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精神医療の抜本的改善について(要綱案)に関する要望書

日本臨床心理学会 19811016


日本臨床心理学会
会長 赤松昌子

 私達日本臨床心理学会は、貴会が保安処分反対の姿勢を堅持しながら活動を進めて来られていることに敬意を表するものです。
 然し、貴会の「精神医療の抜本的改善について」(要綱案)が、保安処分に反対する代案として出されて来ているにもかかわらず、基本的には精神障害者の人権を無視した保安処分の体質を保持したものでしかないことを遺感に思い、ここに再考を要望するものです。
 貴要綱案は先ず保安処分が精神障害者への人権侵害をもたらす危険性を有し、かつ、初犯への効力はなく治療的にも意味をなさないなどの理由で反対し、精神医療を改善する方向を積極的にすすめることでの解決策を提起されています。
 その精神医療の改善の基本方向として、「精神障害者等が地域の中で社会生活を送りながら治療を進めた方が治療上も社会復帰のためにも有効である・・・・・・・」との厚生白書に同意し、精神病院の開放化、地域医療の充実を強調されています。
 確かに、この10年来、精神医療のあり方が問われる中で、上記の方向が打ち出されて来ているのですが、それが精神障害者への偏見、差別視を基本的に乗り越えるものになっていないことは周知のことと考えられます。
 その原因の大きな部分を占めるものとして、現行精神衛生法がはじめから精神障害者を自分で判断する能力のないものとみなし、主体性の持ち難い立場へと位置づけて、基本的人権を剥奪したものとしてつくられていることが考えられます。
 その精神衛生法の基本的問題をとらえ直すことなく、その枠内で開放化、地域化が促され、社会生活を推進するとしても、そこに待ち受けるのは、患者の主体的な選択を抜きにした「整備・拡充された施設」であり、監察の目を厳しく「緊密化」した「治療」側の連絡網でしかありません。
 「第三者的審査機関によるチェック機能」の提案も、治療的視点を強調することでより「厳正化」した精神障害者への判断を下すということでは、権威ある側が、患者の意志のとどかないところで処遇を決めてゆくという保安処分的質をなんら越えるものではないと考えます。
 結局、精神障害者にとって、貴案の示すものは常に監視され、抑圧された生き方を強いるもので、中味としては保安処分と変わり得ないものと考えられます。そしてなんらかの事態に対して「・・・・・・・犯罪行為にあたる行為をした精神障害者に対する治療は、罪に対する強烈な自己洞察・反省(時には自らの生命を引きかえにするほどに強烈なもの)にむけられた精神医療でなければ医療として進まないのであって・・・・・・」と、「治療」の指針が出されています。そこには、問題行為・犯罪をそれを生じさせた状況は問わず、それを為した個人の人格にのみ、全てをゆだね、罪の重さによっては、死をせまるー現行の死刑是認、あるいは罪の重荷による自殺を公然化する考えが示されています。

 私達日本臨床心理学会では、患者にとって「治療」とは何かを把え直す中で、自分達「専門家」を含む周囲が精神障害者を如何に差別・抑圧して来たかに気づいて来ました。
 精神障害者と言われる人が、何らかの問題を起こして来たということで、「危険な人間」、「手のかかる人間」として固定視され、監察・保護下に置かれることで、より抑圧され、劣等感を強める生き方を強いられている現状が問題にされねばならないと考えます。問題が起こるとすれば、問題を生み出す源は、上に述べた状況下に精神障害者が置かれていることであり、管理が強化されるほどに、状況の問題は管理される側に多い被さり、葛藤を強めてゆく悪循環を招くことになるでしょう。
 人間は状況とのからみで、自らの持つ特徴をより強度に表わすことで、「かたより」を示したり、周りの手を煩わせたりすることは、相互にありうることです。それらが同じ人間としての「あたりまえのこと」と受けとめられてゆく生活の基盤ー共に相談し合い、ぶつかり合いしてゆける共同の生き場をこそ創り出してゆく努力が必要であると考えて来ています。
 以上のような私達の把え直しに基いて考えるとき、貴要綱案に対する憂慮を禁じ得ず、再検討を重ねてお願いしたいと思います。

 尚、私達日本臨床心理学会として、保安処分反対の声明文(クリニカルサイコロジストNo.114、1981.9.30)に詳細な見解を附記しておりますので御参照頂ければ幸いです。

1981年10月16日
 
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◇日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会 1981/08/31 「精神医療の抜本的改善について(要綱案)」


*再録:桐原 尚之
UP: 20110818 REV:
日本臨床心理学会  ◇反保安処分闘争  ◇全文掲載 
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