HOME > 全文掲載 >

精神衛生法改正の基本的な方向について(中間メモ)

公衆衛生審議会精神衛生部会 1986/12/23


第一・はじめに
 近年、我が国の精神医療・精神保健をめぐる状況には大きな変化がみられる。医学の進歩等に伴い入院中心の治療体制から地域中心の体制への転換と精神障害者の社会復帰の促進が強く求められている。他方、精神障害者の人権をめぐる議論が高まっており、現行の精神衛生法について精神病院入院患者の人権という観点からその見直しを行うべきであるとの意見が強く出されている。
 このような中で、厚生省においては次期通常国会に精神衛生法改正案を提出すべく、現在幅広く検討を行っている。
 当部会においては、去る十月以降、精神衛生法改正に関して精力的に審議を行ってきているが、今後の当部会での審議あるいは現在行われている精神衛生法改正のための検討にも資するものとするため、当部会として、これまでの審議を踏まえた精神衛生法改正に当たっての基本的な考え方並びに当面改正すべき事項についての中間的な意見を取りまとめた。なお、多くの検討すべき問題を残しているが、それについては今後引き続き検討を行っていくことにした。

第二 基本的な考え方
 精神衛生法の改正に当たっては、国民の精神的健康の保持及び向上を図るとともに、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権を擁護しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の推進を図ることを基本的な方向とすべきである。このため保健、医療、社会復帰及び社会福祉を包括する総合的施策の実態が必要である。
 今日、精神保健の問題は、多様化し、複雑化する現代社会において極めて重要な課題になっている。このため、国民が自らの精神的健康の保持増進に努めるとともに、地域においても、精神保健対策の充実が図られる必要がある。
 精神医療については、できる限り一般医療と同様、生活の場に密着したところで適切な医療が受けられる体制を整備する必要がある。医療形態については通院医療を推進し、入院を必要とする場合には、できるだけ本人の意思に基づく入院医療を進め、本人の意思によらない入院医療については、必要限度を超えることのないよう患者の人権が尊重される制度とすることが必要である。
 また、精神障害者の社会復帰・社会参加については、六十一年七月の本審議会の意見具中において述べられた考え方に沿って、その推進のための対策を更に強力に進めていくことが必要である。
 なお、精神保健・医療に関しては、研究とスタッフの養成・充実が重要であり、今後とも積極的に取り組んでいく必要がある。
第三 当面改正すべき事項
 以上のような基本的な考え方に基づいて、当面、以下に掲げる方向で精神衛生法改正が行われるべきである。

T、地域精神保健対策の推進
 国及び地方公共団体が広く国民一般の精神的健康の保持及び向上を図るための施策の実施に積極的に取り組むべきことにつき、法律に規定を設けることが必要であると考えられる。

U、入院制度等
1) 入院形態の見直し
1 自由入院の法定化
 ア 現行法において規定されている入院形態はいずれも本人の意思とは関係のないものであるが、患者の人権という観点からも本人の意思による入院を推進すべきであって、法律上も明確に位置付けることが必要であると考えられる。なお、他の入院形態で入院した者もできるだけ自由入院へ移行しやすいようにすべきである。
 イ 自由入院患者については本人の意思により退院できることが原則である。ただし、自由入院患者といえども病状によっては他の入院形態へ移したり、家族との連絡・調整等が必要な場合があるので、例えば七二時間程度の短時間の退院制限をできるようにする必要があると考えられる。
 ウ 自由入院患者については、原則として開放的処遇によるべきである。ただし、病状によっては、一時的にその医療叉は保護のため必要最小限の行動制限を行うことができるものとすることが適当であると考えられる。
 エ なお、「自由入院」という呼称については、他の適切なものとする必要がある。
2 同意入院の見直し
 ア 同意入院は本人の意思によらない入院であり、人権上も特段の配慮を要するものである。この入院形態は、入院医療が必要であるにもかかわらず本人が同意しない場合に限定し、精神衛生法に規定する指定医の診断を要件とするとともに、定期的にチェックする仕組みを制度化する等の措置を講じた上で、患者の医療を確保する観点から存続させることが適当であると考えられる。
 イ 患者の早期治療という観点から、家庭裁判所による保護義務者選任手続きの実態等を踏まえ、医療上必要な場合に入院させることができるよう例えば扶養義務者が同意した場合に一定期間に限り入院を認める措置が可能となるようにすることが適当である。
 ウ なお、「同意入院」という呼称については、他の適切なものとする必要がある。
3 措置入院の適正化
 措置入院制度の適正な運用という観点から、他の入院形態に移す場合を含め措置の解除に当たっても精神衛生法に規定する指定医の診察を要件とする必要があると考えられる。
4) 精神科救急への対応
 精神科医療においても意識障害の場合など救急的な対応が必要とされる場合があるので、実施する病院等について一定の要件を課した上で、精神衛生法に規定する指定医の判断によって例えば七二時間程度の短期間に限り入院が可能となるよう制度を設けることが適当であると考えられる。
2 入院手続きの整備
 入院に際しては患者叉はその保護義務者からの調査請求が保障されていること等患者の権利保護に必要な一定の事項について告知を行うよう制度化する必要がある。
3 入院患者の人権の確保
 ・定期的な病状報告の実施
 措置入院患者及び同意入院患者について、入院後の期間に応じて一定期間ごとに病状報告を徴し、入院継続の要否について定期的にチェックを行う必要がある。
2) 入院患者にかかる調査請求規定の整備
 入院継続の要否その他の処遇に関して都道府県知事に対して患者叉はその保護義務者から調査を請求することができるよう規定を整備する必要がある。
3) 入院患者にかかる審査機関の設置
 1)の病状報告による入院患者の入院継続の要否及び2)の調査請求に関して、公正かつ専門的な観点から判断を行うための審査機関を都道府県に新たに設けることが適当であると考えられる。
 措置入院患者及び同意入院患者について、入院後の期間に応じて一定期間ごとに病状報告を徴し、入院継続の要否について定期的にチェックを行う必要がある。
3) 入院患者にかかる審査機関の設置
 1)の病状報告による入院患者の入院継続の要否及び2)の調査請求に関して、公正かつ専門的な観点から判断を行うための審査機関を都道府県に新たに設けることが適当であると考えられる。
4) 行動制限規定の明確化
 入院患者の行動制限に関しては、患者の人権擁護の観点に立って、必要最小限にとどめる。
 特に、入院患者にかかる信書の発受信については制限を行うことができない旨を明確化すること、また、保護室の使用等少なくとも一定の行動制限については精神衛生法に規定する指定医の判断に基づくものとすること等の措置を検討することが必要であると考えられる。
4 精神衛生鑑定医制度の見直し
1) 指定要件の見直し
 患者の人権に十分配慮する必要があることにふみ、精神衛生鑑定医の指定の要件としての精神科実務経験について見直すとともに所定の研修を要件として加えるなどの見直しを行い、精神衛生法に規定する指定医として位置付けることが必要であると考えられる。
2) 指定医の業務
 1)の精神衛生法に規定する指定医は、従来の精神衛生鑑定医の業務を行うほか、一定の行動制限、退院制限や同意入院患者の入院等についての判断を行うものとする必要があると考えられる。
5 精神病院に対する指導・監督規定の整備
 精神病院における患者処遇の適正を一層確保する観点から、国及び都道府県は精神病院に対して患者処遇に関する報告徴収・調査等を行い、改善勧告等必要な措置を講ずることができるようにすることが適当であると考えられる。

V 精神障害者の社会復帰・社会参加の促進
1 精神障害者の社会復帰・社会参加の促進については、六十一年七月の本審議会の「社会復帰に関する意見」を踏まえ、社会復帰のための施設の設置等に関する規定や、社会復帰・社会参加の促進について、それぞれの役割分担を十分に検討した上で、国・地方公共団体並びに民間レベルの積極的な取組みに関し規定を設ける必要があると考えられる。
2 精神障害者の社会復帰の促進という観点から、精神病院において患者に対する相談・援助や家族等との調整・連絡等を行う職員を置く旨をうたうことが適当であると考えられる。

W その他
1 法律の名称について
 法律の名称については、例えば「精神保健法」というものに改めることが適当であると考えられる。
2 いわゆる大都市特例について
 精神保健行政においていわゆる大都市特例を設けることが望ましいと考えるが、他の行政分野における道府県と大都市との役割分担との整合性等に配慮しつつ、検討すべきであると考える。
3 精神障害者の定義規定
 現行法第四条の精神障害者の定義規定については、その全面的な改正を求める意見もあるほかその範囲及び規定の仕方など種々議論を要する点が多いことから、引き続き慎重に検討を行っていくことが必要である。
4 保護義務者について
 保護義務者に係る問題については、市町村長が保護義務者として入院の同意を行うことを含め、更に検討を行う必要がある。


*作成:桐原 尚之
UP: 20110818 REV:
精神障害/精神医療  ◇精神医学医療批判・改革  ◇反保安処分闘争  ◇全文掲載 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)