申入書
精神衛生法撤廃全国連絡会議 19860906
last update:201108015
私たちは、「精神衛生の基本問題に関する懇談会」に参加されている諸氏に以下のことを申入れます。
一、九月九日の五回目の会合をもって、この「基本問題懇談会」は終了となるようですが、これまでの四回の会合もすべて、あらかじめ厚生省の基本方針の下に、一応「有職者」の意見もきくといった形式をととのえるにすぎないこと。精神医療の当事者であって、もっともこのことに関心をもっている「精神障害者」自身の声を、まったくきこうとしないことに対して、私たちは、くり返し抗議をしてきました。
私たちは、これまで、厚生省との話合いを三回もちましたが、これも十数回にも及ぶ話合い要求の末、やっと実現されたものです。
厚生省は、八月に予算の概算要求を出し、「基本問題懇談会」で「有職者」の意見をきいたとし、その上で、秋には公衆衛生審議会を開いて、案をまとめ、来春には精神衛生法改正案を国会に上程するとあらかじめ決めています。このスケジュールの中には、「精神障害者」の声をきこうとする姿勢はまったくありませんでした。
二、ご存知のように、今、日本の精神医療はWPA(世界精神医学会)をはじめ、世界から強い非難を浴びています。
今年三月十四日の国会答弁で、中曽根首相と厚生大臣は「精神障害者の人権保護のための最低基準としてダエス報告を参考にする」と述べています。しかしこのダエス報告は、精神医療に、公権力の介入を認めるものとして、WPA内部でも批判がおきているものなのです。
WPAのシュルジンガー氏が、国連の少数者差別防止・保護小委員会にあてた手紙でも、はっきりと、保安処分は世界の精神医療の中ではすでに否定されており、先進国においては、精神病院への入院自体がまれなことであると書いています。
そういう点一つをとってみても、日本政府・厚生省は不勉強であり、対応の姿勢はおくれていると言わざるをえません。
三、私たちは、九月二日に、厚生省と三回目の話合いをもち、その場で、社会復帰についての厚生省の理念をただしましたが、ほとんどまともに答えられませんでした。
精神障害に対するさまざまな誤解や偏見をなくすことにつとめると、厚生省は言いながら、一方では、「精神障害者」は犯罪を犯すおそれがあるからということで、医療中断者への訪問指導を強化するなど、厚生省は、かえって差別と偏見を助長しています。
一方、現在の治療指針に、ロボトミーを含む精神外科手術や電気ショック療法(ES)が認められています。しかし、これらの手術や療法によって、もともとの「症状」以上に新たな「障害」・後遺症を受け苦しんでいる人たちがたくさんいます。このような不必要な「医療(強制的)」によって、重い「障害」を負わされた人々に対して、厚生省は、どのような社会復帰を考えるというのでしょうか。社会復帰を困難にした責任は、厚生省と医師にあるのです。
まず厚生省は治療指針から、精神外科手術や電気ショックなどをはずすべきです。
四、去る八月二日付で、私たちから「公開質問状」を「基本問題懇談会」の諸氏にお送りしましたが、残念なことに誰からも回答がありませんでした。
「精神障害者」のための懇談会ではなく、「精神障害者」を管理するための懇談会を私たちは許すことはできません。
今回の「基本問題懇談会」の開催に強く抗議するとともに、私たちは「精神障害者」解放に敵対する一切の動きに対して、断固として対決していくことをここに明らかにします。
一九八六年九月六日
精神衛生法撤廃全国連絡会議
準備会
(連絡先)東京都港区新橋二−八−一六
石田ビル内 救援連絡センター
*作成:桐原 尚之