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精神医療の改善方策について(骨子)

日本弁護士連合会 19811019


昭和56年10月19日
日本弁護士連合会
刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 山 本 忠 義
日本弁護士連合会
会長 宮 田 光 秀 殿

報告書

 日本弁護士連合会は、刑法「改正」阻止実行委員会の昭和56年夏期合宿討議以降、全国で、「討議資料・精神医療の抜本的改善について(要綱案)」に基づく会内討議を積極的に進め、会外の各方面に対しても卒直な意見を求めてきました。
 ところで、10月15日の全体委員会では、右要綱案に基づく各地弁護士会の中間報告と討議をおこなった結果、今後の会内討議を十分に深めていくために、別紙のとおり日本弁護士連合会の基本的観点を改めて簡潔に要約しつつ、検討項目とすべき焦点を整理し、検討作業推進の体制を整えることを決定しました。
 そこで、全国の各弁護士会が別紙『「精神医療の改善方策について」(骨子)』に基づき更に会内討議を積極的にすすめるよう特段のご配慮をお願いする次第です。

「精神医療の改善方策について」(骨子)
―保安処分問題と関連して―

1 日本弁護士連合会は、刑法「改正」阻止実行委員会の昭和56年夏期合宿討議以降、全国で、「討議資料・精神医療の抜本的改善について(要綱案)」(以下、要綱案とよぶ)に基づく会内討議を積極的に進め、会外の各方面に対しても卒直な意見を求めてきた。
 現在のところ、会内討議の進行状況は、各地弁護士会の状況により、多様であって、すでに具体的な検討に入っている弁護士会もあれば、これから討議を開始する弁護士会もある。
 もともと、要綱案は、会内の討議資料として作成されたものであり、その趣旨から、刑法「改正」阻止実行委員会の右合宿討議で提起された具体的方策の提案にかかわるすべての意見と問題点を一切削除・整理することなく列記している。
 したがって、要綱案の問題提起は、本来、保安処分問題との関連で、精神障害と犯罪をめぐる諸問題に焦点がしぼられているにもかかわらず、精神医療一般の問題にも広範囲に及ぶものとなっている。
 このような要綱案について、すでに進行中の会内討議および準備段階の諸論議を総合すると、次の二点が明確になってくる。
1 これから会内討議を開始しようとしている弁護士会では、要綱案による問題提起が広範囲であるために、どこから何を検討すべきかが必ずしも明らかではなく、検討項目の整理が必要になっている。
2 討議進行中の会内論議をみると、各地弁護士会とも、要綱案の中から取り上げて検討すべき問題点・項目が自ずから一致しているといえる状況にあり、大きな共通点ができつつある。
 そこで、これらの点に基づいて、今後の会内討議を十分に深めていくために以下のとおり、日本弁護士連合会の基本的観点を改めて簡潔に要約しつつ、検討項目とすべき焦点を整理し、検討作業推進の体制を整えるべきである。
2 日本弁護士連合会は、昭和49年3月発表の「『改正刑法草案』に対する意見書」の中で、保安処分の新設に反対し、「精神障害者等に対しては、なによりもまず医療を先行させるべき」であり、現行の精神医療施策の「抜本的改善こそ急務である」ことを提起した。
 これは、精神障害と犯罪をめぐる諸問題について、保安目的優先の刑事政策に反対し、医療優先の改善策が採用されるべきであることを主張したものであって、日本弁護士連合会の一貫した基本方針である。この問題に関する精神医療専門家の指摘によれば、精神障害者の疾病に基づく事件のほとんどは医療と生活支援が不十分であることに起因するものであって、生活と医療を保障する体制の深刻な不備を克服することが緊要の課題となっている。
 したがって、ここで取り上げるべき精神医療の改善方策も、当然、このような精神障害者と精神医療をめぐる現状とその実態に立脚すべきものであり、精神障害者の人権保障と精神医療施策の充実を根本目的とすべきものである。
 それは、精神障害者自身のための医療であると同時に治療の結果が市民生活の安全にも結びつく医療を意味するものというべきである。日本弁護士連合会は法律実務家の立場からこれらの問題に関し、提案していくこととする。
3 日本弁護士連合会は、以上の観点から、具体的方策の提案を検討するべき項目につき、当面、これを次のとおり確定する。
1 措置入院制度の適正な運用と改善
 措置入院制度の運用の実態に立脚しつつ、収容手続・入院期間・定期的審査・行動制限・不服申立等に関する手続保障の問題を検討する。
2 第三者的審査機関の設置
 現行精神衛生法上の入院制度の密室的性格を改めるために、公平で行政から独立した第三者的審査機関を構想し、審査の対象とその組織・構成・権限及び審査の法的効力等に関する問題を検討する。
3 薬物中毒者等に対する適正な方策
 とくに、覚せい剤事犯及び覚せい剤中毒に起因する諸事犯の発生状況にかんがみ、覚せい剤の拒絶を期すべきものであることを強調するとともに、必要な治療体制の確立に関し、現行精神衛生法51条の可否とそれに代るべき方策を検討する。
4 国と地方公共団体の責任の重要性
 国と地方公共団体は、本来、「医療施設・教育施設その他福祉施設を充実することによって精神障害者等が社会生活に適応することができるように努力するとともに、精神衛生に関する知識の普及を図る等その発生を予防する施策を講じなければならない」(精神衛生法2条)のであって、その行政上の課題と責任を明らかにする。
5 関連する諸問題の検討等
 右の各項目の検討は、これに関連する諸問題の検討及び立法措置の要否に関する検討をふくむものとする。
4 以上の具体的方策の検討については、次のような体制をとる。
1 刑法「改正」阻止実行委員会内に専門の小委員会を設置する。
2 この小委員会は、精神医療・刑事法の各専門家の協力と助言を十分に得ることとする。
3 小委員会による具体的な方策案の取りまとめについては、逐次、刑法「改正」阻止実行委員会に報告する。
4 刑法「改正」阻止実行委員会は、右報告に基づいて、各地弁護士会内の討議と合意を十分に組織していく。
5 各地弁護士会における会内討議と右小委員会の作業とは、同時に進行させつつ、相互の連携を深めていく。

 
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*作成:桐原 尚之
UP: 20110810 REV:
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