日本精神神経学会理事会決議・同評議員会決議「精神医療改革に関する宣言」 1983(昭和58)年06月08日
「現在、わが国の精神医療は深刻な問題をかかえ、重大な転換点にさしかかっている。
法務省は多くの反対にもかかわらず依然として保安処分新設への動きを推進し、精神障害者問題を社会防衛的視点のみから捉えようとする憂うべき風潮に拍車をかけている。こうして精神障害者に対する根強い社会的差別が更に強化されようとしているのである。
一方、精神障害者の立場を無視した隔離・収容施策の結果、32万床に膨れあがった精神病床に対する削減政策が、その当の責任者である行政当局によって、医療費抑制政策の中で打ち出されようとしている。
日本精神神経学会は、1969年の金沢学会総会以来、例年の総会を通して、日本の精神医療・精神医学のあり方についてきびしい自己批判的な検討を行いながら、その精神衛生施策のあり方に対しても批判を加えてきた。以来14年の時がたつ。だがこの間も精神病院は増加を続け、開放病棟・自由入院の比率は必ずしも伸びず、平均在院日数の延長・長期入院患者の増大・高齢入院者の増加とあいまって、わが国精神病院にみられる拘禁性・収容所性は改められることなく今日に至っている。また本学会で決議された「通信・面会の自由」も、今だに全ての精神医療施設において保障されているとは言えず、所謂「作業」に伴う使役・収奪といった問題も依然として残されている。
このような現状より、精神医療改革の容易ならざる事を思う時、まず精神医療関係者としての自らの姿勢を一層正すとともに、諸問題に対し具体的に対応してゆく事の必要性を痛感するものである。
ここに日本精神神経学会は、従来の活動をふまえ、精神医療改革に関する基本的指針として、精神障害者も一般の病者・障害者と同様に適切な医療と、必要とする限りの社会的援助を受ける権利を有すること、精神障害者をめぐる社会的差別を撤廃するよう最大限の努力が払われねばならないこと、をあらためて確認する。
具体的には
@ わが国の精神医療のかかえる最大の病根は、長期にわたって続けられた精神障害者に対する強制収容施策にあり、それに基づく精神病院の拘禁性・収容所性と言う基本的性格にある。これを克服するためには、病院内における最大限の人権保障が必要である。とりわけ、充分な医療スタッフの確保、自由入院、開放制、通信面会の自由・強制入院に対する異議申し立て権の確立、を推進することが必要である。
A医療機関の適正な配置、及び外来治療活動の拡大は緊急な課題としてとりくまれねばならない。あわせて、これらを可能にする充分な財政的補償が必要である。
B精神障害者の社会内生活に関しては、その有する諸権利を確立し、社会的援助組織を拡大することを必要とする。とりわけ、職場、住居の確保、経済的援助の拡充、法適諸差別条項の撤廃が必須である。
以上、の確認にもとづいて、日本精神神経学会は今後、精神障害者の人権と利益を擁護するために精神医療改革に全力を挙げるとともに、保安処分を含め精神障害者を社会防衛の対象にしようとする一切の動向に反対してゆくことを宣言する。
(確認事項)
われわれは、今後1年間をかけて、「精神医療と法に関する委員会」を中心に以下の諸点をめぐって、わが国の精神医療を点検し、その中で更に具体的な行動プログラムをつくりあげて行く必要があると考える。
@ 精神病院において精神障害者の人権と治療の保障を妨げているものはなにか。
イ 精神病院における「通信・面会の自由」をはじめとする入院者の諸権利保障の現状
ロ 精神病院の自由入院率・開放率の現状
ハ 精神病院における作業の実態
ニ 医療スタッフの充実度
A 精神障害者の社会内生活を妨げている諸条件
イ 生活援助の現状
ロ 法的諸差別条項の現状
ハ 医療機関の配置と外来活動の現状」
*作成:仲 アサヨ