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「精神医療の抜本的改善について(要綱案)」に関する見解と要望

東京都地域精神医療業務研究会 1981/10/11


 私たちは、わが国の精神医療の現状があまりに悲惨であることに鑑み、精神医療を改革し、いわゆる「地域精神医療」、地域にひらかれた精神医療をわが国に根づかせるための実践活動を続けております。
 私たちは、精神医療改革が急務であることを痛感していますが、最近にわかにつよまった「保安処分」新設の動きに対して強い危惧の念を抱いております。
 「保安処分」新設は、「精神障害者」は危険なものだという予断に基いており、精神医療改革を防げる動きであるから、何としてでも阻止すべきだと考え、反対の態度を明らかにしてきました。
(1980年9月、゜保安処分新設ー刑法全面改正」を阻止し精神医療改革をすすめるためにー基本的視点をどこにおくかー)
 さて、日本弁護士連合会が「保安処分」新設を軸とした刑法「改正」に対して反対の態度を堅持されておられることは、大変心強いことであり、敬意を表するものであります。また、今回の「要綱案」の作製、公表は法律家の立場での苦労の多い作業であったと推察されますし、現在の時点で貴会が「精神医療の抜本的改善」について心をくだいておられることは、まことに適切、重要なことと考えられます。
 しかしながら、貴会のもつ強い影響力と重要な時点であることを考えあわせると、「要綱案」はその内容においても十分に吟味された誤解を招かないものでなければならないと考えます。
 ここに私たちの見解を明らかにして、貴会への要望とするものであります。

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 精神障害者が地域社会で生活しつづけることと、それを支えていくことは想像をこえる困難を伴います。
 これは精神障害のもつ特殊性に由来することではありません。現状の悲惨な拘禁・収容をこととする精神医療と、それを許容してきたわが国の社会・文化・政治施策の総体から由来することであります。
 「邪魔者は、目の前から消せ」式の分類、隔離、収容の思想は、今日精神障害者の処遇のみならず、教育や療育の世界にもひろく蔓延しており、多様な生き方や存在の仕方を認めない、人間管理の強化をたすけており、きわめて憂慮すべき状況であります。
 「保安処分」はこうした傾向の顕著なあらわれととらえることもできますし、精神医療の隔離収容・拘禁の現状を最も明瞭な形で固定化するものだということができます。
 わが国の精神医療は諸外国に比してもきわめて特徴的な傾向をもっています。市街地や生活圏から遠くはなれた地区に密集的に偏在する精神病院群、過剰な精神科病床、高い収容所性といった精神医療機関の特性と現行精神衛生法体制下で障害者の人権が著しくそこなわれたままに医療という名での長期隔離が許容されているということであります。
 精神医療機関の多くは、障害者からすれば、援けを求めるにはあまりに苛酷な処遇をもって応待しており、障害者の絶望と医療不信をつのらせるのが現状であります。あるいは身近に安心して頼れる相談窓口や、診療機関が少なすぎるというのも実状であります。
 こうした精神医療の現状は、精神障害者を不断におびやかしており、そのような精神医療と許容してきた、社会意識や世論といったものは、日常的な精神障害者に対する偏見と差別と一体のもので、精神障害者とその家族が如何にきびしい状況におかれているかは想像をこえるものがあります。
 私たちは精神障害者が街の中でしごくあたりまえに生活していける条件は何かということについて考えなければなりません。しかもそれはあたりまえのことがあたりまえに行われればよいということです。病気の時に安心して相談し診療をうけられる、相談の窓口や医療機関があたりまえのように街の中にあるということであり、精神障害であるということによって肩身のせまいおもいをしなくてもよい関係性が成立しうるような諸条件の改善が行われることであります。不当に広きにわたる欠格条項や、障害者排除の社会的慣習の除去がまず行われなければなりません。そして何よりも障害者の生活を支える援助の体制が、住居・労働・経済面で保障されることです。
 精神障害者に対する恐怖や不安が強いとすれば、その多くはつくられたものです。関係を断って遠い所へ隔離してしまうことによって、障害者の実像を知らないですごすことが恐怖や不安をつのらせるのです。日常生活の中でかかわっていくということなしには、障害者に対する理解が生れるはずもありません。
 「保安処分」は、精神障害者のおかれたきびしい状況を無視して、人間の相互理解の拡大という、放棄してはならない原則をなげすて、人間を分断して恐怖を固定化しようという思想に発していると言ってよいと考えます。

V
 法務省の企図している「保安処分」は、精神障害者のおかれた状況をすべて切り捨て、因果関係を逆転させて、特殊な精神障害者とふつうの精神障害者を分類し、処遇を区別すればよいという考え方であるようにみえます。私たちは自分たちの実践の中から、この考え方はきわめて危険であり、現状の精神医療を固定化させることにつながると指摘せざるをえません。
 精神医療はかわるべきですし、かえなければなりません。どのようにかえるかが問題であります。

 さいごに貴会の「要綱案」について、いささか誤解を招くと考えるいくつかの点を指摘させていただくこととします。
@ 基本的な視点について 精神医療の広範囲の問題に言及しており、さまざまな点で的確な指摘がありますが、措置入院制度の強化にうけとられる部分があり、誤解を招くおそれがあります。
A 具体的には、第三者機関による退院のチェックがうたわれていることです。私たちは強制的に入院させられた人々の病院内での人権が守られるように監視する第三者機関という考え方をもっているものですが、貴会の指摘はそれとは異なるようにうけとられます。
B また、措置通院制度についてふれておられますが、これは大きな問題をふくんでいると言わざるをえません。
C 入院中心主義に批判的な立場を明らかにしておられる一方で「再発の徴候が認められる場合の早期の収容治療」と記されている点は、外来診療の充実という視点からすれば、きわめて奇妙な感を抱かざるをえません。
 すでに、日本精神神経学会、病院精神医学会などが貴会の「要綱案」についてそれぞれ意見書や要望書を明らかにしており、私たちもそれに目をとおしております。重複する部分もありましたが、地域における活動を基盤としている私たちとしても、敢えて見解を明らかにして、貴会において「要綱案」が慎重に討議されることを強く要望するものであります。

1981年10月11日

東京都地域精神医療業務研究会
代表 藤沢敏雄

 
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◇日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会 1981/08/31 「精神医療の抜本的改善について(要綱案)」


*再録:桐原 尚之
UP: 20110818 REV:
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