、精神病院への予防拘禁を極度におそれ、息をひそめ、ひっそりと生きることを強いられています。
一方、精神病院内では、豊かな人間性の一切を否定され鍵と鉄格子と薬によって、自由を奪われ、呻吟させられているのです。また昼夜にわたって監視の対象とされ、密室下で抵抗するものには暴力的支配が貫かれ、虐殺にまでおよぶ非人間的扱いをされています。
このように「精神障害者」は自分自身の症状によって苦しむだけでなく、さらに人間性を否定された強制医療によって、差別によって、二重三重の苦しみを負わされているのです。その結果、自殺に追いこまれる人も多いのです。
これまで精神衛生法は一貫して「精神障害者」への差別と抑圧の法として機能してきました。
いまなされるべきは精神衛生法の「改正」ではなく、精神衛生法の撤廃なのです。
私たちは以下の問題点をあげて、精神衛生法の撤廃を強く訴えるものです。
一、精神衛生法は、「精神障害者」を「犯罪素因者」と決めつけ、社会から排外し、予防拘禁=強制医療を加えるものです。その意味で、保安処分と根は同じであり、その先どり的実態として機能してきました。
二、医療は本来、患者と医師との自由意志に基づく委任契約として成立するものです。ところが精神衛生法は医師に絶対的な権限を与え、患者の行動制限をする根拠を与えています。精神科医は権力を代行して、「精神障害者」を差別し、抑圧してきたのです。そこには医療的関係は成立しえません。
三、さらに生物学派と言われる精神科医たちは、患者に対して人体実験を行ったり、患者の脳を切りきざむために患者の死を待ち望むというようなことを平然と行っています。このような行為は優生思想の下に行われてきたのであり、精神衛生法を支えてきたのは、優生思想にほかなりません。
今回、厚生省が精神衛生法「改正」に動きだした背景には、宇都宮病院の患者虐殺をはじめとする暴力的・差別的医療の実態が明るみにだされ、国際的非難(ICJ〈国際法律家委員会〉勧告など)をあびたことがあります。国内外の非難をかわすことを目的に精神衛生法「改正」があるのであって、決して厚生省がこれまでの精神医療行政を自己批判して、再出発をめざしているのでないことは明らかです。
厚生省が今回の「改正」にあたって、各団体・個人の意見をきくとしながら、当事者である「精神障害者」の声を無視してきた姿勢にそのことはあらわれています。
横浜の警視刺殺事件の場合でも、根本は「精神障害者」の生活苦の問題でした。にもかかわらず、厚生省は「通り魔」対策のために、「精神科通院医療中断者」に対して保健所による訪問指導を行うとして、各都道府県に実施要項を通知し、監視体制を強化しようとしています。
現在、政府・自民党は、スパイ防止法などの治安法を整備し、一方福祉の切捨て、医療費の削減、脳死立法化策動など、医療の再編を強力におしすすめ、新たな人民管理と支配を貫徹しようとしています。それと同時にマスコミにおいては「精神障害者」差別キャンペーンがすさまじい勢いでくりひろげられています。
これまで精神衛生法が治安法として機能してきたこと、その改悪が治安再編と機を一つにして行われてきたことを考えれば、精神衛生法「改正」が、今、叫けばれているということは、きわめて危険であると言わざるをえません。
また精神衛生法は、医療法・医師法のほかにある第3の法律であり、国際人権規約B規約(注)にも反する差別法です。病気の治療のためにあるのではなく、治安を守るためにある法律です。
過去そして現在に至るも「精神障害者」は資本にとって「商品価値」がなく、危険な「犯罪素因者」として社会共同体から排除されてきました。ここにこそ「精神障害者」差別の根があり、精神衛生法が成立する根拠があるのです。
その意味で、精神衛生法撤廃の斗いは、「健常者」優先の社会そのものを問うものとなるのです。
精神衛生法撤廃を言うとき、それだけでは完結しません。精神衛生法と同時に、民法・労働関係法・欠格条項・条例などにおける。さまざまな「精神障害者」差別もまた撤廃されねばなりません。
いま私たちに問われていることは、あらゆる地域、あらゆる職場で「精神障害者」と共に生き共に斗う運動を拡大していくことであり、運動のなかから「精神障害者」の生活権・労働権を奪い返していくことです。そして「精神障害者」の住む家・働く場を獲得し、孤立する「精神障害者」の交流の場や介護を含めた人と人とのつながりをつくりだし、さらにそれを行政に対しても追求していくことが大切なのです。
そのために全国各地の仲間によびかけ、共に斗われんことを訴えます。

                  1986年5月18日

                 精神衛生法撤廃全国連絡会議(準)
                   赤堀中央闘争委員会
                   全国「精神病」者集団
                   監獄法改悪を許さない全国連絡会議
                   救援連絡会議
                   救援連絡センター

            〈連絡先〉東京都港区新橋2ー8ー16 石田ビル
                  救援連絡センター気付
                     (03)591ー1301


(注)国際人権規約B規約第2部第2条より
  1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種・皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生叉は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。


*作成:桐原 尚之
UP: 20110815 REV:
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