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障害者実態調査の中止を要求する共同声明

「障害者」実態調査阻止全国連絡会議→厚生大臣 橋本龍太郎 19830211

last update:20110530


厚生大臣 橋本龍太郎殿

去る75年、厚生省は障害者実態調査を強行せんとしたが、同調査は、「精薄ではないかと思われる者をさがし出す」「保護者等の希望と調査員の判断を総合して今後本人を収容施設に入所させる要否をきめ」(調査員手帳)という文章に如実に示されているように障害者を施設へ送り込み、社会的な差別観念を助長し、保安処分新設―刑法改悪・養護学校義務化・国民総背番号制の資料となるものであった。
しかし、このような障害者の人格を無視した差別調査実施に対しては、当然にも障害者団体・自治労・関係学会、はては、調査企画立案委員(上出都児童相談センター所長)までが中止を要求し、全国的に沸き起った阻止闘争はついに四割強の地区においてこれを粉砕した。
しかるに、厚生省は今年10月に、再び、基本的に同質の調査を実施しようとしているが、当局は、先回の調査に対する我々の糾弾の声・問題点の指摘に何ら応えようとせず、ただ、行政上の一方的な都合や体面上の理由から、ひたすら調査によるデーターを手に入れようと意図しているのである。
しかも、今回予定の障害者実態調査については、形の上では事前に各障害者団体に調査素案を示して意見を求め、調査項目もアンケート方式にし、更に「精神薄弱」(児)者調査をとり除く、というような、あたかも障害者の立場を尊重しているかのように見せかけているが、基本的問題は何ら反省されておらず、これらは首尾よく調査実施にこぎつけるための方策に外ならない。
このような状況から、左記の各団体は、10月予定の調査に対して自らの独自な運動上の立場を踏まえつつしかも、基本的に障害者への差別と抑圧を強化するものという共通理解に立って、ここに調査中止要求の共同声明を公表し、あらゆる闘いをもってこれを阻止しぬくことを宣言する。
今回予定されている調査の素案については、以下のような問題点を指摘せねばならない。
(1) 調査の内容が、施設・コロニーなどを中心とした、既成の隔離収容政策を無条件に肯定し、前提とした上で構成されたものである
即ち、「軽・中度」障害者は、手直し的な在宅対策(ホーム・ヘルパー派遣制度等。家族の負担を前提にした介護援助体制)のほか、授産所・福祉作業所・リハビリテーション施設へと、また一方で「重度」障害者は隔離収容施設へとりわけ、障害者を「軽・中度」と「重度」とに差別・分断しようとする悪質な意図がうかがわれる。
このような施策体系は、「一日四時間以上の会議を要する限り」隔離収容対象とされる「重度」障害者にとっては元より、「軽中度」障害者にとっても手直し的在宅対策のもとに、今の社会への順応を強いる点で、障害者を抑圧・差別するものであることは言を待たない。
このような施策は、ますます国民の差別意識を助長させていくものである。
(2) 「不幸な子を生まず」、障害児の早期選別強化を計る母子保健法改悪に向けて去る6月13日、家庭保健制度基本問題検討委員会が発足したが、障害の原因・発生年令の調査は、このように母子保健法改悪策動が強まる中では決して許してはならない。
特に、端的な例として障害の原因、「先天性」というカテゴリーを「疾病」「事故」のわくから外していることが示しているように、障害者総体における先天性の割合を調査し、「異常」児の出生防止という優生医学的研究の資料とされることが懸念される。
(3) 盲・ろう・養護学校義務制を強化・正当化するものである。
今回の調査では、最終学歴の項目において先回までの、単なる「特殊学校(級)」というカテゴリーを改め、「盲・ろう・養護学校」の、しかも「小学部・中学部・高等部」のどの段階まで教育を受けたかを問う項目が、新たに入れられている。これは、普通学校、また不就学などの項目と共に、学歴と職業・収入の状況、点字、口話・手話技術の取得状況等の調査項との相関関係を出すことにより、「障害」児教育、ひいては盲・ろう・養護学校義務制の正当化、ないしは補強の資料にせんとするものである。
(4) 調査行為そのものが、差別意識と偏見のもとに行われ、障害者とその家族の人権・プライバシーの侵害・障害者狩り出しの危険性を伴うものである。更に、障害者―とりわけ言語障害のある場合には―本人の意見や要求を無視し、むしろ家族の意見や要求を調査結果に反映させ兼ねない。

我々は、以上のような理由によって、このたびの障害者実態調査には全面的に反対するものである。
もし仮りにも、この調査実施を許すならば、それは、単にこの調査にとどまらず、そのあとに、「精神薄弱」児・者実態調査・被爆世健康調査を初めとする、諸々の差別調査・健康診査の類がまかり通ることになり、ひいては、厚生省が企画中の「終末施設=精神衛生社会適応施設」の建設等にみられる精神障害者の隔離収容政策、保安処分新設―刑法改悪、国民総背番号制の設定等々障害者を筆頭にした、人民総体への攻撃の強化にもつながるだろう。
我々は、厚生省が従来のような差別・選別・隔離・抹殺の障害者政策を抜本的に改め、障害者の地域での自立生活を真に保障する方向に施策を改めない限り、今回の障害者実態調査を断固阻止するであろう。
厚生省は、この共同声明の主旨を直撃に受けとめ、今回予定の調査を直ちに中止するようここに強く要求する。

〈団体名〉
全国障害者解放運動連絡会議
全国青い芝の会総連合会
全国「精神病者」集団
関東被爆 世連絡協議会
赤堀さんと共に闘う関東連絡会
「心身障害」児・者実態調査阻止宇都宮実行委員会
東京「54年度養護学校義務化」阻止共闘会議
障害者の自立と解放をめざす千葉連絡会議
京都「54年度養護学校義務化」阻止共闘会議
宮城障害者解放研究会
岡山赤堀さんと共に闘う会

*作成:桐原 尚之
UP:2010528 REV:
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