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2、22精神衛生法を考えるシンポ

19860222

last update:20100525

2、22精神衛生法を考えるシンポ
  目   次
一、精神衛生法「改正」を粉砕するために
二、精神衛生法をどのように変えようとしているのかー「改正」の問題点
三、八四年十一月十六日百人委シンポ
「Y・Mさんの発言」
四、「病」者集団の声明
五、精衛法条文阪神
六、自民党中間報告
七、厚生科学研究班(まとめ)
八、新聞記事、他
《参考文献》
になる。2、法律時報47巻8号
  「精神衛生法の法的性格」大谷 実
◎「狂気≠ゥらの反撃」  吉田 おさみ著
                  新泉社
になる。3、「『精神障害者』」の解放と連帯
精神衛生法「改正」を粉砕するために
 いま、私たちの刑法「改正」阻止・保安処分新設粉砕の闘いの中心は、精神衛生法「改正」粉砕でなければなりません。
 精神衛生法「改正」を軸にして、いま、刑法「改正」・保安処分新設の攻撃はすすめられています。
 自民党「刑法全面改正に関する調査会」は、昨年一一月二一日、「刑法全面改正に関する中間報告(案)」を出しましたが、そのなかで「現在の刑法全面改正作業において最も重要な意義を有する改正点は、精神の障害による犯罪の実情等を考慮すると、保安処分制度の新設であり、その他種々の改正点はあるが、同制度を除いた刑法全面改正は、その意義を大きく減殺することとなるものと考える。」
と、保安処分こそ刑法「改正」の中心であることを強調した上で、「保安処分制度については、・・・・精神衛生の分野においても入院手続等の整備を図る法改正の動きもあることにかんがみると、今後さらに厚生省等関係省庁との間で、所要の意見調整を行い、精神衛生法改正の動向も見守りながら、同制度の新設を図ることが適当であろう。」
としています。精神衛生法「改正」の動きにあわせて、保安処分制度の新設をはかるのがいいのだ、といっているのです。
 また、政府は、昨年の国会で、八七年春の通常国会に「改正」案を出すために、「最大限の努力をする」といっています(一一月六日参議院予算委員会)。
 これらから、いまの刑法「改正」・保安処分新設の問題の柱は、精神衛生法「改正」にある、ということができると思います。
 精神衛生法「改正」をめぐる厚生省の動きは、もともとは、宇都宮病院問題がバクロされたのをきっかけに、患者の人権を守るために打ちだされたことになっています。しかし、そのように見るとすれば、あまりにも表面的になってしまいます。
 宇都宮病院問題は国連でもとりあげられ、日本の精神医療のありさま、精神衛生法そのものが問題にされました。しかし、厚生省、法務省、政府権力はもちろん、自民党もふくめて、国連の動きさえも、精神医療の保安処分的再編のきっかけにしようと、たくらんでいると見なければなりません。ころんでもダダでは起きないのが、権力のやりかたです。
 宇都宮病院問題がバクロされたのは、おととしの三月です。厚生省は、六月二二日、三局長通知「精神病院に対する指導監督等の強化徹底について」を出しましたが、これは、精神病院のありさまを変えるものではありませんでした。
 つづいて八月、国連の人権小委員会で日本の精神医療のありかたが問題にされました。出席した政府代表は、宇都宮病院は例外だと開きなおりました。日本では、強制入院は四万人(一二・三パーセント)だけで、のこりは同意による入院だ、とウソをついてゴマかそうとしました。このとき、厚生省はガイドラインをつくることも約束しています。
 さらに、昨年七月、国際法律家委員会(ICJ)調査団報告が出され、八月、国連人権小委員会でふたたび日本の精神医療の問題がとりあげられ、自由入院はわずか四・九パーセントではないかと、日本政府のゴマカシはきびしく追究されました。約束したガイドラインも出せなかった厚生省は、そこでガイドラインに加えて精神衛生法の改正をいいだしました。利息を元金に加え、新しい手形をふりだしたのです。
 厚生省は、昨年一二月二五日、日本医師会、日本精神神経学会、日本精神病院協会(日精協)、全国精神障害者家族会連合会(全家連)、日本弁護士連合会(日弁連)など二十二団体に「精神衛生法改正に関する意見について」という文書を出し、精神衛生法改正について意見を出すよう求めました。そのあと、公衆衛生審議会または社会保障制度審議会にかけ、「成案を得たい」(前出・予算委員会)といっています。
 国連での追究を理由に、患者の人権を守るという名分で、精神衛生法「改正」の動きが、いま、すすめられています。
 ここでは、「病」者の意見はあたまから排除されています。
(二)
 厚生省の六・二二通知は、アリバイにもならないものでした。田中病院や大多喜病院ほかいくつもの病院で、宇都宮病院と同じような問題が明るみにされたのは、六・二二通知のあとだったことからも、すぐにわかることです。
 六・二二通知は、ガイドラインをつくって通知する予定であるとしていました。しかし、そのことをふくめて、日精協(宇都宮病院もそのメンバーでした)からの反対をうけました。
 ガイドラインは、作業療法、保護室使用、通信面会について、どういうふうに患者の権利を制限できるかの基準をきめるというものですから、もともと、まったく必要ないものです。作業療法、保護室使用をやめる、通信面会は自由にするだけでいい。それをワザワザ基準をきめようというのは、それだけでも、日精協の顔色をうかがおうとするものといえます。
 そのガイドラインさえも日精協から足をひっぱられ、作業療法、保護室使用についてはふれもせず(というのは、宇都宮病院のようなありさまを固定化したままということです)、通信面会についてだけ、やはり、日精協よりにまとめられて出されました。昨年一〇月のことでした。
 ガイドラインの本質は、基本的人権をかちとろうとする「病」者の闘いに怖れをなした、厚生省・国家権力の予防弾圧であり、いまの保安処分体制としての精神衛生法体制を守ろうとするものにほかならないのは明らかです。
 ガイドラインつくりのときも、「病」者の意見は排除されたままでした。
 精神衛生法「改正」についても同じです。厚生省は、昨年末、二十二の団体に対して「精神衛生法改正に関する意見」を求めましたが、日精協や全家連、日弁連などがそのなかにふくまれています。
 しかし、「病」者の意見を求めようとはしていません。
 その上で、国連の批判がきびしかった同意入院などについて、なんとか手なおししようとしているのにすぎないのです。そのことは厚生省内につくられた厚生科学研究班がまとめた「現行精神衛生法の問題点に関する意見の纒め」をみても、すぐにわかります。
 これは、精神衛生法の問題点について、いろいろな意見をならべたものですが、そこには、精神衛生法が医療というよりも治安のためのものだったことへの反省はありません。「治療処分」の検討だとか、保安処分との関係だとか、意見のうちに出てきていますが、患者の人権を守るために厚生省が精神衛生法のことを考えるのに、なんで、そんなものが出てくるのでしょうか。
 また、地域精神衛生や社会復帰対策についてもとりあげていますが、「病」者に対する地域監視体制づくりとなるおそれが強いものです。
 政府・厚生省の精神衛生法「改正」のねらいは、明らかだといわなければなりません。
 「病」者を排除してすすめようとすることが、そのねらいを、はっきりと示しています。
(三)
 精神衛生法「改正」をめぐって、いろいろな意見があります。
 厚生省は日精協、あるいは精神衛生実態調査に賛成した全家連などの意見はともかく、いまの精神衛生法体制に反対している側の意見にも、問題があるものがあります。
 これには二つの流れがあり、一つは、宇都宮病院のようなありさまに対して、@患者の人権擁護、A入退院と入院中の強制処遇につき、適正手続を保護、B虐待などに対する監視・救済制度の導入を基本方向として、「改正」しろという意見です(「精神衛生法の改正に望む」八五・一〇・一四付「朝日」・「論壇」)。
 もう一つは、宇都宮病院問題の解決を口実にして、裁判所が強制入院をきめるやりかたは、保安処分につながるから認められない。
 措置入院をやめ、同意入院を大きく手なおして、患者の人権を守るようにしろというものです(「二つの危険な逆流」同・一〇・一〇付「救援」・投稿)。
 この二つの意見は、どちらも、救済制度なり「患者の友人」制度なりをいっていて、厚生省や日精協などの意見とはちがって、じつは、どちらも、それなりの理由があります。
 しかし、一つには、精神衛生法を手なおししても、ガイドラインがそうであったように、それでいまのありさまが変わるかどうか、わかりません。
 日精協は、ICJ勧告のなかの「直ちにとるべき手段」に対してさえも、すでに実施されているか、部分的に実施されているか、検討中であるか、将来の問題であるかであり、実施にあたっては、日本の文化的背景への考慮が必要であると、開きなおっていました。
 精神衛生法が「改正」されたとして、かれらは、この病院では精神衛生法どおりにやっているから問題はないのだと、開きなおることでしょう。
 「患者の友人」制度ができたとしても、日本では、「病」者のほんとうの友だちが「患者の友人」になるかわりに、学識経験者とやらが、それになることでしょう。
そのことよりもっと問題なのは、法的手続きをいう側にしろ、対症療法をいう側にしろ、どちらにも、「病」者の意見がふくまれていないことです。
 精神衛生法をどんなに手なおししたとしても、解決になるとは考えられません。精神衛生法があるかぎり、強制入院や行動の制限があるかぎり、問題は解決しないのです。「病」者にとっては、治療は必要です。「病」者は、自分が望む治療を受ける権利、自分が望まない治療を拒否する権利が、保障されなければなりません。
 必要なことは、精神衛生法の摘発です。
 「病」者にとって、医療法のほかに、精神衛生法が必要だという理由はありません。
(四)
 「精神障害者」とともに生き、刑法「改正」阻止・保安処分新設粉砕の闘いを、ともに闘おうとするすべてのなかまたちは、精神衛生法摘発にむけて闘いをすすめなければなりません。
 厚生省をはじめ、政府、自民党もいっしょになって、精神衛生法「改正」をもくろんでいるいまの段階では、精神衛生法「改正」阻止の闘いとして闘うことが正しいのではないかと思います。
 ただし、精神衛生法「改正」阻止・精神衛生法摘発をスローガンとしていうだけでは、むしろ、「病」者に対して敵対することになりかねないことを、忘れてはなりません。
 「病」者をとりまく社会のありさまをそのままにして、精神衛生法だけ摘発すれば、まちがいなく、多くの「病」者が死に追いやられます。たとえば、脱水症状をおこしかけている「病」者に対しては、救急治療(これは、精神衛生法二九条の二でいう、「自傷他害のおそれ」による緊急措置入院とは、まったくちがうものです)が必要であることはいうまでもないことです。
 しかし、いまの「病」者差別の社会のなかでは、ほんとうの意味の「病」者の友だちがいなかったなら、この救急治療さえもなされず、ほうっておかれることになりかねません。
 刑法「改正」阻止・保安処分新設粉砕をかかげ、いまの目標として精神衛生法「改正」阻止を闘おうとするならば、「病」者とともに生きることを、まずもって、おしすすめていかなければなりません。
 四・二九天皇式典、東京サミット、皇太子訪韓、天皇訪沖、あるいは、軍備増強、臨調行革合理化、福祉切りふすてと、うちつづく攻撃のなかで、「病」者に対する差別・抑圧は、いっそう強まってきています。
 いま、「病」者とともに生き、ともに闘うことの意味が、ほんとうに問われているのです。
84・11・16百人委シンポ
Y・Mさんの話
 精神衛生法改「正」と保安処分について、「病」者の立場から発言したい。
 「病」者の立場から、現状の精神衛生法下の医療がどのようなものなのか、改正論議がいろいろでているが、述べていきたい。
 精神衛生法が「病」者にとってどのようなものか。
 戦前・戦後を通じて「病」者は治安の対象でしかなかった。そういう視点で、精神衛生法があるということは異論がないだろう。
 「精神障害者」のための「医療と保護」のための法律と書かれているが、そこでいう医療の本質は強制医療ー社会防衛ー治安立法である。精神衛生法でいう医療とは何か。現実の日本の医療とはすなわち強制医療である。保護とは何か。保護というのは、「精神障害者」は無能力である。だから一方的に保護してあげなければならないという差別観に基づいた保護なのである。
 こういう医療と保護の下で、病院では何が行われているか。
 私が18才のときに入院した病院は、国立で相対的にはよい病院だと思うが、そこである日、「あなたの病気によくきく注射があるから」と言われて、いきなり電気ショックをやられた。事前に説明もなく注射でだまして眠らせて電気ショックをやる、そういうことが行われた。
 また入院中に友人ができ、その友人が退院したあとで、私に電話をかけてきた。あとになって他の仲間から聞いたことだが、一方的に電話を切られた。私には友人から電話があったことすら知らされなかった。それは私の保護のためだと言う。
 「あの男性は若い女性とみるとすぐ手を出す。そういう男性からあなたを守るために切ったのだ」と言われた。
 一般科の病院ではそういうことはないと思う。
 男性から私を守ったとする保護・そういう医療と保護を行う医者とか看護婦というのは良心的であり、「」つきであれ、患者さんのためと確信している。
 悪徳病院ではなくて、本当に患者のためと思って、強制医療と差別的保護をやっているのだ。もっとひどい病院・私立病院では何がやられているのか。
 精神衛生法の柱は強制入院と行動制限である。
 強制入院とはどういう形で行われるか。家族につれられて病院にいく。突然注射をされてそのまま眠らされて、そのまま強制入院。目がさめたら、保護室あるいは閉鎖病棟の中だったとか。
 あるいは街角で警官にら致されて、そのまま閉鎖病棟にぶちこまれる。「病」者は、心をきずつけられ追いつめられてズタズタにされている。それをいきなり閉鎖病棟にぶち込むとはどういうことか。
 想像してほしい。いつでられるか。理由も説明されない。外部とも連絡とれない。そういう状態におかれたらいわゆる「健常者」だってパニックになる。心がズタズタにきずついている人間に対してやられる。その絶望の深さを考えてほしい。そういうことが今、実際に行われている。その絶望の深さと怒りと屈辱、「病」者の怨念を考えてほしい。
 行動制限というのは、病院の管理者が、患者の医療と保護のために行動を制限できるという差別的なもの。たとえば通信・面会を制限する。
 医者の恣意的判断であって、患者にとって何ら抵抗できる手段はない。その行動制限は恣意的判断で、チューイン・ガムのようにいくらでも拡大できる。通信・面会の制限・お金もとりあげる・保護室にもぶちこめる・すべて医療と保護のためにである。
これほどの権力をたった一人の医者がもつ。
 刑務所と病院を両方体験したことのある人に聞くと、みな異口同意に刑務所の方がよっぽどましだと言う。「いつでられるかわかる」「あんなムチャクチャなリンチはやられない」「あんなひどい作業はやらされない」と。
 いくら刑務所の所長でも3ヶ月の刑期の人を、10年も20年もとじこめることはできない。ところが病院のたった一人の医者はそれができる。他の病院でなら3ヶ月で退院できる人が、10年・20年もとじこめられる。宇都宮病院ではざらだった。
 それもおそらくは氷山の一角にすぎない。全国の病院でそれが行われている。医者は最大の権力をもっている。圧倒的差別を受けている「病」者。そけが向いあったとき、果してそこには医療は成立するだろうか。信頼関係はもてるだろうか。
 「病」者は無権利状態のままで、権力者である医者の前に立つ。これではおびえるほかない。医療はなりたたない。それが現実であり、精神衛生法とは、われわれにとってそういうものである。
 宇都宮病院問題でいろんな批判がある。それで「改正」の方向とガイドラインを出してきた。宇都宮病院の事件で厚生省に批判が集中した。国際的にも批判が強い。その批判をかわすために精神衛生法「改正」をやろうとしている、という見方は甘い。もっと積極的に医療の状況を徹底して「病」者を差別し、隔離している。その状況を何としても守っていこうという意志のあらわれとして、精神衛生法「改正」がある。
 同意入院に不満をもった患者が知事に対して調査請求できる権利を入れる、というのが主な「改正」点のように言われている。
 今の精神衛生法ができて、30数年になるが、措置入院させられた人が調査請求権によって不当な入院から解放された例は数えられるほどしかない。
 宇都宮病院の場合、何年も前から県行政にも告発の手紙はたくさん届いていた。ところが行政は何もしなかった。一度動いたことがあるらしいが、事務局長に会って説明をきき、事務局長に「あああの人は暴力団員でアル中で暴れるんでしょうがないんですよ」と言われ、「そうですか」と帰ってきただけ。何10件とあった告発の投書に対して全く動かなかった。
 調査請求権は空文化している。ところが法にそういう条文があるということで、法によって患者の人権を守る規定があるではないか、ということで、強制入院が正当化されてしまう。それが一番恐ろしいことである。
 強制入院について、法の条文としていろいろ書かれていれば、これだけ人権を守る手だては保障されているから、ということで強制入院が正当化されてしまう。
 精神衛生法「改正」は、決してわれわれ「病」者の人権擁護のために行われるのではなくて、現実の医療ー差別と拘禁と強制医療を正当化する・固定化する姿勢のあらわれでしかない。
 ガイドラインは論ずるまでもないが、都道府県知事に対して出された通達である。法的拘束力はまったくない。これを現在の行革の嵐の中で、県内の病院に徹底させるだけの力をもった都道府県はない。ただの「通達」にすぎない。出したことによって、厚生省も「病」者の人権には配慮してますよ、という宣伝をしたいだけである。
 一つには、精神病院の入院患者の通信・面会の権利は重要であって、保障されるべきである。ところが次に医療叉は保護の上で合理的な理由がある場合は、これを制限できるとされている。
 これでは全患者に対して、医療上の理由から、通信・面会を制限できることになる。ガイドラインをかざして制限しているのだと答えてくる。
 電話についてみても、閉鎖病棟の患者は金を持たされていない。電話も通信もお金をもっていなければ何もできない。病院処遇の不満とか、不当入院を訴えようとしている患者に対して病院当局が金をもたせるとは考えられない。だからこれも空文にすぎない。外出できない患者は、職員に渡してしか手紙を出せない。電話器の設置とか、通信の権利とかガイトラインに書かれても、空文でしかない。
 面会の権利のところで、弁護士及び人権擁護に関する行政機関の職員との面接を制限してはならないと書かれているが、入院している仲間は、社会の最低辺を歩いてきて病院にぶちこまれてきた人たちが多い。アメリカとはちがって日本では、顧問弁護士をつけている人は少ないし、弁護士への依頼のしかたなどほとんど知らない人ばかり。
経済的な余裕もない。
 人権擁護機関についても、宇都宮病院の場合にしても何も動かなかったし、動けるマン・パワーもやる気もない。仮にガイドラインが守られたとしてもたいした意味をもたないと思う。
 法的拘束力はないし、これを根拠にして、人権を守れ、とつきつけていくこともできない。ガイドラインに従っていると答がでるだけである。
一応は人権に対して配慮してますよ、という厚生省の宣伝にすぎない。
地域で生きる「病」者にとって、新聞を開くのがこわい、恐ろしいことばかり起きている。
 どこどこで小学生が「精神障害者」に殺されたとか、無差別殺人云々といった記事が目につく。大きな社会問題とされている。
 毎年交通事故で一万人の人が死んでいる。「精神障害者」による事件は、年10数件である。犯罪率も低い。仮に20件無差別殺人があったとしても、その可能性があるから「病」者は、隔離すべき・保安処分が必要だと展開されるのは納得できない。
 運転免許をもっている人は年に一万人も殺す可能性をもっている。凶器をどうどうと転している。
 日本は欧米に比べて道路は悪い。それなのにどんどん車をふやしている。自動車ショーなど宣伝は野放しにされている。免許をもっている人間を取締れとは言われない。権力と結託している自動車資本がそれを言わせない。毎年一万人も殺されているのに、車をどんどん買わせようとしている。
 たった10数件の殺人がとり上げられて重大問題だとされている。それこそまさに差別である。
 権力は常に「精神障害者」を治安の対象としてきた。一つには、秩序に対して常に反秩序としてあらわれる存在だからである。もう一つは、労働力商品としてキズものであり、役に立たないからである。もう一つは、人民の中に「病」者は危険ですよ、と宣伝することにより人民を分断し、国民統合をより強固なものにする。それらの意図の下に、権力によって「精神障害者」に対する差別というのは作られている。
 (昨年)10月頃から「病者」の犯罪に対して、マスコミの差別キャンペーンが一斉に始まっている。
 「週刊新潮」の『気をつけろ!佐川君が歩いている』など。そこで小田晋がでてきて、保安処分必要論を展開している。「彼は生まれつきの異常者であって治療対象ではない、隔離しかない。彼がもう一度事件をおこしてくれたら世間も保安処分の必要性にめざしてくれるだろう」と述べている。
 保安処分にむけた意図的なマスコミ・キャンペーンである。植松正は「危険性がある患者を医師がしっかり管理していなかった場合には、医師に業務上過失責任を向うべきだ」と主張する。
 そういうことがやられたら恐ろしい。医者は患者を退院させなくなるだろう。以前・日航の羽田沖の事件のとき、日航幹部と医者が不起訴となったが、遺族側はもう一度調べ直してほしいと請求した。医者が責任を問われていくというのはたいへん恐ろしい。強制医療の現実がさらに強化されていく。「病」者の殺人事件が大々的にキャンペーンされると表を歩くのが恐ろしくなる。私も「病」者だから、精神衛生法によって、危険な「病」者として通報されはしまいかと脅える。そのまま入院させられてしまうかもしれないからだ。
 A君が軽犯で逮捕された。「病」者と知ると、警察が主治医のところに走り、「軽犯だからすぐに釈放しなければならない。しかし釈放するのは危険である。主治医の立場から何とか入院させることはできないか」と言ってきた。その主治医が良心的な人だったので、これを拒否した。
 こういう形で精神衛生法は保安処分として機能している。
 たとえば宇都宮病院のケースをみても、福祉事務所を経由して入院させられる人が多い。福祉の関係で入院させられると、生活を根こそぎにさせられてしまう。あるケースワーカーの人の講演で聞いた話で、ある患者が部屋で、コーヒーを飲んでいたら、飲みかけのまま職員にら致されて入院させられたという話すらある。
 「医療と保護」の下で、閉鎖病棟に閉じこめられ、人間生活能力を失ってしまう。すべて受身でいなければならない。病院の中では能動的に動いてはいけない。おとなしく薬をのんで、時間に従って動く、これが模範的患者である。そういう生活を強いられていたら、人間は自分の意志で自分を律する生活能力を奪われてしまう。なかなか退院できずに長期入院になる。社会の目は、やっぱり、「精神病」は治らないのか、危険でとじこめておくしかないのかという偏見が助長されていく。10年も入院して退院したら、同じ年の人間とはちがってしまう。病院の中で社会的生活能力を奪われてしまう。そのことの意味は大きい。他の人からみたら奇異な行動とみえたり、非常識にみえたりする。それも「病」者に対する差別・偏見の助長につながる。それは病気そのものではない。病気というのであれば、病院がつくった病気である。
 私たち「病」者が苦しむのは、せめて自分の病気だけにしてほしい。
自分の病気で苦しんでいるうえに、社会的に差別される。そして病院にとじこめられて、人格のすべてを規定される。病院によっては、患者を番号でよぶような病院すらある。強制医療・薬づけ、フラフラになる。人手がないからと9時には寝させられる。必要のない 人にも睡眠薬を投薬する。
 薬は習慣性があるから退院してからも薬物依存する。病院により、医者によって病気をつくられる。
 さらに長期入院によって生活能力を奪われる。
 病院の中で病気がつくられてしまう。
 「病」者として、せめて私たちが苦しむのは病気だけにしてほしい。
 これらの医療の現実を何としても守ろう。さらに保安処分をつけ加えて、「病」者を管理し、拘禁隔離していこうというのが厚生省の考えである。
 さらに大きな問題としてみると、国民皆保険態勢というのは、一面からみると、自分たちの健康管理を権力に売り渡してしまう側面がある。健康管理を権力が管理する構造がある。
 健保を通じて医師も支配される。健康保険証もICカード化するという研究会も発足した。
 ICカードー病歴・検査歴・アレルギーの有無など、磁気カードの100倍の情報量をインプットできる。すべてカード化できるということである。
 これをされたら保険証を使えない。今でも会社の保険を使うと会社にバレるから、と自費で通院している人が多い。たいへんな経済的負担である。
 ICカード化されたら、当然中央に情報が集中され、厚生省でボタン一つ押せば、全国の「病」者の住所・氏名がうつしだされる事態となる。
 レインボー計画といって、病院がレセプト(保険組合に出す診療報酬請求書)をコンピューター化するということも一昨年あたりから言われている。
 そういう意味で健康管理の国家による管理がどんどん進められているとき、とりわけ「病」者に対して、集中的管理がされようとしている。
 今までは福祉事務所でもっている情報は他課には出さないのが原則だった。保健所は他には出さないとか。ところが福祉事務所と保健所とをコンピューターで結ぶ話とか、「障害者」に関するものすべてがコンピューターに入れられていくということがやられている。
 「病」者に対する管理は、生活すみずみまでやられている。
まとめていうと、今の精神衛生法態勢は、「病」者を病気で苦しめるのみならず、医療によって苦しめ、病院生活によって苦しめ、さらに病気をつくるような、今の医療を支えている。
 「病」者を治安の対象とみている権力は精神衛生法を根幹として、さまざまなコンピューター技術を駆使して、生活のすみずみまで、生涯を管理していこうとしている。
 中曽根の言う戦後政治の総決算の中には、常に治安の対象である「病」者の管理をいかに強化し、いかに貴徹していくかということがある。
 以上を一つの問題提起として話を終える。

精神衛生法=改悪=に反対する!
 報徳会・宇都宮病院の告発以降、次々と悪徳病院の実態が暴露され、又、国連で国際法律家委員会が発表した報告書「日本の精神病患者の人権と取り扱いに関する実地調査」を契機にして、厚生省は精神衛生法を「改正」」する方針をうち出した。
 「@保護義務者と精神病院の管理者の同意により、本人の意志とは無関係に強制入院させることができる『同意入院』が80%、A二人以上の精神衛生鑑定医が、入院が必要と一致して認めた場合に限り、都道府県知事が自らの権限で強制入院させることができる『措置入院』が14%、B本人が自らの意志で入院する『自由入院』が5%」(日本医事新報'85、8、24)と現状の精神医療を分析し、「同意入院は措置入院と違い、@入院する病院の管理者一人の診断だけで入院させることができ、A措置入院では病院管理者は知事に対して入院患者について届け出を行い、必要に応じて知事が病院に対して患者の病状報告を求めることができるのに、同意入院患者にはそうした規定が設けられていない、B措置入院患者には、入院続行の必要性の有無を知事に調査請求できる(調査請求制度)のに対して、同意入院の場合にはそれがない」(同)と同意入院と措置入院の違いを強調している。
 そして、さらに「同意入院についても措置入院と同等の規定を設け、特に調査請求制度を導入」、「患者の人権保護を強化充実させる意向を固めた」とある。
 以上のことを見るならば、
@同意入院制に鑑定医制度の導入を計る、大きな狙いは、「厳密な診断基準」を確立し、「危機の前兆」を正確に読み取ることによって「治安の防止」を大きく前進させることにあり、そしてさらに鑑定医制度そのものを反動化させ(経験3年→5年へ)、厚生省・行政の意にそぐわない者をどんどん排除し、精神医療開放化の流れを逆流させ、直接、厚生省・行政の介入の道を開くものである。
A「調査請求制度の導入」とあるが、現状、措置入院制度の中で、調査請求例は皆無で実質的に機能しておらず、この制度導入は形式的なものである。
Bそうであるならば、措置入院制度の治安的側面のみ取り入れられ、「届け出制」や「病状報告」の義務付けがされ、完全な治安管理化がなされるであろう。
C故に、「人権の保護」を名目に恐るべき同意入院制の治安化が進み、保安処分と対をなした精神医療の治安的再編が押し進められるだろう。
D私達は、精神衛生法の改悪に強く反対し、患者本人の同意にもとづく自由入院を全面化し、精神衛生法そのものの撤廃へと向かって行かなくてはならない。
1985年11月21日
全国「精神病」者集団事務局

精神衛生法
(知事による入院措置)
第二九条@ 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国若しくは都道府県の設置した精神病院叉は指定病院に入院させることができる。
A 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、二人以上の精神衛生鑑定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各精神衛生鑑定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
B 国叉は都道府県の設置した精神病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第五条の指定を受けている指定病院にあってはその指定にかかる病床)にすでに第一項叉は次条第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合の外は、前項の精神障害者を収容しなければならない。
C この法律施行の際、現に精神病院法(大正八年法律第二十五号)第二条の規定によって入院中の者は、第一項の規定によって入院したものとみなす。
第二九条の二@ 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者叉はその疑いのある者について、急速を要し、前三条の規定による手続をとることができない場合において、精神衛生鑑定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神病院叉は指定病院に入院させることができる。
A 都道府県知事は、前項の措置をとったときは、すみやかに、その者につき、前条第一項の規定による入院措置をとるかどうかを決定しなければならない。
B 第一項の規定による入院の期間は、四十八時間をこえることができない。
C 第二十七条第四項から第六項までの規定は第一項の規定による診察について、前条第三項の規定は第一項の規定により入院する者の収容について準用する。
第二九条の三 第二十九条第一項に規定する精神病院叉は指定病院の管理者は、前条第一項の規定により入院した者について、都道府県知事から、第二十九条第一項の規定による入院措置をとらない旨の通知を受けたとき、叉は前条第三項の期間内に第二十九条第一項の規定による入院措置をとる旨の通知がないときは、直ちに、その者を退院させなければならない。
(入院措置の解除)
第二九条の四 都道府県知事は、第二十九条第一項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。)が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その者を退院させなければならない。この場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その者を収容している精神病院叉は指定病院の管理者の意見を聞くものとする。
第二九条の五@ 措置入院者を収容している精神病院叉は指定病院の管理者は、措置入院者が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
A 都道府県知事は、必要があると認めるときは、措置入院者を収容している精神病院著しくは指定病院の管理者に対し、措置入院者の症状に関する報告を求め、叉は精神衛生鑑定医をして措置入院者を診察させることができる。
B 措置入院者叉はその保護義務者は、都道府県知事に対し、入院を継続しなければその精神障害のために自身を傷つけ叉は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの調査を行なうことを求めることができる。
(入院措置の場合の診療方針及び医療に要する費用の額)
第二九条の六@ 第二十九条第一項及び第二十九条の二第一項の規定により入院する者について国若しくは都道府県の設置した精神病院叉は指定病院が行なう医療に関する診療方針及びその医療に要する費用の額の算定方法は、健康保険の診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例による。
A 前項に規定する診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療方針及び医療に要する費用の額の算定方法は、厚生大臣が中央精神衛生審議会の意見を聞いて定めるところによる。
(社会保険診療報酬支払基金への事務の委託)
第二九条の七 都道府県は、第二十九条第一項及び第二十九条の二第一項の規定により入院する者について国著しくは都道府県の設置した精神病院叉は指定病院が行なつた医療が前条に規定する診療方針に適合するかどうかについての審査及びその医療に要する費用の額の算定並びに国叉は指定病院の設置者に対する診療報酬の支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
(保護義務者の同意による入院)
第三三条 精神病院の管理者は、診察の結果精神障害者であると診断した者につき、医療及び保護のため入院の必要があると認める場合において保護義務者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
(行動の制限)
第三八条 精神病院の管理者は、入院中の者につき、その医療叉は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。

刑法全面改正に関する中間報告(案)
刑法改正に関する調査会

1 はじめに
 現行刑法は、明治40年4月の制定後数次にわたる部分改正を経ているものであるか。
 その間の社会情勢の変動、法律制度の改廃、刑法理論や刑事政策思想の発展等に伴い、これに応じた改正が適当な点も少なくないことが指摘され、法務省事務当局において、戦後昭和31年に全面改正作業に着手し、昭和49年5月には法制審議会から刑法の全面的な改正案(改正刑法草案)の答申がなされている。しかし、答申後10年余を経過した現在なお改正の実現に至っていない。
 当調査会では、刑法が国家の最も基本的な法律の一つであることにかんがみ、その全面改正は与党としても重大な関心事であり、本格的な対応をする必要があると考え、去る3月から6月にかけて調査会を精力的に開催し、法務省事務当局から改正作業の経緯と問題点について説明を受けるとともに、総務庁、大蔵省、厚生省等関係省庁及び日弁連等関係諸団体の意見を聴取する等し、さらに改正作業の今後の在り方等について、各般の角度から慎重な討議検討を行って来たが、現在までの調査結果につき、以下のとおり、中間的に報告する。
2 刑法改正作業の経過と内容の概要
 法制審議会から答申があり、これに基づき法務省事務当局で現在作業を進めている改正作業は、文体を現代用語に改めることのほか、内容的にも広範囲にわたるものであって、その経過と主要な改正点は別添資料(1)「刑法全面改正作業の経過と内容」のとおりであるが、その中で最も問題となる改正点としては、@精神の障害による犯罪に対応するための保安処分(治療処分)制度の新設及びA公務員機密漏示罪 企業秘密漏示罪等新たな類型の罰則の新設を挙げることができる。これらの内容は、別添資料(2)「保安処分制度(刑事局案)の骨子」及び同(3)「公務員機密漏示罪等の内容」のとおりである。
 なお、最高裁において違憲とされた存属殺加重規定については、全面改正作業ではこれを削除することとしているのであるが、党は最高裁判決の趣旨を踏まえ法定刑を修正してこれを存置する改正案を国会に提出してきたところである。
3 刑法改正作業をめぐる状況
(1) 全般的な情勢
 現在の刑法全面改正作業において最も重要な意義を有する改正点は、精神の障害による犯罪の実情等を考慮すると、保安処分制度の新設であり、その他種々の改正点はあるが、同制度を除いた刑法全面改正は、その意義を大きく減殺することとなるものと考える。もっとも、その実現をめぐっては日弁連を始め各種関係諸団体、社会党、共産党を中心とする野党などから、種々の反対意見が表明されており、また、日本精神神経学会等の精神医療関係者の実情からして制度運用のため必要な施設及び医療関係者の確保が必ずしも容易でないという困難な問題がある。
 その他の改正点についても、同様各種の反対意見が表明されるなど内容的に意見が対立する規定が少なくなく、主要な問題点について近い将来意見の調整が実現する可能性は極めて薄いといわざるを得ない情勢にある。
(2) 新たな問題への対応
 改正刑法草案の答申後10年余を経過し、この間コンピューターの発達に伴う情報化社会の進展等が目ざましく、従来みられなかった種々の違法な行為の類型が出現していることから、これらの点について検討を行うことが急務となっている。
4 今後の改正作業の在り方
 以上のような経過及び状況を踏まえ検討すると、刑法改正については当面以下のような方針で臨むことが適当と考える。
(1)最重要点である保安処分制度の新設を含め、刑法全面改正作業において盛り込まれようとしている刑事政策は、これを実現することが必要であると認められるか、保安処分制度については、前記のような状況にあることに加え、精神衛生の分野においても入院手続等の整備を図る法改正の動きもあることにかんがみると、今後さらに厚生省等関係省庁との間で、所要の意見調整を行い、精神衛生法改正の動向も見守りながら、同制度の新設を図ることが適当であろう。
 また、保安処分制度の新設を除いた刑法全面改正についても、さらに検討を続けた上、保安処分制度の新設の見通しがついた際にこれと併せてその実現を図ることが適当である。
 なお、刑法は社会の最も基本的な秩序の在り方にかかわる法律であるから、これを全面的に改正するに当たっては、国民各層の意見をできる限り採り入れて大方の合意が得られるような内容のものにするとともに、可能な限り網ら的に整備された法律の制定を実現すべきであることはいうまでもない。
 そのほか、刑事基本法の改正作業全般の中でみたときは、監獄法改正作業が先行している状況にあることを考慮すべきであろう。
(2)もっとも、新たな類型の罰則の新設その他改廃等のうち、コンビュータ犯罪等新たな問題に対する対応を含め、社会の状況から必要性の大きいものについては、適宣部分改正により早期に整備を図ることが適当と考えられる。
資料(1)
 刑法全面改正作業の経過と内容
 明治40年 4月 現行刑法制定(明治41年10月施行)
 大正10年臨時法制審議会に刑法改正につき諸問、大正15年「刑法改正ノ綱領」作成、 昭和2年「刑法改正予備草案」、昭和15年「改正刑法仮案」公表
 昭和31年10月 刑法改正準備会発足
 昭和36年12月 「改正刑法準備草案」を印刷公表
 昭和38年 5月 法制審議会に諮問(「刑法に全面改正を加える必要があるか。あるとすればその要綱を示されたい。」)
 昭和38年 7月?昭和46年11月
 刑事法特別部会で審議・・・計30回開催、その間5小委員会合 計769回開催
 昭和46年11月 刑事法特別部会の結論を「改正刑法草案」として法制審議会(総会)に報告、同草案を印刷公表
 昭和47年 4月?昭和49年 5月
法制審議会(総会)で審議・・・計24回開催
 昭和49年 5月 法制審議会答申(「刑法に全面改正を加える必要がある。改正の要綱は当審議会の決定した改正法草案による。」)
 答申に係る「改正刑法草案」を印刷公表
 草案の内容の主要点
。文体を現代用語に改めたこと
(総則関係)
。罪刑法定主義等刑事法の基本原則を明示したこと
。「不作為による作為犯」、「みずから招いた精神の障害」、「共謀共同正犯」等判例・学説上、認められている理論を明文化したこと
。いわゆる違法性の意識を欠くについて相当の理由があるときには処罰をしないこととするなど責任主義の徹底を図ったこと
。自由刑の執行においては、矯正のための処遇を行うことを明文化し、行刑の基本原則を掲げたこと
。執行猶予の要件、取消しに関する規定を整備したこと
。仮釈放の要件、効果等仮釈放制度を整備したこと
。精神障害者に対する治療処分及び薬物等の中毒者に対する禁絶処分を導入したこと
(各則関係)
。周旋第三者収賄、公務員機密漏示、飲食物毒物混入、人質強要、企業秘密漏示、自動設備の不正利用、業務上背任等の規定を新設したこと
。爆発物取締罰則、航空機の強取等の処罰に関する法律、暴力行為等の処罰に関する法律、盗犯等の防止及び処分に関する法律等の特別法罰則を所要の修正を施して取り入れたこと
。尊属加重規定を全面的に廃止したこと
。法定刑を全般的に見直し、死刑を法定刑とする罪を現行の半分に減少させ、罰金額を引き上げたこと
昭和51年 6月 法務省刑事局における中間検討結果を「代案」を示して印刷公表代案の内容の主要点
。汽車・船舶・航空機等の交通危険(草案194条)の客体から「バス」を削除すること
。過失による汽車・船舶・航空機の交通危険・破壊(同198)の客体に「索道車」を加えること
。営利目的のわいせつ行為(同246)に公然性を要件として付加すること
。名誉毀損の事実の証明(同310)に公訴提起前の犯罪行為に関する事実を公共の利害に関する事実とみなす規定を付加すること
。外国の元首・使節に対する暴行・脅迫・区つ悔辱(同128、129)、騒動予備(同168)及び準恐喝(同346)をいずれも削除すること
。暴行、脅迫など7罪の法定刑を引下げること
昭和52年 2月?11月 「刑法改正について意見を聞く会」を全国6か所において開催
昭和55年11月?昭和56年12月 日弁連主催の「刑法問題についてのパネルデスカッション」に参加
昭和56年 2月 日本弁護士連合会との意見交換会開始
          昭和56年 2月?6月   予備会談(5回)
昭和56年 7月?59年 6月  本会談(23回)現在休止中
昭和56年12月26日の日弁連との意見交換会(第4回)において、法務省から、「刑法改正作業の当面の方針」及び「保安処分制度(刑事局案)の骨子」を提示。現在これらに基づき改正作業中。
                 「刑法改正作業の当面の方針」の内容(省略)
 昭和57年5月から、法務大臣の私的懇談会として各界の有識者を構成員とする「治療処分を考える会」を開催するとともに、法務・厚生両省の関係局長連絡会議等を開催
     厚生省との協議内容の主要点
。 精神の障害による犯罪としての他害行動の実態とこれに対する現行精神医療(薬物乱用対策を含む。以下同じ。)及び刑事司法の対応の実情について
。現行精神医療の犯罪防止効果及びその改善による犯罪防止効果の限界
。治療処分制度新設の必要性とその内容(精神医療との関係)
。治療施設として国立精神病院を用いることの是非
。医師、看護婦その他のパラメディカル・スタッフの確保
。仮退所中の精神衛生関係機関との協力(たとえば、精神障害者社会復帰施設の利用、一般病院での治療体制、保健所・精神衛生センターとのタイ・アップなど)
。仮収容における施設及び医療の確保
昭和59年1月及び4月 刑法研究会(平野東大総長ら)と意見交換
資料(2)
 保安処分制度(刑事局案)の骨子(省略)
資料(3)
 公務員機密漏示罪等の内容
  改正刑法草案第136条(公務員の機密漏示)(省略)
  同第318条(企業秘密の漏示)(省略)

現行精神衛生法の問題点に関する意見の纏め
1985/12/18 厚生科学研究班
一 精神衛生法総体あるいは新たな条項の追加に関する意見 (項目順は不同)
1.新しく1章を起こして「地域精神衛生」について法律的なうらづけを確立する。この「地域精神衛生」の章は、2つの条項より成り、1つは「従事する職員」を規定し、他は「活動内容」を規定するものとする。例えば、次のように表現する。
「第5章 地域精神衛生(地域精神衛生に関する業務に従事する職員)
 第×条
   都道府県及び保健所を設置する市は保健所に地域精神衛生に関する業務を行なうために精神衛生相談員を置かなければならない。
 2 前項の精神衛生相談員は学校教育法に基づく大学において社会福祉に関する科目を修めて卒業した者であって・・・以下同文・・・。
 3 保健所を設置しない市町村においては、精神衛生に関する相談に応じ、及び精神障害者を訪問して必要な指導を行なうための職員を置くことができる。
(地域精神衛生活動)
 第×条
   保健所長は地域精神衛生活動については必要に応じて精神衛生相談員および保健婦叉は都道府県知事若しくは保健所を設置する市の長が指定した医師をして、精神衛生に関する相談訪問広報普及協力組織の育成および関係機関との連絡協調などを行なわせなければならない。
 2 保健所を設置しない市町村の長は、前条第3項の職員として、精神衛生に関する相談および訪問に応じさせ精神衛生に関する適当な指導をさせなければならない。
したがって、現行精神衛生法(第42条)および(第43条)は削除することになる。
2.社会復帰促進対策
T)病院
 1.精神病院におけるリハビリテーション活動に対する診療報酬の充足とマンパワーの確保
 2.「職親制度」の拡充
    この制度を入院患者にも適用すること
 3.ディケア及びナイトケアの充実
U)地域
 1.住居:共同住居、アパート家賃助勢等
 2.就職斡旋の拡充(職業安定所、職業訓練校の門戸解放)
 3.共同作業所の整備
 4.リハビリテーション援助体制
  医療、就労、福祉援助システムの確立、家族会及び障害者グループの育成
 5.精神衛生センター、保健所の役割の再検討
V)社会復帰促進施策のうち精神衛生法に成分化(ママ)できることと、できないこととの検討が必要である。
2.精神障害者に対する社会復帰・福祉関連施策条項の明確化すること。
3.地域精神医療
 1.精神科診療所が成り立つよう、外来の診療報酬を引き上げること
 2.相談、指導体制の充実
 3.精神科緊急診療体制の確立
4.病院医療、特に特殊医療の充実
 1.中毒医療対策:覚醒剤中毒の医療はこの際51条を削除し、覚醒剤取締り法に移す。アルコール依存対策は10月9日の公衆衛生審議会答申を実行する。
 2.老人、小児精神医療対策:専門病棟の整備、小児(思春期)病棟においては学級の併設、相談活動の充実
 3.身体合併症対策:大規模精神病院における一般科の併設、総合病院精神科の連携強化
 4.犯罪精神障害者対策:特に犯罪傾向の強い性格異常者に対しては医療刑務所の活用とともに「治療処分」を検討する。
 5.精神病床の整備:精神病院における開放化を促進するとともに観察治療病棟、リハビリテーション病棟、ケア病棟等の機能別整備を図る。
 6.施設外収容禁止(48条)の見直し
5.社会復帰援助のための施設等について決定する必要がある
 1.第二章施設の中で規定するか、第六章として規定する
 2.「回復者施設」「適応施設」「ディケア施設」「共同住居」「職親」「作業所」「授産施設」「保護工場」等について規定する
 3.施設の設置主体は都道府県、市町村、法人等を規定する
 4. 社会復帰援助の実施機関を保健所とする
 5. 地方公共団体の施設は、実施機関からの援助の委託を受けた時の受託義務を規定する
 6. 運営の基準等は審議会等で定める
 7. 市町村の負担、都道府県の負担、国の負担などを規定する
6、同意入院の範囲を明確にするために、自由入院に関する規定を設ける必要がある
 1.様式による入院契約
 2.退院の申し出と、退院までの日数等
6.自由入院の規定は必要ないか。自由入院の形式を定める(50〜70%(ママ)は実質的に自由入院であることを明らかにする) 
6.強制入院についても入院期間を規定すべきではないか。入院期間の延長を認めるとしても、頭打が必要のように思われる。
7. 措置入院及び同意入院期間を法定する必要がある。
8. (仮称)「(病状)審査会」を法定する必要がある。
 1.法律及び精神障害者の医療に対し学識経験を有する者が委員となる
 2.知事が任命する
 3.法定入院期間をこえて入院を継続する必要があるか否かを審査する(現行法第29条の5、第2項を含む)
 4.措置入院患者叉はその保護義務者からの審査請求に応じる(現行法第29条の5、第3項を含む)
5.法定同意入院期間をこえて入院を継続する必要があるかを審査する(現行法第37条をふくむ)
 6.同意入院患者叉はその保護義務者からの審査請求に応じる
 7.その他人権擁護に関する審査を行なう
8.強制入院の手続に、司法機関の関与を認める必要はないと思われるが、入院期間の延長の申し立て、患者側からの入院解除の申し立て、入院中の処遇に関する異議申し立てについて審査する独立機関を造る必要はあると思われる。現行法の「地方精神衛生審議会」をこのようなものとすることも考えられる。
8.本人にある程度の行為能力があれば保護義務者の代理同意をも含めて同意入院という形式を認め、これを自由入院に含めて扱うのも一方法ではないか(外国で自由入院が多い理由の一つがこの方式の採用である)
9.同意入院患者叉はその保護義務者からの診断及び入院の必要があるかの審査請求権を法定する必要がある。
10.通信の自由について法定する必要がある。
11.行政関係では精神保健としていることからすると、この際、精神保健という用語で統一する
12.現在精神衛生法に組み込まれていない、@精神障害者の社会復帰の促進(a.社会復帰を目的とする医療機関の設置、b.職親制度)、A精神病床の整備(a.老齢者、小児等を主とする特殊病院(棟)、b.精神病質等の特殊病院(棟))、を現在の精神衛生法にどのように組み込むか。福祉の問題などをからみあわせて、@の問題は別途に考えるのか、Aの問題は保安処分との関係もあるので、その方で考えるのか。
13.精神病院管理者の資格(資質)をある程度規定すること。
14.精神衛生医制度の制定
15.精神福祉関係法規、治療処分については、第二次、第三次とする。
16.入院時のチェック方法(法的介入など)
17.自傷他害の判断(精神症状との関係)
18.入院中の作業療法などの問題
19.退院時のチェック方法
20.退院後の治療継続の問題
21.同意入院をむしろ厳格に扱う方向で検討する(本人の行為能力との関係で例えばしぶしぶ入院は自由入院で扱うとか)
22.人権の制約・拘禁との関連において、分裂病体系、アルコール問題体系、薬物依存体系のそれぞれに分けて表現形式を工夫する。
23.同意入院の救済措置を明文化する(例えば、第三者機関の問題を現行地方精神衛生審議会の方向で検討するとか)
24.小規模作業所・共同住居・憩いの家・・・などへの助勢措置を制度化する
25.保安処分の整理
二 条項(章も含む)の修正に関する意見
〔第1条〕(この法律の目的)
 1.国民の精神的健康の保持向上および精神障害者の人権擁護を前面に出し、福祉的要素を入れた目的に改めること
 2.「社会復帰活動」を加える。例えば、「この法律は、精神障害者等の医療及び保護とともに社会復帰援助を行い・・・・」
 3.「精神障害者等」の等は不要であろう。それは第3条の定義の改正によって、第51条覚醒剤の慢性中毒者も当然精神障害者の定義にふくまれるからである。(現行では第1条、第2条のみに使用している)
 4.「精神障害者等の医療及び保護を行い・・・」の保護の意味を明らかにする。
〔第2条〕(国及び地方公共団体の義務)
 1.「社会復帰施設」を加える。例えば、「国及び地方公共団体は、医療施設、教育施設、社会復帰施設その他福祉施設を・・・」
 2.施策を構ずることを第一義的に唱える必要があろう。
〔第3条〕(定義)
 1.外来、入院治療の対象となる疾患としての定義と、福祉処遇の対象としての障害が浮かび上がるようにする。
 2.精神薄弱、精神病質、神経症についての再検討
 3.定義はICD大分類に準じたものを採用すること。
 4.ここでいう精神障害者の定義は第29条の措置入院に関係する定義であって、実際のこの法律にはかなっていない。
 5.強制入院の対象者の限定。特に神経症患者、精神病質者、及び覚醒剤中毒者のうち「覚醒剤依存症者」などが問題となる。(51条とも関連)
 6.ボーダーライン層をどうあつかうのか。
 7.性格異常者は、司法と医療の両方でケースにより扱う。
 8.精神病院の定義
〔第2章〕(施設)第4条?第12条
 1.社会復帰施設の条文を入れること   (2)
   (例えば次のように表現する。)
    「(地域社会復帰センター)第×条
      都道府県は精神障害者の社会復帰をはかるために地域社会復帰センターを設置しなければならない。
    2 地域社会復帰センターは医学的管理のもとに作業指導、レクレーション活動、グループワークおよび就労指導等の昼間生活指導および夜間生活指導を行なう施設とする」
 2.国立精神衛生センターの条文を入れること
 3.精神衛生センターの設置を義務的な規定に改めるとともに、人口に応じて、支所の設置規定を入れる
〔第4条〕(都道府県立精神病院)
 1.都道府県立精神衛生病院、国立精神療養所、公立病院精神科、医科大学附属病院精神科等の役割機能を明確にし、指定精神病院制度を廃止するか、その基準を厳格にする必要がある。
〔第5条〕(指定病院)
 1.都道府県が設置する精神病院に代る施設(指定病院)の必要性。指定病院があるから、国公立病院の役割の厳守が徹底しないのではないか。
〔第7条〕(精神衛生センター)
 1.従来のセンター機能の中に、法レベルで"地域精神衛生を推進させるために"という表現を入れること、義務設置にすること、および人口おおよそ50万?100万単位に1ケ所という複数設置にするように改めること。例えば、次のように表現する。
「第7条(精神衛生センター)
 1.都道府県は精神衛生の向上を図るために精神衛生センターを設置しなければならない。
 2 精神衛生センターは地域精神衛生を推進するために、精神衛生に関する知識の普及を図り・・・以下同文・・・」
第3章 (精神衛生審議会及び精神衛生審査協議会)
 1.地方精神衛生審議会の活発な運用を計るための検討
   この設置の趣旨が実践されておれば、第三者審査機関などわざわざつくる必要はないのではないか。
 2.地方精神衛生審議会の権限
〔第13条〕(精神衛生鑑定医)
 1.精神衛生鑑定医認定の資格に対する診療経験年数は改定する必要はないか。
 2.年数を5〜10年位にする
 3.鑑定医の新規の指定について、現状では数の上で十分でないかと新規の指定を抑えている傾向があるが、有資格の精神科医には、申請があれば全部許可して指定して欲しい。専門医制度がないのだから一種の資格として扱ってよい。
 4.資格要件を5年とする。
 5.精神衛生医制度の制定
 6.精神衛生鑑定医と専門医
〔第20条〕〜〔第22条〕(保護義務者)
 1.同意入院制度を廃止し、精神病院への入院は強制入院と自由入院のみとする。
なお、強制入院に対しては、審査機関によるチェック、入院期間の限定、患者叉は後見人等の審査請求権、治療拒否権等を検討する。
 2.第21条の市町村長の保護義務者として、第22条が確実に行なわれるかどうか、その適格性の件、又保護義務者の老齢化による保護義務履行の困難性の件等ある。一方、保護義務者の確認が現行法では、精神病院の義務であるとされているが、この問題をどのように解決するのか、この点での法改正も必要ではないか。
 3.保護義務者たりうる者がない場合については、家庭裁判所がこれを任命するものとし、市町村長同意の制度は廃止する。
 4.市町村長の保護義務者はあまり意味がない。家裁に選任申請期間中、病院管理者叉は主治医でもよいのではないか。これは法的にはどうなのか。
 5.仮保護義務者の制度をつくり(裁判所の選任申請期間中)代行させることはどうかこれは、入院時に同行してきた親族の事も含む。
 6.選任手続を簡素化する。
 7.保護義務の始期及び終期について、ある程度明確にしておく。
 8.選任手続の改正
 9.自治体の保護義務の条項の検討
10.保護義務者は医師の指示に絶対的に従う義務があるのか。第33条では「同意があるときは」として同意しないこともあり得ることを示唆している。それと整合をはかる必要がある。
11.単に監督義務と財産上の利益保護の義務だけでよいか。
12.保護義務者の市町村長同意は廃止する。
13.保護義務の期間を限定する。
14.外来患者に保護義務者が必要か否か検討する。
〔第23条〕(診療及び保護の申請)
 1.申請者の資格について、近親者とすべきではないか。単身者や身許不詳の場合には社会福祉・保健関係者等によることにしたらどうか。
〔第25条の2〕〔第26条〕
 1.入所中のもので疑いがあれば、入所中に適切に精神科医の診断を求めておくことが要請されるべきである。
 2.精神病院の管理者の届出は、退院ののち、その旨を通報すればよいのではないか。
真に急迫した状態であれば、緊急避難的対応をとる必要がある。
 3.同意入院の定義、管理者の定義
〔第27条〕(精神衛生鑑定医の診察)
 1.措置入院の可否を事実上決定する鑑定医が、患者が入院させられる病院から独立の者でなければならないことを、明文で規定すべきか。(29条とも関連)
 2.自己の財産に損害を及ぼすものは、自傷でないというが、問題である。
 3.精神的な他害として、自由、名誉を示しているが、この他には文書や電話などによる脅迫、いやがらせは、他害としてよい。
〔第29条〕(措置入院患者の範囲)
 1.現在の表現では曖昧。いつも問題になっている「自傷他害」について。
 2.措置入院は患者の医療という目的を超えては行ないえないことを明らかにする必要がある。具体的には、いわゆる措置要件消退以外に、患者に対する医療の可能性がなくなったときも措置解除をなしうるようにする。
 3.本人の請願権を明文化することを考慮すること。
〔第31条〕(費用の徴収)
 1.措置入院については、権力から独立性がない知事に、これだけの強制権を与えてよいかどうか検討しておく必要がある。
〔第32条〕(一般患者に対する医療)
 1.審査方針は、第3条の規定の下での状態像診断と考えられるが、一般患者という名称がまぎらわしく、神経症が該当するのか否か、不明確である(第3条の問題でもある)。
 2.「・・・その医療に必要な費用の二分の一を負担することができる。」という規定は弱い表現ではないのか。
 3.「一般患者」という法律用語は適切でない。
〔第33条〕(保護義務者の同意による入院)
 1.第21条における市町村長が保護義務者となる場合の同意の意思表示の確認手続を明確にする必要がある。
 2.市町村長が保護義務者となって同意入院した場合、民法上の契約を締結することになるが、その責務を明確にする必要がある。
 3.ア)「同意という用語はあたかも本人が同意したかの誤解を生ずるおそれがあるので用語の表現を改めるよう配慮すべきこと」と答申(40.1.14)されているが、一考を要する。
イ)同意入院制度について昭和40年 1月14日の答申は次のように述べている。
「第一、同意入院制度の要件を改め手続の迅速化と人権尊重の趣旨とが充分に合致するように定められた同意権者の同意を得れば足りることとし、第二に反面自己の意志に反して入院させられる患者の人権を守るため、その患者が同意入院を必要とする程度の症状にあるかどうかにつき、必ず精神衛生医の診察を経なければ、入院をせしめ得ないことにする必要があろう。さらに第三として同意入院に患者本人、叉はその家族からの申し立てがあれば、すみやかに都道府県知事は実情を調査し、地方精神衛生審議会の意見を聞いた上で、当該同意入院の適否について決定しなければならないことにすべきである」とある。この答申が現在の時代的背景として、人権上の配慮から果して実践的な場でどの程度利用できるかどうか。
 4.同意入院の手続について、措置入院と同様、鑑定医の関与を要件とすべきではないか。
 5.日本独自のよい制度であるから残して欲しい。
 6.自由入院も文章化すべきである。
 7.審査期間を設置するにしても現状では、地域によって実施困難な場合が多い。
 8.1〜2年間の再入院の場合には、前回のコピーでよろしいとの判例、家裁の了解は得られている。この問題については第20条と関連して尚検討の要がある。
 9.入院間の保護義務者の変更の可能せいもあるが、その確認の責任者が管理者のみにあるかどうかの検討。
10.同意入院についての用語の考慮。
11.保護義務者の期間について、自由入院の規定。
〔第34条〕(仮入院)
 1.仮入院の期間を1週間以内とし、何人の同意もなくても同意入院の前に   行ないうるようにすべきこと。
 2.本人の同意がなくとも強制的に入院させられることを許しているこは多分に問題がある。
〔第36条〕(届出)
 1.10日以内に同意書を添えて知事に届出なければならないが、市町村長が保護義務者の場合、同意書の添付は困難なので検討の必要がある。
〔第37条〕(知事の審査)
 1.入院患者からの請願(権)をうたうこと等が考慮される必要がある。
〔第38条〕(行動の制限)
 1.精神病院管理者の規定が明記されていないのに、義務と責任と権限が与えられている。
 2.現行法の行動の制限に関する包括的な条文を削除し、入院患者の諸権利(通信面会の自由、行動の自由、治療拒絶権)の制約が許容される要件を明示する必要がある
 3.入院患者は自己の処遇についての不服申し立てを第6項の機関になしうることを規定する必要がある。
 4.不服申し立て権を有する者を明記する必要がある。
 5.再検討の要あり。
 6.廃止する。
〔第40条〕(仮退院)
 1.措置入院患者の外泊を医療的判断でより自由に行ないうるようにする必要がないか
〔第42条〕(精神衛生に従事する職員)
 1.保健所への精神衛生相談員の配置を義務的な規定に改める。そして、管轄人口に応じた人数とする。
 2.保健所法施行令第5条(職員)の「・・・その他保健所の業務を行うために必要な職員を置かねばならない。」の'その他'に含まれてしまっていることにも反映されている。
 3.相談員は、第42条2項により、知事叉は市長の任命となっているが、国家試験を行なうべきではなかろうか。
(理由)補助看法第2条では、「・・・保健婦とは、厚生大臣の免許を受けて・・・保健指導に従事することを業とする女子をいう。」とあり、同法第29条(保健婦業務の制限)では、「保健婦でなければ、・・・第2条に規定する業をしてはならない。」とある。精神衛生相談員も、実態からみて、保健指導に従事している。
 4.市町村にも(とくに保健センターには)精神衛生相談員を配置できる規定を入れたい。
 5.これらのことは、現行法第5章医療及び保護に含めず、新たに「地域精神衛生(叉は保健)」の章を設けて、規定する。
 6.第1項の「職員を置くことができる」から「置かねばなせない」とする。
〔第43条〕(訪問指導)
 1.訪問指導は、本人の同意を確認することがその前提となることである。
〔第48条〕(施設以外の収容禁止)
 1.削除するか、叉は「精神病院」を「医療施設」とし、合併症、思春期・老年期精神障害、及び有床診療所等での治療を可能とする必要がある(医療法の改正を含む)
 2.他の法律により精神障害を収容することのできる施設云々について、他の法律を増やすかどうか考慮すると共に、この法律でもカバーできない場合はどうするか。
 合併症で他科へ
 社会復帰施設
 特養老
 診療所(有床)
 3.精神科診療所、その他の医療機関でも入院診療できることを明らかにしておくこと医療法施行規則第10条3は改正されなければならない。
〔第51条〕(覚せい剤の慢性中毒者に対する措置)
 1.第3条の定義が改正されるならば、この条項は不要。

死後1ヶ月の老女は息子の暴力の果てに
「一緒に暮らしたい」愛情がアダ
足立のアパート
2/11M.M
今月二日、東京足立区の都営アパートで、死後一ヶ月以上もたち一部ミイラ化した老女(七一)の死体が見つかり、警視庁捜査一課と綾瀬署は死因などを調べていたが、十日までに同居中の長男(四五)が繰り返し暴力を振るって死なせたことが分かった。長男は昨年十二月初めまで精神科の病院に入院していたが、母親が「一人で入院させておくのはかわいそうだ」と自宅に連れ戻した直後の事件とみられ、母親の愛情がアダとなった。
死んだのは同区綾瀬七丁目の都営アパート内、無職、A子さん。二日午後二時ごろ、自治会費の集金に訪れたアパート管理人が異臭に気付き同署に通報。六畳間の布団の中でA子さんが寝間着姿のまま死んでいた。
当初は病死とみられたが、遺体を解剖して調べたところ、胸の骨が折れ頭部に内出血を起こしていたほか、全身に殴られた跡のような皮下出血があった。自宅台所の床には血痕も残っていた。
A子さんは長男と二人暮らしで、長男がたびたびA子さんに暴力を振るっているのを近所の人が見ており、同課は長男に繰り返し暴力を受けたA子さんが昨年暮れ外傷性ショックで死んだとみている。
長男は「母はまだ生きている」などと錯乱状態がひどく、同署は病院に入院させるとともに、近く傷害致死容疑で書類送検する方針。
長男は四十九年ごろから二度にわたって精神分裂病で長期入院し、昨年十二月「一緒に暮らしたい」などと強く希望して長男を退院させた。
新潟県立病院
精神神経科
患者が医師を刺殺
通院の男、9時間後逮捕

2/11 Y.M
【新発田】十日午前十一時四十分ごろ、新潟県新発田市大手町四の五の四八、県立新発田病院(鈴木寛院長)で、名前を呼ばれて精神神経科診察室に入ってきた男が、診察しようとした診療部長兼精神神経科部長吉田潤一医師(五二)の左わき腹を隠し持っていた出刃包丁でいきなり刺した。
吉田医師の悲鳴で気付いた近くの看護婦が男に飛びつき、引き離すと、男は一声どなり、看護婦がひるんだすきに逃走した。
吉田医師は、手術室に運ばれたが、わき腹に刃渡り十八センチの出刃包丁が柄のところまで刺さっており、出血多量ですでに死亡していた。
新発田署は緊急配備し、男の行方を追及。約八時間後、国鉄新発田駅構内に不審な男がいるのを、通報で駆けつけた同署員がみつけ、任意同行して取り調べた結果、犯行を自供したため、同夜八時半すぎ、殺人容疑で逮捕した。
男は同県北浦原郡の無職の三十七歳で、昨年九月から精神分裂病で同病院に通院、吉田医師の治療を受けていた。
犯行当時、同病院の待合室、事務室には外来患者や職員約五十人がいたが、だれも犯行に気づかず、男は待合室の廊下を悠々と通って正面玄関から逃走した。
新潟
県立病院で医師刺殺
精神科診療中 外来の男逃走
十日午前十一痔半ごろ、新潟県新発田市大手町四の五の四八、同県立新発田病院(鈴木寛院長)の精神科外来診察室で、同病院精神科診療部長、吉田潤一さん(五二)=同市緑町三の九の二=は、外来患者の男(三七)に診察を始めたところ、いきなり隠し持っていた出刃包丁で左胸を刺され間もなく死亡した。男はそのまま逃走した。
同県警新発田署は殺人事件として隣接各署に緊急手配して捜査している。
2/10 M.e
精神科医を患者が刺殺
新潟 診療中に
十日午前十一時半ごろ、新潟県新発田市大手町四丁目の県立新発田病院内で、同病院の診療部長兼精神科部長である吉田潤一医師(五二)が診療中に、精神科に初診でやってきた同県北蒲原郡水原町のY(三七)と名乗る男に出刃包丁で胸を刺され、約三十分後に死亡した。新発田署で男を追っている。
2/10 A.e

精神傷害患者の人権保護へ本腰
来春の法改正めざす厚生省
報徳会宇都宮病院事件などをきっかけに、厚生省は精神衛生法改正の方針を打ち出したが、昨年末、医療界、学会、家族会、地方団体など二十二の関係団体に対し、法改正についての意見があれば提出するよう文書で要請した。各分野の意見を十分参考ににしながら改正作業を進めるためだ。すでに、省内では課題ごとに問題点の検討を始めており、二月には広い分野の学職者による懇談会も設置し、六十二年春の改正法案提出に向けて、改正内容の検討を求める。
まず各分野の意見聞く
意見の提供を求めたのは、日本医師会、日本精神病院協会、日本看護協会、日本精神神経学会などの医療関係団体や学会、全国精神障害者家族会連合会、呆(ぼ)け老人をかかえる家族の会、全国救護施設協議会などの家族会や施設団体、全国知事会などの地方団体、それに日本弁護士連合会など。三月末までに提出するよう要請した。
すでに家族会連合会が提言をまとめて厚生省に提出しているのをはじめ、精神病院協会など数団体も作業を進めている。この要請で、かなりの団体が「望ましい精神衛生法」について意見を寄せてくると同省は見ている。
厚生省がこれまでに検討課題として挙げているのは@保護義務者らの同意があれば本人の意志にかかわりなく強制的に入院させられる「同意入院」患者の人権保護規定の整備A症状が改善した患者の社会復帰対策の進め方B精神障害者の定義、など。
このうち、同意入院患者の人権保護規定改正に着手することは決まっているものの、さらにどの範囲まで改正案に盛り込むかは今後の検討課題。厚生省は、内部の検討とあわせて各方面の意見をくみ上げ、可能なものは改正案に取り入れることにした。二月に発足予定の懇談会も、同様に専門家の意見を聞くのが狙いだ。
厚生省はこれらの作業を経て、改正案要網を六十一年十二月ごろまとめ、公衆衛生審議会(厚相の諮問機関)にはかったうえ六十二年春の国会に提案。
患者の人権保護で立ち遅れていると国際的に批判を浴びている精神衛生行政の改革を図る。
「社会福祉面も充実を」
全国家族会連合会が提言
全国精神障害者家族会連合会はこのほど、精神障害者の社会福祉対策について提言をまとめた。日本の精神障害者対策はこれまで、医療面ばかりが強調され、社会復帰や経済的な保障、雇用の確保といった福祉面が立ち遅れていた、との立場から、精神障害者福祉法(仮称)の制定を中心に、社会復帰・福祉対策の充実を求めた内容。
また、精神衛生法改正の進め方について「公衆衛生審議会、中央社会福祉審議会、身体障害者福祉審議会などは、横断的な協議会をつくるなどして、同法の改正や精神障害者福祉法の制定などを審議し、早急に結論を出す必要がある」と注文をつけている。
同意・措置入院は廃止を
精神医療人権基金 障害者保護へ改革案

精神障害者の人権無視の現状を憂える弁護士や医師らで組織する精神医療人権基金は七日、第二東京弁護士会会館で運営委員会(委員長、柏木博・元日弁連会長)を開き、「立法に関する提案」をまとめた。精神医療に取り組む専門家集団の初の具体的な改正案で、現行の同意入院(家族ら本人以外の保護義務者の同意による入院)は、多くの人権侵害を生み出している、として廃止を打ち出すなど、現行法の事実上の摘発を求めている。近く同基金事務局長案として、精神衛生法の改正方針を打ち出した厚生省をはじめ、各団体などに提出する。
提案では、措置入院も廃止し、強制入院は新設の「治療入院」に一本化、拘禁より、治療にその目的をおき、現行では無期限の入院期間を六ヵ月に限定する。鑑定医は「入院を予定されている病院から独立であって、当事者と利害関係のないことが明らかな者」に制限、院長が営利目的で自病院の患者を増やすような弊害をなくすよう提案している。
強制的な治療についても、精神保健法委員会を新設し、この委員会の許可がなければ出来ないようにするなど、厳しいしばりをかけたほか、行政機関の精神病院への監視権限の強化、家庭裁判所の介入の強化など、チェック機構の補強の必要性も訴えている。
また、「医療なき拘禁」と批判されてきた実態を反省、弁護人依頼権、直接弁明権、証拠閲覧権、審査請求権などの保障を明示すべきだ、としている。
全体として、自由入院と開放処遇を原則とする考えに立っている。
一方、治療、入院歴などが原因で患者が差別されないよう、新たに「障害者福祉法」などを制定することも要求している。
草案を執筆した戸塚悦朗事務局長(第二東京弁護士会人権擁護委員会委員)は、「国際機関から受けた勧告などを盛り込んだ。欧米ではすでに常識的な制度となっているものばかりで、今後、人権後進国との避難を浴びないためにも、これを精神障害者の権利の章典にしてほしい」と話している。
精神医療人権基金は、宇都宮病院事件が発覚した一年後の昨年三月、精神科医、弁護士、刑法学者、ケースワーカーらによって設立された。
精神衛生法体系の国際的研究と日本への紹介、出版活動のほか、精神病院入院患者の人権侵害事件の訴訟の救援などを行ってきた。
厚生省から精神衛生法改正について意見を求められている学界や病院経営者の団体が、考え方の対立などでなかなか具体的な改革案をまとめることができないなか、専門家の集団として、早くから改革案作成に着手し、注目されてきた。



*作成:桐原 尚之
UP: 20100525 REV:
全文掲載  ◇反保安処分闘争 
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