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精神衛生法「改正」問題に関する緊急アピール

精神衛生法「改正」問題を考える全国精神医療連絡会議(準) 198603

last update:20110801


 現在精神衛生法「改正」問題が精神医療戦線における焦眉の課題になっている。私達はここに以下のような現状認識と基本方針を確認し、戦線を統一し、闘いに立ち上がることを呼びかける。
一 現状分析
(1)一九八四年三月に発覚した宇都宮病院事件は戦後精神医療の悲惨と矛盾をあますところなく暴露した。不当・不法な長期拘禁、殺人をも日常化する暴力支配体制、強制労働と経済的収奪、大学との癒着による研究至上主義等々、精神病院スキャンダルの総決算とも言うべき惨状を呈しながら、同病院は行政のバックアップのもとでしぶとく再建の途を歩んでいる。この有り得べからざる事態こそ戦後精神衛生法体制の実体と破産を示すものである。
 厚生省はこのような惨状に対する国内外からの批判に対して、昨年夏、精神衛生法「改正」の方針を打ち出すにいたり、現在その作業を進めている。しかし、改正の内容は確定されておらず、各方面からの意見聴取の段階にあるとされている。他方、新聞報道や、精神保健課長の各所での発言によれば、その大略の改正の方向のスケッチは存在していると見なければならない。それは、自由入院規定を改正法に含みこむ可能性を残しながら、強制入院法としての基本骨格は温存し、適法手続の表面的な導入によって批判をかわそうとするものである。しかも、政府―法務省―厚生省は、その小手先の改正をバネにして刑法改正―保安処分新設を既定の路線として打ち出して来るであろう。
(2)現行精神衛生法が一九五〇年(昭和二十五年)に制定されたとき、それを領導したのはできたばかりの日本精神病院協会であった。明治以降日本の福祉と医療は、家族制度と「人民の情誼」に委ねられ、公的責任は徴頭徴尾回避された。一九〇〇年(明治三十三年)の精神病者監護法は家族による私宅監置に精神病者を委ねるものであった。一九一九年(大正八年)の精神病院法は治安的な精神病院収容法であり、対象とされたものは、治安的要件か救貧的な要件を満たす病者であり、代用病院規定によって事実上精神医療の公的責任は放棄された。現行の一九五〇年法は、私宅監置を廃し、監護法から同意入院を、病院法から措置入院を導きだし、「治療」と「保護」の名のもとに国家の治安的要請と私的病院の経済的利潤欲求の合体として成立したのである。公的病院の設立は極端に抑えられ、高度経済成長の矛盾の処理機構としての精神病院は私的資本に任せられ、手厚い金融措置と、生活補保蓑・措置入院の公的負担による入院のもとで急成長した。つまり精神衛生法の二つの強制収容形式と、生活保護をあわせた公的負担、それに代用病院規定の変形である指定病院規定を基本にした圧倒的な私立精神病院群による収容所列島の特異な景観を形作ったのである。
一九六五年法改正は前年のライシャワー死傷事件をきっかけに、地域治安管理網が原始的ともいえる収容主義に接続され、現在の精神衛生法体制の姿が完成された。
(3)他方精神医療は、医療としても特殊化され、医療法特例・健康保険法特例類看護等により、医療スタッフは一般料より大幅に切り詰められ、事実上、多くの精神病院は医療の場ではなく、拘禁・保護の場として特例基準をも全く満たさないことが黙認されてきたのである。一九五〇年代後半から導入された薬物療法と、一九六一年からの国民皆保険体制は、精神科医療経済の骨格を一変させ、従来からの強制入院=保護に関わる医療給付に、薬物療法を中心とした生物科学的医療給付が加わり、二峰性の利潤構造をもたらした。大学医局講座制の生物学主義に著しく偏った研究至上主義は、医師養成供給機能とあいまってこのような構造を強化したのである。かくして通院・地域医療は度外視され、先進的な改革運動も大きな壁に突き当たることとなった。それのみならず、地域で生きるための生活援助体制も殆ど見るべきものがなく、患者・家族は激しい競争社会の中で孤立を強いられ、結局は入院を余儀なくされ、退院を困薙にする閉ざされた回路の中に追い込まれてきたのである。このような構造こそ精神「障害者」に対する社会の根深い差別が作り上げてきたものと見なければならない。
(4)政府厚生省は近年「社会復帰」を口にするが、我が国には、さらに世界に冠たる精神「障害者」差別立法の包囲網が存在する。精神病を理由とする欠格条項が多数の職域や資格に張り巡らされ、精神「障害者」が社会に職を得て生きることを甚だしく困難にしている。それは単なる法制上の問題のみでなく、多大な心理的負担を病者に与え、治療そのものに著しく悪影響を与えている。
(5)このような精神病者をめぐる国家的・社会的な包囲網を土台にして、さらに政府は保安処分=治療処分をもって精神病者に対しようとしている。なされた事柄ではなく、なされるであろう事柄によって、刑法上の拘禁を強いようとする。昨今の中曽根政権は、一層、軍事的・治安主義的傾向を強めており、あらゆる社会領域で息苦しい様相を強めつつある。このような中で見るとき、保安処分攻撃はひとり精神病者のみではなく、私達すべての国民にかけられた攻撃であり、断じて認めることはできない。
(6)軍事的・治安主義的傾向は、低成長時代に入った我が国の経済的危機=行財政改革をてこにして起きている事を私達は見逃してはならない。行財政改革のひとつの柱が医療・福祉財政の抑制である。老人保健法の制定、健保本人一割負担の実施、年金法の「改正」、各種福祉施策の国庫負担の削減などが強行されており、今後実施されるであろう医療法「改正」は、医療費削減を至上課題とした医療構造の国家的再統合をもたらすであろう。精神衛生法「改正」はこのような医療福祉の大再編の中で位置づけられるものであり、現行法制定時とは異なった環境にあるとはいえ、厚生省日精協枢軸がひとつの規定的な役割を果たそうとするであろう。
 以上が、現行精神衛生法体制と「改正」問題の構造の粗描であり、ここから、私達の方針が組み立てられなければならない。方針を組み立てるにあたって、現在留意されるべきことは以下のことである。
@「細部」における意見の不一致は基本方針の確認の上で討論が行われるべきであり、出来うるかぎり広範囲な統一戦線を作らなくてはならない。精神衛生法「改正」の動きが厚生省ペースに進めば、まちがいなく小手先の「改正」ですませられようとしている現在、入院形式や手続きをめぐる論議による先行的な分解は絶対にさけなければならない。
A精神衛生法のみで、事態が変わる事はありえない。現状分析にあるごとく、行財政改革過程における医療・福祉体制総体にわたる視野の中で方針が組み立てられなければならない。
B弘達の方針がそのまま実施される事はないとしても、「改正」問題は私達の運動の結節点であり、今後の運動の再統合過程として位置付けられなければならない。実践に根差した方針と戦術の拡大統合によって「改正」後につなげなければならない。それなしにはいかなる「改正」もその実をみのらせる事はできない。

二 方針
(1)基本方針
 精神衛生行政の全面的転換を求め、治安的強制収容法としての現行精神衛生法を撤廃し、地域・社会で生き得る体制を保障する精神「障害者」の基本的人権保障法に改める。
(2)基本方針のための六原則
@生活権(生活援助体制)の確立の原則
(地域で生活する援助体制が不可欠である。自分自身の生命・生活を維持し、社会生活が保障されなければならない。私達は、一人になる自由と同時に、孤立しないで生きる体制の保障が必要である。)
A労働権の確立(精神「障害者」排除立法の撤廃)の原則
(精神「障害者」排除立法の撤廃を目的にしながら、私達の力でそれを直ちに実施させる事は困難である。しかし、人権保障法としての「改正」法に、精神病歴を理由に職業や資格の制限を加えることは許されないとする主旨を盛り込ませることが、その後の運動のてがかりになり得るであろう。) B医療権(医療法特例等の撤廃)の確立と地域医療充実の原則
(医療法特例等を撤廃し、他科と同等の医療水準が保障されなければならない。さらに地域医療が整備されなければならない。それには医療費問題の再検討が必要であろう。しかし他方で、行財政改革・医療法改正問題に対する方針が明確にされる必要がある。)
C自由入院と開放制の原則
(精神科入院の原則は自由入院であり、その病棟は開放制でなければならない。できれば行動プログラムの策定によって現実のものとさせなければならない。)
D「防御権」の確立の原則
(現行精神衛生法の骨格である強制入院、強制医療、行動制限が原則的に撤廃されるべきものであることを確認し、それを実現していく道筋として、入院者の基本的人権としての防御権が確立されなければならない。)
E保安処分反対の原則
(精神衛生法がより良く「改正」されるならば、保安処分新設はやむをえないとする立場が存在するが、私達はそれをきっぱりと拒否しなければならない。)
 以上の原則が確認された上で、残された問題が整理され、意見の統一がはかられなければならない。
 更に、六原則の各々の中から、新たな問題が生じてくる。それについても整理される必要がある。
   注、本文は三月六日付けアピールを三月十五日事務局会議を経て一部削除修正したものです。

事務局
精神衛生法「改正」問題を考える全国精神医療連絡会議(準)
事務局:新宿区西新宿七−九−七 柏木診療所内
(一九八六年三月)


*作成:桐原 尚之
UP: 20110801 REV:
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