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精神医療の抜本的改善について(要綱案)

日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会 19830831

last update:20110801

昭和56年8月31日
日本弁護士連合会
刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 山 本 忠 義
日本弁護士連合会
会長 宮 田 光 秀 殿

報告書
 日本弁護士連合会は、刑法全面「改正」阻止の「意見書」に基づいて、かねてから精神障害と犯罪をめぐる諸問題解決の基本方針として、「保安処分」制度の新設に反対し、精神医療の抜本的改善による対応の必要性を強調してきましたが、当委員会は、昭和56年度夏期合宿(8月28日から30日まで)の討議において、右「意見書」の基本方針を具体化する作業に着手し、そのための討議資料として、要綱案「精神医療の抜本的改善について」を作成するとともに、これに基づく全国的な会内討議の開始・推進を決定しました。
 当委員会としては、その会内討議と会内合意に立脚しながら、10月15日の次回全体委員会では中間的な各地報告と討議を行って骨子をまとめ、12月4日の全体委員会では可能な限り結論をまとめていきたいという予定です。
 そこで、この要綱案の内容を別記のとおり報告申し上げるとともに、これについて全国の各弁護士会が直ちに積極的な討議をすすめるよう特段のご配慮をお願いする次第です。

≪討議資料≫
精神医療の抜本的改善について(要綱案)
はじめに
一、日本弁護士連合会は、精神障害と犯罪をめぐる諸問題に関し、一貫してこれを刑法「改正」あるいは刑事政策の領域の問題としてとらえることに反対し、あくまで精神医療と福祉の領域の問題として対応策を確立していくべきであると主張してきたが、この要綱案も当然その基本に立脚するものである。
二、要綱案一項「弁護士会の基本的考え方」は、保安処分必要論が一般的にはいかにも積極的な方策の提案であるかのような印象を強めている現状にかんがみ、その誤りを是正し、精神医療の抜本的改善こそ最も実効のある積極的方策であって、医療・福祉政策の役割がきわめて重要であることを明確にしたものである。
三、要綱案二ないし五項のうち、保安処分制度との関係で最大の焦点となるのは、四項「措置入院改善の基本方向」であり、これに関するすべての問題点は、あらゆる角度から徹底的に検討される必要がある。
四、ところで、精神障害による事件の発生を未然に防止していくという観点から措置入院制度をみるならば、退院後における医療上の適切な措置との結合も非常に重要なポイントになってくるのであって、要綱案三項「アフター・ケア体制の確立」は、その意味で大きな位置づけをあたえられている。
五、しかし、精神医療におけるアフター・ケア欠落の現状は、あくまで精神医療の実情全体の一環にほかならないのであるから、その改善については、土台となるべき「精神医療改善の基本方向」にもふれておく必要があり、その意味で要綱案二項が設定された。
六、これらの諸問題をふまえつつ要綱案四項の具体化をはかっていくことになるが、そのことについては、何といっても五項「第三者的審査機関の確立」が最も中心的なテーマになるのであって、立法措置の要否をもふくめて、詳細な検討が不可欠である。
七、この要綱案は、以上のほかに、六項「薬物中毒者等への対応策」、七項「保安処分必要論への回答」をまとめて、総合的な方策の提案とその意義の明確化をはかった。

一.弁護士会の基本的考え方
1.意見書の基本
 草案の保安処分反対・精神医療の抜本的改善による対応
2.保安処分の消極性と限界
 人権侵害の危険(精神障害者への偏見・対象の不明確性・再犯予測の不能性・拘禁状況下の治療不成立・予防的拘禁長期化の実質)のほかに、精神医療の改善による対応との関係では、次の点における消極性と限界を指摘しておく必要がある。
(1)初犯防止の問題に対応できないのは刑事政策の限界を示している。
 いうまでもなく、保安処分は、いったん事件が発生した後の再犯防止策に止まる。刑事に関する司法・行政の機能が基本的には事件の発生がない限り動き出せないものである以上、これは、刑事政策における当然の制約であり、明白な限界である。しかも、保安処分による再犯防止の効果そのものも期待できないのである。これに対し、精神医療と福祉の立場から対応していくならば、初犯であれ、再犯であれ、精神障害と犯罪をめぐる問題についても、必要で適切な効果的措置が十分に可能なのであり、この領域を度外視しては真の対応策もあり得ない。
(2)保安処分における治療の主張は精神医療の現実の土台を欠いている。
 法務省側は保安処分について「病院と同様の設備をもった施設に収容して、医師、心理学者、ソーシャルワーカーなどが協力して、医学療法、薬物療法、心理療法、作業療法等を行って治療」するのだと主張しているが、精神医療の全体的な実情からみて、そのような医療を推進するべき土台が欠けているところにこそ根本的な問題がある。保安処分だけはそのような「治療」を行うのだと主張してみても、実体的な根拠がないのである。
(3)保安施設退所後における社会復帰の困難性は再犯の危険を高める。
 保安施設における拘禁状況のもとでは、本来、治療が成立し得ないのであり、そればかりではなくかえって病状が悪化するであろうと指摘されている。このことがアフター・ケアの欠落、福祉政策の貧困と結びつくことによって、被収容者の社会復帰をいちじるしく困難なものにしていくことが予想され、社会的に追いつめられていくことによって再犯の危険性もきわめて高いものになっていくとみられる。
3.精神医療改善の積極性と意義
 精神障害による事件の発生は、医療と福祉によって防止できるということが基本のとらえ方である=事件発生の原因とプロセス解明の重要性
 「時に不幸にして起こる病者の疾病に基づく事件はそのほとんどが医療と生活支援が不充分であった結果であり、病者の生活と医療を保障する態勢こそ必要である」(昭和55年9月1日付病院精神医学会理事会の法務大臣宛抗議文ー新宿駅バス放火事件の発言に対してー)
 「殺人について述べるならば、精神障害者のそれは親族内での事件が過半数をしめているのであるが、これには家族内の経済的困窮・精神的葛藤が大きな役割を演じている。そしてこの困窮・葛藤自体は諸々の社会変動によってもち来らされている点が多いのであるが、これに対する救済策ー相談・援助・治療機構の不備の深刻さを十分考えねばならない。」(昭和50年8月付日本精神神経学会・理事会・保安処分に反対する委員会「保安処分制度新設に反対する意見書その二」)
(1)医療と生活支援の不十分さが事件に結びついている実情と医療・福祉による防止の可能性
(2)実効のある精神医療とそのための医療体制に関する方向づけの明確化
(3)措置入院制度等精神衛生法の運用改善による実態是正の可能性
(4)病者の権利保障に基づく開放制医療の推進とされによる実効性
4.国と地方公共団体の責任の決定的重要性
 「医療施設・教育施設その他福祉施設を充実にすることによって精神障害者等が社会生活に適応することができるように努力するとともに、精神衛生に関する知識の普及を図る等その発生を予防する施策を講じなければならない」(法二条)
政治と行政の怠慢による課題山積の実状=公立病院の役割等を含む

二.精神医療改善の基本方向
 「近年においては、精神障害者等の早期発見、早期治療、社会復帰という一連の過程が有機的、かつ組織的に行われるように行政上の配慮をするとともに、精神障害者等が地域の中で社会生活を送りながら治療を進めた方が治療上も社会復帰のためにも有効であるという、いわゆるコミュニティ・ケアの考え方の下で各地域ごとに保健所、衛生センター等を中心とした地域精神衛生活動の充実が図られている。」(55年版「厚生白書」)
 この方向は、弁護士会の考え方とほぼ一致するが、実行されていないため作文に止まっているところに最大の問題がある。
 すでに各方面から提起され、行政レベルでも確認されている(1〜3)大要次のような方策を即時実行することが課題になっている。
1.入院中心主義の是正・改善
 昭和48年の厚生省・「精神衛生実態調査結果概要」(10年ごとに実施されるが、人権侵害の危険・調査と推計の不正確性等の点で批判を受けている)の推計によっても、精神障害者のうち、「治療・相談・指導を受けていない」人びとが37%に達し、精神神経科医師に外来通院する必要のある人びとは55・5%(現に専門医に外来通院しているものは20・8%)、相談・指導を受ける必要のある人びとは35・3%(現にそれを受けているものは16・2%)に達している。この推計によっても非入院の治療の重要性が大きく浮上してくる。
(1)通院医療の比重の増大
(2)デイ・ケア医療の発展
 「精神科デイ・ケアは精神科通院医療の一形態であり、精神障害者等に対し昼間の一定時間(6時間程度)、医師の指示及び十分な指導・監督のもとに一定の医療チーム(作業療法士、看護婦(士)、精神科ソーシャルワーカー、臨床心理技術者等)によって行われる。その内容は、集団精神療法、作業指導、レクリエーション活動、創作活動、生活指導、療養指導等であり、通常の外来診療に併用して計画的かつ定例的に行う。このデイ・ケアの治療対象は、精神分裂病等の重いものからノイローゼ程度の軽いものまで幅広く適応され、入院医療ほどではないが、今までの通院医療よりも積極的で濃厚な治療を行うことができる。」(厚生省公衆衛生局精神衛生課・昭和55年版「我が国の精神衛生」)
(3)相談・訪問等による指導の拡充
 病状の悪化・事件の発生を予防していくためには不可欠の重要性をもつ。
2.社会復帰対策の確立・推進
上記1.の点に立脚しながら
(1)精神障害者回復社会復帰施設の整備・拡充
 「精神障害回復者等に、適正な医学的管理のもとに、昼間の生活・作業指導(デイ・ケア)、ならびに夜間生活指導(ナイト・ケア)等を行い、円滑な社会復帰を図ることを目的ととた施設」(前出「我が国の精神衛生」)
(2)精神衛生社会生活適応施設の整備・拡充
 「この施設は、入院医療の必要はないが、精神に障害があるため独立して日常生活を営むことができない者に対して、生活の場を提供し、あわせて社会適応に必要な生活指導等を行うことを目的とする施設である。」(前出「我が国の精神衛生」)
(3)職業訓練施設の設置
(4)職親制度の導入
3.地域精神医療対策の確立・推進
上記1、2の点に立脚しながら
(1)精神病院の開放化
(2)早期入・退院の推進
(3)ナイト・ホスピタルの拡充
 「昼間、施設外の事業所等で就業する者に対して、夜間の生活指導等を通じて社会適応指導を行う。」(前出「我が国の精神衛生」)
(4)地域住民の啓豪活動
4.入院患者の権利の確立・保障
 人間としての権利を保障するという基本、そのことに立脚する開放制医療の推進=効果のある精神医療の土台
 病状・治療の状況と段階に応じて「行動の制限」により制約されることがありうる。
(1)通信の自由/(2)面会の自由/(3)金銭所持の自由/(4)外出・散歩の自由/(5)外泊の自由/(6)喫煙の自由/(7)不服申立の権利
 外国では治療拒否・要求、病院選択の権利も論じられている。
5.総合的な課題の是正・改善
(1)開放制医療の推進等による治療内容の改善
 犯罪に該当する事件を起した人たちの80%までは普通に治療できる。あとの20%ぐらい処遇困難なものがいるが、罪名との相関関係は全くない。国公立病院への移転が適切である。
 (人的体制・物的設備・経済的問題・国の責任などの理由から)。
(2)精神科医療従事者の充足
 精神科医・精神医学ソーシャルワーカー・臨床心理技術者・保健婦・看護婦(士)・作業療法士・臨床(衛生)検査技師・その他の必要な職員
(3)精神科診療所の設立
(4)診療報酬等の改善

三.アフター・ケア体制の確立
 すべては上記二項に立脚するものであり、その一環として位置づけられる。
1.生活保障の措置
(1)家族の問題/(2)生活費の問題/(3)住居の問題
2.職業保障の措置
(1)病院・家族会・患者会・ボランティアによる共同作業施設等の助成/(2)職域の確保・拡大の推進/(3)精神障害者のための公的授産施設の設置等
3.医療上の措置
(1)デイ・ケア、ナイト・ホスピタルによる社会復帰と継続的医療の確保/(2)定期的な通院・相談・訪問指導・援助等の確保/(3)ソーシャル・ワーカー等の人員と活動体制の確保/(4)患者、家族、ソーシャル・ワーカー、医師間の連絡の緊密化/(5)再発の徴候が認められる場合の早期の収容・治療(6)自発的休息入院による再発の防止/(7)地域におけるカウンセリングセンターの常設/(8)あらゆる面における精神衛生センターの役割の拡充/(9)医療保険制度の是正・改善/(10)あらゆる面で正常な生活のサイクルから外れる事態の防止
4.措置通院制度の検討
(1)必要な退院後における患者と病院との結びつきの確保/(2)そのための機関・手続・法的拘束力・根拠等をめぐる問題の検討

四.措置入院改善の基本方向
1.基本方向について
(1)現行精神衛生法には大きな問題がある
(2)措置入院制度等精神医療の実情にも大きな問題・欠陥がある
(3)精神医療の実情を放置したまま法改正をしても実際の改善は期待できない
(4)以上の点から、運用による実態の改善を基本にすえる
2.収容手続について
(1)自傷・他害の要件の適正な運用
@要件存否の認定・判断に実質的な不備が多い
Aそうである以上、法律上の要件だけを改めても問題の解決にならない
B根本的には医療目的以外の保安目的による要件の設定自体が正しくない
C「救急医療の必要性」という日常的医療用語の観点から運用するべきである。
(2)精神衛生鑑定医による鑑定の厳正化
(3)鑑定医所属の病院と措置患者収容の病院との区別
3.責任能力をめぐる問題について
(1)行為時の責任無能力と鑑定時の「自傷・他害」要件の不存在について
(2)時間をかけた慎重な鑑定の必要性
(3)措置不要を当然とすべき場合
 責任主義と責任能力からみて論議の余地のない場合は当然にありうる。
(4)問題のない一過性の精神障害
(5)問題のある周期性の精神障害
 症状の悪化は予測できるけれども、それが犯罪に結びつくには社会的諸要因がからんでくるのでーその面での情報を欠く以上ー再犯の予測はほとんど不可能
(6)要医療・不要入院医療の場合の措置
 とくに、犯罪に該当する事件を起した場合の強制的措置の必要性について
(7)措置通院制度の検討
 この措置に従わなかった場合の対応策をふくめて検討する
4.治療の実施について
(1)入院中の治療に関する精神衛生法の欠落と運用による補充・改善
(2)開放制医療の許容・導入
(3)「行動の制限」における乱用の禁止
 病院管理者の万能の権限(たとえば、外出禁止・作業の強制・保護室への隔離・金銭所持の制限・鎮静剤の注射や投与・信書の授受の制限・信書の開披・電話の制限・面会の制限など)は許されないのであって、「行動の制限」における合理的運用が不可欠である。
(4)精神科医療従事者の充足による医療体制の確立と医療の推進
5.退院・仮退院について
(1)措置要件消滅の認定に関する適正な運用
(2)アフター・ケアへ結びつける諸措置の実行
6.第三者的審査機関によるチェック機能の貫徹
7.第三者的審査機関に対する不服申立の保障
8.同意入院に共通する改善点
 以上の改善点は、事柄の性質に反しない限り、すべて共通する

五.第三者的審査機関の確立
1.組織
 地方精神衛生審議会(精神衛生法16条の2、3)の実質的・全面的改組
(1)現行法制
 諮問に対する答申・意見具申に拘束力はない。
 「都道府県知事が諮問する事項は、精神衛生に関する事項のうちの一般的事項が主となろうが、都道府県知事の判断により、個別的事項(たとえば特定の指定病院の指定の可否等)にわたっても違法ではない。(中略)知事に意見具申できる事項は、精神衛生に関する事項である以上、何等の制限もない。意見具申は、新議会の自発的意思によるものであるから、知事の諮問がなくても当然できる。」(「精神衛生法詳解」)。
(2)昭和40年1月14日精神衛生審議会答申
 「精神衛生法改正に関する答申書」の2「地方精神衛生審議会の設置について」より、
 「(4)業務
ア 都道府県知事の諮問に応ずるほか、関係事項につき意見具申すること。
イ 左記に掲げる場合において都道府県知事が行政処分等をしようとする際あらかじめ意見を聞かれ、これに対して意見をのべること。
(ア)措置患者につき措置解除をしようとするとき、当該病院側が反対の意見を表明したとき。
(イ)同意入院患者につき入院継続の要否につき問題を生じたとき。
(ウ)指定病院の指定又は指定取消をしようとするとき。
(エ)精神衛生医の指定申請書の厚生大臣あて進達しようとするとき。
(オ)入院中の患者から苦情の申立があったとき。
(5)委員の構成
 精神医学に関し学識経験のある医師、人権擁護関係行政機関の職員、裁判官、一般学識経験者、精神衛生行政機関の職員等のうちから、都道府県知事が適宜任命する。
(3)実態と運営
 各地ごとに若干の差異があるものとみられるので、その構成・運営・機能等の実情については一斉に調査する必要がある。
2.構成
 措置入院制をふくむ精神医療の改善に有用な人材による構成
(1)医療・福祉・人権擁護の観点に立つ人選
(2)各種審議会・委員会等の実例の検討
3.権限
 次の事項に関して調査・審議(以下審査とよぶ)を行い、それに基づいて知事に対し意見を述べ、あるいは勧告することができる。
(1)措置入院の収容手続に関する事項
(2)措置入院における入院期間に関する事項
(3)措置入院における6か月ごとの定期的診断に関する事項
(4)必要と認めた場合の治療内容に関する事項
(5)必要と認めた場合の行動制限に関する事項
(6)退院・仮退院の手続に関する事項
(7)アフター・ケアの措置に関する事項
(8)不服申立のあった問題に関する事項
(9)その他麻薬中毒審査会の例等をも検討する
(10)以上の審査を次の場合に限定するという意見の可否
@処遇困難なケースについて病院長の申請があった場合(国公立病院への移管、アフター・ケアの措置等について審査するというシステム)
A不服申立のあった場合
4.運営
 民主的な運営基準をつくる

六.薬物中毒者等への対応策
 @取締法規違反、A薬物入手を動機とする犯罪、B薬物の影響下の犯罪のうち、とくにBが直接的に深刻な問題を提起する。
 その対応策は次の2点につきる。
1.薬物の供給と需要を断つこと
(1)取締の強化(暴力団の壊滅・国際的警察活動の強化を含む)
(2)国民の啓発(害悪認識の徹底化・知識の広報・使用者の早期発見等)
2.薬物中毒者を治療すること
(1)症状・依存の治療(薬物使用の契機・生活歴・心理的要因・社会的背景等の解明による依存の心理的原因からの脱却等)
(2)治療体制の確立(精神病者とは異った治療・精神療法・環境の整備を必要とするので公立の治療所が必要)
(3)覚せい剤取締法の改正(麻薬取締法にならって「覚せい剤中毒者医療施設」と「措置入院制度」を新設する)
(4)主体的努力による自律更生の重要性(断酒会の実績等)
3.禁絶処分は有害無益であること
(1)実刑の場合、受刑中に薬物による症状は消えるから処分の必要がなくなる。
(2)処分終了後、社会復帰しても供給が続く限り習癖回復の機会を防止できない。
(3)保安施設の中では真の治療が成立しえない。
(4)処分の対象がいちじるしく広いものになる危険も大きい。
(5)再犯の予測等については治療処分の場合と共通の問題がある。

七.保安処分必要論への回答
1.現行措置入院制度については、不適切な早期退院、アフター・ケアの欠落による「危険な精神障害者の野放し状態」が主張され、また患者の人権が保障されていないという批判も展開されているが、これらの問題は、すべて右三〜五項の提案によって十分に解決できる。
2.開放制医療のもとでは、犯罪行為にあたる行為をした精神障害者とそうでない精神障害者とを同一の病院施設で一緒に治療することはできないという主張もあるが、精神医療の領域ではこの両者に本質的な区別があるわけではなく、現に一緒に治療して成功している実例もあり、正しい精神医療を推進するならば、このことは十分に可能である。
3.同時に犯罪行為にあたる行為をした精神障害者に対する治療は、罪に対する強烈な自己洞察・反省(時には自らの生命を引かえにするほどに強烈なもの)にむけられた精神医療でなければ、医療として進まないのであって、その治療内容における特徴を十分に理解することも重要である。
4.医療と福祉による治療効果こそ、精神障害者と犯罪にあたる行為との結びつきを断ち切っていく最大の防止策であり、精神医療の領域では初犯の事件についてそのことが可能なのであって、再犯防止の問題についても刑事政策による対応より効果的な対応が可能となるもので、この面における精神医療の積極的な役割を十分にとらえるべきである。
5.提案五項のチェック機能については、裁判所が最終的な決定権をにぎる司法的審査の必要性を強調する意見もあるが、権力的介入があつては真の精神医療が成立し難いという批判が強く、提案のような第三者的審査機関を構想すべきである。
6.もともと、平均的な開放率がまだ非常に低いと指摘されている現実の精神医療の中で、入院患者の権利が侵害され、真の医療が容易に成立しにくいものとなつている実情を解決することが急務であって、この実態から遊離して保安処分における「治療」を主張するのは空論である。
7.以上の課題については、すでに指摘したとおり、公立病院の役割の増大を含めて国と地方公共団体の政治・行政上の責任は決定的に重要である。



*作成:桐原 尚之
UP: 20110801 REV:
全文掲載  ◇反保安処分闘争 
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